どうやら勇者に寝返る魔王の側近だけども【R18】

梅乃屋

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第二章

04:何という

 


『おぉ勇者よ。死んでしまうとは何事だ』

 前世で遊んだゲームのセリフが脳を掠めた。



 ここは魔界。
 果敢にも魔王に挑んだ勇者一行は魔王の一撃で全滅したにも拘らず、何故だか神聖な光によって息を吹き返したのだ。

 それを見た魔王ルキフェル様は、酷く不機嫌な顔でその光景を見つめ、〝海〟の仕業だと呟いた。
 〝海〟って誰?知り合い?

 王都の外れにいるのは生き返った命に混乱する人間と、憮然と佇む魔王。それを見守る私達。

 ふわりと夜風が通り抜け、しばしの静寂。

 次第に何事かと王都の住民達がワラワラと集まって来たようだ。
 事の収拾が付かない状況下で、ルキフェル様は私に命じる。

「ミラ、天界へ門を繋げろ」

 そう言われて条件反射で空間魔法を繰り出し、天界門へと繋いだ私。

 極彩色の門が浮かび上がり、何も言わずルキフェル様はそこへ飛び込んだ。

 あ、行っちゃった!

「おっしゃ!久しぶりの天界だな!」
 ウキウキと悪い笑顔で飛び込むゼブル様。

 え?なに?何で天界?
 誰か愚かな私にこの状況を説明して?

「ネビロス、これどういうこと?」

 ネビロスを見ると、少し困った顔で頭を掻く。

「んんー。俺も理解は出来んが多分、天使に喧嘩を買いに行ったんじゃねーのかな?」

 は?
 喧嘩を、

「どういう事?天使がルキフェル様に喧嘩を売ったって事なの?」
「まぁそうだろうな」

 そう言って彼はいまだに困惑している勇者達を一瞥した。

 すると、私達の会話を聞いていた聖女ソフィーが天界への門に気付き、声を上げて近付いてきた。

「もしかしてそれは天界への門なのですか⁉︎ あぁまさかこんな魔界から行けるとは!天使様にお会いできるっ!」

 頬を赤らめ何の躊躇もなく飛び込んだ聖女ソフィー。

「おいソフィー!待てよ!」
 慌てて勇者も門に飛び込み、私をチラ見して消えていく。

 それに続いて魔法少女のメイベルと、魔法剣士の……誰だっけ?…青年も飛び込んで行ってしまった。

 どうする?
 私も行っちゃおうか。

 天界なんて滅多に行ける所じゃないし。

 私が行ってしまえばこの門は閉じてしまうけど、向こうにも門はあるだろう。

 何故だか天界へ足を踏み入れると思うと、鼓動が激しく昂り不思議な高揚感に包まれる。
 意を決するほどではないのに、私の中の何かが心を掻き立て緊張させる。

 それでも好奇心には勝てず、私はそのまま天界へと渡った。




 ◆




 ぐにゃりと視界が歪み地に足がつくとそこは、真っ白な屋根と直線的なデザインの柱が建つ小さな四阿。

 周囲は花が咲き誇る庭園で、向こうには泉がキラキラと水面を反射させていた。
 先程まで夜空の下にいたのに、ここはどこも明るく輝いていて眩しい。

 見ると可愛らしい天使が小さな翼を震わせ慄いていた。
 多分天界側の門番天使だろう……いきなり魔王や勇者達が押しかけてきて、さぞかし驚いただろうな。

 それにしても。

 私はこの魔界門の庭園をぐるりと見渡し、息を吸い込んだ。


 あぁ…懐かしい。


 は?
 懐かしい?
 確かにそう感じた。

 おかしいな。私の記憶では初めて来たはずなのに、以前来たことがあったのだろうか?
 遠い記憶を辿ると頭痛がするのであまりそれには触れずにいたけれど、この光景を目にすると固まっていた何かが溶け出してきそうになる。
 この風、この音、この香り。


 …そうそう、あそこには葡萄がなっていて、向こうにはリンゴの木がある。
 鳥や小動物もここの果実を目当てにやって来ては啄み、私も一緒に食べたりお昼寝したりしていた。

