19 / 25
第二章
04:何という
『おぉ勇者よ。死んでしまうとは何事だ』
前世で遊んだゲームのセリフが脳を掠めた。
ここは魔界。
果敢にも魔王に挑んだ勇者一行は魔王の一撃で全滅したにも拘らず、何故だか神聖な光によって息を吹き返したのだ。
それを見た魔王ルキフェル様は、酷く不機嫌な顔でその光景を見つめ、〝海〟の仕業だと呟いた。
〝海〟って誰?知り合い?
王都の外れにいるのは生き返った命に混乱する人間と、憮然と佇む魔王。それを見守る私達。
ふわりと夜風が通り抜け、しばしの静寂。
次第に何事かと王都の住民達がワラワラと集まって来たようだ。
事の収拾が付かない状況下で、ルキフェル様は私に命じる。
「ミラ、天界へ門を繋げろ」
そう言われて条件反射で空間魔法を繰り出し、天界門へと繋いだ私。
極彩色の門が浮かび上がり、何も言わずルキフェル様はそこへ飛び込んだ。
あ、行っちゃった!
「おっしゃ!久しぶりの天界だな!」
ウキウキと悪い笑顔で飛び込むゼブル様。
え?なに?何で天界?
誰か愚かな私にこの状況を説明して?
「ネビロス、これどういうこと?」
ネビロスを見ると、少し困った顔で頭を掻く。
「んんー。俺も理解は出来んが多分、天使に喧嘩を買いに行ったんじゃねーのかな?」
は?
喧嘩を、買う?
「どういう事?天使がルキフェル様に喧嘩を売ったって事なの?」
「まぁそうだろうな」
そう言って彼はいまだに困惑している勇者達を一瞥した。
すると、私達の会話を聞いていた聖女ソフィーが天界への門に気付き、声を上げて近付いてきた。
「もしかしてそれは天界への門なのですか⁉︎ あぁまさかこんな魔界から行けるとは!天使様にお会いできるっ!」
頬を赤らめ何の躊躇もなく飛び込んだ聖女ソフィー。
「おいソフィー!待てよ!」
慌てて勇者も門に飛び込み、私をチラ見して消えていく。
それに続いて魔法少女のメイベルと、魔法剣士の……誰だっけ?…青年も飛び込んで行ってしまった。
どうする?
私も行っちゃおうか。
天界なんて滅多に行ける所じゃないし。
私が行ってしまえばこの門は閉じてしまうけど、向こうにも門はあるだろう。
何故だか天界へ足を踏み入れると思うと、鼓動が激しく昂り不思議な高揚感に包まれる。
意を決するほどではないのに、私の中の何かが心を掻き立て緊張させる。
それでも好奇心には勝てず、私はそのまま天界へと渡った。
◆
ぐにゃりと視界が歪み地に足がつくとそこは、真っ白な屋根と直線的なデザインの柱が建つ小さな四阿。
周囲は花が咲き誇る庭園で、向こうには泉がキラキラと水面を反射させていた。
先程まで夜空の下にいたのに、ここはどこも明るく輝いていて眩しい。
見ると可愛らしい天使が小さな翼を震わせ慄いていた。
多分天界側の門番天使だろう……いきなり魔王や勇者達が押しかけてきて、さぞかし驚いただろうな。
それにしても。
私はこの魔界門の庭園をぐるりと見渡し、息を吸い込んだ。
あぁ…懐かしい。
は?
懐かしい?
確かにそう感じた。
おかしいな。私の記憶では初めて来たはずなのに、以前来たことがあったのだろうか?
