聖女奪還作戦〜国の危機にはSランク冒険者を〜

蒼井美紗

文字の大きさ
9 / 11

9、救出

しおりを挟む
『アイス』
「うわっ、なんだこれ!?」
「おいっ、あっちから誰か来るぞ! 侵入者だ侵入者!」

 まずはニックの氷魔法で騎士達の足を凍らせて動きを止め、四人は混乱している敵の下へ突っ込んでいった。騎士達を殺す必要はないので、基本的には峰打ちや軽い攻撃で意識を刈り取るだけだ。
 しかし相手はエドガー達を全力で殺しに来るのだから、少し力が入って重傷を負わせてしまうのは仕方がない。この四人は積極的には人を殺したくないと思っているが、相手が殺しに来る場合はやむを得ないと考えている。

 そうして騎士達の間をアーシェラの下に駆けていたのだが、騒ぎを聞きつけた援軍が来てしまい先に進むペースが遅くなってきた。

「ここの騎士達は私とグレンが引き受ける! ニックとエドガーはアーシェラを頼む!」

 アーネストはそう叫びながら、また一人の騎士の鳩尾を蹴り飛ばす。そう、アーネストはレイピアの達人でもあるのだが、体術も相当な強さなのだ。

「分かった! ニック行くぞ!」
「はーい!」

 そうして四人は二手に分かれた。ここで騎士達を引き留めるのがアーネストとグレン、ニックとエドガーはアーシェラを助けに行くようだ。

「ニック、アーシェラの部屋はここを真っ直ぐ行った右側の部屋なんだよな?」
「そう! グレンが言うには三つ目の豪華な部屋だってよ」
「じゃあそこまで一気に行くぞ! おりゃあ!」

 エドガーは叫びながら大剣で騎士達をまとめて振り払う。いつ見ても馬鹿力だ。

『アイスランス』

 ニックは氷魔法で槍を作り出しそれを騎士達に放っている。やはり普通の騎士では二人の相手にならないようだ。アーネストとグレンが引き付けているとはいえかなりの人数がいるのに、話しながら片手間のように騎士達の意識を刈り取っていく。
 二人が走り去った後には、道の端に重なった騎士達が積み上がっている。

「多分あそこだよ~!」
「結構あっけなかったな。さっさと助け出して帰るか!」
「うん!」

 そうして話しながらアーシェラがいるだろう部屋の扉に手をかけようとしたその時、エドガーの頭を狙って鋭い突きが繰り出された。

「……っ!! あっぶねぇ」
「エドガー君、大丈夫!?」
「ああ、問題ねぇ」
 
 エドガーは咄嗟に大剣でその突きを防いだ。間一髪だった。エドガーでなければ今頃頭が爆散していただろう。

「お前、この国のSランク冒険者だな」
「Sランク冒険者? ああ、ミスリルクラスのことか。お前達の国ではSランクって言うんだったな」

 冒険者とはこの世界全体で共通の名称ではなく、魔物を倒して生計を立てる者のことをエドガー達の国では冒険者と呼んでいる。この隣国では守護者と呼ばれていて、そのトップはミスリルクラスだ。

 エドガーと槍使いはしばらく剣と槍を合わせていたが、お互い後ろに飛び退り少し距離を取った。

「お前達、名前は?」

 エドガーがそう聞くと、槍使いとその隣にいた大楯使いが口を開く。

「俺はブレントだ。この国で一番強いのは俺だぜ?」
「俺はスタンだ」

 ブレントは少しチャラい雰囲気があるが、スタンはブレントとは対照的に無口で真面目といった様子だ。実際にこの二人はその見た目通りの性格である。
 ブレントはミスリルクラスの守護者として国からもらっている給金で、毎晩酒を飲み女を買いと遊びまわっている。対照的にスタンは金にはほとんど手をつけず、毎日鍛錬ばかりしている。

 ただこの二人は幼馴染で、ここまで対照的でも存外仲がいい。ブレントはチャラくて遊びまわっているように見えて、いや実際そうなのだが、しかし情に厚いところもある。またやるべきことをサボるやつではない。そういう部分もあるからこそ、スタンもブレントとずっと付き合っているのだろう。

「俺はエドガー」
「僕はニックだよ。僕達はアーシェラを助け出しに来ただけなんだけど、見逃してくれたりしないかな?」
「俺達も仕事だからな。恨むなら王を恨んでくれっ!」

 ブレントはそう言うと一気にニックのところまで距離を詰め、槍を突き出した。しかしニックはそれをバリアで防ぐ。

「お前のバリア硬えな。普通の魔法使いのバリアなら簡単に破れるのによ」
「あんたの突きも凄いよ。僕のバリアにヒビを入れたのは三人目だよ」
「そりゃあ光栄だな」

 ブレントの槍がバリアに突き刺さっている隙を見逃すほどエドガーは優しくない。ブレントがニックの方に突きを放ったその瞬間から、エドガーはブレントに向かって大剣を振り下ろしていた。
 ニックのことを全く心配していないところが、お互いの信頼の証である。

