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ルキフェル視点
02
魔界門で門番が天界と繋げようとしたのを止め、私は懐中に忍ばせていた鈴を鳴らした。
極彩色に光る門が天界から繋がり、輝く笑顔で魔界門の天使が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ!天様」
………カワイイ………。
透き通る様な白い肌に、ほんのり紅潮した柔らかそうな頬。
花神の泉に咲く薔薇の花弁の如く潤う唇が、私の帰りを喜び迎える言葉を紡ぐ。
滑らかな白金の髪の毛が風に揺れ、その一房に触れたいと手を伸ばし掛け………思い留めた。
「天様?もしかしてお疲れですか?誰かお呼び致しましょうか」
怪訝な表情で魔界門の天使が角笛を取り出そうとしたのを断り、お土産に頂いた大粒の苺を与えると、眩い笑顔で喜んでくれた。
その笑顔が見られるなら、何度でも魔界へいこう。
天界へ戻った私は早速〝海〟の懸念を払拭するため、彼に会いに行った。
ついでにセイシュのお裾分けをしてやろうと、オチョコも持参していた。
「天よ、まさか貴方まで懐柔されるとは思わなかった…」
「懐柔ではなく私の見解だ。あのサタンは天界への野望は一切なかったと断言できるぞ。信じられないのなら君も一度魔界へ行くといい」
パリン!と陶器が床で爆ぜる。
海は私が差し出したオチョコを投げ出し、更に粉砕したのだ。
「何を悠長なことを…!聞いたか智天使」
「嘆かわしいことです」
側に控えていた智天使の一人が海に賛同する。
「やはり〝天〟は魔界に毒されてしまった!『我が権限にて全天使へ告ぐ!直ちに襲撃に備えよ!』」
海は『声』を使い、全天使へ号令をかけた。
「落ち着け海よ!それではこちら側が先に手を出してしまうことになるだろう。神々にお伺いを立てるのが先ではないのか?」
私の懐柔云々よりも、先ずは神の御意向を伺わねば最悪戦争になってしまう。
「神々は既に魔界に毒されている。我々だけが正常に戻すことができるのですよ」
そう断言した海の視線の先には、装備を整えた天使達が集結しつつあった。
「まさか私が魔界に行っている間に、既に号令を掛けていたのか?」
「相手は我々や人間界に堕落を齎す悪魔達です。先手を打たねば世界は崩壊してしまいます。残念ですが貴方には〝天〟を降りて頂きたい」
厳しい顔で告げた海は智天使へ目配せをし、私に槍を向けさせた。
……智天使如きが私に槍を向けるとは!
私は背中の翼を広げ、智天使を威圧した。
天の熾天使の証である十枚の羽が周囲を巻き込み大きく羽ばたいた。
「………っ!!」
智天使は私の風圧で怯み、持っていた槍を落とし蹲る。
私は召集された天使達に解散を言い渡そうと外へ出たが、海の『声』の方が早かった。
彼の『声』は全天使に響き渡る神の伝令。
常に正しく誰よりも心へ響く。
『海の熾天使より告ぐ!天の熾天使は魔界の手に堕ち、我々の指標では無くなった!直ちに魔界へ赴き神々を奪還し、正しき聖域を取り戻せ!』
……一体何を言っているのだ?神々は好んで魔界へ居住しているのだぞ?
いや、そんな事はどうでもいい。直ぐにサタンと神々へ報告せねば!
私は翼を翻し、魔界門へ向かった。
装備を纏い隊列を組む天使達より早く辿り着いた私を、魔界門の天使が不安そうな顔で見上げていた。
「海の熾天使様からお声が聞こえました。でも、天の熾天使様は決して魔界に堕ちてはいないですよね?一体どうなっているんですか?」
この子も門から魔界を眺めていたのだろう。魔界がどれだけ平和で、サタンがどれだけ魔界に従事しているかを知っている。
「すまない魔界門の天使。私にも理解ができない事態になってしまった。直ぐに魔界へ行き事態を報告する必要がある。門を開けてもらえるか?」
「勿論です!」
魔界門の天使はぐるりと可愛らしい指で円を描き、魔界門を開けた。
だが直ぐ向こうに先発隊の天使達が、隊列を組んでこちらに向かって来ていた。
「仕事が早い。さすが海だな」
こんな時でさえ感心してしまう、海の手際の良さ。いや良すぎるな…。
そうも言っていられず私は門を潜り魔界へ降り立った。
数時間前までいた魔界へ再び舞い戻ってしまった。
私は湖を見渡し、更に魔王城へ座標を決定する………んん?
