どうやら勇者に寝返る魔王の側近だけども【R18】

梅乃屋

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ルキフェル視点

05

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 早速時空の神に会うべく移動しようとすると、サタンがいきなり飛び込んできた。

 ここは私の執務室。大地のヤツもサタンもいい加減ノックをして入室するというマナーを知ってもらいたい。

「話は聞いたぞルキ!ミラちゃん引き篭っちゃったんだろ!」

 何をそんなに陽気に言うのか、神経を疑う。
 そして聞いたのではなく、盗聴したのだろう。この魔王には全く気が抜けん。序列を抜けたがその能力は誰にも譲っていないだけに健在だ。

「そうだ。だから時空の神に頼んで私をミラの空間に連れて行ってもらうのだ。急ぐのでもう行くぞ?」
「あー待て待て!あと五年くらい待て!」

 またこの魔王は何を言ってるのか。

 眉間に皺が寄るのが自分でもわかるくらい不機嫌を露わにしたが、サタンはお構いなしに続けた。
「ミラちゃんが引き篭ってる間、バトルロワイヤルに集中しろよ。空間にいるならミラちゃんは狙われないし、ルキも思う存分動けるだろ?」

 約五年間ミラに会えないのは寂しいが、サタンの言う事は確かに合理的だ。
 耐えられなくなれば時空の神に頼れば良いか。
 私は少し考え、彼の提案に乗る事にした。

「でさ、大地の熾天使は堕天したんだよな?魔界人になるのか?」
 勝手に酒盛りを始めていた大地にサタンが話しかける。

「おぅ!よろしくな!そうだサタンよ。俺にも名前くれよ」
「んんんーー?ええぇぇぇと………『ベルゼブブ』!」
「んだそれ?! 却下だ!」
「えぇぇ?じゃぁ…『バアル・ゼブル』!」
「気に入った!」
「よかった!じゃぁゼブルもバトルロワイヤル参加しろよ」
「おぅ!」

 その途端、大地、いやバアル・ゼブルの翼が私と同じように黒く変色した。

「マジかすげぇな!何か力が湧いて来たぞ?けど翼の質はそのままなんだな?」
 ゼブルはそう言って六枚の翼をバサリと羽ばたかせた。

「ん?魔界人らしく飛膜が良いなら創造神のじーちゃんに頼めばしてくれるんじゃね?あ、それとも生命の神かな?」
 そう言ってサタンは勝手にソファに座り込み、ゼブルの持ってきた酒を注いで呷る。

 ゼブルはそうかと言って、早速消えていった。

「あははっ!せっかちなタイプだな!」
 笑いながら酒を呑むサタンに激しく同意した。

 とはいえ。
 私もミラが気になって仕方がなかったので、やはり時空の神に会いに行った。

 顔だけでも見たいと時空の神にお願いすると、自分から出てくるまで待てと言う。
「あの空間は時が止まってるからお腹も空かないし死なないわ。あの子は変化を止めるために引き篭ったんだろうから、決心が付くまで待ってなさいよ」

「………待てないのだが」

「もう!アンタ堕天してから随分ワガママになったわね!五年待っても出て来なかったら連れ出してあげるから我慢なさい!」
 そう言ってまた薄い本を開いて読み耽る時空の神。

 そしてこの方も空間を歪め、私の侵入を拒んでしまった。

 仕方なく私は自分の部屋へ戻り、ゼブルが残していったセイシュを一人で呷った。


 ………寂しい………。


 ミラがいる時は感じなかった感情だった。
 当然、天使をしていた時はそんな感情があることすら分からなかった。

 魔界人は能力と寿命が違うだけで、ほぼ人間と変わらない生き物だとサタンは言っていた。
 ことわりを知りたければ魔王になれば良いと。

 正直どうでもいい。
 ミラがいればそれでいいのに。

 五年。
 私にとって五年など寝ていれば過ぎる年数だが、ミラがいない年月は虚しい。
 魔王の座もミラがいなければ意味がない。

 我慢できるだろうか?

 気に入っていたセイシュも味がしない。
 魔界人になって飲料や果物以外の物を食す事に感動したが、今は煩わしい。
 窓から遠くの方で激しい炎柱が上がったのが見えた。誰かがまた戦っているのだろう……こんな夜中に………

 ん?………炎柱?

 ちょっと待て。
 あの炎柱は、ゼブルか?!
 アイツは元々炎を好んで使っていた好戦的な熾天使だ。しかもあの炎柱は周囲の物も溶解させてしまう程だ。
 農地や牧草地だと被害が甚大だぞ!

