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8、侵入
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グレンが王都に入ってから三日後の朝。三人の下へグレンが戻ってきた。
「皆様お待たせいたしました」
「グレン! 無事に帰ってきてくれて良かったよ~」
「心配してたんだぜ」
「本当に良かった。それで何か成果はあっただろうか?」
三人はこの三日間、グレンのことを信じつつもやはり心配していたのだ。グレンが無事に帰ってきてくれて心から安堵している。
グレンは三人のそんな本心が伝わっているからか、かなり困惑しているようだ。今までは無事に潜入してくるのが当たり前であったし、ここまで本気で心配してくれるような友達や仲間もいなかったのだろう。
諜報部隊にも仲間はいるが、諜報部は良くも悪くも関係性が希薄なのだ。特にグレンは誰も信じていないことからその傾向が強い。基本的には一人で潜入することが多く、もちろん連携はするが馴れ合うことはない。
そんなふうに過ごしていたグレンにとって、この三人との触れ合いは珍しく、だが嬉しいものであるのだろう。
「色々と情報を仕入れてきました。まず聖女アーシェラ様は王宮の一室に軟禁されているようです。大まかな場所まで特定できています」
「本当!? グレン凄いよ!」
三人はそこまで詳細な情報を手に入れてきたグレンに驚きつつ、さらにアーシェラが生きているという事実に安堵した。
「それさえ分かればあとは強行突破でもいいんじゃねぇか?」
「確かにアーシェラのいる場所さえわかればいいかもしれないな」
「いえ、その場所まで気づかれないように向かえるルートも考えておきました。まず王都への侵入ですが、実は検問などは行われていないようでして、旅の者も普通に入国できます」
なぜこのような緩い措置がとられているのか、それはひとえに暗黒山を超えてくることはないという隣国の王の油断である。隣国の王は国境門に駐留する兵達から連絡がない限り、敵はこの国に潜入していないと思い込んでいるのだ。
「そうなのか?」
「はい。なので王都への侵入は容易です。あとはどうやって王宮へ入るかなのですが、それもそこまで難易度は高くないでしょう。まずこの国の王宮は周囲を高い壁で覆っているだけで、堀などは存在していません。さらにその壁の外側にはすぐ近くに街が広がっていますので、隠れる場所は容易にあります。そしてその壁には正面の門だけではなく騎士や使用人が出入りする入り口がありまして、そこには常に護衛がいますが二人程度、一瞬で意識を刈り取れば気づかれることなく潜入可能です」
「グレン凄い。もうアーシェラを救えるも同然だよ!」
なぜここまでお粗末な作りになっているのか、それはこの隣国が今まで大規模な戦争をしたことがないからである。この隣国はエドガー達の国と暗黒山で隔てられているように、他の周りの国とも大河や渓谷などで遮られており、自然の要塞となっているのだ。
他の国からしても、領土を奪っても支配するのが容易でなく旨味がない土地なので、今まで大規模に攻められたことが一度もない。それがこのような油断として現れている。
「バリアは張られてないのか?」
「少なくとも壁部分には張られていないようでした。王宮の敷地内のことはさすがに分かりませんが……」
「アーネスト、バリアが張られてても大丈夫だよ。僕が穴を開けられるから」
「そんなことができるのか?」
「うん! この前編み出したんだ。バリアって壊しちゃうとすぐに知られちゃうでしょ? でも壊さないで補強しつつ穴を開けて、バリアを通った後に丁寧に修復してあげればバレずにバリアを通れるんだよ」
「ニックはそんなこともできんのか。すげぇな」
ニックは簡単に言っているが、そのように高度なことができるのはこの世界でも片手で数えられるほどだ。
「ではバリアがあった場合は、ニックに穴を開けてもらい中へ入ろう。そうして中に入ってしまえば、後はできる限りバレないようにアーシェラの下へ向かえばいい。アーシェラの部屋までの案内はできるか?」
アーネストがグレンにそう聞いた。
「大体は分かりますので案内できるかと」
