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十五話 チート乙、私
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「さて、まずは小手調べといこうかの」
「ちょ、ちょっと待って!」
パステルに連れられて演習場に来たまでは良かった。
しかし、どうにもパステルが取ったメアリーとの位置がおかしい。思わずメアリーは声を上げた。
「……? どうしたのじゃ? 何かおかしなことでもあったかの?」
しかし、パステルは不思議そうに首を傾げるばかり。
「おかしいに決まっているでしょ! だって、私の魔法を見るはずなのに――どうして向かい合う必要があるの!」
草原が広がる演習場。そこに立つメアリーとパステルは間に数メートル開けて、向かい合っていた。
「何を言っておるのじゃ? 儂とお主が魔法を打ち合うのじゃから、当然の位置じゃろうに」
「いやいや、私、魔法を使えないから! いきなり打ち合うとか出来るわけがないからっ!」
必死にメアリーが伝える言葉はパステルにはどうも届いていないらしい。パステルは未だにわけが分からないといった様子だった。
「……それだけ見事な変身魔法を使っておるのじゃ。十分に魔法を使えるだろうに」
パステルがメアリーに返す。
(なんだかすごい勘違いをしていらっしゃる!? どうして、私が変身魔法を使えるなんてことになっているの!?)
メアリーが内心で騒いでいる様子を余裕と見たのか、メアリーに聞こえないぐらいの小さな声でパステルは呟いた。
「……もしや、儂を相手に手加減するような魔法を使うことが出来ない、とでも言うつもりか……?」
静かに、少しずつパステルの周りに空気が渦巻いていくのをメアリーは感じた。
(なんかすごい怒っているっぽいんですけどっ! 一体何がどうしてこんな怒っているっていうの!?)
未だに思考が落ち着かないメアリーを前にパステルは口を開いた。
「儂はこれでもバルバトス国では随一の魔法行使者であると自負しておる。そんな儂を相手に手加減など――生温いわっ!」
(え、えええええええええええええ)
メアリーの驚愕をよそにパステルが呪文の詠唱を始めた。
「――――」
その詠唱の早さは熟練の魔法使い――パステルの言葉を借りれば魔法行使者――ということだろうか。メアリーにはよく聞き取れないぐらいに早い。
メアリーの思考が落ち着いた時には既に詠唱が完了したのか、パステルの周りに集まっていた風がパステルの頭上に掲げられた手の上に大きな球体となって存在していた。
その球体は未だに周りから空気を吸い寄せているのか、周囲に存在していた草を千切ってその内部に取り込んでいる。人は吸い込まないように調整されているのか、パステルやメアリーを吸い込むことはない。それが余計にパステルの魔法に対する技量の高さをメアリーに感じさせた。
そして、今どこからか飛んできた岩をその内部に吸い込み――
一瞬で粉砕した。
「う、うっそぉ……」
「ほっほっほ。これでもまだ手加減する余裕があるというのかの? ……防げるものなら防いでみよ!」
好々爺然とした容貌を突如、崩したかと思うとパステルは腕を振り下ろした。
そして、その振り下ろした動きに合わせ、球体がメアリーの元へ飛んでいく。
――その巨大な存在は大きさに見合わない速度を持ってメアリーの元へ飛来した。
「ままま待って、待ってってばっ! ……ああもう、なんでもいいから何か壁的なもの出てきて!」
メアリーの言葉に反応したのか、メアリーの目の前に透明な壁が現れ――パステルの球体が触れた瞬間、ガラスが割れたような音を立てて消えた。
(あ、私、終わった)
諦めの境地に達したメアリーが目を閉じてしばらく。
「…………あれ?」
いつまでの来ない衝撃に疑問の声を漏らしながら目を開いた。
目の前にはつい先ほどまで存在していたはずの球体は存在しない。
ただ、荒れ果てた演習場が見えるばかり。
「…………」
そして、メアリーの方を驚愕の表情を浮かべながら見つめるパステルの姿もメアリーの目に入った。
「あ、あの……、一体何がどうしてこうなったの……?」
訳も分からないメアリーが呟くが、パステルは――
「……くくくっ、そうか、ここまで力の差があるというのかっ!」
何故か面白そうにそう言って笑うばかりだった。
(えー……。何が面白いって言うの……? というか、何が起こったのか教えてほしいんだけど……)
突然のパステルに驚くメアリーをよそにパステルはひとしきり笑った後、改めてメアリーに話しかけた。
「……すまんのう。現人神は魔法が効かないと文献に載っていることは知っておったんじゃが、一度試してみたくてのう。まさか、ここまで儂の魔法が効かないとはさすがに予想しておらなんだが、実に面白いものを見せてもらったわい」
「…………魔法が効かない……?」
「そうじゃ」
恐る恐る尋ねたメアリーの言葉にパステルは一言で肯定した。
(…………つ、つまり、私があれだけ焦ったのが意味なかったってこと……? ……ってそんなのないって!)
