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偽装彼氏が始まりそうな件
しおりを挟む私は今、入り口近くの日陰に染谷君と並んで座っている。
なぜかテンションがただ下がりの染谷君が、私の手を引きここに連れてきたのだけど、座ったとたんに体育座りになって顔を伏せたままの状態になっている。
少し落ち着きを取り戻した私は冷めた目でそんな染谷君を見ていた。
(なんなのコイツ、ここに座ってから全然動かないんだけど?死んでる?こいつ死んでるの?ウザイんだけど)
などと思いながら「はぁ~」っと吐いた私のタメ息に、コイツはビクッっと一瞬動くがすぐにピクリともしなくなる。
日陰とはいえ夏の暑さとミンミンとうるさいセミの鳴き声に加え、隣で全く動かないコイツにイライラしてきた私は沈黙を破る。
「ねぇ!」
強目の口調に一瞬『ビクッ』としたが、またもやピクリとも動かくなったコイツの態度に怒りの限界を向かえた私が詰め寄る。
「あんた何してんの?あんたがここに連れてきたくせにダンマリなの?ウザイんだけど!」
ウザイと言われビクンとしたコイツが言った一言に
私 VS 染谷君の第2roundのゴングが鳴り響いた。
「うるさい!」
「うるさいってなんなの!馬鹿!」
「うるさいったらうるさい!僕は傷心してるの?わかる?傷心してる人には優しさを見せるってもんだろ!」
「なんに勝手に傷心してんのよ!」
「どうでもいいヤツに告白してフラれたら傷心するだろが!」
どうでもいいヤツ呼ばわりされた私は完全にキレた。
「どうでもいいヤツねぇ…」
呟きながら立ち上った私は握り拳を作ると、顔を伏せたままで言い合いをしていた染谷君の後頭部にめがけ右ストレートを振り下ろした!
ボコッと鳴った音と一緒に拳に激痛が走り私は座り込んで痛みに悶えてしまった。
◇◇◇
殴られた痛みで顔を伏せたままの僕は勢いよく立ち上がり吠た!
「痛いな!」
「……」
「聞いてる?」
「……」
「お~い」
「……」
「プッ、ハハハハハハ!」
手を押さえ、無言で悶える滝川さんを見て可笑しくなってしまった僕は笑ってしまう
「何笑ってるのよ!」
涙目で睨む滝川さんを見てまた笑ってしまった。
「ごめんごめん、それにしてもさ、何かシラケちゃった」
「あんた、頭硬すぎだから…」
涙目で睨み続けている滝川さんの隣に座り僕は話を続けた。
「結局あれはなんだったの?」
「あれってなによ?」
「告白だよ、告白罰ゲームじゃないんでしょ?」
「告白罰ゲームじゃないわよ!というかなんなのそれ?」
「告白してオッケーされたら騙された~ってやつだよ」
「なにそれ、めんどくさっ!」
「なら目的はなんなの?」
「偽装彼氏よ」
「偽装彼氏?」
「ほら私ってモテるでしょ?告白されまくって困ってるの、だから彼氏ができたらそうゆう事する人がいなくなるかなって思ったのよ」
「確かにお前、顔はいいもんな」
「顔はってなによ!」
「そのままの意味だけど?僕の好きなヒロイン達にも負けてないと思う」
「ヒロインって?」
「僕が見ているラノベとアニメのヒロインだけど?」
「なにそれ、全然嬉しくなんだけど…」
「なに言ってるの?かなり名誉な事だよ、ヒロインはそれこそ芸能人並の美貌がないとなれないんだよ!それを満たしてるってこった、おめでとう!」
「あんたよくそんな恥ずかしい事、真面目な顔して言えるよねぇ」
「僕は正直者だからね!」
「はぁ、あんた変わってるよ…」
「そう?」
またあのおかしな高揚感を感じている僕は無敵だった。
まるで小説やアニメの主人公になった気分で、クサイ台詞も臆する事なく出てきてしまう。
でも、これがきっかけで初めて二人でまともな会話をした。これが怪我の巧妙と言う事だろう。
ほぼ言い合いの様な形だったけど、僕は『悪くない』と思い、夏を告げるセミの合唱に耳を傾ける。
(うるさい!)
心の中で叫びながら……
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