聖女奪還作戦〜国の危機にはSランク冒険者を〜

蒼井美紗

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10、逃走

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「エドガー遅いよ!」
「ニック悪い。でもアーシェラは救い出せたぜ、ほら」

 エドガーはそう言って笑顔で自分の背中を示した。そこにはエドガーの背中に紐で固定されたアーシェラがいる。

「アーシェラ!! 無事で良かったよ~」
「ニック様! 助けに来てくださってありがとうございます」

 アーシェラはニックの姿を見て、また安堵からか涙を流した。アーシェラは聖女であるからこそSランク冒険者との関わりもあり、この二人の強さをよく理解しているのだ。

「じゃあニック、アーネスト達のとこに行くぞ!」
「うん!」

 そうしてまたエドガーとニック、ブレントとスタンが対峙した。しかし先程と違うのはブレントが槍を構えていないことだ。その様子にエドガーとニックは警戒を強める。何かを企んでいるのではと思ったのだ。

「何を企んでいる?」
「いや、企んでるんじゃねえんだ。俺は元々聖女を無理矢理攫ってくるっていうのに賛成できなかったんだよな。でも俺はこの国に仕えてる身だしよ、仕事はちゃんとやろうと思ってるからやってた。でもお嬢ちゃんを助け出された今となっては、戦ったらお嬢ちゃんが傷つくかもしれねぇし、これ以上戦うのは俺の信条に反するんだよな……。だから早く行けよ」

 ブレントがそう言うとスタンも構えていた大楯を床に置く。スタンはブレントの決めたことには基本的に逆らわないのが常だ。

 しかしそんな言葉を真に受けるほどエドガーもニックも純粋じゃ無い。二人はいつでも攻撃できるように構えながら、ブレントとスタンの横を通り抜けた。
 その瞬間に攻撃されるか……二人はそう思っていたが、予想に反してブレントとスタンは動かなかった。

「本当に見逃してくれた……?」
「みたいだな。……おい、ブレントとスタンだったか? お前達、俺達の国に来いよ! 多分この国の王様よりもうちの方がいいと思うぜ。それで俺達の国に来たら、また手合わせしようぜ!」

 エドガーが走り去る直前に二人に向かってそう叫んだ。その言葉を聞いてブレントはふっと表情を緩める。

「確かにそれもいいかもしれねぇな。この国の王は自己中で嫌いなんだよなぁ」
「俺はブレントに付いて行く」
「じゃあさっさとこの王宮を出るか? 今回の任務失敗で下手したら処刑もあり得るしな」
「そうだな」

 そうしてブレントとスタンも王宮の出口に向かって歩き出した。


 その頃エドガーとニックは、無事にアーネストとグレイと合流し物置部屋にまた戻ってきていた。

「アーシェラを取り戻したぜ!」
「まあ、私達なら当然だな」
「やったね~」
「成功して良かったです」

 今回の任務はこの三人でも、グレンを含めた四人でも難易度の高いものだったので、とりあえずアーシェラを取り戻せたという事実に喜びを分かち合っている。

「皆様、本当に本当にありがとうございます」

 アーシェラはエドガーの背中に背負われながら、泣きながら感謝の言葉を口にした。

「友達を助けるのは当然だよ!」
「ニック様……」
「喜びを分かち合うのはまた後にしよう。今はまだ敵の城の中だ。早めに逃げるぞ」
「確かにそうだな。じゃあ飛び降りようぜ」
「うん! じゃあ木を凍らせるよ~。ついでに火魔法で少し明るくしておくね」
「え、飛び降りる……?」

 アーシェラが飛び降りるという言葉を聞いて、まさかこの高さから飛び降りるのかと顔色を悪くしていると、それに気づかない四人は全く躊躇いもなく窓から飛び降りた。
 まずはグレンが飛び降りて下の安全を確保、それからエドガーだ。

「ま、待って、本当に飛び降りるのですか……」
「アーシェラ心配するな、怪我はさせねぇよ」
「そういう問題じゃ……きゃゃぁああああああ!!」

 怪我をするとかそういう問題ではなく、単純にこんな高さから飛び降りたら普通の人間は気を失うレベルなのだが、この四人はそれには気づかず簡単に飛び降りる。
 アーシェラは叫んだが、それだけで意識は保ったので頑張った方だろう。

 それからニックとアーネストも飛び降りて、王宮の敷地内に四人が揃った。

「アーシェラが叫んじまったから、早く行かないと騎士が来るな。行こうぜ」
「そうだな。出口に向かおう」

 
 ――そうして五人となったエドガー達は、使用人の出入り口を使い王宮から脱出し、そのまま王都からも脱出した。
 女性を背負った四人の男達はかなり異質な存在で門番に止められそうになったが、そこは実力行使で門番を伸して王都からも出た。


 それからしばらくは走り続け、森の奥まで進んだところでやっと足を止める。

「ここまで来ればもう追っ手も来ないよな?」
「ああ、さすがにすぐ追いつかれるということはないだろう」
「僕が痕跡も消したし、多分もう安心していいと思うよ」
「ではここらで少し休むとしよう」