衝撃のあまり、メアリーは地面に膝をついた。
「す、すまんかった」
メアリーの様子にばつが悪くなったのか、謝るパステル。
そんなパステルにメアリーは叫んだ。
「すまんですむのなら、警察はいらないんだよっ!」
「……ほ?」
もっとも、パステルにその言葉の意味は全く伝わらなかったが。
◇
「ところで、どうして私が変身魔法を使えるなんて言っていたの?」
ようやく衝撃が抜けたメアリーがパステルに話しかけた。
パステルはメアリーの言葉を受け、不思議そうに首を傾げてから答える。
「……おかしなことを言いおるのう。お主がしているその姿が何よりの証拠だろうに」
「……え? 私の姿……?」
(そ、そんなに何かおかしなことでもあったのかな……?)
メアリーは思い返す。
多くの子供がいた魔法の儀目立つことがほとんどなかった自身のことを。いや、強いえて言えば他の子供はもう少し年齢が上だったために少しは目立っていたが、それでもおかしなことがあったとは考えられなかった。
(もしかして、髪のことかな……? でも、現人神って魔力が全くないから、黒髪って特におかしなことはないはずだよね?)
やはり、少し考えてもおかしなことはまるでない――
「そもそもお主の年齢が見た目通りならば、儂との会話へ簡単についていけるのはおかしいじゃろうが」
「……え」
(そ、そういうことかっ! よくよく考えたら私って五歳なんだよね。……それってよく考えなくても色々と受け答えが悪かったってことだよね)
愕然とするメアリー。
しかし、過ぎたことは仕方がない。
今は最善の行動を取るべきだろう。
メアリーはそう考え――
「えー? 私、パステル爺の言っていること全然分からないよ?」
「今更過ぎるじゃろう」
「ですよねー」
バッサリ切られていた。
(なんてこったい。そんな穴があったとは……! ……あれ? でも、今なら逆にパステルは私が変身魔法を使っているって思っているんだから、肯定しておけば変に騒がれないのでは?)
