9 / 53
No.9
しおりを挟むミラベル学園の筆記試験の為にまず歴史書から読み始めた。
筆記試験は算術と読み書きもあるが、中学生レベルなので大学を卒業した俺なら大丈夫だろう。
後半に少し勉強して感覚を取り戻せばいけると思うので、最初に歴史の勉強から始めたのだが、自分で書いた小説の世界なのに知らない事ばかりだった。
ミラベル学園の歴史には触れてないから俺が知らないのは当然である。
「それにしても、ミラベル帝国の歴史書は分厚すぎない?」
ずっしりと重みのある歴史書に勉強の為とはいえ、嫌になって心の声が漏れてしまった。
読む気の失せた歴史書をテーブルの上に置くと魔法の本を手に取る。
この世界の魔法は火、風、水、土、闇、光と六属性がある。
魔法の発動にはイメージが大切で、発動する魔法のイメージがしっかりしていないと発動しなかったり、魔法が暴走したりしてしまう。
イメージはできる。
でもどうやって魔法を発動させるかがわからないので魔法についての勉強は必要なのだが……
(それにしても発動の仕方が載ってない…)
パラパラと本を開いて確認していくが、魔法の種類やイメージの仕方ばかりで発動の仕方の説明は載ってなかった。
俺は今見ている本を閉じて、本棚から持ってきた魔法関係の本を確認して行くがどの本にもやはり載っていなかった。
魔力欠乏を無理矢理誘発させて魔力量を増やしても魔法発動の仕方がわからなければ意味がない。
(どうしよう、色々試してみて自力で見つけるしかないかな)
窓から入り込む陽の光がテーブルをオレンジ色に染める。
集中して本を読んでいたので気が付かなかったが、随分と長い時間図書館にいたみたいだ。
背伸びをして席を立ち、持ってきた本をまとめ重ねると持ち上げた。
「こんな時間まで調べ物かい?」
突然後ろから声を掛けられて驚き、ビクッとした拍子で重ねた本がバランスを崩してバラバラに床に向かって落ちて行く……
「あーーーー!」
床に落ちた本を見ながら叫んだ俺は、声を掛けてきた人物に顔を向け睨んだ。
「ごめんごめん、突然声を掛けて脅かせてしまったね」
金色の髪を後ろで束ね、俺よりも背の高い男は見るからに高級そうな服を着ている。たぶん貴族だろう。
(これが貴族か!なんか感動だわ!)
自分の書いた小説の世界とは言え、初めて見た貴族に感動している俺を他所に、男は申し訳なさそうな顔をして俺の落とした本を拾い集め重ねていくとヒヨイっと持ち上げた。
「お詫びに手伝ってあげるよ」
微笑むイケメン貴族に「ありがとうございます」と返して本棚に向かうイケメン貴族の後ろを俺は着いていった。
マウロさんもそうだが、この世界は美男美女の比率が高い気がする。
『転生したらウハウハハーレム天国だった件』のタイトルからしてそうなんだけど、この小説は平凡顔の田辺ヒロシの願望が詰め込まれていると思う。
(田辺ヒロシの時は全然モテなかったからなぁ)
自宅と会社を往復するだけだった日々を思い出して泣きそうになった。
でもこの世界では美少年だ!この世界に期待する事にしよう。
さよなら、田辺ヒロシ……グスン
◇◇◇
「本当にありがとうございました。とても助かりました」
本を全て棚に戻してくれた男にお礼を言った。
「いえいえ、私が突然声を掛けてしまって君が本を落としてしまった。その罪滅ぼしと思ってくれれば幸いだよ。そう言えば、自己紹介がまだったね、私はハリス・デリーと申します。以後お見知り置きを!」
優雅な自己紹介をするハリス・デリー……、デリーってデリー公爵領ルフランの領主様ではないか!領主様に本の片付けをさせてしまった。
領内では領主様の権力は絶大、ましてや公爵だ!罪に問われたら俺は終わってしまう。
「えっと、あの、えっと、私はラグーと申します。領主様にこんな事をさせてしまい大変申し訳ありませんでした」
焦る俺はガタガタと震える体で精一杯謝る。
「あはは、そんなに怯えなくても大丈夫だよ。私は領主パリントン・デリー公爵の息子で君の手伝いをしたのは私の意思だよ。それに罪滅ぼしと言っただろ?」
「罪に問いませんか?」
「問わない、問わない」
アハハとするハリス様に安堵した俺はホッと胸を撫で下ろす。
「ところで、片付けた本は魔法に関する本が多かったけど魔法に興味があるのかい?」
「はい、興味があると言うかミラベル学園の試験の為に魔法を使える様になりたくて」
ハリス様の質問に俺が答えるとハリス様は驚いた表情をした。
「ラグーさんは平民だよね?」
「はい、平民です」
「なるほど……」
顎に手を当てて考える仕草をしてハリス様は口を開く。
「本だけじゃ魔法の勉強は大変ではないかい?」
「正直大変です、どの本も魔法発動の仕方が載ってなくて手詰まりになってます」
「なるほど……」
再びハリス様は顎に手を当てた。
「私が教えてあげようか?」
平民の俺にハリス様直々に『魔法を教えてくれるなんて何故?』『俺の事を罠に嵌めようとしてるのではないか?』と思うのは当然で、貴族の屋敷に勤める使用人でさえ他の貴族の子供達で、貴族教育を兼ねた教育の一環として派遣されている。
まれに平民もいるが、伝や能力の高さでスカウトされなければ平民は使用人にすらなれない。
平民が気軽に貴族と関わる事はほぼ無いと言っていい。
それなのに魔法を教えてくれると言うハリス様を素直に受け入られる筈がない。
(怖いんですけど……)
「黙ってしまってどうしたんだい?私が教えるのは嫌かい?」
「えっ、嫌じゃなくて、えっと、その平民だし、ハリス様にご指導頂けるのは光栄なのですが、ちょっと、そのお金が無いと言うか何と言うか……」
混乱して何がなんだかわからなくなった俺の言葉にハリス様はアハハと笑った。
「お金はいらないよ。私は君が気に入ったからね!それにしても君、面白いね」
そう言われ困惑を深める俺をハリス様は見つめている。
俺は何もしていない。むしろハリス様に本を片付けさせてしまい難癖つけられて罪に問われても仕方ないぐらいなのだ。
(俺が気に入ったって?何故?本当に怖いんだけど……)
俺の心は恐怖と困惑に支配されていた。
「しばらく色々あって忙しいから一ヶ月後のこの時間にここで待ち合わせしようか」
「えっ!、はい?」
話を進めるハリス様に驚いて出てしまった俺の言葉に勘違いをしたのか、ハリス様は満面の笑みを浮かべ、
「それでは一ヶ月後に」
そう言い残して去って行った。
家に帰った俺はマリアお姉ちゃんに図書館での出来事を話した。
「ハリス様直々に指導して下さるなんて良かったじゃない!」
だってさ!
マリアお姉ちゃんはどんだけハートが強いんだろうと思ってしまった。
そして本日も無事、魔力欠乏になって一日を終えたのであった。
おやすみなさい
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる