目立ちたくないので転生特典は魔力ゼロでお願いしますっ!

ヒタク

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十四話 ギルドのSランクより上って冗談ですよね?

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「……さて、どうしようかな」

 メアリーは呟いた。
 部屋の中にはメアリーただ一人。
 フォルカーから王宮魔術師のところに行くとよいと言われた訳ではあるが、そもそも場所を知らなかった。

(でも、マーシャに頼りきりってのもなんだかなあ……)

 おそらくというか、ほぼ確実にマーシャに頼めば、いつの間にか王宮魔術師のところにたどり着いているのだろう。
 しかし、それでは城のどこに何があるといったことが全く分からないままだ。

(……フォルカーも王宮魔術師がどこにいるか教えてくれても良かったのに。……いや、マーシャの圧力を受けていたのかもだけど)

 今考えてみると部屋の扉がほんの少しだけ開いたり閉じたりしていたような気がする。

(いやいやいやいや。マーシャにはしばらく離れていてって言ったわけだし、きっとそこにはいなかったに違いないって。……いなかったよね?)

 何となく、何となくだがフォルカーの行く先を祈ってみるメアリー。

(――ってこんなことしている場合じゃなかった! ……やっぱり、マーシャに聞くしかないのかなあ)

 メアリーのことを色々と世話したがっているのは分かるのだが、その世話のレベルが色々とおかしいレベルだったが故にあまり気乗りしなかった。

(ああ、そうか! 別にそのまま一瞬で連れて行ってもらうんじゃなくて、私が分かるぐらいの速さで移動してもらえばいいんだっ! そうすれば城の中も把握できるよねっ!)

 そう考えたメアリーは早速マーシャを呼び、一緒に連れて行ってもらうように伝えた。
 一瞬ではなく、あくまでメアリーが認識できるレベルという条件を付けて。
 そして、それがメアリーの失敗だと気付くのはすぐのことだった。


         ◇


「むむむ無理ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

「ご冗談をメアリー様。ただ軽く移動しているだけではないですか」

 メアリーに一緒に移動してもらうようお願いされたマーシャだがそれはもう喜んだ。
 無表情ながらにその喜びようがメアリーにも伝わってきて、メアリーは少しだけ言ってよかったかな、なんて思ったぐらいだ。

 しかし、それが引き金となったのだろう。
 マーシャはメアリーを背負うとすさまじい速さで移動を始めた。
 そう、メアリーが認識できるギリギリ・・・・の速さで。

「速い速い速いってばあぁああああああああ! いつになったら着くの、もう着いてもおかしくないでしょ、この速さありえないでしょぉおおおおおおおおおお」

 さながらジェットコースターのような速さで移動するマーシャ。
 ただでさえ、苦手な絶叫系に乗るような状況になっていることに加え、メアリー自身が小柄であることも加わるのか、体感速度はなおのこと速かった。

「おや? ……すみません、メアリー様。王宮魔術師のいる場所を過ぎてしまいました。申し訳ないですが、もう一周周りますね」

「勘弁してよぉおおおおおおおおおおお」

 そして、更に何周か回ってようやく着いた時にはメアリーは立ち上がることも出来ず、ただ地面に寝転がって地面の冷たさを頬で感じる羽目になっていた。

「……地面が動かないって幸せ……」

「…………じゅるり」

 その場で唾を飲むメイドの姿は幸いというべきか、不幸というべきか、メアリーが気づくことはなかった。


         ◇


「お主がサルバトーレの倅が言っておった現人神かの」

 メアリーが王宮魔術師のいるという部屋の扉を開けた瞬間、まるでタイミングを見計らったかのように声をかけられた。

「え、あ、はい」

 前を見るとそこにいたのは腰の曲がった白髪の老人。
 いかにも魔法使いが持っていそうな先がねじれた杖を手に持っていた。

(お、おお! すごい魔法使いっぽい!)

 その姿ぶりが漫画やゲームで見た魔法使いを髣髴とさせ、メアリーは思わず感動してしまった。

「よくぞ、この老人の元へ参られた。儂はパステル。気軽にパステル爺とでも呼んでくだされ。……さあ、こちらへかけなさい」

 パステルがメアリーを部屋に置かれたソファへ案内した。

(うわあ……。随分と高そうだなあ……)

 恐る恐る座るメアリー。
 その様子を見届けたパステルが口を開いた。

「さて、マーシャはどこかな?」

「……へ?」

 聞かれた言葉の意味が分からず、呆けた声を漏らすメアリー。
 そんなメアリーにパステルは繰り返した。

「マーシャはどこにいるのか、と聞いておるのじゃ」

「え、えっと……」

(マーシャはさっきまで部屋の外にいた、よね?)

