王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ

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12.充実した日々

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 王都から離れたヴァンクール辺境伯領。
 その地にある屋敷で、亜麻色の髪の少女が花の世話をしていた。
 ほっそりした華奢な身体に、動きやすい簡素なドレスを着ている。

「セシールが世話をすると、花が喜んでいるのがはっきりわかるな」

 そう言って微笑むのは、銀色の髪と赤色の瞳を持つ青年。ヴァンクール辺境伯令息ベルトランだ。
 彼は花に触れ、優しい手つきで撫でる。その眼差しはとても穏やかで温かかった。

 セシールがこの屋敷にやって来てから、半年が過ぎた。
 その間にセシールはすっかり見違えるほど元気になった。
 あんなに太っていた身体は細く引き締まり、肌は健康的な色艶を帯びている。

 ベルトランの両親である辺境伯夫妻も、セシールを歓迎してくれた。
 ベルトランがセシールを連れて屋敷にやって来たときは、太った醜い姿だったにもかかわらず、彼らは優しく受け入れてくれたのだ。
 この地にいれば、すぐに健康になると励ましてくれ、ベルトランも何かと世話を焼いてくれる。
 そのおかげで、セシールはすっかり元気になり、充実した日々を送っていた。

「ありがとうございます。そう言っていただけると、とても嬉しいです」

 セシールは花を見つめながら、自然と笑みが浮かんでくる。

「きみの笑顔を見ると、俺も嬉しくなる」

 ベルトランはそう言って微笑む。
 彼はいつも穏やかで優しい。セシールはそんな彼に惹かれていった。
 そしてとうとう、彼の気持ちを受け入れ、二人は恋人同士となったのだ。

「そろそろ結婚式の日取りを決めないとな」

「ええ……」

 ベルトランの言葉に、セシールの頬が熱くなる。
 セシールがすっかり健康になったことにより、ベルトランの両親も結婚を許してくれたのだ。

 懸念していた身分の差は、問題にされなかった。
 幼い頃から優秀だったベルトランは、人の本性を見抜く魔眼のせいもあって、ひねくれてしまった。
 このままでは歪んでしまうと、両親は頭を抱えていたようだ。
 けれど、セシールに出会い、その性格は一変した。
 人を思いやることの大切さを知り、素直に感謝できる心を持つことができたのだ。
 だからこそ、彼の両親もセシールとの結婚を祝福してくれている。

「結婚式には、きみが育てた花を飾ろう」

「本当ですか!?」

 セシールは驚きの声を上げた。
 まさか、自分の育てた花を使ってもらえるとは思わなかったのだ。

「ああ、きみにもっと喜んでもらいたいからな」

 ベルトランはそう言って微笑んだ。その微笑みはとても優しく温かい。
 この笑顔も、優しさも全部自分のものだと思うと、セシールは胸が高鳴った。

「それに……きみには、きっと聖女の素質がある。だから、この花はぴったりだ」

「聖女の素質……ですか?」

 セシールは首を傾げる。
 その言葉の意味がわからなかったのだ。

「ああ、だからこそ……」

 ベルトランが何か言いかけたところで、門のあたりから騒がしい声が響いてきた。
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