遠い記憶を辿ると頭痛がするのであまりそれには触れずにいたけれど、この光景を目にすると固まっていた何かが溶け出してきそうになる。
この風、この音、この香り。
…そうそう、あそこには葡萄がなっていて、向こうにはリンゴの木がある。
鳥や小動物もここの果実を目当てにやって来ては啄み、私も一緒に食べたりお昼寝したりしていた。
そして空を見上げると中央塔があって、そこには美しい熾天使様がいた。
塔の庭園で沢山の天使に囲まれ、煌めく金色の髪を揺らして会話を交わす美しいお方。
私はあのお方をここから眺めるのが好きだった。
お声を掛けるにはあまりにも畏れ多く、ただお姿を見られるだけで満足だった。
あのお方の姿が見えるたびに、他の天使達もうっとりと見惚れて手が止まるほど尊かった。
憧れの〝天〟の熾天使様。
お声がけ下さった時は息が止まりそうなほど興奮した。
間近で見たご尊顔は、眩しすぎて目がおかしくなりそうなくらい尊く、美しいという表現すらままならない奇跡の所業。
神の最高傑作とまで言われた〝天〟の称号を持つ熾天使様は、その麗しいお顔と佇ま……
「おぉぉう。天界ってスゲーな!」
「ぶわっ!」
いきなり視界に入ってきた強面のオッサン、ネビロス。
遥か彼方に飛んでいた思考が一気に現実へと引き戻された。
「何だよミラちゃん。そんなに驚かなくてもいいだろうよ!」
ガハハハと腹を揺らして笑うネビロス。
「いきなり視界に入らないでよ。びっくりしたじゃない」
「酷い言いようだなオイ。それよりあの塔に魔王様達は向かったようだぞ。俺たちも行こうか」
ネビロスに促され、自分の存在意義を再認識する。
そうよ、私は魔王の側近。
彼が行くところには必ず側にピッタリ付いて行かなくては!そして妖しい魅力を振りまく美女を演じるのが私の役目よ!
そう意気込んだ途端、亀裂の入る音が脳に届く。
…何の音?
何事かとネビロスと同時に上を見上げる。
荘厳な中央塔が一瞬震え、もう一度瞬きした時には、塔が激しく砕け散っていった。
「うぉぉっ!壊れたぞ!」
ひぃぃーーーーっ!中央塔がぁぁぁぁーーーーっ!
目の前の中央塔が音を立てて崩れていく!
激しい崩壊に衝撃を受ける私と、楽しそうに観覧するネビロス。
「おいおいおい!派手だな!」
「何呑気に言ってんのよ!中央塔よ!? 天界の象徴よ!」
そう。天界を象徴するに相応しい高く聳える中央塔。
美しく輝くそれが今、天界に似つかわしくない轟音を立てて瓦礫を撒き散らせて崩壊していく。
まるでスローモーションのように落ちていく天井は、諸行無常の響きあり。
いや!情緒とかどうでも良いわ!
恐怖で顔を引き攣らせながら逃げ出す天使達。飛び散る破片で気を失う天使。慌てて我を失い発狂する天使。訳がわからず放心する天使。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。天界だけども。
一体何で!いや何でも何も完全にルキフェル様の仕業じゃん!
天使に喧嘩を買うってレベルじゃないわよ!下手すりゃ戦争じゃない!
恐怖で逃げ惑う天使達を横目に、私は慌てて塔の中央へ飛び出した。
ガラガラと粉塵を上げながら崩壊した中央塔。
大きな煙を吐き出し音が止むまで近寄れず、私は固唾を飲んで事態を見守る。
私の記憶にある中央塔は、それはそれは美しく聳え立ち、生を終えてやって来た民たちが一番に天界だと認識する象徴でもあった。
彼らはその美しい建造物に涙を流し、感動し、自分の人生を顧みる。
そして改めて気づく。
ここは天界なのだと。
それが目の前で砂塵と化してしまった。
な ん と い う こ と で し ょ う 。
中央にあった高く聳える塔は、匠の手によって斬新な姿に大変身。
周囲を取り囲んでいた庭園には瓦礫が散りばめられ、まるで夢の島のように乱雑な景観へと変貌し匠の遊び心が垣間見れます。
これには住人たちも涙を流して感激している事でしょう。
劇的なアフターに、私は言葉を失った。
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
売られた先は潔癖侯爵とその弟でした
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。
潔癖で有名な25歳の侯爵である。
多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。
お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。