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カラオケに行った件③
しおりを挟む「賢君、ありがとう…」
泣き止んだ私は染谷君から離れて隣に座っていた。
泣き止んではいるけどあんなに泣いたんだから私の目は腫れているだろう。
「もう、大丈夫?」
染谷君の言葉に小さく頷いた私は、鞄から手鏡を取り出して自分の顔を見て驚いた。
想像していたよりも赤い目と腫れぼったい瞼に慌ててしまう。
「こんな顔、二人に見せれないよ…」
「大丈夫だ、よ?」
曖昧な返事をする染谷君に私は「もー、染谷君!」と言って頬を膨らませた。
目頭をハンカチで抑える私は染谷君にお願いをする。
「ねぇ染谷君、お願いがあるんだけど…」
「僕にできる事なら…」
染谷君の言葉に私は唾を飲み込み少し間をおいた、そして
「あのね、私の事も杏みたいに呼んでほしい…の」
◇◇◇
「例えば?」
質問した僕に北澤さんがまた話す。
「染谷君、たまに人が変わるでしょ?」
あの高揚感がわき出ている時を北澤さんは気がついていたんだ……少し恥ずかしい。
「美織って呼んでほしいんだ…」
上目使いの北澤さんはとても可愛くて断れない
「み、美織…」
「なぁに?賢」
まだ腫れぼったい瞼ではあるが、頬を赤らめて僕の事を賢と呼び満面の笑みを浮かべる北澤さんは守ってあげたいと思わせる程の破壊力だった。
恥ずかしくなった僕は目を反らしてしまった。
「あー!賢、目を反らしたー!恥ずかしくなっちゃった?」
「えっーと」
僕は今、どんな表情をしているのだろう?たぶん凄く赤くなっていると思う。本当に恥ずかしくて北澤さんの顔をちゃんと見れないから……
僕は滝川さんに悪いと思いつつも北澤さんとの会話を楽しんでいた。
その様子は端からみたら付き合いたてのカップルみたいだと思う。
◇◇◇
俺が部屋に戻ると染谷君と北澤さんは仲良さそうに話をしていた。
「ほほぉ」と息を漏らす俺に気がついた北澤さんが俺に話かけた。
「杏は大丈夫?」
心配そうな顔をしている北澤さんに「とりあえずは…」と返すと「杏ちゃんを送る」と言って部屋を出たが、いい忘れていた事を思い出した。
「支払いは済ませとくから後一時間ぐらいはゆっくりして行きなよ」
俺ウインクをしてまた部屋を出て行った。
(このまま二人が結ばれる事を願うよ)
部屋の外の入り口で座り込む杏ちゃんに肩を貸すと、立ち上がった杏ちゃんに声をかける。
「大丈夫かい?」
小さく頷いた杏ちゃんに「行こっか」と声をかけ、俺と杏ちゃんはカラオケ店を後にした。
◇◇◇
部屋に残された僕は滝川さんの事が心配ですぐに追いかけたかった。
でも、北澤さんの事もほってはおけない。
僕の中でぐるぐると色々な思いが回る。
◇◇◇
「置いてかれちゃったね…」
賢にそう言った私も杏の事は気になる。けど賢と二人っきりでいれるこの時間を大切にしたかった。
自分の気持ちを抑える事ができない私は賢の手を握りしめた…
◇◇◇
小刻みに震える北澤さんの手を握り返す僕はこのままでは本当にダメだと思う。
僕ははっきりとしないといけない
北澤さんに対しても滝川さんに対しても失礼だ…
そして、紗枝に対しても……
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