 しかしそれでやられるブレントじゃない。ブレントとエドガーの間に大楯を持っているとは思えないほどのスピードでスタンがやってきて、エドガーの振り下ろした大剣を難なく受け止めた。こちらの二人も連携は完璧のようだ。

「お前達やるな。ははっ、楽しくなってきたぜ!」

 今度はブレントがバリアから槍を引き抜き、エドガーに向けて振り払った。しかしエドガーはそれも大剣で難なく受け止める。そしてブレントの槍をエドガーが受け止めてる隙に、ニックがブレントに向かって魔法を放つ。

『アイススピア』

 しかしそれもスタンの大楯に防がれた。
 ここまで僅か数秒だ。常人には何が起きているのかも分からないレベルだろう。

 そこまで戦ったところで両者は少し距離を取った。お互いに強者だからこそ今の一連の流れで相手の力量が分かり、どう攻めればいいのか悩んだのだ。
 両者の実力はほぼ同じ、このまま戦っていれば先に体力が尽きた方の負けだろう。

「エドガー、このまま戦ってると長引くよ。僕が足止めするからエドガーはアーシェラを」
「分かった」

 エドガーとニックはすぐに作戦を切り替えた。この二人を倒すのではなく、なんとか攻撃を躱しながらアーシェラを連れて逃げる作戦だ。渡り廊下まで戻ればアーネストとグレイもいる。さすがに四対二ならばエドガー達に分があるだろう。

『クリエイトマッド』

 ニックがトリガーワードを口にすると、ブレントとスタンの足下が突然沼地に変わった。その魔法は外ならば比較的容易に発動できるのだが、このように建物の中で発動できる者はほとんどいない。
 だからこそ二人に不意打ちでかけられたのだ。

 この魔法をニックが発動したその瞬間に、エドガーは走り出しアーシェラの部屋に駆け込んだ。ブレントとスタンはそれを阻止しようとしたが、沼地が出現した驚きと泥に足を取られて動き出しが遅れ、エドガーが部屋に入るのを許してしまった。

『ロックウォール』

 さらにニックは二人を足止めするために、岩の壁で二人の周囲を囲み閉じ込めた。すぐに破られてしまう壁だが、それでも数秒の時間稼ぎにはなる。

 そうしてニックが足止めをしている間に、エドガーはついにアーシェラを見つけ出した。アーシェラは寝室のベッドの上に、足を鎖に繋がれた状態で力なく座り込んでいる。

「アーシェラ!」
「っ!!」

 エドガーのその声にアーシェラが顔を上げると、そこにはエドガーがいる。アーシェラはエドガーの顔を見て、さっきまでの無表情から一転、途端に泣きそうな表情になった。

「アーシェラ、助けに来た。すぐに出なきゃいけないから話はまた後でになる。鎖壊すぜ」

 エドガーはそう言ってアーシェラの足を繋いでいる鎖を大剣で切り、アーシェラに手を差し伸べた。

「一緒に行こう」
「……はい。エドガー様、ありがとうございます」

 アーシェラはエドガーの手を取りそのまま泣き崩れてしまう。突然連れ去られて部屋に軟禁されていたという事実は、まだ年若い女性には酷だったのだろう。

 聖女とは生まれた時から聖女であることもあるが、十歳ほどで突然力に目覚めることもある。アーシェラはその後者のタイプであったので、聖女として過ごして数年経った今は十代後半だ。

「剣を持ちたいから背中に背負うけどいいか? それから落ちないように身体を紐で固定したい。辛いとは思うが我慢してくれ」
「はい。助けていただけるのであればなんでも我慢します」

 アーシェラが頷くと、エドガーはニカっとアーシェラに笑いかけた。

「絶対助けてやるからな。背中に乗ってくれ」
「はい!」

 エドガーの笑顔に釣られて少し元気を取り戻したアーシェラの頬は、ほのかに赤く染まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚された聖女はこの世界の平民ですが?家に帰らせていただきます!

碧井 汐桜香
ファンタジー
召喚された聖女は、この世界の平民でした。 バレないように異世界から召喚された聖女のふりをしながら、家に帰る機会を見計らって……。

論破!~召喚聖女は王子様が気に食わない

中崎実
ファンタジー
いきなり異世界に召喚されて、なんかイケメンに「世界を救ってもらいたい事情」を説明される、よくあるWEBファンタジーあるあるパターンが発生した。 だけどねえ、あなたの言い草が気に食わないのよね?からの、聖女が帰宅するまでのおはなし。 王子「自分達より強い敵をどうにかしてくれる相手を呼ぼう。女なら押し倒してしまえば、思うがままにできる!」 聖女1「有能な人を呼びました、としゃあしゃあと抜かすツラだけ良い男、なぁんか気に入らないのよねえ……」 聖女2「はよ帰ろ~」 聖女3「……」 論破というより爆破してませんか、あなた達?

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...