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No.9
しおりを挟むミラベル学園の筆記試験の為にまず歴史書から読み始めた。
筆記試験は算術と読み書きもあるが、中学生レベルなので大学を卒業した俺なら大丈夫だろう。
後半に少し勉強して感覚を取り戻せばいけると思うので、最初に歴史の勉強から始めたのだが、自分で書いた小説の世界なのに知らない事ばかりだった。
ミラベル学園の歴史には触れてないから俺が知らないのは当然である。
「それにしても、ミラベル帝国の歴史書は分厚すぎない?」
ずっしりと重みのある歴史書に勉強の為とはいえ、嫌になって心の声が漏れてしまった。
読む気の失せた歴史書をテーブルの上に置くと魔法の本を手に取る。
この世界の魔法は火、風、水、土、闇、光と六属性がある。
魔法の発動にはイメージが大切で、発動する魔法のイメージがしっかりしていないと発動しなかったり、魔法が暴走したりしてしまう。
イメージはできる。
でもどうやって魔法を発動させるかがわからないので魔法についての勉強は必要なのだが……
(それにしても発動の仕方が載ってない…)
パラパラと本を開いて確認していくが、魔法の種類やイメージの仕方ばかりで発動の仕方の説明は載ってなかった。
俺は今見ている本を閉じて、本棚から持ってきた魔法関係の本を確認して行くがどの本にもやはり載っていなかった。
魔力欠乏を無理矢理誘発させて魔力量を増やしても魔法発動の仕方がわからなければ意味がない。
(どうしよう、色々試してみて自力で見つけるしかないかな)
窓から入り込む陽の光がテーブルをオレンジ色に染める。
集中して本を読んでいたので気が付かなかったが、随分と長い時間図書館にいたみたいだ。
背伸びをして席を立ち、持ってきた本をまとめ重ねると持ち上げた。
「こんな時間まで調べ物かい?」
突然後ろから声を掛けられて驚き、ビクッとした拍子で重ねた本がバランスを崩してバラバラに床に向かって落ちて行く……
「あーーーー!」
床に落ちた本を見ながら叫んだ俺は、声を掛けてきた人物に顔を向け睨んだ。
「ごめんごめん、突然声を掛けて脅かせてしまったね」
金色の髪を後ろで束ね、俺よりも背の高い男は見るからに高級そうな服を着ている。たぶん貴族だろう。
(これが貴族か!なんか感動だわ!)
自分の書いた小説の世界とは言え、初めて見た貴族に感動している俺を他所に、男は申し訳なさそうな顔をして俺の落とした本を拾い集め重ねていくとヒヨイっと持ち上げた。
「お詫びに手伝ってあげるよ」
微笑むイケメン貴族に「ありがとうございます」と返して本棚に向かうイケメン貴族の後ろを俺は着いていった。
マウロさんもそうだが、この世界は美男美女の比率が高い気がする。
『転生したらウハウハハーレム天国だった件』のタイトルからしてそうなんだけど、この小説は平凡顔の田辺ヒロシの願望が詰め込まれていると思う。
(田辺ヒロシの時は全然モテなかったからなぁ)
自宅と会社を往復するだけだった日々を思い出して泣きそうになった。
でもこの世界では美少年だ!この世界に期待する事にしよう。
さよなら、田辺ヒロシ……グスン
◇◇◇
「本当にありがとうございました。とても助かりました」
本を全て棚に戻してくれた男にお礼を言った。
「いえいえ、私が突然声を掛けてしまって君が本を落としてしまった。その罪滅ぼしと思ってくれれば幸いだよ。そう言えば、自己紹介がまだったね、私はハリス・デリーと申します。以後お見知り置きを!」
優雅な自己紹介をするハリス・デリー……、デリーってデリー公爵領ルフランの領主様ではないか!領主様に本の片付けをさせてしまった。
領内では領主様の権力は絶大、ましてや公爵だ!罪に問われたら俺は終わってしまう。
「えっと、あの、えっと、私はラグーと申します。領主様にこんな事をさせてしまい大変申し訳ありませんでした」
焦る俺はガタガタと震える体で精一杯謝る。
「あはは、そんなに怯えなくても大丈夫だよ。私は領主パリントン・デリー公爵の息子で君の手伝いをしたのは私の意思だよ。それに罪滅ぼしと言っただろ?」
「罪に問いませんか?」
「問わない、問わない」
アハハとするハリス様に安堵した俺はホッと胸を撫で下ろす。
「ところで、片付けた本は魔法に関する本が多かったけど魔法に興味があるのかい?」
「はい、興味があると言うかミラベル学園の試験の為に魔法を使える様になりたくて」
ハリス様の質問に俺が答えるとハリス様は驚いた表情をした。
「ラグーさんは平民だよね?」
「はい、平民です」
「なるほど……」
顎に手を当てて考える仕草をしてハリス様は口を開く。
「本だけじゃ魔法の勉強は大変ではないかい?」
「正直大変です、どの本も魔法発動の仕方が載ってなくて手詰まりになってます」
「なるほど……」
再びハリス様は顎に手を当てた。
「私が教えてあげようか?」
平民の俺にハリス様直々に『魔法を教えてくれるなんて何故?』『俺の事を罠に嵌めようとしてるのではないか?』と思うのは当然で、貴族の屋敷に勤める使用人でさえ他の貴族の子供達で、貴族教育を兼ねた教育の一環として派遣されている。
まれに平民もいるが、伝や能力の高さでスカウトされなければ平民は使用人にすらなれない。
平民が気軽に貴族と関わる事はほぼ無いと言っていい。
それなのに魔法を教えてくれると言うハリス様を素直に受け入られる筈がない。
(怖いんですけど……)
「黙ってしまってどうしたんだい?私が教えるのは嫌かい?」
「えっ、嫌じゃなくて、えっと、その平民だし、ハリス様にご指導頂けるのは光栄なのですが、ちょっと、そのお金が無いと言うか何と言うか……」
混乱して何がなんだかわからなくなった俺の言葉にハリス様はアハハと笑った。
「お金はいらないよ。私は君が気に入ったからね!それにしても君、面白いね」
そう言われ困惑を深める俺をハリス様は見つめている。
俺は何もしていない。むしろハリス様に本を片付けさせてしまい難癖つけられて罪に問われても仕方ないぐらいなのだ。
(俺が気に入ったって?何故?本当に怖いんだけど……)
俺の心は恐怖と困惑に支配されていた。
「しばらく色々あって忙しいから一ヶ月後のこの時間にここで待ち合わせしようか」
「えっ!、はい?」
話を進めるハリス様に驚いて出てしまった俺の言葉に勘違いをしたのか、ハリス様は満面の笑みを浮かべ、
「それでは一ヶ月後に」
そう言い残して去って行った。
家に帰った俺はマリアお姉ちゃんに図書館での出来事を話した。
「ハリス様直々に指導して下さるなんて良かったじゃない!」
だってさ!
マリアお姉ちゃんはどんだけハートが強いんだろうと思ってしまった。
そして本日も無事、魔力欠乏になって一日を終えたのであった。
おやすみなさい
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