染谷君は知らない滝川さんはもっと知らない交差するキュンの行方とその発信源を

黒野 ヒカリ

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染、滝それぞれのお昼休みの件

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 皆でお昼を過ごさなくなって一週間、僕は久しぶりに北澤さんに誘われて屋上に移動した。

 屋上に着くと、ちょっとした段差に腰かけた。

 北澤さんが持っていた手提げ袋からお弁当を取り出すと、僕に手渡す。

 「染谷君、どうぞ」

 「これ、お弁当?」

 「そうだよ」

 「作ったの?」

 「うん…」

 照れ笑いして鼻を掻く北澤さんの人差し指は絆創膏が貼ってある。

 よく見るとあちこちと絆創膏が貼ってある手を見た僕はそれ以上何も言わずに弁当箱の蓋をあけた。

 キレイに並べられた中身は美味しそうに見え、さっそく玉子焼きに箸をつける僕を心配そうに北澤さんが見つめている。

 「うん、美味しい」

 「本当?」

 「本当に美味しいよ」

 満面の笑みを見せる北澤さんは僕の肩におでこをくっ付けると僕は突然の事にビクッとして固まってしまう。

 「私、誰かの為に初めてお弁当作ったの…」

 「うん」

 「いっぱい手を切っちゃったけど染谷君に美味しいって言われた。頑張って良かった…」

 「うん」

 顔をあげた北澤さんは、僕に微笑みかけると自分の分のお弁当を食べ始めた。

 「うん、美味しい」

 「味見はしてないの?」

 「したんだけど、味なんて分からなかったんだよ…」

 「そうなんだ、美味しいでしょ?」 

 僕は北澤さんに笑いかけた。


◇◇◇


 私は初めて誰かの為に料理をした。

 自分が納得するまで一週間もかかってしまったけど、最後は染谷君の反応を気にしすぎて味が分からなくなっていた。
 でも美味しいと言ってくれた染谷君の言葉に頑張って良かったと思った。

 私はお弁当を食べ終わると久しぶりに会った染谷君と話をして過ごす。

 私は自分の気持ちをこのまま伝えようかと思ったが、伝える事はしなかった。

 でも、染谷君と話をして私の気持ちが大きくなっているのがわかる。

 (杏にも紗枝ちゃんにも負けないから!染谷君は誰にも渡さない!)

 そんな私の思いを知らない染谷君は楽しそうに話をしていた。


◇◇◇


 私と有坂くんがお昼を一緒に過ごし始めて一週間、有坂くんの「お弁当を作ってくれ」と毎日、毎日のお願いにうんざりしてお弁当を作ってしまった。

 どうでもいい有坂くんの為になんで私が作らないといけないんだろうと思うけど、根負けしたとは言え了承してしまったからには作らないといけない。

 賢のお弁当を作っていた時は作るのは嫌だと感じた事はなかったのに有坂くんの為に作ったお弁当は今日一日だけしか作ってないけどもう嫌だと思ってしまう。
 
 「やっぱり美味しい」

 私の作ったお弁当を食べた有坂くんが感想を言った。

 私は「ありがとう」と返事を返したけどあまり嬉しいとは思わない。 
 賢に言われた時とは違いもの足りなさを感じてしまう。

 美織や紗枝ちゃんと毎日一緒にいた日々…
 そして、賢と過ごした日々…

 振り替えると充実とドキドキした事が甦ってくる。

 『本当にこのままでいいのか?

 このまま過ごした日々は思い出にした方がいいのか?

 そして、有坂くんと付き合った方がいいのか?』

 私は自分では答えを出せない程になっていた。


◇◇◇

 
 「滝川さん、僕の為にこれからもお弁当を作ってくれないかな?」

 俺はやっと滝川さんにお弁当を作ってもらえて本当に嬉しかった。
 でも、お弁当を作ってくれるのが今回きりになるのは嫌だった。
 断られてもしょうがないと思い滝川さんにお願いをした。

 滝川さんは考える素振りをすると「分かった」と返事をした。

 それには飛び上がってしまいたいほどの喜びを抑える。

 「本当にいいのかい?」

 「うん…」


 頷く滝川さんを見て俺は「よっしゃー!」と叫んだ。


◇◇◇


 (これでいいの、これで…)

 自分にそう言い聞かせた私の心は張り裂けそうだった。
 
 「賢……」

 呟いた私の声は有坂くんの叫び声にかき消された。

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