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第三章 農地改革編
107、二ワールの卵
二回目の森の探索から帰ってきて一週間が経過した。この一週間はとにかくニワールの世話と畑の整備に力を注いだけど、それ以上に重大な出来事があった。
そう、ティナとの食事会の日程が遂に決まったのだ。ティナを屋敷の食事に誘いたいということを父上と母上に伝えたのは、ティナに王宮を案内したあの日だったけど、そこから既に四週間が経っている。
なぜこんなにも日程が決まらなかったのかというと、父上と母上が、特に母上が張り切ったからだ。
ティナに服を一式贈らないといけないからと服を注文するところから始まり、食堂を少しでも飾りつけたいと使用人と話し合いをして、少しでも美味しいものをと厨房とも打ち合わせをして。
そうして気づいたら数週間が経過していた。そしてやっと色々な準備が整う算段がつき、ティナにも予定を確認して、今日から二週間後の俺の休日に決まったのだ。
……最近のティナは、俺が孤児院に行くと恥ずかしそうに笑みを浮かべてくれて、控えめに言ってとても可愛らしい。緊張はするけれど、今では食事会の日が待ち遠しくなっている。早くティナにしっかりと気持ちを伝えたいな。
父上はもうティナが俺の妻になる前提で動いていて、ティナを養子にしてくれる伯爵家の選定まで始めているらしい。
でもまだティナにしっかりと気持ちを伝えてないし、さらに俺が侯爵位をもらうことも、伯爵家の養子になってもらわないといけないことも話していないので、気が早いと必死に止めている。
ティナはその話をしても、俺への好意を持ち続けてくれるだろうか……そこだけが心配だ。でも食事への誘いに頷いてくれたのだから、大丈夫だと思いたい。今のティナは俺が公爵位を継ぐと思っているのだろうから、それが侯爵になればハードルは下がるだろう。
そんなことを毎日つらつらと考えては、自分を安心させている。
「フィリップ様、おはようございます」
「コレットさん、おはよう」
ここからは仕事の時間だ。俺は執務室から畑まで移動する間に考えていたティナに関することはとりあえず端に置き、今は目の前の仕事に集中することにした。
「ニワールと作物の様子はどう?」
「実は昨日の夕方、ニワールがいくつか卵を産んでいるのを発見いたしました」
「本当!?」
「はい。さらに本日の朝、追加で収穫することができました。こちらです」
日除けの下にあるテーブルに置かれていた木箱を覗き込むと、中には十個ほどの卵が入っていた。
「良かった。やっと産んでくれたんだ」
環境の変化からなのか、一週間どのニワールも卵を産んでくれなかったので心配していたのだ。一度卵を産んでくれたなら、もう大丈夫だろう。
「フィリップ様のご指示通り、いくつかの卵は囲いの中に残してあります」
「ありがとう。じゃあここにある卵は食材にして良いんだね」
どうしよう、まずはどんな卵料理を作ろうか。俺は高揚する気持ちを抑えきれずに、さまざまな料理を思い浮かべた。やっぱり最初は王道かな。目玉焼きと卵焼き、茹で卵は外せない。
ゆくゆくはフレンチトーストや親子丼など、作りたいものならたくさんある。ただそれらを作るには、まずパンを作らないといけないし、イネを探し出さないといけない。
先は長いけどいつかは食べたいな。調味料もまだまだ足りないものがたくさんだ。
醤油や味噌もいつかは作りたいと思っている。ただあれは相当難易度が高いだろう。まずはソイという豆を見つけなければいけないし、その上でさまざまな工程と長い時間を経て出来上がるのだ。
それを作る余裕がこの国に生まれるのは……まだ先の話だな。
「コレットさん、空いてる料理人がいるか確認してもらって良い? 卵料理を作って欲しいんだけど」
「そう仰られるかと思い、昨日のうちに手配しておきました」
「本当!? コレットさんさすが!」
やっぱりコレットさんって本当に仕事できるな。こうして先回りしてくれると、スムーズに仕事が進んで凄く楽だ。
「じゃあさっそく行こうか。執務室に寄ってファビアン様達にも声をかけていこう」
二人に知らせずに俺だけで楽しんでたら、絶対に後で色々言われるからな。アプルの時もしばらく言われたのだ。ちゃんと残ってたアプルを執務室でも振る舞ったのにも関わらず。
コレットさんが木箱を持ってくれて執務室に向かうと、二人はそれぞれの席で真剣に仕事をしているところだった。
「ファビアン様、マティアス、ニワールが卵を産みましたので、これから卵料理を作ろうと思います」
「え、そうなの!?」
まず反応したのはマティアスだ。マティアスは弾かれたように顔を上げて、立ち上がるとすぐに俺達の下へやって来た。
「これが卵?」
「そう。いろんな料理に使えるんだ。これからは毎日手に入ると思う」
「コロッケに続いてまた新しい料理か……想像しただけでお腹が空くね」
「フィリップ、卵が収穫できたのだな」
マティアスと話していたら、ファビアン様も一段落ついたのか俺達の下へ来てくれた。
「はい。やっと収穫できました。試しに色々な卵料理を厨房で作ってもらおうと思っています。皆様も来られるかと思って知らせに来たのですが……」
「そうだな。私も行こう」
「僕も行きます。陛下達はどうでしょうか?」
「私が伝えてこよう。ちょっと待っていてくれ」
執務室の端にあるソファーセットで話し合いをしていた陛下と宰相様のところにファビアン様が向かい、一言二言話すとお二人を連れて戻ってきた。凄い大所帯になりそうだ。
「私達も一緒に行こう」
「かしこまりました。ではさっそく向かいましょう」
それから凄いメンバーで厨房に向かうと、厨房では料理長が俺達を待ってくれていた。今日は部下達に昼食作りは任せて、料理長は俺に付き合ってくれるのだそうだ。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。新たな食材の調理を任せていただけるなど光栄です」
「これがニワールの卵です」
コレットさんが料理長に木箱を渡すと、料理長は卵をまじまじと見つめた。
「意外と小さいのですね。私はどう調理すれば良いか全く分かりませんので、ご指導よろしくお願いします」
「もちろんです」
厨房の一角に俺達も入れてもらい、料理長の様子を全員で見学する体制で卵の調理が始まった。このメンバーに観察されている料理長はさすがに緊張しているようだけど、ここは頑張ってもらうしかない。
~あとがき~
次回の更新は10月1日の土曜日となります。
別作品の書籍化作業で忙しく、更新が遅れ気味になってしまい申し訳ありません。土曜日を楽しみにしていただけたら幸いです。
次回は卵を使って料理をしていきます。この国に卵料理が爆誕です!
そう、ティナとの食事会の日程が遂に決まったのだ。ティナを屋敷の食事に誘いたいということを父上と母上に伝えたのは、ティナに王宮を案内したあの日だったけど、そこから既に四週間が経っている。
なぜこんなにも日程が決まらなかったのかというと、父上と母上が、特に母上が張り切ったからだ。
ティナに服を一式贈らないといけないからと服を注文するところから始まり、食堂を少しでも飾りつけたいと使用人と話し合いをして、少しでも美味しいものをと厨房とも打ち合わせをして。
そうして気づいたら数週間が経過していた。そしてやっと色々な準備が整う算段がつき、ティナにも予定を確認して、今日から二週間後の俺の休日に決まったのだ。
……最近のティナは、俺が孤児院に行くと恥ずかしそうに笑みを浮かべてくれて、控えめに言ってとても可愛らしい。緊張はするけれど、今では食事会の日が待ち遠しくなっている。早くティナにしっかりと気持ちを伝えたいな。
父上はもうティナが俺の妻になる前提で動いていて、ティナを養子にしてくれる伯爵家の選定まで始めているらしい。
でもまだティナにしっかりと気持ちを伝えてないし、さらに俺が侯爵位をもらうことも、伯爵家の養子になってもらわないといけないことも話していないので、気が早いと必死に止めている。
ティナはその話をしても、俺への好意を持ち続けてくれるだろうか……そこだけが心配だ。でも食事への誘いに頷いてくれたのだから、大丈夫だと思いたい。今のティナは俺が公爵位を継ぐと思っているのだろうから、それが侯爵になればハードルは下がるだろう。
そんなことを毎日つらつらと考えては、自分を安心させている。
「フィリップ様、おはようございます」
「コレットさん、おはよう」
ここからは仕事の時間だ。俺は執務室から畑まで移動する間に考えていたティナに関することはとりあえず端に置き、今は目の前の仕事に集中することにした。
「ニワールと作物の様子はどう?」
「実は昨日の夕方、ニワールがいくつか卵を産んでいるのを発見いたしました」
「本当!?」
「はい。さらに本日の朝、追加で収穫することができました。こちらです」
日除けの下にあるテーブルに置かれていた木箱を覗き込むと、中には十個ほどの卵が入っていた。
「良かった。やっと産んでくれたんだ」
環境の変化からなのか、一週間どのニワールも卵を産んでくれなかったので心配していたのだ。一度卵を産んでくれたなら、もう大丈夫だろう。
「フィリップ様のご指示通り、いくつかの卵は囲いの中に残してあります」
「ありがとう。じゃあここにある卵は食材にして良いんだね」
どうしよう、まずはどんな卵料理を作ろうか。俺は高揚する気持ちを抑えきれずに、さまざまな料理を思い浮かべた。やっぱり最初は王道かな。目玉焼きと卵焼き、茹で卵は外せない。
ゆくゆくはフレンチトーストや親子丼など、作りたいものならたくさんある。ただそれらを作るには、まずパンを作らないといけないし、イネを探し出さないといけない。
先は長いけどいつかは食べたいな。調味料もまだまだ足りないものがたくさんだ。
醤油や味噌もいつかは作りたいと思っている。ただあれは相当難易度が高いだろう。まずはソイという豆を見つけなければいけないし、その上でさまざまな工程と長い時間を経て出来上がるのだ。
それを作る余裕がこの国に生まれるのは……まだ先の話だな。
「コレットさん、空いてる料理人がいるか確認してもらって良い? 卵料理を作って欲しいんだけど」
「そう仰られるかと思い、昨日のうちに手配しておきました」
「本当!? コレットさんさすが!」
やっぱりコレットさんって本当に仕事できるな。こうして先回りしてくれると、スムーズに仕事が進んで凄く楽だ。
「じゃあさっそく行こうか。執務室に寄ってファビアン様達にも声をかけていこう」
二人に知らせずに俺だけで楽しんでたら、絶対に後で色々言われるからな。アプルの時もしばらく言われたのだ。ちゃんと残ってたアプルを執務室でも振る舞ったのにも関わらず。
コレットさんが木箱を持ってくれて執務室に向かうと、二人はそれぞれの席で真剣に仕事をしているところだった。
「ファビアン様、マティアス、ニワールが卵を産みましたので、これから卵料理を作ろうと思います」
「え、そうなの!?」
まず反応したのはマティアスだ。マティアスは弾かれたように顔を上げて、立ち上がるとすぐに俺達の下へやって来た。
「これが卵?」
「そう。いろんな料理に使えるんだ。これからは毎日手に入ると思う」
「コロッケに続いてまた新しい料理か……想像しただけでお腹が空くね」
「フィリップ、卵が収穫できたのだな」
マティアスと話していたら、ファビアン様も一段落ついたのか俺達の下へ来てくれた。
「はい。やっと収穫できました。試しに色々な卵料理を厨房で作ってもらおうと思っています。皆様も来られるかと思って知らせに来たのですが……」
「そうだな。私も行こう」
「僕も行きます。陛下達はどうでしょうか?」
「私が伝えてこよう。ちょっと待っていてくれ」
執務室の端にあるソファーセットで話し合いをしていた陛下と宰相様のところにファビアン様が向かい、一言二言話すとお二人を連れて戻ってきた。凄い大所帯になりそうだ。
「私達も一緒に行こう」
「かしこまりました。ではさっそく向かいましょう」
それから凄いメンバーで厨房に向かうと、厨房では料理長が俺達を待ってくれていた。今日は部下達に昼食作りは任せて、料理長は俺に付き合ってくれるのだそうだ。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。新たな食材の調理を任せていただけるなど光栄です」
「これがニワールの卵です」
コレットさんが料理長に木箱を渡すと、料理長は卵をまじまじと見つめた。
「意外と小さいのですね。私はどう調理すれば良いか全く分かりませんので、ご指導よろしくお願いします」
「もちろんです」
厨房の一角に俺達も入れてもらい、料理長の様子を全員で見学する体制で卵の調理が始まった。このメンバーに観察されている料理長はさすがに緊張しているようだけど、ここは頑張ってもらうしかない。
~あとがき~
次回の更新は10月1日の土曜日となります。
別作品の書籍化作業で忙しく、更新が遅れ気味になってしまい申し訳ありません。土曜日を楽しみにしていただけたら幸いです。
次回は卵を使って料理をしていきます。この国に卵料理が爆誕です!
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