 そこまで考えたメアリーは扉の方を向く。
 しかし、そこにはメアリーの姿はなく――

「マーシャはそこかっ!」

 唐突にそんな言葉が聞こえたかと思うと扉の方へ向かっていく物体があった。パステルだった。
 そして、その物体は何もない空間をつかんだかと思うと――

「くたばれジジイ!」

「ぬほっ」

 突然、姿を現したマーシャによって叩き落され、変なうめき声をあげて床に伏した。

「え、えー……」

 目の前で繰り広げられた光景に思わず、呆然とするメアリー。
 視線をパステルの上に向けると、そこには先ほど一瞬だけ見えた怒りの形相からいつもの無表情へと戻ったマーシャがいた。

「……失礼を致しました、メアリー様」

「相も変わらず、きっついのお……。そんなんじゃから、男が寄り付かないんじゃ――ほげっ!」

 言い終わる前にマーシャから踏みつけられるパステル。
 そんな姿を見ていたメアリーはふと思うのだった。

(……ああ、そうか。フォルカーがジジイって言っていたのはこういう人だったから、なんだね……)

 マーシャに踏みつけられたパステルが妙に嬉しそうな笑みを浮かべていたのを極力見ないようにするメアリーだった。


         ◇


「さて、お主に魔法について話すとしようかの」

「…………はい」

 顔に靴の跡がくっきりついたパステルを前に何とかメアリーは言葉を引きずり出した。
 ちなみにマーシャはこの場にいてパステルの相手をすることが相当に嫌だったのか、足早にこの部屋から出ていった。

「魔法とは簡単に言ってしまえば、世界を改変し、事象を現実に映し出すことのことを言う」

「……事象を世界に?」

「うむ。まあ、世界を改変することは簡単にはいかなくての。手順が重要なのじゃ。型を用意し、そこに魔力を流し込んで事象を引き起こす、という手順がな」

(なるほど。……というか、随分としっかりと教えてくれるんだね。……顔の足跡がなければ、ちゃんとした人なんだろうけどなあ)

 メアリーの視線がパステルの顔の靴跡へ向けられるが、パステルはそれに気づくことなく話を続けた。

「例えば、火の魔法で言えば、呪文を唱えるということが世界に対して火の現象を引き起こすための型を用意することに値する。そして、その型に流し込む魔力によって、魔法という事象を現実に引き起こすのだ」

「ふーん」

(つまりは剣とかを作る際の型が詠唱で、そこに流し込む鉄が魔力ってことなのかな?)

 メアリーはパステルの話からそう判断した。
 そして、同時にあることに気が付いた。

「あれ? でも、マーシャって呪文を唱えていないですよ? ……さすがにあの速かったり、姿が消えていたりするのって魔法なんですよね……?」

「ふむ。そうじゃの。それは、あ奴が魔法の型を自身の中に持っているから呪文を必要とせんのじゃ」

「魔法の型を自身の中に持っている?」

(やっぱり、魔法陣を自分の中に持っているってことなのかな。……あれ? でも、魔法の型って言っているから微妙に違う?)

 パステルの言葉を自身の中に落とし込むメアリーだったが、微妙な言葉の差異に疑問を持った。

「そうじゃ。魔法の型というのは主に詠唱・魔法陣の二つがある。しかし、時々自身の強固な意志を持って魔法という現象を引き起こす者がおってな。そんな者の一人がマーシャだということじゃ。無論のこと、意思による魔法は詠唱も魔法陣も必要がないが故に傍目からは突然魔法を使うように見えることじゃろう。そして、大抵の意思による魔法は詠唱や魔法陣による魔法と比べて強力になるのじゃ」

「なるほど……」

(そうか。だからこそ、マーシャっていきなり姿が消えたり、何の予兆もなく移動したり出来たわけか)

「まあ、そのように意志による魔法は強力ではあるのじゃが、そもそも自身の属性に即した魔法しか引き起こせんし、何より、そのような魔法を使うことによって他の魔法を使うことが著しく難しくなってしまう。だからこそ、普通は意思による魔法など使いはせんの」

「ふーん。ちなみにマーシャってどんな魔法を使うの?」

 いつもいつもマーシャの行動に驚かされていたメアリーはパステルに聞いてみた。
 対するパステルは目を丸くし、小さくため息をついた後に口を開いた。

「……人が使える魔法というのは、本来他の人に教えるべきではないのじゃがの」

 しかし、と続けるパステル。

「マーシャならお主に伝えても怒ることはないじゃろう。……何より、伝えたら儂が怒られる可能性が高まるからの」

「ア、ハイ」

 パステルから伝えられた言葉はメアリーに聞くことを間違えたかな、と考えさせるに十分だった。

「マーシャが使える魔法は主に三つじゃ。意志による姿を消す魔法と移動する魔法。それに魔法陣による身体強化の魔法じゃな」

「あれ? 意外と少ないんですね」

(マーシャってもっと魔法を使えそうな気もしたんだけどなあ)

 メアリーがそう考えて言った言葉であったが、パステルは首を振った。

「……何を言っておるんじゃ。先ほど儂が言ったじゃろう。意志による魔法は他の魔法を使うことが著しく難しくなる、とな。正直言ってしまえば、マーシャが意志による魔法を二つも使えることすら異常なんじゃ。ましてや、魔法陣による魔法とはいえ、もう一つ魔法を使えるなど普通はありえないんじゃ」

「あ、ありえないんですか……」

「うむ。だからこそのSランクということじゃな」

「なるほど……、そんなにすごいんですね……」

(確かに姿を消せて移動をすることが出来る上に、身体を強化して相手に立ち向かうことが出来るなんて、相当に戦闘が強そうだもんね)

 メアリーが頷いていると、パステルが不思議そうにメアリーを見ていた。

「何をそこまで驚いているんじゃ?」

「え? だって、マーシャが改めてすごいんだなあって――」

「現人神であるお主なら、マーシャがどう戦っても勝ち目がないほどの強さを持つじゃろうに」

「…………え?」

 嘘でしょ、と信じられずに呟くメアリーを前にパステルが続けた。

「せっかく魔法について話したんじゃ。演習場へ行き、お主の力を確認してみようではないか」
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