「分かった、頼むぞ。決行は夜の方がいいだろうから今夜だ。昼のうちに王都には潜入しておく。では行こう」
「おうっ」
「行こ~!」
――そしてその日の夜。
王宮の一室には四人の男達がいた。もちろんエドガーとニック、アーネストにグレンだ。四人は作戦通り無事に王宮へ侵入することに成功し、今は王宮の中にある物置部屋の中で作戦会議をしている。
「ここに来るまでに結構な人数を伸したよな?」
「ああ、いくら夜だとはいえ侵入者の存在にはすぐ気づかれるだろう」
「早く先に進みたいけど、この先はかなりの騎士がいたよね~」
何故先へ進まずにこんな部屋に隠れているのかというと、アーシェラがいる部屋に繋がる渡り廊下には騎士が何十人もいて、そこを突っ切れば騒ぎになることは確実なので、その前に一度作戦会議をしているのだ。
「あの渡り廊下以外の道はあると思うか?」
「うーん、あってもそこにも騎士がいるんじゃない?」
「やはりそうだよな……ではあの渡り廊下を正面突破するしかないな。それでいいか?」
「うん!」
「いいぜ」
「私もそれで良いと思います。しかし逃走ルートは決めておきましょう。私はこの物置部屋が良いと思うのですが」
グレンがそう言って物置部屋にある窓を指差した。
「先程この窓から外の様子を確認したところ、ちょうど背の高い木がありました。あの木を使えばこの高さからでも飛び降りられるのではないかと」
グレンのその言葉に三人も窓の外を見る。この物置部屋は王宮の五階にあるので、普通の人間はいくら木があるからと言っても飛び降りられるわけがないのだが、グレンの提案に三人は頷いた。
「確かに行けるかも。もっと安全に降りられるように、僕が木を全体的に凍らせようか?」
「確かにしっかりとした足場にしてもらえるとありがたい。頼んでもいいか?」
「もちろん! じゃあアーシェラを助け出したらこの部屋の窓から飛び降りて外に逃げるってことでいい?」
「いいぜ。その後は入ってくる時に使った使用人の出入り口を使うか?」
「それでいいだろう。素早く救出すれば情報も届かないだろうからな」
「おっけー。じゃあ行こっか、アーシェラを助けに!」
そうして四人は物置部屋からそっと抜け出し、渡り廊下に向かって駆け出した。ここからはスピード勝負だ。
「皆様お待たせいたしました」
「グレン! 無事に帰ってきてくれて良かったよ~」
「心配してたんだぜ」
「本当に良かった。それで何か成果はあっただろうか?」
三人はこの三日間、グレンのことを信じつつもやはり心配していたのだ。グレンが無事に帰ってきてくれて心から安堵している。
グレンは三人のそんな本心が伝わっているからか、かなり困惑しているようだ。今までは無事に潜入してくるのが当たり前であったし、ここまで本気で心配してくれるような友達や仲間もいなかったのだろう。
諜報部隊にも仲間はいるが、諜報部は良くも悪くも関係性が希薄なのだ。特にグレンは誰も信じていないことからその傾向が強い。基本的には一人で潜入することが多く、もちろん連携はするが馴れ合うことはない。
そんなふうに過ごしていたグレンにとって、この三人との触れ合いは珍しく、だが嬉しいものであるのだろう。
「色々と情報を仕入れてきました。まず聖女アーシェラ様は王宮の一室に軟禁されているようです。大まかな場所まで特定できています」
「本当!? グレン凄いよ!」
三人はそこまで詳細な情報を手に入れてきたグレンに驚きつつ、さらにアーシェラが生きているという事実に安堵した。
「それさえ分かればあとは強行突破でもいいんじゃねぇか?」
「確かにアーシェラのいる場所さえわかればいいかもしれないな」
「いえ、その場所まで気づかれないように向かえるルートも考えておきました。まず王都への侵入ですが、実は検問などは行われていないようでして、旅の者も普通に入国できます」
なぜこのような緩い措置がとられているのか、それはひとえに暗黒山を超えてくることはないという隣国の王の油断である。隣国の王は国境門に駐留する兵達から連絡がない限り、敵はこの国に潜入していないと思い込んでいるのだ。
「そうなのか?」
