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ルキフェル視点
03
「では、私も堕天しよう」
「天様!いけません!それだけは、どうか、どうか!」
私の堕天発言に、天使は瞳を潤せ思いとどまる様に懇願した。
「ファーーーーっ!熾天使が……堕天て!……もうそれルシファーじゃんっ!最強堕天使で草!」
魔王であるサタンは気持ちの悪い引き笑いを起こし、訳のわからないことを叫んでいた。
ポカンと見ていた大地が場を取り成した。
「おいおい。取り敢えず今はそれどころじゃねーぞ?海のヤツが天の称号を剥奪するって息巻いて会議開いてたぞ」
「この際問題ない。私も天使を辞めるのだから天の称号なんぞ要らない。そんな事より戦争回避をしなければならないだろう」
そう言うと黙って見ていた創造神がふわりと手を翳し、何やら書類を取り出し黙読する。
読み終えるとくつりと笑みをこぼし、膨よかな体を揺らした。
「天よ。どうやらお前はサタンと結託して天界へ侵略する扇動者となっているそうだ。あぁわかっておる。全て海の暴走じゃ。これサタンよ、いい加減笑うのを止めよ。早々に序列が乱れる準備をするべきじゃないのか?」
「ファッ!そうだった!うっはヤバ。堕天使参戦となれば魔界が乱れる!俺もう行くわ!」
慌てて去るサタンに創造神は嘆息し、私の腕の中にいる天使に天界の門へ繋げるよう命じた。
私は天界へ戻り、会議の真っ只中へ舞い降りた。
突然の来訪に驚いていたが構う事なくサタンの潔白を伝え、そして自らの堕天を宣言した。同時に全員が固まったが、まぁどうでもいい。
冷静に思い起こせば、随分と前から海は天使達に独自の啓示を『声』として下ろしていた。
余りにも偏った啓示をした時は諌めていたのだが、海にとって私は疎ましい存在になっていたのかも知れない。その時点で私は天の熾天使失格だったのだろう。
それにしても何千年もの間この天界で天使の長をやってきたが、こんなに晴れやかな気分は初めてだ。
きっかけは可憐な魔界門の天使の堕天だったが、どちらにせよ私はこうなることを望んでいたのだろう。
「く、ふふふ!」
堪えきれない笑いが込み上げ、とうとう声に出てしまった。
これからは自由意志を持って生きて行ける。
そう考えると、大声を張り上げ体を回転させながら空を飛び周りたい程の喜びが身体中を駆け巡る。
何なら今度実際にやってみよう!私の奇行を咎める者も、非難する者もいないのだから。
私は天使達の指標でなくてもいい。誰にも憚ることなく生きていける。
高揚した気持ちを落ち着かせ、私はその足で時空の神の元へと行った。
「何か用?」
いつでも麗しい姿の時空の神だが、今は頗る機嫌が悪い。
空間が歪み、眩暈がしそうなのを何とか気力で保たせた。
「忙しいところ申し訳ありません。魔界門の天使の件…」
「ああああっ!何よ!また逃亡したんじゃないでしょうね!もういい加減にしてよ!?」
成程。
門を管理する天使は全てこの時空の神が作り出す。
度重なる魔界門の天使の堕天で不機嫌になったのだろう。
「時空の神よ、新しい魔界門の天使はまだ逃亡していない」
ゆっくりと宥めるように言うと、時空の神は落ち着いたようだ。
「じゃぁ何?私忙しいんだけど?」
豊かな髪をかき上げ、何やら薄い本を惜しむように閉じた。
私は魔界門の天使の堕天理由を話し、何とか天使に戻る方法はないか尋ねた。
だが、それはもう次の天使が生まれた時点でどうすることも出来ないと言われた。
「天使を作るのは私だけじゃなくて生命の神も絡んでるからね。まさかあの子が史上最短記録出すとは思わなかったわ」
「まさか、とは?いつも通りの魔界門の天使ではなかったのですか?」
