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颯太くんと飲みに行きました③
しおりを挟むアイスティーを飲み干した所で、私は席を立ちトイレに向かった。
颯太くんが言ったように本当に強いお酒だったのだろう、足元が少しフラフラとする。
トイレの手洗い場でハンカチを濡らして顔に当てた。
少しひんやりとしたハンカチは、アルコールで火照って赤くなった顔をすぐに冷ましてくれた。
「よし!」と口にしてトイレを出ると、
「あれ?ナーミーやしぇ!」
「あっ、コーヤー、久しぶりだね」
声を掛けてきたのは沖縄の高校で一緒だった比嘉コウヤだった。
沖縄では名前を伸ばして呼んだりアダ名で呼ぶのが一般的で、ちゃんやくんを付けて呼んだりする方が珍しい。
なのでコーヤーとは特別な関係では無いが、こんな感じなのだ。
「ナーミー、ないちゃーじらーしてからにや~(本土の人みたいになってる)」
方言を話すコーヤーは沖縄にいる頃からの訛りが全然抜けていない。
こんなんで東京の人と会話出来るのが心配になってしまう。
「ないちゃーじらーって、そんな言葉で話し出来ないでしょ?」
「やさや、やしがよ、うちなーんちゅ(だね、でも沖縄の人)と話す時だけこんなーだよ」
コーヤーを見ると私は少し東京に染まってしまったかと思ってしまう。
「コーヤーは本当に変わらないね」
「あんしぇやー、うちなーぬくくる忘しれてちゃーする(お前さ、沖縄の心忘れてどうする)わんねー(俺は)変わらんよ」
「コーヤーすごいね」
そう言うとコーヤーは微笑んだ。
「一緒にいるのはいきがか?(彼氏か?)」
「ち違うよ!彼氏じゃなくて友達……先輩だよ!」
「どぅしな~?(ともだちか?)ふぅ~ん」
ニタニタとするコーヤーは怪しいなと目で訴えているが颯太くんとは本当に彼氏でもないし、友達って分けでもないので『先輩』って言うのが適切だろう。
「じゃ、わんもどぅしが待ってるから行こうや!」
「うん、またね」
コーヤーは手を振ってこの場を後にした。
本当にコーヤーは沖縄にいた頃と全く変わっていなかった。むしろ、癖が強くなった気がする。
コーヤーのお陰で酔いが冷めた私は颯太くんがいる席へと戻った。
「ナミちゃんお帰り、大丈夫?」
「はい大丈夫です。少し顔を洗ったらすっかり酔いも冷めました。」
「ナミちゃんはお酒禁止だね。アイスティー頼んでおいたよ」
「ありがとうございます」
そして私は颯太くんの隣に座り会話を楽しんだ。
高島さんの事を聞くとやっぱり高島さんは私に興味が無いと実感してしまう。
そう思ってはいてもすんなり諦める事は出来ないと思う。
終電の時間が近づき、颯太くんがお会計を済ませた。
私も出すと言ったが、颯太くんは「いから、僕にカッコつけさせてよ」と言って全て出してくれた。
私はお礼を言うと颯太くんとお店を出た。
渋谷駅に着くと改札でコーヤーに会った。
「ナーミーやっし」
「あっコーヤー」
コーヤーは私に声を掛けると颯太くんに会釈をした。
「ナミちゃん、彼は?」
「コーヤーは高校の時の同級生で同じ沖縄出身なんです。さっきのお店でコーヤーも飲んでたみたいで、トイレに行った時に偶然会ったんです」
「へぇ、そうなんだ…」
颯太くんはそう言って口を紡いだ。
「あっコーヤー、こちらは颯太くんで先輩だよ」
「颯太さん、僕はコーヤーと言います」
コーヤーは私と喋る時とは別人のように颯太くんに挨拶をした。
「コーヤーくんね、よろしく」
颯太くんはコーヤーに笑顔を見せるとそう返した。
「コーヤーも帰るの?」
「やーが(家が)八王子だから結構ギリだばーよ」
「コーヤー八王子なの?私も八王子だよ!」
「だあるば?(そうなの?)なら、一緒に帰ろう!」
「えーっと…」
私は言葉に詰まった。
コーヤーは八王子に住んでるので一緒帰れば昔話でもしながら退屈せずに家に帰れると思うけど、私は颯太くんと一緒にここに来ている。
このままコーヤーと一緒帰るとは言えない。私は颯太くんを見た。
「ならコーヤーくん、ナミちゃんをよろしくね」
颯太くんは私が返事をする前にコーヤーにそう言うと私に笑顔を向けた。
なんだか笑顔の颯太くんの表情が少し堅い気がする。
このまま帰ったら颯太くんに悪い気もするが、少し眠くなっている私は颯太くんにお礼を言った。
「颯太くん、今日はありがとうございました。ご馳走さまでした」
「いいよ、また飲みに行こうね」
「はい、また誘って下さい」
私は颯太くんに頭を下げると改札をくぐった。
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