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学園祭の準備をしてる件①
しおりを挟む放課後、私は染谷君と一緒に学園祭の小道具を作っている。
二人きりの空間に私の心は弾み、早くなる胸の鼓動で『何か起きるかも』と期待している自分がいる。
お昼休みに綺麗になった紗枝ちゃんを見て焦り、勢いに任せる形で『賢』と言ってしまったけど、良かったと思ってる。
だって、
「ねぇ、賢」
───こうやって呼べるようになったのだから。
「へっ?」
私に名前を呼ばれてそんな返事をする賢を見てにやけてしまう。
嬉しくて用もないのに呼びたくなる賢の名前……
カラオケでもどさくさに紛れて呼んだけど、恥ずかしくて『賢』って呼べなくなってたから紗枝ちゃんには少し感謝している。
これでやっと杏や紗枝ちゃんと並べたかな?
黙々と小道具作りをしている賢を見ながら私も手を動かしていく。
◇◇◇
小道具を一つ仕上げた僕は満足のいく仕上がりに一息吐く。
北澤さんに賢と何度も呼ばれて集中力を乱されたけど僕は頑張った。
名前を呼ばれて振り向いても北澤さんはニコニコして「別に」と言うばかりで何がしたいのかわからなかった。
「ねぇ、賢」
「どうしたの北澤さん」
またかと思ったけど僕が返事をすると北澤さんはニコニコしたまま何も言わない。
このやり取りを何回すればいいのだろう。
終わりが見えないリピートと、思うように小道具作りが進まない事で少しイラッとした僕は「北澤さん!」と少しだけ声を荒げたのだが、「なあに、賢」と嬉しそうに返事をする北澤さんを見て全てを諦めた。
「ねえ賢、私のお願い覚えてる?」
急に真面目な顔をした北澤さんがそんな事を言っているが、北澤さんの言うお願いが全く記憶のない僕は首を傾げる。
「覚えてないんだ……」
北澤さんは肩を落とし、どんよりとした空気を纏い、表情を曇らせた。
(これはマズイ、お願い?全然思い出せない)
「やっぱり覚えてないんだね、その顔見たらわかるよ......」
「いや、えーと、その一……」
僕の態度に北澤さんはタメ息を吐いた。
「あのね賢、カラオケで言ったよね、私の事『美織』って呼んでって」
僕は北澤さんに言われてやっと思い出せた。
そういえば、カラオケでそんな事を言っていた。
「だから、さっきの北澤さんはやり直し!」
「はい?」
「はい?じゃなくてやり直し!」
「はい、み、美織……」
「なあに、賢」
ニコニコと返事をする北澤さんと僕は、このやり取りを北澤さんが満足するまでさせられた。
小道具作りが全くできないんですけど……
◇◇◇
私は有坂くんと一緒に学園祭で使う衣装合わせの為、小道具作り担当の賢がいる教室へ向かっている。
そこには美織もいてすごく気まずい。
私はカラオケに行った後から一言も口を聞いていないし、あれだけ頻繁にしていたLIMEも全くしなくなった。
多分私は美織に嫌われているんだろ。理由はわからないけど……
今はお昼休みだって私は有坂くんと過ごしている。
皆と過ごさなくなって一ヶ月がたったけど全然慣れない。
『辛いことは時間が解決してくれる』て言うけどウソだと思う。だって今でもすごく辛いから……
教室に行って美織と賢が仲良くしてるのを見るのは耐えられる?
もし、カラオケに行った時みたいに美織が賢に抱きついていたら?
色々考えると私の足は重くなる。
「杏ちゃん、どうしたの?」
有坂くんは首を傾げ私を見ている。
私が「何でもない」と言うと有坂くんは私の手を握り、前に進む。
有坂くんと手を繋いで歩く姿を賢には見られたくない。
でも、自分の意思では前に進めそうにないので私は流れに身を任せ、教室へ向かった。
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