青いsquall

黒野 ヒカリ

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元カノからの電話

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 ナーミー、コーヤー、か。

 別れた直後から不思議な感覚に身を取られ、何度も頭の中を白紙に戻そうと人差し指でトントン叩いた。

 あの狭い店内で、ちょっとだけ離れただけで
僕たちにはそれぞれの出来事が起きていたわけだ。

 ナミちゃんは偶然にも同級生と会う。
 遠い島から出て来た2人が今夜こんなところで?

 でも僕もナミちゃんが席を立つのと同時に元カノからの電話を受けていた。
 ナミちゃんがいたら、出なかった電話だけどまたハマり服が発掘されたのかも、と下心が動いた。

 「………」

 黙ったままだからか?
 ナミちゃんに話していた口調そのままだったのか?

 「どうしたの?チー」

 彼女は洗練された女性だけど、唯一のコンプレックスが名前だった。

 家族には未だに幼少期のままの名前で呼ばれていてそれがとても嫌だと言うから、僕は逆に気に入ってしまった。

 自分で言うのもなんだけど真剣な話や雰囲気になるほど、彼女を〝チー〟と呼ぶ。
 それに反応したように、むせび泣く息が聞こえた。
 
 でも、それは一瞬で、いつもの声

 「今どこ?何しているの?」

 困ったな、会いたい時の聞き方をする。

 「今女の子と店で飲んでいる」

 「今すぐ来て」

 「チー、どうしたの?言ってよ」

 「男に振られたの」

 「そっか」

 あの日に会ったあの男を思い出す。

 僕を見ても笑っていたのは余裕ではなく、性格上のことでもなく、『彼女に本気じゃなかった』そういうことなのか。

 「女の子と一緒でもいいね?」

 「え、いいの?ありがとう」

 彼女はほのかに嬉しそうだった。
 大丈夫、彼女は人のものには手を出さないから。

 僕はナミちゃんに何と言って頼もうか、考えていた。それどころか、その後のことも考えていた。

 僕はめでたく高島さんの家で暮らせるようになった。そして古いけど大きな家にビビっていた。

 ナミちゃんがここにいたらいいのに、と思った。
 八王子から通うには困らないだろうけど、ナミちゃんもここで一緒に暮らせたら楽しいかも?割とすぐそんな考えが浮かんだ。

 でも、それは縁がないことなのかな?

 何かを企んでも、すんなり進まないと。
 どんな良い思いつきだったとしても、しぼむ。
 もう、どうでもいいか、とため息と共に消える。

 ひとりでチーに会うのは気が重かった。
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