 夜に行動を開始してアーシェラを救い出し、今はまだ真夜中だ。明日の早朝から移動を開始するにしても、少し休んでおいた方が良いだろう。

「アーシェラ下ろすぞ」

 ここにきて初めてアーシェラがエドガーの背中から下ろされた。紐で固定されている状態は紐が擦れてかなり痛いだろうに、一度も泣き言を言わずにエドガーに背負われていたアーシェラも根性がある少女だ。

 アーシェラは降ろされるとしっかりと自分の足で地面を踏みしめて、改めて4人に感謝の言葉を伝えた。

「皆様、私のことを助け出してくださり本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません」

 アーシェラはそう言うと、四人に向かって優しく微笑みかけた。アーシェラは白い髪をストレートのロングヘアにしていて瞳は金色、小柄で可憐な少女だ。そんな少女の微笑みは本当に可愛らしい。その笑顔で四人の疲れも吹き飛ぶほどだ。

「友達なんだから助けるのも当然って言ったでしょ!」
「ふふっ、ニック様ありがとうございます」
「アーシェラ、助けるのが遅くなりすまなかった。何か酷いことをされなかっただろうか?」
「アーネスト様、鎖で繋がれていただけなので大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
「そうだ。まだ残ってる鎖も壊しちまおう。アーネストそこに座ってくれるか?」
「はい」

 エドガーはアーシェラを座らせて、その前に跪きアーシェラの足を優しく持ち上げた。そしてそこについている鎖を慎重に取り除く。

「はい、これでもう大丈夫だ」

 エドガーはそう言って下からアーシェラを覗き込むようにニカっと笑いかけた。アーシェラは至近距離からのエドガーの笑顔に頬を赤くしている。
 
「アーシェラ、髪の毛が少し乱れてるよ。僕が直してあげる。櫛も持ってるんだ!」

 今度はニックがそう言って、アーシェラの髪の毛を丁寧に梳かしていった。

「アーシェラの髪は本当に綺麗だよね。真っ白でサラサラだよ」

 ニックはアーシェラの髪を一房持ち上げ顔を近づけた。アーシェラはニックのその仕草に恥ずかしそうに顔を赤く染める。

「アーシェラ、顔にも少し汚れがついている」

 今度はアーネストがアーシェラに近づき、顔の汚れをハンカチで拭った。

 この三人はこういう気障なことを無意識にやるのだ。三人ともアーシェラに恋愛感情を持っているわけではないのだが、こういう行動をとる。常日頃からこうして女性に、時には男性にも接しているので、三人には本気で恋をしているファンも多い。

 ではなぜ三人は結婚していないのか、それは三人とも結婚というものに魅力を感じていないからだ。他人に縛られて生きるのは嫌だと思っていて、恋人も作らない。三人に本気で好きになれるような相手が現れたらまた変わるのだろうが、三人とも未だそういう相手には出会っていないようだ。

「アーシェラ、顔が赤いけど大丈夫? 熱でもある?」

 アーシェラは先程からこの三人にトキメキっぱなしで、ドキドキと胸を高鳴らせている。危険から助け出してくれてさらにこんなことをされたら、相手に興味がなかったとしても好きになってしまうものだろう。アーシェラもこの三人の被害者である。

「いえ、大丈夫です。あの……そちらの方は? 私は存じ上げないのですが」

 アーシェラは顔の赤みや心臓の鼓動を誤魔化すためにも、グレンに視線を向けてそう聞いた。

「私はグレンと申します。諜報部第一隊所属でございます。此度はアーシェラ様奪還作戦に参加しております」
「そうなのですね。グレン様、助けに来てくださりありがとうございます」
「私は敬称をつけて呼ばれるほどの身分ではございません。どうかグレンと」
「……ではグレンさん、と呼びますね」
「はい。これからの道中よろしくお願いいたします」

 グレンはそう言って、綺麗な笑みを浮かべた。グレンにとって今回の任務を円滑に遂行するためにはアーシェラとの親交を深めることも大切だと判断して、仕事として笑みを浮かべた。
 しかしそんなことを知らないアーシェラは、その笑顔に心を奪われる。普段無表情の人が浮かべる笑顔とは破壊力が強いのだ。

「は、はい。よろしくお願いいたします」
「グレンが笑った~!! なんで、僕達には笑いかけなかったじゃん!」
「俺は初めて見たぞ」
「私も今まで一度も見たことはないな」

 グレンは突然三人からそう詰め寄られて、顔には出ていないが内心では焦っている。今まで笑顔でここまで騒がれたことはなかったのだ。というよりも、仲間に笑顔を見せたことがなかったというのが正しいだろう。

「今までは必要なかったので」
「え~、アーシェラだけ特別なの~? 僕達にも笑いかけてよ」
「必要だと判断した時には」
「何それ、必要じゃなくてもいつでも笑ってくれていいのに」

 ニックがそう言って少し拗ねたように口を尖らせる。そうして五人の間には和やかな雰囲気が漂い、アーシェラもやっと助かったことを実感しながら夜は更けていった。
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