 そして空を見上げると中央塔があって、そこには美しい熾天使様がいた。
 塔の庭園で沢山の天使に囲まれ、煌めく金色の髪を揺らして会話を交わす美しいお方。
 私はあのお方をここから眺めるのが好きだった。

 お声を掛けるにはあまりにも畏れ多く、ただお姿を見られるだけで満足だった。

 あのお方の姿が見えるたびに、他の天使達もうっとりと見惚れて手が止まるほど尊かった。

 憧れの〝天〟の熾天使様。
 お声がけ下さった時は息が止まりそうなほど興奮した。
 間近で見たご尊顔は、眩しすぎて目がおかしくなりそうなくらい尊く、美しいという表現すらままならない奇跡の所業。
 神の最高傑作とまで言われた〝天〟の称号を持つ熾天使様は、その麗しいお顔と佇ま……

「おぉぉう。天界ってスゲーな!」

「ぶわっ!」

 いきなり視界に入ってきた強面のオッサン、ネビロス。
 遥か彼方に飛んでいた思考が一気に現実へと引き戻された。

「何だよミラちゃん。そんなに驚かなくてもいいだろうよ!」
 ガハハハと腹を揺らして笑うネビロス。

「いきなり視界に入らないでよ。びっくりしたじゃない」
「酷い言いようだなオイ。それよりあの塔に魔王様達は向かったようだぞ。俺たちも行こうか」

 ネビロスに促され、自分の存在意義を再認識する。

 そうよ、私は魔王の側近。
 彼が行くところには必ず側にピッタリ付いて行かなくては!そして妖しい魅力を振りまく美女を演じるのが私の役目よ!

 そう意気込んだ途端、亀裂の入る音が脳に届く。

 …何の音?

 何事かとネビロスと同時に上を見上げる。

 荘厳な中央塔が一瞬震え、もう一度瞬きした時には、塔が激しく砕け散っていった。

「うぉぉっ!壊れたぞ!」

 ひぃぃーーーーっ!中央塔がぁぁぁぁーーーーっ!

 目の前の中央塔が音を立てて崩れていく!

 激しい崩壊に衝撃を受ける私と、楽しそうに観覧するネビロス。

「おいおいおい!派手だな!」
「何呑気に言ってんのよ!中央塔よ!? 天界の象徴よ!」

 そう。天界を象徴するに相応しい高く聳える中央塔。
 美しく輝くそれが今、天界に似つかわしくない轟音を立てて瓦礫を撒き散らせて崩壊していく。
 まるでスローモーションのように落ちていく天井は、諸行無常の響きあり。

 いや!情緒とかどうでも良いわ!

 恐怖で顔を引き攣らせながら逃げ出す天使達。飛び散る破片で気を失う天使。慌てて我を失い発狂する天使。訳がわからず放心する天使。
 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。天界だけども。

 一体何で!いや何でも何も完全にルキフェル様の仕業じゃん!
 天使に喧嘩を買うってレベルじゃないわよ!下手すりゃ戦争じゃない!

 恐怖で逃げ惑う天使達を横目に、私は慌てて塔の中央へ飛び出した。

 ガラガラと粉塵を上げながら崩壊した中央塔。
 大きな煙を吐き出し音が止むまで近寄れず、私は固唾を飲んで事態を見守る。


 私の記憶にある中央塔は、それはそれは美しく聳え立ち、生を終えてやって来た民たちが一番に天界だと認識する象徴でもあった。
 彼らはその美しい建造物に涙を流し、感動し、自分の人生を顧みる。

 そして改めて気づく。

 ここは天界なのだと。


 それが目の前で砂塵と化してしまった。



 な ん と い う こ と で し ょ う 。

 中央にあった高く聳える塔は、魔王の手によって斬新な姿に大変身。

 周囲を取り囲んでいた庭園には瓦礫が散りばめられ、まるで夢の島のように乱雑な景観へと変貌し匠の遊び心が垣間見れます。

 これには住人たちも涙を流して感激している事でしょう。


 劇的なアフターに、私は言葉を失った。


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