「はい。なので王都への侵入は容易です。あとはどうやって王宮へ入るかなのですが、それもそこまで難易度は高くないでしょう。まずこの国の王宮は周囲を高い壁で覆っているだけで、堀などは存在していません。さらにその壁の外側にはすぐ近くに街が広がっていますので、隠れる場所は容易にあります。そしてその壁には正面の門だけではなく騎士や使用人が出入りする入り口がありまして、そこには常に護衛がいますが二人程度、一瞬で意識を刈り取れば気づかれることなく潜入可能です」
「グレン凄い。もうアーシェラを救えるも同然だよ!」
なぜここまでお粗末な作りになっているのか、それはこの隣国が今まで大規模な戦争をしたことがないからである。この隣国はエドガー達の国と暗黒山で隔てられているように、他の周りの国とも大河や渓谷などで遮られており、自然の要塞となっているのだ。
他の国からしても、領土を奪っても支配するのが容易でなく旨味がない土地なので、今まで大規模に攻められたことが一度もない。それがこのような油断として現れている。
「バリアは張られてないのか?」
「少なくとも壁部分には張られていないようでした。王宮の敷地内のことはさすがに分かりませんが……」
「アーネスト、バリアが張られてても大丈夫だよ。僕が穴を開けられるから」
「そんなことができるのか?」
「うん! この前編み出したんだ。バリアって壊しちゃうとすぐに知られちゃうでしょ? でも壊さないで補強しつつ穴を開けて、バリアを通った後に丁寧に修復してあげればバレずにバリアを通れるんだよ」
「ニックはそんなこともできんのか。すげぇな」
ニックは簡単に言っているが、そのように高度なことができるのはこの世界でも片手で数えられるほどだ。
「ではバリアがあった場合は、ニックに穴を開けてもらい中へ入ろう。そうして中に入ってしまえば、後はできる限りバレないようにアーシェラの下へ向かえばいい。アーシェラの部屋までの案内はできるか?」
アーネストがグレンにそう聞いた。
「大体は分かりますので案内できるかと」
「分かった、頼むぞ。決行は夜の方がいいだろうから今夜だ。昼のうちに王都には潜入しておく。では行こう」
「おうっ」
「行こ~!」
――そしてその日の夜。
王宮の一室には四人の男達がいた。もちろんエドガーとニック、アーネストにグレンだ。四人は作戦通り無事に王宮へ侵入することに成功し、今は王宮の中にある物置部屋の中で作戦会議をしている。
「ここに来るまでに結構な人数を伸したよな?」
「ああ、いくら夜だとはいえ侵入者の存在にはすぐ気づかれるだろう」
「早く先に進みたいけど、この先はかなりの騎士がいたよね~」
何故先へ進まずにこんな部屋に隠れているのかというと、アーシェラがいる部屋に繋がる渡り廊下には騎士が何十人もいて、そこを突っ切れば騒ぎになることは確実なので、その前に一度作戦会議をしているのだ。
「あの渡り廊下以外の道はあると思うか?」
「うーん、あってもそこにも騎士がいるんじゃない?」
「やはりそうだよな……ではあの渡り廊下を正面突破するしかないな。それでいいか?」
「うん!」
「いいぜ」
「私もそれで良いと思います。しかし逃走ルートは決めておきましょう。私はこの物置部屋が良いと思うのですが」
グレンがそう言って物置部屋にある窓を指差した。
「先程この窓から外の様子を確認したところ、ちょうど背の高い木がありました。あの木を使えばこの高さからでも飛び降りられるのではないかと」
グレンのその言葉に三人も窓の外を見る。この物置部屋は王宮の五階にあるので、普通の人間はいくら木があるからと言っても飛び降りられるわけがないのだが、グレンの提案に三人は頷いた。
「確かに行けるかも。もっと安全に降りられるように、僕が木を全体的に凍らせようか?」
「確かにしっかりとした足場にしてもらえるとありがたい。頼んでもいいか?」
「もちろん! じゃあアーシェラを助け出したらこの部屋の窓から飛び降りて外に逃げるってことでいい?」
「いいぜ。その後は入ってくる時に使った使用人の出入り口を使うか?」
「それでいいだろう。素早く救出すれば情報も届かないだろうからな」
「おっけー。じゃあ行こっか、アーシェラを助けに!」
そうして四人は物置部屋からそっと抜け出し、渡り廊下に向かって駆け出した。ここからはスピード勝負だ。
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