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ルキフェル視点
04
しおりを挟む魔界の生活は色んな意味で自由だった。
魔王サタンが私に魔王補佐の仕事を与え、私は日々それをこなす。書類仕事は元々天界でしていたため得意だ。
サタンは私の事務能力に歓喜し、次々と仕事を振ってくる。
「助かるよー!魔界って脳筋ばっかでさー。俺の仕事を任せられるのってアスタロトくらいだったんだよ」
そう言って何人もいる愛人を連れて遊びに行くサタン。仕事しろ。
因みにアスタロトは私が以前サタンと会合しに来た時、案内役をしてくれた序列二位の魔界人だ。
彼は自身の領土を持ち、サタンに齎された新しい技術で統治する頭の切れる男だった。
魔界には序列があり、それに沿って周囲の対応が違う。
私はいつの間にか序列十位に入っていた。降りかかる火の粉を払い除けただけなのだが元は熾天使、その辺の魔界人などには負ける気がしない。
私の称号は『漆黒の堕天使』。サタンがまた引き笑いを起こしながら授けてくれた。
下位の天使が堕天した時はそのまま魔界人の種族へ変換されたらしいが、私は元最高位の熾天使で前例がないため亜種になるらしい。
ここはとても単純で自由で、残酷だ。
下位天使だったミラは夢魔族に変換されるも、本人の意思なのか攻撃力を一切持たず、私がいなければとても危険だ。
別名淫魔とも呼ばれる夢魔族は、妖艶な姿で魅了し体液を糧とする種族だ。
あどけなかったミラの容姿は日を追うごとに変化し、白金に輝いていた髪色には濃いピンクが混じるようになった。
その姿は他人を惑わす艶めいた魅力を放ち、更に厄介なことに『稀少な処女のサキュバス』として常に狙われていた。
私は彼女を狙うもの全てを排除し、時には関係のないものまで巻き込み新たな敵を作り出してしまった。
いつでもミラの安寧が最優先であり、私は彼女を守り抜く覚悟でここにいる。
溢れる笑顔で『ルキ様』と呼ぶ彼女が愛おしい。
彼女も私以外の者には心を開かず、常に私の傍にいる。
それでも私のミラを手に入れようと、襲撃してくる魔界人は多かった。
彼女の色香に誘われ、無意識に手が出るのだとサタンは言う。
「埒が開かない。護衛をつけるとそれがまたミラを襲う」
うんざりしながら愚痴ると、サタンがニチャリと下品な笑みを溢して言った。
「ミラがまだ処女だから余計に狙われるんだよ。早く抱いてやれよ」
「……………ミラに拒絶された」
体液を欲しがる種族なのだから、当然のようにミラを抱こうと思った。だが、泣きながら拒絶されたのだ。ショックだった。
「ッファー!まじか!何で?ルキを拒否るって余程だろ!俺が抱いてやろうか?」
「魔王でもそれは許さない」
「だろうね。あ、睨まないで?美形の睨みって怖いから!あ、そうだルキ!魔王になっちゃえよ!そうすれば誰もアンタのものに手を出さないから!」
……コイツは何を言っているのだ?
