王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ

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10.夢ではないか

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「え……?」

 今、彼は何と言っただろうか。
 一目惚れ? 誰が誰に? 彼が自分に? どうして? 何故?
 様々な疑問が浮かんでくる。頭が混乱して言葉が出てこない。
 心臓が激しく鼓動を打つ。頬が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。

「そ、それは……あの……」

 セシールは必死に言葉を紡ごうとした。しかし上手く言葉にならない。
 そんなセシールをベルトランが優しく見つめている。
 その視線に耐えきれず、思わず俯いてしまう。
 セシールは自分の胸を押さえる。
 心臓の音がうるさいくらいに聞こえてくる。このままでは破裂してしまうのではないかと本気で心配になった。

「……大丈夫か?」

 ベルトランは心配そうに言う。
 その声を聞いて、ますます鼓動が激しくなった気がした。
 しかし、己の身をわきまえなければならない。自分は醜い豚だ。彼に相応しい相手ではない。

「……はい……大丈夫です」

 セシールは小さく深呼吸をしてから答えた。
 そして、ゆっくりと顔を上げる。

「あの……私は……醜くて太った女です。それに、王女殿下の侍女をクビになった身で……」

 セシールは必死に言葉を探す。
 しかし上手くまとまらない。何を言っても失礼なのではないかと不安になってしまうのだ。

「俺はきみを美しいと思っているし、きみがどんな姿であっても構わない」

 ベルトランはきっぱりと言い切る。
 その言葉を聞いただけで、セシールの胸は高鳴った。

「私なんかが……」

「きみは素晴らしい女性だ」

 ベルトランは再び断言する。その瞳には迷いがないように見えた。

「俺よりも幼い身で、家族のために必死に働いていた。俺はそれまで、己が恵まれていることにさえ気づけていなかったんだ。愚かな領主になる前に、きみが気づかせてくれたんだ」

 ベルトランはそう言って、セシールの手を握りしめる。その手はとても温かく感じられた。

「だから……私はそんな立派な人間ではありません……」

 セシールは首を横に振った。
 自分はただ必死だっただけだ。家族のため、自分の将来のために必死だっただけなのだ。

「いや、きみは素晴らしい女性だ」

 ベルトランは決して引き下がらない。
 その笑顔は眩しすぎて、セシールは直視できなかった。顔が熱い。きっと耳まで赤くなっているだろう。

「で、でも……私は……」

「俺の気持ちは迷惑だろうか?」

 ベルトランの言葉に、セシールは思わず顔を上げた。
 彼は悲しげな表情を浮かべていた。

「い、いえ……そんなことは……」

 セシールは慌てて首を横に振った。
 むしろ嬉しいくらいだ。
 しかし、だからこそ不安になってしまうのだ。

「ならば良かった」

 ほっとしたように、ベルトランは息を吐き出す。
 彼の笑顔はとても穏やかで優しいものだった。
 セシールは、これは夢ではないだろうかと信じられないくらいだ。
 しかし、次の瞬間には現実を思い出す。

「で、でも……王女殿下がヴァンクール辺境伯令息とご結婚なさると……そう聞いて……」

 セシールは震える声で言う。
 それが事実ならば、自分がここにいることは問題だ。ベルトランの評判を下げることにもなりかねない。
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