目立ちたくないので転生特典は魔力ゼロでお願いしますっ!

ヒタク

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三話 魔法の儀終了って私、まだやっていないんですがっ

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 メアリーが今いる場所は大聖堂と呼ばれる場所。天窓から光が差し込み、厳かな雰囲気が漂うその場所にメアリーを含めた多くの子供たちが集められていた。

 メアリーが真理の意識を取り戻してひと月――真理が地球で暮らしていた時とほとんど同じ三十日でひと月だった――が経った今日。とうとう魔法の儀を行う日となっていたのだ。

『緊張せずに落ち着いて魔法の儀を行えば大丈夫よ』

 シスターがメアリーに優しくかけてくれた言葉を思い出すが、正直メアリーは気が気でならなかった。

(ど、どうしよう……。このままだと絶対に騒がれるよ……!)

 シスターから魔力を持っていないことはありえない――別名、厄介の種――ということを教わったメアリーは今日まで何とかして魔法の儀までに魔力を手に入れられるよう試行錯誤してきた。
 魔力は本を読めば身につくとエレナに言われた時は孤児院にあった本を手あたり次第持ってきてはエレナ達に読んでほしいとせがんだ。あまりにも続けるものだから、読むだけならある程度可能になってしまったぐらいだ。

 ……今思えばエドガーがこちらを信じられないとでも言うかのような顔で見ていたことから考えるに魔力とは関係がなかったかもしれないが。

 他にも魔力を増やすために草むしりをしないといけないと言われれば喜んで草むしりを行い、買い物の手伝いをしなければならないと言われれば勇んで買い物かごを持って孤児院の子供についていった。

(あれ……? もしかして、私って単に行儀のよい子供になっていたんじゃ……!)

 一瞬、頭によぎったシスターの笑みに黒いものが見えた気がするが、首を振って全力でなかったことにした。そもそも、明らかに肉体に精神が引きずられていたのを感じ、愕然とする思いだった。
 突然、メアリーの前にいた子供が後ろに下がってきたためにぶつかってきた。

「え、あ……」

 思わず、声を漏らして尻もちをついてしまったメアリーをつまらなさそうに薄い水色の髪を持った子供が振り返って見ていた。

「どんくさいやつめ。邪魔だ、そこをどけ」

「む……」

 ぶつかってきたのは向こうであるにもかかわらず、横柄な言葉を投げられたことで内心嫌な気分になったメアリー。しかし、目の前にいるその子供の顔を見たことで悪感情は薄れた。
 大聖堂に集められた子供はメアリーと同年代ばかり。つまりは十歳ほどの子供たちだ。そんな小さな子供が小生意気な態度をとっている。それはまるで――

「……威嚇する子猫みたい」

「コネコとやらはなんだ?」

 メアリーの口から漏れた言葉に反応する子供。さっきまでの横柄な態度は身を潜め、首を傾げていた。
 どうやら、猫はこの世界にはいないらしい。
 目の前の子供が取る態度から、自分の好む動物がいないことを理解し、少しメアリーは表情を暗くした。

「フォルカー様。また女性を悲しませるようなことを言ったのですか?」

 メアリーの後ろから、優しく諭すような声が聞こえてきた。
 その言葉による影響か、メアリーの目の前にいる子供が露骨にうろたえ始める。

「わ、私はそんなこと決して言っていないぞ! な、なあ、そうだよな?」

 突如、メアリーに同意を求める子供――フォルカー。
 あまりにも態度を変えるものだから、ついメアリーは笑いをこらえられず、息を漏らしてしまった。

「何を笑っているのだ!」

「……言っているそばからそのような物言いを」

「ち、違う! これは、こいつが……」

 フォルカーの言葉を聞きとがめる青年。その言葉を聞き、またもやフォルカーは必死に否定する。
 どうやら本当に頭が上がらないらしい。

「まことに申し訳ありません。私はフォルカー様の従者をしておりますユダと申します。どうぞ、おつかまりください」

 フォルカーに声をかけていた青年がメアリーに向かって手を差し伸べた。
 柔らかな笑みを薄っすらと浮かべ、いかにも優しそうな印象を人に与える人物だとメアリーは感じた。

――しかし、その表情がどこか嘘めいているようにもメアリーには感じられた。

 自身の感じている感情を少しだけ訝しく思いながらも、メアリーは青年の手を取ろうと自身の手を伸ばし――

「いたっ」

 突如、静電気が走ったかのような痛みに声を漏らした。

「どうしましたか?」

 メアリーの様子を見たユダが声をかけた。
 その表情にはこちらを心配するような色しか見て取れない。どうやら、メアリーの覚えた違和感には気づかれていないようだった。

(あれ……? 今の一体何だったの?)

 先ほどは静電気のように感じもしたが、どうもおかしかった。何せ、その痛みはメアリーの手を通して、身体の中に入っていくような不思議な感覚を覚えたのだから。

「いえ、大丈夫です」

 ひとまず、返事をするとメアリーは一人で立ち上がった。

「それなら一安心しました。……さて、フォルカー様。そろそろ移動しますよ。貴方は将来の部下となる者を見定めなければならないのですから、魔法の儀がよく見える場所に行かなければ」

「……ああ、わかっているさ」

 ユダの言葉にぶっきらぼうに返すフォルカー。
 相当に行きたくないと感じているのか、その顔は苦渋に満ちていた。

「……すまなかったな。それと……お前も気を付けておけよ」

「……え?」

 一体何に気を付ければよいのか、そう聞き返そうとした時にはすでにフォルカーはユダを伴って魔法の儀を受けようとしている子供たちの前へ移動してしまっていた。

(何だったんだろう、さっきの言葉……)

 フォルカーの言葉に一抹の不安を感じながらも、メアリーは改めて意識を入れ替えることにした。

(気にしていても仕方がない! ……それよりも、どうやって魔力を誤魔化そうかな……)

 先の不安よりも、目先の不安の方がよほど深刻に感じられるメアリーだった。


         ◇


「――あなたの属性は火のようです。魔力は人並みよりも少し多いようですね。今後とも精進なさい」

 神官のような恰好をした人物からそう告げられた子供は無邪気に喜んでいる。嬉しさのあまりにメアリーのいる場所へ走って移動し、一緒に来たのだろう仲間とはしゃいでいる。
 その右へ左へ動き回る様子は赤色の髪と小さな体格が相まって、まるで火の粉が跳ねているようだった。

(なるほど。髪の色には魔力の大小だけじゃなくて、属性も現れるんだ)

 今まで見てきた子供たちが髪の色に従った属性を持っていたことから、メアリーはそう判断した。
 基本となる属性は全部で五つあり、火・土・金・水・木となっているらしい。
 先ほど見たような赤色の髪であれば火。茶色の髪であれば土。金色の髪であれば金。青色の髪であれば水。緑色の髪であれば木といった感じで髪色に属性が現れているようだ。

 神官が始めに説明していたが、炎・岩・鉄・氷・雷といった上位属性もあるようだが、ほとんど持つ者はいないらしい。今回の魔法の儀では既に二、三十人ほどの子供が受けたにもかかわらず、それらの属性を持っていた者は今のところまだ出てきていない。

 まだ魔法の儀を行っていない者にはフォルカーや貴族らしい煌びやかな服を着ている子供に出遅れてしまったメアリーと同じような子供が数人ほど。全部で十人も残っていない。

(もしかして、上位属性の人出ないんじゃ……)

 あまりにも上位属性が出てこないものだから、ついメアリーはそう考えた。

(二つ以上属性を持つ人も出ないのかなあ……)

 人が持つ属性は基本的に一つらしく、二つ以上の属性を持つ者もほとんどいないらしい。
 神官の話していた内容を裏付けるかのように今まで魔法の儀を受けてきた子供には属性を二つ以上持つ者はいなかった。

――突如、魔法の儀を受けていた子供たちにどよめきが起きた。

(え? 何が起こったの……?)

 驚くメアリーが自身の内へと向けていた思考から現実に戻ると、子供の壁の奥に金色の刺繍が一瞬だけ見えた。

「おめでとうございます。ザンニーニ様は火・雷の二重属性のようですな。更には保有している魔力も相当に高いようです。これだけの素質がおありならば、名門であるエイドス魔法学院も歓迎することでしょう。宮廷魔術師すら夢ではないですぞ」

 神官の言葉から、いつの間にか貴族組へと順番が移っていたことを理解した。
 周りから賞賛の言葉を受けているザンニーニと呼ばれた少年の上機嫌な声が聞こえてくる。

「ははは。皆、称賛はそこまでにしてくれ。……フォルカー様。私は貴方様のお目に適いましたでしょうか」

「…………」

 ザンニーニの言葉を受け、フォルカーは黙っているようだ。
 先ほどのように打てば響くような反応をしていたフォルカーの様子とは全く異なり、メアリーは違和感を強く覚えた。
 しかし、そんな様子はザンニーニにとっては全く考慮に値しなかったらしい。フォルカーの様子を肯定と取ったのか、嬉しそうに「これからよろしくお願いします」といった言葉を繰り返しているのが聞こえてくる。

「さて、いよいよお次は殿下の番ですぞ」

「……ああ」

 神官がフォルカーに魔法の儀を受けるように促した。

(もうさっきの……フォルカーの番になっているんだ。どんな感じなのかな)

 メアリーは先ほどまでの魔法の儀をまともに見ることが出来ていなかった。ただでさえ、多くの子供がこの大聖堂に集まっているというのに、メアリーの身長は周りの子供と比べて小さかったためだ。
 メアリーと比べると周りの子供の方が体格も大きかったために無理やり前に出ることも出来ず、魔法の儀を行っているのであろう場所すら見ることが出来ていなかった。

(うーん……。どうにかして、前を見ることが出来ないのかな……)

 背伸びをしてみたり、飛び跳ねてみたりしたものの、魔法の儀をまともに見られそうになかった。

(あれ? 一瞬だけ、水晶みたいなものが見えた気がする……!)

 飛び跳ねた時にちらと見ることが出来た光景。そこにはフォルカーが神官の前に置かれた水晶に手を当てる様子だった。
 どうやら、あの水晶に手を当てて魔法の儀を行うらしい。

(どんな感じになるのかな……)

 結局詳しい様子は見られずじまいだったために何とかもっとよく見られないものかと、メアリーはつい目に力を込めた。

――すると、目の前に円形の光輪が表れ、メアリーの視界に占められていた子供の壁が光輪の場所だけ消え失せた。先には飛び跳ねた時に見えたフォルカーの様子が映っていた。

 まるで、円形のテレビ画面が投影されたかのような光景だった。
 不思議な現象にメアリーは周りを見回したが、メアリーの前に現れている光輪に気が付いている者は誰もいないようだった。

「では、殿下。水晶に手をかざしてください」

 無色の水晶の中には小さな白色の光が舞うように動いている。その水晶に神官の指示に従ったフォルカーが自身の手をかざした。
 変化は一瞬だった。
 水晶の中に舞っていた光がフォルカーの手に吸い込まれるように動いたかと思うと――急激に強い光を発した。

「う、うわっ」

 思わず、声を漏らしたメアリー。同時に先ほどまで見えていた光輪も消え失せた。
 しかし、フォルカーの魔法の儀はまだ見ることが出来ていた。何しろ、光が大聖堂に満ちるかと思われるほど強く輝いていたのだから。

「す、素晴らしい……」

 さすがの光にフォルカーも手を水晶から離したのだろう。
 光が収まってからたっぷり五、六秒は経った時に神官が感極まったかのような声を漏らした。

「これほどの魔力をお持ちとは……。今まで見てきた中で最も多くの魔力をお持ちのようです……」

 未だに興奮が抑えられないのか、神官の声には熱がこもっている。

「さすがです、フォルカー様。まさしく私が仕えるにふさわしい高貴なお方だ」

 ザンニーニもまた興奮気味に神官に続く。
 なかなか二人の興奮は収まらないのか、その後もフォルカーに対する賛美が繰り返された。

「……私の属性はどうなんだ?」

 いい加減、聞き飽きたのかもしれない。
 フォルカーが口にした言葉には少し怒りが込められているとメアリーには感じられた。

「そ、そうですな。全く、恥ずかしい限りです。まさか、私めが魔法の儀でこうまで――」

「御託はいい。それより、どうなんだ?」

 なおも繰り返されそうだった神官の言葉を遮り、フォルカーが続きを促した。

「か、かしこまりました。……殿下の属性はおそらく多重属性だと思われます。しかし、あまりにも強烈な光だったが故に属性の判断がつけられませんでした」

「……そうか」

 あまりに強い光であったことはフォルカーも分かっていたのだろう。神官の言葉を特に非難することもなく、一言返した。

「で、ですが、属性は実際に魔法を使ってみればすぐに分かるものです! 幸い、魔法の儀を終えた者は魔法を解禁されます。殿下には実際に魔法を使って自身の属性を把握していただきたいと考えております」

 慌てたように続けた神官の言葉にフォルカーは何も返さなかった。

「フォルカー様。早速城に戻り、魔法を試してみましょう。国王様もフォルカー様の魔法の儀を楽しみにしておられましたから、報告も兼ねて早く帰るといたしましょうぞ。……神官長、もう全ての者の魔法の儀は終わったのだろう。私たちは帰るが、構わないな?」

(……え? 魔法の儀が終わった?)

 ザンニーニの言葉に嫌な予感がよぎるメアリー。

「え、ええ。そうですな。もう魔法の儀は完了いたしました。この後は軽く魔法について説明を行うつもりでしたが、殿下たちには不要でしょう。お戻りになられても構いません。……殿下たちを除いた皆はまだ帰ることのないように。これから魔法についての簡単な説明を行う。こちらへ来なさい」

(ええええ! 私、まだ魔法の儀受けてないよ!)

 どうやらメアリーの勘違いではなかったらしい。ザンニーニの言葉を受けた神官は魔法の儀を終了させようとしているようで子供たちを移動させ始めている。
 子供たちの壁が崩れ始め、いよいよ移動し始めた時、焦ったメアリーは口を開いた。

「ま、待って! 私、まだ魔法の儀をやっていないです! 私に魔法の儀を受けさせてください!」

 大きな声を出すものだから、周りの視線がメアリーに集中した。その視線を受けたメアリーはようやく自身の口から思わず出てしまった言葉に気が付き――

(どどど、どうしよう! まだ、魔力を誤魔化す方法考えてないのにぃいいいいい)

 心の中で大いに焦りを強めていくのだった。
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