「いやぁー俺も飽きて来た頃だったんよ!俺が引退すれば全魔界バトルロワイヤル始まるだろ?それに勝てばアンタが次世代の魔王だ。俺の能力も渡せば最強になる。っかー!元熾天使の魔王って歴代最強じゃね?! オラ、ワクワクすっぞ!」
突拍子もないサタンの発言を理解するのに数秒かかった。
「まさかと思うが、もう魂に還る気なのか?まだ百年程しかその座についていないだろう。幾ら何でも早すぎだぞ」
「いや、俺の観点からすると百年は長いんだよ。それよか良い案だろ?すぐに退位の伝令出してくれ。うっは!また魔界大混沌時代が始まるわ!頑張って五年間生き残れよ?まぁアンタなら楽勝か!あははははっ!ッファーー!」
確かに一理ある。
ミラを守るには私が最高位になればいい。
魔界戦で五年後に一位の座にいる者が次代の王となれる。
私はサタンの冗談のような提案に乗り、伝令をばら撒き魔王が序列を抜けると、魔界は混乱した。
誰もが魔王の座を狙い、もしくはこの機に序列を上げようと熾烈を極める魔界で、私はミラを守るべく戦った。
そんな中、次第に自分の容姿が夢魔族に変化するミラは戸惑っていた。
背中に小さく生えていた翼の羽根が抜け落ち、無惨にも所々骨が見えていることを嘆くミラ。
「ミラ、悲しむことはない。魔界人として適応する体に変換しているだけだ」
私は震えるミラの肩を抱き慰めた。
私の言葉だけでは彼女の憂悶を拭い去ることは出来ず、日を追うごとにミラは塞ぎ込んでいった。
さらに、体液を吸収しなければ体が保てない種族であるミラはそれを拒み、どんどんと痩せ細っていく。
私はミラの酷く痩せた体を抱き寄せ、せめて口付けだけでもと思い唇を奪う。
「んんっ!」
可愛く呻くミラを無視して唾液を流し、強引に舌を絡めとる。
夢魔族の本能が欲していたのか、彼女は貪るように私のキスを受け入れた。
もしかするとこのまま私の体も受け入れてもらえるかもしれないと、下心が湧き出た瞬間…
「いけませんっルキ様っ!」
拒絶された。
「ミラ、何が駄目なのだ。お前はもう天使ではない。体液を摂取しなければ魂に還ってしまうのだぞ?」
彼女は大きな瞳を潤わせ、ポロポロと涙を溢す。
頑なに拒む理由が分からない。それとも私を嫌っているのか?
「う、うっ……。ルキ様、ごめんなさい。でも、でもどうしても、私はルキ様を穢したくない……!」
…穢す?そう感じていたのか?
性別も繁殖行為もない天使にとって、それは穢れと感じるものも多い。
下位天使だった彼女もその感覚が強いのかもしれない。
「穢すも何も、私は熾天使ではなく魔界人だ…サタン曰く亜種らしいが。その行為は穢れでもなんでもないぞ」
泣きじゃくるミラの翼が揺らめき、ハラハラと羽根が抜け落ちていく。
自身のその様子に気付いた彼女は受け入れられずに震え出した。
「ルキ様……こんな、醜い姿…私は、…私は……」
その瞬間、ミラを包み込むように空間が歪む。
「ミラ?」
「ルキ様………ごめんなさい」
小さくそう呟き、手を差し出す私を拒む。
ミラの姿がぼんやりと霞むと、空間に飲み込まれていった。
「……!ミラ!」
ミラは自分の空間に閉じ籠ってしまった。
空間を操る天使だったミラは、夢魔族としてもその能力に長けている。
私でも彼女の場所へ侵入することは不可能だ。
ミラ………。
一瞬の出来事に為す術もなく、途方に暮れてしまった。
暫くすると、ふわりと知っている香りが鼻を擽った。
「よぉ〝天〟よ」
重い頭で見上げると、大地の熾天使が酒壺を揺らして立っていた。
「なんだ、大地か。私はもう天ではなくルキフェルだ。それに今はそれ所ではない。悪いがお前の相手は出来ない」
私は床に腰を下ろしたまま手を払い、大地のヤツを追い返そうとした。
「まぁそう言うなよ、天…あー、ルキエル?」
「…ルキフェルだ」
「良い名前だな!それより歓迎してくれよ!」
「だからそんな気分ではないと…」
「俺も堕天して来た!」
は?
呆然と見上げると、大地のヤツは腹を抱えて笑っていた。
「おいおい天のそんな顔初めて見たぞ!お前も驚くんだな!あ、悪ィ!ルキフェルだったな!あはははっ!腹いてぇ!」
「今、堕天したと言ったか?」
鈍い頭で大地のヤツの言葉を反芻して尋ねた。
「そうそう!お前が抜けて元〝天〟の熾天使派だと名乗る奴らが俺を旗頭に派閥を作ろうとしてな?そんな事になりゃ天界が割れるだろ?だから俺も堕ちて来た!」
彼は祝杯でも上げろと言わんばかりにチャポリと酒壺を揺らした。
「お前の単純さは豪快過ぎて笑えてくるな」
「そうだろう?セイシュ呑もうぜ!」
「言っただろう。それ所ではないと」
「なんでだよ?」
ミラが空間に閉じ籠ってしまった。
そう伝えると、大地のヤツは小首を傾げあっさりと解決策を口にした。
「時空の神に頼めば良いんじゃねーの?」
「………………‼︎」
お前は知恵の神か!
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