30 / 54
カラオケに行った件②
しおりを挟むカウンターで受付を済ませた僕達は指定された部屋へと向かった。
部屋は机を真ん中に両サイドにソファーが置かれていた。
マイクの入った篭を持った有坂くんが滝川さんと一緒に座ると、北澤さんに腕を引かれた僕は北澤さんと一緒に座った。
互いに向き合った状態のカラオケルームには少しの沈黙が流れていた。
その間、僕は下を向いたままだ。
その沈黙を破る様に有坂くんがリモコンを操作して曲を入れるとマイクを持って立ち上がった。
そして、誰もが知ってるバラードの前奏が流れる…
熱唱する有坂くんはうまかった。
下を向いている滝川さんを見ながら歌い上げる感情を込めたその歌声は僕の心を締め付ける。
(有坂くん、本当に滝川さんの事が好きなんだ…)
僕はこの場を逃げ出したかった。
滝川さんへの気持ちが痛いほどに伝わる有坂くんの歌声は耐え難かったのだ。
◇◇◇
私は染谷君の手を握りしめる。
(杏、ごめんね…それでも私は…)
下を向いている杏を見てると罪悪感が溢れてくる。
こちらを見ようともしない杏はどんな顔をしてるのだろう。
私は杏の事を親友と呼ぶ資格はないと思う。
杏をこんなに辛そうにさせたのだから……
◇◇◇
「有坂くん、すごくうまいね!」
「ありがとう、杏ちゃん僕の歌どうだった?」
有坂くんの歌い終わって美織の称賛に有坂くんはそう返して私に自分の歌の感想を聞いてきたけど、全く耳に入っていなかった私は苦笑いを浮かべてしまう。
「うん…うまかったよ…」
下を向いたままでそう言った私に有坂くんは苦笑いを浮かべた。
◇◇◇
「次は私が行くね!」
私はリモコンを操作して曲を入れる。
曲が流れ出すと私は染谷君の腕にしがみついた。
入れた曲はバラード
私も感情を込めて歌いあげる
時折、染谷君を見つめて歌う
私の想いが染谷君に伝わるといいな
◇◇◇
賢の腕に抱きついて賢の顔を見ながら歌う美織を見る私は息苦しくなり、呼吸が乱れる。
苦しそうな私に気がついた有坂くんが背中を擦った。
賢も私の様子がおかしい事に気がついて動こうとしていたが、美織が抱きついているからか結局座ったままだった。
美織がまだ歌っている中、有坂くんは美織に手振りで合図を送ると顔の青くなった私を抱えて部屋を出た。
◇◇◇
滝川さんが急に苦しそうにしてるのを見て僕はすぐに滝川さんの元へと行こうとしたけど、立ち上がろうとすると北澤さんが力を入れて立ち上がれなかった。
何もできない僕は有坂くんが滝川さんの背中をさすっているのを見ている事しかできなかった。
滝川さんの事が心配でいてもたってもいられない僕は曲が終わると、北澤さんがしがみついている腕を強引に引き剥がすと立ち上がった。
足を踏み出し、ドアノブに手をかけたところで北澤さんが叫んだ!
「染谷君、行かないで!」
ドアノブを下げた手が止まる
「お願いだから…」
うつ向いた北澤さんの泣きそうな声は僕の胸を締め付ける。
(それでも……)
僕はドアをあけて部屋を出て行った。
◇◇◇
染谷君は出ていってしまった。
必死で止めたけどダメだった。
私は何をしているんだろう?
親友を苦しめてまで私は幸せになりたかったのか?
本当に私は酷い人間だ。
「杏…ごめんね…本当にごめんね…」
一人呟いた私は涙が止まらなかった。
◇◇◇
僕は滝川さん達を探し回り、女子トイレ入り口の壁に背もたれしている有坂くんを見つけて僕は近寄る
「染谷くん、何しにきたんだい?」
「何しにって、滝川さんが心配で」
タメ息を吐いた有坂くんは僕にいい放つ!
「もう、俺達に関わらないでくれないか?」
「えっ!?」
「えっ!?じゃなくて、頼むよ…カラオケに君達を誘ったのは間違いだった…」
「なんでそんな事…」
「杏ちゃん見たろ?」
「……」
僕を睨む有坂くんは話を続ける。
「君がいると杏ちゃんはおかしくなる」
「……」
「それに君も気がついているだろ?北澤さんの気持ちに」
僕はその言葉に何も返せなかった。
北澤さんの最近の態度に加え、カラオケにきてからの態度に僕でもさすがに気がついていた。
それでも滝川さんが心配で北澤さんに止められたのも振り切ってここに来のだ。
言い返す言葉が見つからない僕に更に話を続ける有坂くん
「君は北澤さんに失礼とは思わないのかい?」
「……」
「何も言わずにそうやって逃げるのかい?」
「なっ、僕は…」
それ以上何も言えずに僕はうつ向いてしまった。
「はぁ、本当に君は…」
呆れた顔をする有坂くん
「杏ちゃんの事は俺に任せて君は部屋に戻ってくれよ。邪魔だから」
そう言うと有坂くんは僕を突き飛ばした。
その勢いで僕は尻餅をついてしまう。
僕を見下ろす有坂くんは「ふんっ」と鼻息を出してスマホを取り出していじりだす。
それを見ながら立ち上がった僕は有坂くんに背を向けると何も言わずに部屋へと戻って行った。
「本当に君は…」
スマホをいじる有坂くんが呟いた声は僕には聞こえていなかった。
◇◇◇
僕が部屋に戻ると北澤さんは泣いていた。
滝川さんの事も北澤さんの事も苦しめて僕は本当に何をしているんだろうと思う。
僕の姿を見た北澤さんは鞄からハンカチを取り出して涙を抑える。
戻るってきた僕に手で合図をした北澤さんは僕を隣に座わらせた。
うつ向いたまま座る僕の胸に北澤さんは顔を埋める。
驚いた僕は両手をあげた。
「賢君、戻ってきたね…」
涙声の北澤さんに僕はあげた両手を下げて抱き締める。
なぜそうしてしまったのか僕は分からなかった。体が勝手に動いてしまった。
◇◇◇
染谷君に抱き締められた私は自然と涙が溢れ出す。
大好きな人に抱き締められた喜びと驚き、そして杏への罪悪感に私の涙は止まらなかった。
お互いに無言のまま染谷君に抱き締められて私はずっとこうしていたいと思った。
二人っきりの部屋には私のすすり泣く声だけが響いていた。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる