転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗

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最終章 古代遺跡編

171、ノルネア様の下へ

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「フィリップ? 大丈夫? 突然黙り込んでぴくりとも動かなくなったけど……」

 心配そうな表情のマティアスに顔を覗き込まれ、周囲を見回すと全員が心配を露わにしてくれていた。

「大丈夫だけど……凄い体験をしたかも。ティータビア様と、会話をしたんだ」

 その言葉を発した瞬間、皆の間に動揺が走った。しかし元々俺はティータビア様から知識を賜っていると周知されていたので、すぐに動揺はおさまってティータビア様からのお言葉に注目が集まる。

 沈黙を破ったのはマティアスだ。

「それで、ティータビア様はなんと仰ったの……?」
「闇の神ノルネア様を、消して欲しいって」

 その内容はあまりにも衝撃が大きかったようで、痛いほどの沈黙が場を満たした。俺もまだ混乱していてどこから説明しようかと考えていると、ふと足元に広がるものが視界の端に映る。

 下に視線を向けるとそこにあったのは、とても綺麗なベールだった。もしかして、これがティータビア様が仰っていた光のベールだろうか。

 そっと持ち上げてみると、まるで風のように軽くて掴みどころのないベールだ。向こう側が透けるほどに薄く、それ自体が光っているように見える。

「それは……?」

 マティアスの問いかけに、ベールを皆に掲げながら答えた。

「これは、ティータビア様から授けられたものだと思う。光のベールと仰っていたよ。これでノルネア様を包み込むと、後はティータビア様がノルネア様を消し去れるって」

 それからティータビア様から聞いた衝撃的な歴史を、自分の中でも整理しながら皆に伝えた。

 最後まで聞いて、まず口を開いたのはパトリスだ。

「フィリップ様、ノルネア様がいらっしゃるという山の頂上まではここから半日ほどです。このまま行くことも可能です」

 そう言って俺に判断を委ねてくる。一度戻るか、このまま向かうか……せっかく近くにいるのだからこのまま向かおう。空間石の中に十分な食料は入っている。

「皆、ティータビア様からの願いを叶えるために力を貸してくれる?」
「もちろんでございます」
「僕も行くよ」

 代表してパトリスとマティアスが頷いてくれて、俺たちは山の頂上に向かうことになった。


 地上に戻ってヴィッテ部隊長たち騎士とも合流し、全員で目的地を変更する。騎士たちも冒険者と同じく、すぐに俺の手助けをすることに了承してくれた。

「フィリップ様、ノルネア様はどのように封じられているのか、詳細はお聞きになったのでしょうか」
「ううん、そこまでは聞けなかったんだ。だからティータビア様の願いをなんの障害もなしに遂行できるのか、何か乗り越えなければいけない壁があるのかは分からない」

 その言葉に皆は表情を引き締め、地面を踏み締める足音を僅かに力強くした。


 それから歩くこと約半日。魔物に遭遇しながらも、問題なく目的の場所に辿り着くことができた。

 問題の洞窟はすぐに見つかり、その洞窟は人が数人しか入れないほどに浅いものだったので、洞窟の外からノルネア様を目視することができる。
 ノルネア様のお姿は……痩せ細った背の高い老婆のようだった。両手首を光の輪によって洞窟の壁に固定され、腰と太もも、両足首も同じように固定されている。

 しかし未だに意識はあるようで、赤く光る瞳で俺たちを射抜いた。そして体を捩ると断末魔のような叫び声をあげ――

 黒い塊を放ってくる。

「っ……に、逃げてっ!!」

 その塊を見た瞬間に本能的にヤバいと察して叫ぶと、辛うじてその塊は誰にも当たらなかった。しかし直撃した若い木は、どろりと溶けて消えていく。

「なんだこれ……」

 やけに荒廃した頂上だと思ってたけど、これが原因だったのか。

「フィリップ様、マティアス様! ご無事でしょうか!」

 ヴィッテ部隊長の焦った呼びかけが耳に届いた。

「大丈夫! ただ、どうやってベールを被せるかが問題だよ」

 あんな攻撃を放ってくるようでは、碌に近づけない。魔法陣魔法で相殺できるのか……試してみよう。

「皆、炎弾を放って黒い塊を消せるか試してみるから、危なくないようにちょっと下がってて!」

 ノルネア様から視線を逸らさずにそう告げると、俺の横に三人の人物がやってきた。フレディ、ヴィッテ部隊長、パトリスだ。

「護衛は主人を矢面に立たせるなんてことしません」
「そうですよ。フィリップ様をお守りするために同行しているんですから」
「あの塊は剣で切れないのでしょうか」

 一人で立ち向かおうとしていたところに三人が来てくれて、安心感から変に入っていた力が抜けた。

「皆……ありがとう」
「当然です」
「じゃあ、また近づいてみよう。相殺できないことも考えて、避けながら魔法を放つよ」

 その言葉に三人が頷いてくれたところで、俺たちはノルネア様に向かって足を踏み出した。
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