 私は慌てて炎柱の上がった方角へ飛んだ。


 到着するとそこは見事なマグマが沸々と湧いてしまっていた。
 元の地形が分からないほどの惨状だ。

「ゼブル!」
 彼の名前を呼ぶと、ゼブルは大きな黒い翼を広げて月を背に佇んでいた。
 その腕にはまだ炎を纏い、周囲を警戒する緊張感で張り詰めている。

「あぁルキフェル。何か鬱陶しいのが集団で来るもんだからよ。纏めてやってやった」

 ヒラヒラと腕を振りながら悪びれもせず笑う彼に、激しい怒りが湧き上がった。

「こ…の!………愚か者がっ!」
「ぎゃんっ!」

 渾身の一撃をゼブルに落とし、すぐ様周囲を凍らせ鎮火させた。
 私の一撃で伸びたゼブルを放置して、周辺を確認した。

 幸いな事にここは農地でも何でもなく、ただの山林だったらしく被害は大きくなさそうだ。
 だが、この山の獣も恵みも全て焼かれてしまった。

 ゼブルには教育が必要だな。

 そう考え、私はゼブルの首根っこを掴み戻ろうとした。

「まさか一瞬で序列が変わるとは思いませんでした」

 …誰だ?

 ふらりと現れたのは、アスタロトだった。
 銀髪が夜風に揺れ、憂いを帯びた表情が月明かりで妖しく照らされる。

 彼はゼブルの実力が知りたくなり、部下を使って煽ったものの先程の攻撃で全滅したらしい。

 アスタロトは強くない。
 だがチームを組み、部下を使ってその地位にいた男だった。
 その部下を一瞬で全滅させたバアル・ゼブル。

 そして

「そのゼブル様を一撃で倒したルキフェル様。現在あなたが序列第一位です」
 アスタロトはそう言って私に傅いた。

 予期せぬ序列の昇進に驚いたが、面倒な戦いをせずに済んだと安堵した。

「そうか。だがお前は部下を失ったようだが大丈夫か?」
「えぇ。多少の損失はありますが、タフな者もおりますのでね」
 アスタロトは眉を下げ苦笑すると、煙を吐き出しながらむくりと起き上がる角の生えた熊……いや男が近寄って来た。

「アスタロト様よー!火傷手当て出してくれよ!皮膚が爛れちまって回復するまで暫く休暇取っていいか?」
「あぁネビロス、しっかり休んでくれ。手当は弾む」
「頼むぜ!しかしすげーな元天使ってよ!他にも堕天したやつ居たけど、ここまでじゃなかったぞ?」

 ネビロスと呼ばれる大男は酷い火傷にも拘らず、世間話を始める。本当に頑丈な男だ。

「ネビロス、この方達は天使でも最高位の熾天使だった方だ。どうやら規格外らしい」
「へぇぇ~!そんなすげェのに何で魔界人になったんだよ?」
 ネビロスはアスタロトの隣に腰を下ろし、薬剤を頭から掛ける。

 私は彼に治癒を掛けようと近寄り、手を翳して祈りを込めたが何も起こらなかった。

「ん?なんだ?何かしてくれんのか?熾天使さま」
 立派な角を揺らし、面白そうに笑うネビロス。

「あぁ、すまない。治癒を掛けようかと試みたが、その力は消滅していたらしい」
 肩をすくめて苦笑いをすると、隣のアスタロトは興味深そうに頷いた。

「魔界人は治癒能力を持ちませんからね。専ら自然治癒か薬に頼るのです」
 アスタロトはそう言って立ち上がり、まだ息のある部下達へ雑に薬剤を掛けて回る。

 時折呻き声が聞こえ、悪態を吐く者やゼブルの技を賞賛する者など様々な声が聞こえた。
 ゼブルのやった事とは言え、かつての仲間のやらかしに心が痛んだが、大勢の生き残りを見て少しだけ安堵した。

 そしてまだ気を失っているゼブルを担ぎ、帰ろうとして思い出した。

 ……何で魔界人になったのか?

 ネビロスの疑問に答えを探してみる。


 切っ掛けは私の可愛い天使の堕天だった。

 だがそれだけではない。

 勿論、海の熾天使の謀略や色々と要因はあったが結局のところ…


 楽しそうだったからだな。


 あぁミラ。
 早く出てきてこの自由で雑な世界を一緒に楽しもう。

 きっと今まで味わったことのない幸せがあるはずだ。

 天使の矜持など吹っ飛ぶくらい、喜びがあるはずだ。

 当然、危険はあるがそれ以上の価値がここにはある。


 ミラ。
 五年後に迎えに行く。

 その時にはもう誰もお前を襲わないし、誰も傷つけない。

 本音を言えばその前に自分で出てきて欲しいが、無理そうだな。

 それまでに快適な環境を整えておこう。
 お前の好きなイチゴを土産に持って行くから、勝手に空間へ入っても怯えないで欲しい。

 ミラ。
 可愛い私のミラ。
 それでも無理そうなら、


 ………実力行使してしまおう。

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