「んん?まぁいつも通りだったけど、魔界門の天使だけサイクル早いじゃない?だからあの子の時は別次元の世界から魂をお取り寄せしたのよ。……まぁ結果はアレだったけど」
「お取り寄せ…」
贈答品みたいな扱いで困惑したが、可愛らしいあの子を創り出した事には感謝しよう。
話をしているうちに落ち着きを取り戻した時空の神は、あの子を不憫に思ったのか顔を曇らせた。
「今回は不運だったとは思うけど、海の熾天使にせっつかれたからね。でも天使やるより魔界人の方が自由だし好きに生きなさいと伝えてくれる?」
「分かりました。では…」
堕天は免れなかったが時空の神の誤解は解けたようなので、私は天使の待つ魔界へ戻ろうとした。
「あーちょっと待って?お詫びにあの子に名付けさせてもらって良い?」
神から直々の名付けはその能力も賜る、非常に光栄なことだ。
あの子は『ミラ』と名付けられた。今頃その祝福に驚いているに違いない。
「ミラ………名前の由来を聞いても?」
「んんー?小説に出てきた名前よ。可愛い名前だと思っていたのよ。どの小説だったかは忘れちゃった♡」
見ると大量の本がそこら中に重ねてあった。
これも別次元の世界からのお取り寄せだろうか。不思議な装丁をした書籍に興味が湧き、貸してくれないかとお願いしたが先約があったらしい。
「海の熾天使が先に貸してほしいって言ってたから、その後なら良いわよ」
「そうか、それなら構わない。それよりも可愛い名に感謝する」
「うふふ!大事にしてあげてね。何だか娘を嫁に出す親の心境よ」
「元はあなたが作り出した天使だ。ミラはあなたの子で間違いはないだろう」
「そうね。何かあれば多少は力になるわ」
時空の神はそう言って、また本を手に取り読み耽った。
魔界門に行くと、新しい天使が門を開けてくれた。
やはりミラほど可憐な天使は稀だったようだ。
魔界に着き、ミラを探すと魔王城に保護されていた。
名付けられた瞬間戸惑ったようだが、私が彼女の名を呼ぶと輝く笑顔で返事をした。
………やはりカワイイ………。
私が天界で堕天を宣言したとサタンに伝えると、私にも名前をくれると言った。
「やっぱアレだろ!堕天使ならルシファー一択だよな。んんーここの発音的にもっと厨二臭く言ったほうがいいか?」
理解不能なことを呟きながら、サタンが私に名付けたのは『ルキフェル』。
その瞬間、私の翼に異変が起きた。
真っ白だった十枚の羽は真っ黒に染まり、不思議な輝きを持ち力が溢れた。
「はぁぁぁっ!天様っ!翼がっ!」
ミラは大きな目を更に見開き驚愕した。
「ッファーーーーっ!漆黒の堕天使ルキフェルやば!ダークマターとか出しそう!」
相変わらず気持ちの悪い引き笑いを起こすサタン。
やはり魔王ともなると、我々にはそのお言葉の理解が追いつかないのだろうか『だーくまたー』が何かさっぱり分からない。
それよりも滾るものを発散したくてウズウズして来た。
「サタンよ、少し空を飛んできてもいいだろうか?翼がどうも騒ついて落ち着かない」
バサリと変色した翼を広げると、黒い羽根が目の前で散った。
「あーいいよ?ついでに魔界をぐるりと見て来なよ。王都を抜けたら自然豊かで綺麗だぞ?」
サタンは私の抜け落ちた黒い羽根を興味深そうに手に取り、ヒラヒラと空に翳し遊ばせる。
「ミラも一緒に飛んでみるか?」
ミラが可愛い瞳をこちらに向けているので誘ってみた。
「是非!お供させてください!」
そう言って差し出した私の腕にすっぽりと入り、嬉しそうに笑った。
…………カワイイが過ぎる…………!
私は黒くなった昂る翼を広げて大空へ舞った。
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