転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗

文字の大きさ
79 / 173
第二章 王都改革編

79、領地へ(アルベルト視点)

しおりを挟む
 王宮へ行き手続きを済ませてから二日後の早朝。私は屋敷のエントランスで家族皆と使用人に見送りをされていた。

「父上、道中お気をつけください。領地の改革をお願いいたします」

 一番に声をかけてくれたのはフィリップだ。フィリップは常々大人っぽい、子供らしくないと思っているが、こんな早朝に眠そうな様子も見せずにこの言葉を発するのだ。自分には成人した息子がいたのかと錯覚するほどにしっかりしている。

「お父様……いってらっしゃい、ませ」

 マルガレーテは眠そうに目を擦りながらも、なんとか自分の足で立って挨拶をしている。その様子が可愛くて微笑ましくて、元気をもらえる。

「ちち、うえ、いってらっしゃい。ぼく、ねむい……」

 ローベルトは従者に両脇を支えられてなんとか起きてる状態だ。しかしふにゃっと笑った顔がこの世で一番可愛いので、大正解な見送りの挨拶だ。本当に私の子供達はどの子も可愛らしい。

「ローベルトおいで」

 そう言って屈んで両手を広げると、ローベルトはフラフラしながらも私の腕の中に飛び込んできた。そして抱き上げられた途端に瞼が落ちる。

「……もう寝たのか?」
「申し訳ございません。やはりこの時間に起きるのは大変なご様子でして」
「いや、構わない。別に無理に見送りに来なくとも良いのだ。こんなに眠いのならば起こすのは可哀想だしな」
「私もそう申し上げたのですが、ローベルト様に絶対起こしてと昨夜言われてしまいまして……」

 ローベルト付きの従者が苦笑を浮かべつつそう教えてくれた。ローベルトは無理矢理にでも起きて見送りに来たかったのか……本当に可愛い子だ。

「ヴィクトリア、子供達のことを頼んだぞ」
「ええ、お任せください。あなたは何も心配しなくて良いわ」
「ありがとう、頼もしいな。ではローベルトを良いか?」
「もちろん。最近ローベルトも重いでしょう?」

 寝てしまったローベルトを手渡すと、ヴィクトリアはその重みを腕に嬉しそうに顔を綻ばせた。

「抱き上げて驚いた。どんどん成長していくな」
「ええ、子供達の成長は早いのよ。見逃さないように無事に帰ってきてくださいね」
「もちろんだ。では行ってくる」
 
 そうして私は従者と護衛を一人ずつと御者、文官、さらに騎士を三名連れて、少人数で領地に向けて出立した。

 王都を出て体感にして三時間ほどは、特に何事もなく走り続けることができた。そして馬を休ませるために少しだけ休憩を挟み、水分補給を済ませてからまた動き出した矢先、騎士の叫び声が聞こえてきた。

「魔物が後ろから来てる! 馬車の速度を上げろ!」

 その合図がある時は馬車を引いた馬の速度でも逃げ切れるという合図。馬車はとにかく馬が怪我をしない程度の速度で道を駆け抜け、騎士達は魔物を数体倒して撤退を促すのだ。

「何の魔物だろうか」

 かなり揺れる馬車の手すりに捕まり窓から外を眺めると、遠くに魔物の影が見えた。あれは……

「オークですね」
「やはりメディーは目が良いな。私には種類を識別できるほどはっきりとは見えない」
「ありがとうございます」

 メディーは地味な外見に基本的には無表情で、とにかく真面目な従者という印象しか残らないが、能力は総じて高く優秀なのだ。

「オークならば馬車に追いつかれることはないな」
「はい。心配はいらないでしょう」

 私は安心したところで窓から頭を引っ込めて、また揺れる馬車に耐えるために手すりに捕まり少しだけ腰を浮かせた。
 街の外は道路状態が悪くて馬車がかなり揺れるので、こうしてスピードを出している時は椅子に腰掛けないほうが楽だったりするのだ。

 そうしてたまに魔物と遭遇しながらも、大きな問題になることもなくライストナー公爵家の領都に辿り着いた。馬車が城壁の門に近づくと、公爵家の馬車だと分かったのか門が中から開かれる。

「公爵様、いつもお越しになる時期とは違いますがいかがいたしましたか?」

 馬車が街中に入り門が閉まった音が聞こえてから、ドアをノックする音と共にそんな問いかけが聞こえてくる。

「メディー、ドアを開けて」
「かしこまりました」

 馬車のドアが開くと、そこには顔馴染みの公爵家私兵団の団員がいた。この国は騎士になるには騎士学校を卒業しなければいけないけれど、貴族でもそれぞれ私兵団を持っていて、私兵団の兵士になるには貴族が要求する水準を超えてれば良い。
 ライストナー公爵領の私兵団は入団基準を比較的高く設定しているし、その後の鍛錬も厳しいものなのでこうして残っている兵士は総じて能力が高い。礼儀作法なども問題なく身に付いている。

「驚かせてすまない。ここまで情報が伝わっているか分からないが、王都で色々と変化があってな。いつもの予定を早めて領地に来たのだ。このまま公爵邸に向かっても良いだろうか?」
「先ほど先触れを出しましたので問題ありません。できれば領民に馬車から手を振ってあげてください。旦那様のお越しを皆心待ちにしておりましたので」

 兵士が笑顔で教えてくれた内容に、私は苦笑を浮かべつつ頷いた。

「ああ、分かった」

 たまにしか領地には来れないにも関わらず、領都の民は私のことをとてもよく慕ってくれているのだ。本当にありがたいことだ。
 それから馬車は街の中をゆっくりと進んでいった。私は兵士の助言通りに馬車から顔を出して、こちらに手を振ったり頭を下げたりしてくれる領民に、笑顔で手を振り続ける。

「子供達も連れてきたいな」
「……フィリップ様の知識が広まれば、そのうちもっと気楽に行き来できるようになるのではないでしょうか」
「それもそうだな。その時が楽しみだ」

 メディーとそんな話をしつつ馬車は進み続け、ついに公爵邸が見えてきた。馬車が敷地内に入り屋敷の前に止まると、家令を筆頭に大勢の使用人が出迎えてくれているのが目に入る。

「皆、久しぶりだな」
「旦那様、おかえりなさいませ。ご無事で何よりでございます」
 
 私の言葉に口を開いたのは、この街の政務を任せている家令のクレマンだ。クレマンは私よりも十歳以上年上で、優しく柔和な笑みに反してかなり有能な男。ここ最近は後退を始めた生え際を気にしているようで、髪の毛を守ることに力を注いでいるらしい……というのは前回ここに来た時に聞いた話だ。
 あの時はそんなことないだろうと思ったが、確かにこうして久しぶりに会うと少しおでこが広くなった気がするな。

「いつも来られる時期とズレておりますが、何か問題でもございましたか?」
「いや、問題ではないんだが王都で色々とあってな。長くなるので執務室で話すことにしよう」
「かしこまりました」

 そうして私は挨拶もそこそこに屋敷へと入り、旅装から着替えて執務室に向かった。フィリップの話がどこまで伝わっているのかも確認しなくては。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...