ふわりと視界の外で煌めく白金の髪の毛。
横を見ると可愛い天使が魔界の景色を物珍しそうに見ていた。
「お、お前まで来たのか⁉︎」
まさかの魔界門の天使が私について来ていた。
天使は私を見上げ、可愛らしい金色の目を輝かせ頷いた。
「うふふ。門の鍵がこちらに来れば、開く事はないでしょう?」
悪戯な笑顔で笑う天使。
………カワイイ………。
いや、今は惚けている場合ではない。
すぐにサタンの元へ行き、現状を知らせ創造神へお伝えせねば!
「すまない魔界門の天使よ。しばらくここで待っていてくれるか?」
「あの、天様?私もご一緒させて頂きたいのですが……ダメでしょうか?」
下から大きな瞳を潤ませ煽り見る天使。そんな目で見られると頷くしかなかろう。
私達はサタンの元へ移動し、現状を説明した。
「よろしい!ならば戦争だ!」
鼻息荒く叫ぶサタン。
「いやサタンよ。それを阻止するために私はここへ来たのだが?」
「んん……。知ってる。ちょっと言ってみたかったんだよ。言ったろ?戦争したって何のメリットもないって」
サタンは何故か少し照れながら訂正した。
照れるなら言わなければよかろうに。
私達は魔界でバカンスを楽しんでいる創造神の元へ行った。
「おーい!創造神のじーちゃん!」
「む、サタンか。どうした」
サタンは近所の顔見知りの如く、気軽に我が創造神を呼んだ。
その態度に身震いしたが、創造神もサタンもお構いなしに会話をしている。
私は天界の現状を説明し、何とか戦争を回避しようと神の見解をお伺いした。
創造神は自身の長い髭を撫で回し、しばし目を閉じ瞑想する。
そしてゆっくりと目を開け、私に囁いた。
「天よ。事態はどうやら違う方向に行っている様だぞ」
「違う方向?」
創造神の視線の先に、見たことのある六枚の羽を持つ天使が優雅に翼を広げてこちらに向かってきた。
「おーーいたいた!天よ!……ぬぁっ!創造神様?お久しぶりっす!」
「大地か。久しいの」
大地のヤツはストンと足をつけ、私達の前に舞い降りた。
いや、その前に。
「大地?どうやって魔界へ来た?魔界門は閉じているはずでは?」
鍵である魔界門の天使は私の隣にいる。
「あーそれな!魔界門の天使が逃げ出したっつって大騒ぎになって、海が時空の神に次代の天使を急遽お願いしたからだよ」
「なんだと?それじゃ、この子は…」
既に新しい魔界門の天使が生まれれば、この子はもう魔界門の天使ではなくなってしまう。
「え?この子が魔界門の天使だったのか?任務最低記録だって時空の神がお怒りだったぞ?」
「この子は逃げ出したのではなく、私のために時間を稼いでくれたのだ。時空の神にも説明に行かなくては」
「いや無理だろ。消滅か堕天の二択しかねぇよ」
大地の言葉に息を呑んだ。
天使は役目のためだけに生まれる。
それを放棄する事は、その命を投げ出すのと同義。若しくは別の生命として生きるしか選択はないのだ。
つまり、この子は役目を放棄したと見做され、天使として生きていけなくなってしまった。
天使はショックだったのか大きな目を見開いたまま固まっている。可哀相に、何とかならないものか。
「あのさー。よく分かんないけどさぁ。その子、死ぬか天使を辞めるかの二択って事だろ?じゃあ魔界人になれば良くね?俺が面倒見てやるぞ?」
軽く提案して来たサタンは、天使の美しく穢れを知らない頭部を撫で付けた……何故か苛つく。
事態を把握したのか、天使は瞳を漂わせ震えている。
そもそも私が巻き込んでしまったこの子を放っておく訳にはいかない。
「サタンよ。嬉しい申し出だが、この子の面倒は私が見る」
私は天使を撫でるサタンの手を撥ねつけ、私の元へ引き寄せた。
「天様…」
金色に輝く天使の目は私をまっすぐ見つめ、庇護欲を唆られた。
「いや面倒を見るって、もう堕天するしかないんだろ?熾天使のアンタじゃ無理だろ」
サタンは私を窘めるように苦笑した。
それなら、答えは一つだ。
「では、私も堕天しよう」
「天さまっ⁉︎」
「ファーーーーっ!wwww」
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