王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ

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09.一目惚れした相手

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 セシールは青年に抱えられたまま、馬車に乗せられた。

「あの……ヴァンクール辺境伯令息……私なんかが一緒に乗ってもよろしいのでしょうか?」

 セシールはおそるおそる尋ねる。

「ああ、もちろんだ。それよりも、俺の名前はベルトランだ。ベルトランと呼んでくれ」

 青年はそう言って微笑んだ。
 その笑顔はとても優しげで、セシールの胸はドキリとした。

「は、はい……ベルトランさま……」

 セシールは掠れた声で答えると、俯く。
 彼の顔をまともに見ることができなかった。

「あの……それで……ベルトランさまはどうして私を……」

 セシールはおずおずと口を開く。

「ああ……きみは俺のことを覚えているか? クソ生意気で、自分が賢くて何でもわかっていると勘違いしている馬鹿な子どもを」

 ベルトランは苦笑しながら言う。

「えっ? い、いえ、そこまでひどくは……」

 セシールは慌てて首を横に振る。
 確かに勝手なことを言われて腹を立てたのは事実だが、言い過ぎたと謝ってくれた。
 ひねくれたところはあるようだが、根は優しいのだろうと思ったものだ。

「いや、俺は本当に馬鹿なガキだったよ」

 ベルトランはそう言って、懐かしそうに目を細めた。
 その眼差しにはどこか切なさが滲んでいるように思えた。

「きみを馬鹿にするようなことを言ったこと、改めて謝罪したい」

 彼はそう言って頭を下げた。
 その姿に、セシールはぎょっとする。

「そんな……頭を上げてください! 私は気にしていませんから!」

 セシールは慌てて言う。
 あの時も謝ってもらったのだし、今更蒸し返すことではない。
 むしろ、もらったハンカチに勇気づけられたのだから。

「ありがとう」

 ベルトランは微笑んで言った。
 その笑顔に、また胸がドキリとした。
 セシールは心の中で頭を振る。
 相手は辺境伯令息だ。身分が違いすぎるし、自分は醜い豚なのだ。そんな自分が彼に釣り合うわけがない。
 セシールは自分に言い聞かせるように、何度も頭の中で繰り返す。

「……あの時、俺はきみに救われたんだ」

 ベルトランは静かに語り始めた。

「俺はどうしようもなく愚かだった。だが、きみと出会って、初めて自分が馬鹿だと気づいた。きみが俺を変えてくれたんだ」

 彼はそう言って、セシールの手を取った。その温もりが伝わってくる。

「だから、今度は俺がきみを救う番だ。俺はきみに救われたから」

 ベルトランはそう言って優しく微笑んだ。
 セシールは胸が熱くなるのを感じた。涙が出そうになり、慌てて俯く。

「で、でも……私は何もしていません。あなたが変わったというのなら、それはあなた自身の力です」

 セシールは震える声で言う。
 本当に自分は何もしていないのだ。ただ、自分の思いをぶつけただけだ。

「いや、きみがいなければ俺は変わることができなかった。だから、きみのおかげなんだ」

「でも……」

「……一目惚れした相手に、斜に構えた態度を取って泣かせてしまった。あの時のことは本当に後悔している」

 ベルトランは自嘲するように苦笑する。
 セシールは驚いて目を見開いた。
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