そこまで考えたメアリーはこほんと咳をついた。
「ふふふ。よくぞ、私の変身魔法を見破った。何を隠そう私は――」
「五歳、なんじゃろう?」
「そう、五歳……って、え?」
何を言っているか分からない。
そんな表情を浮かべたメアリーにパステルは言葉を続けた。
「お主の反応を見ておれば、さすがに分かるわい」
(マ、マジですか……)
またもや、膝をつくメアリー。
(ぐぬぬ。こ、こうなったらパステルを亡き者にするしか……)
黒い考えがメアリーをよぎる。
そして、ゆっくりと起き上がったメアリーにパステルが告げた。
「まあ、儂としてはそんなこと関係がないがのう。儂は早くお主に魔法を教えてマーシャのところに行きたいからのう」
「パステル爺、最高!」
実にあほらしい理由でメアリーを気にしないと言ってのけたパステルを、これまたあほな理由でメアリーがほめたたえた。
「よすのじゃ。……照れるからのう。それより、お主が魔法を使えないと言っておったが本当かの?」
「あー、うん。そうなんだと思う。……でも、さっき壁が出てきて、って言ったら壁っぽいのが出てきたんだよね」
メアリーは先ほどのことを思い出した。
あの時、確かにメアリーの前に透明な壁が出てきていた。もっとも一瞬で消え去りはしたが。
「ふむ。壁、かの。どうやって出したのか詳しく教えてくれんか」
「え……? なんでもいいから壁的なもの出てきて、みたいに言っただけだよ?」
「ほ? そ、そんな適当な言葉で魔法を使ったというのか?」
「た、たぶん……」
「……魔法は前言った通り、詠唱や魔法陣、意思が必要じゃ。どれもが、現象である魔法を引き起こすために必要不可欠なものとなっておる。……そんな魔法を適当な言葉で引き起こすとは……」
頭が痛いとでもいうかのようにパステルが額を抑えた。
「で、でも、私一応言葉言っているよ! だから、何もしていないわけじゃ……」
「何もしていないと同然じゃろうが! そんな適当な詠唱で魔法を使えるのならだれも苦労なんてせんわい!」
「ご、ごめんなさい」
パステルの剣幕に思わず、謝ってしまったメアリー。
「……いや、別によいわい。きっとそれが現人神の使う魔法の特徴なんじゃろうて」
(そういえば、フォルカーが言っていたっけ。原始の力を使う現人神は想像するだけで魔法を使えるって。……あれ? それってもしかしなくても言葉すらいらないんじゃ……?)
憔悴しているように見えるパステル。そこに更なる追撃をすることはしないようにしようとメアリーは考えた。
「そ、それより! ちゃんとした魔法ってどうやって使えばいいの? 私も使えるようになりたい!」
メアリーの言葉を受け、パステルは少し元気を取り戻したように見えた。
やはり、自身が培ってきた魔法を肯定されることは嬉しいのだろう。……否定したのはメアリー自身だったが。
「そうかそうか。それなら教えるとしようか」
「お願いします!」
「そうじゃのう。お主がどの属性を使えるのか分からんが、現人神ということもあるわけじゃし、見た目が分かりやすい火の魔法でも試してみるかの。幸い、外にいるから危険なこともないからのう」
そう言うとパステルは何やら呟き――指先に炎を出した。
「基本魔法と呼ばれる簡単なものじゃ。詠唱は『火よ、灯れ』じゃな。詠唱は正確な発音もそうじゃが、引き起こす事象を自身の中に思い描くことも重要じゃ」
(おおおお! 魔法、魔法だ! いや、さっきも見たけど、あんなすごそうなのじゃなくて、まずはこういうのからだよね! よしっ! やってみる――あれ?)
「では、やってみるといい。なに最初なんじゃから、失敗して当然じゃ。何度か繰り返して身に着けると――うむ? どうしたのじゃ?」
パステルの説明を聞いていたメアリーが何の反応も返さないことに疑問を感じたのだろう。パステルの視線がメアリーを見るため、下に向けられ――パステルは固まった。
「…………なんか、出来ちゃったみたい」
そう言って呟くメアリーの指先には火が灯っていた。
(詠唱する前に魔法が発動するとは……。考えるだけで発動するなんて、いくら何でもチートすぎるでしょ!)
心の中で叫ぶメアリー。そんなメアリーの前でゆっくりとパステルが崩れ落ちるのだった。
「ちょ、ちょっと待って!」
パステルに連れられて演習場に来たまでは良かった。
しかし、どうにもパステルが取ったメアリーとの位置がおかしい。思わずメアリーは声を上げた。
「……? どうしたのじゃ? 何かおかしなことでもあったかの?」
しかし、パステルは不思議そうに首を傾げるばかり。
「おかしいに決まっているでしょ! だって、私の魔法を見るはずなのに――どうして向かい合う必要があるの!」
草原が広がる演習場。そこに立つメアリーとパステルは間に数メートル開けて、向かい合っていた。
「何を言っておるのじゃ? 儂とお主が魔法を打ち合うのじゃから、当然の位置じゃろうに」
「いやいや、私、魔法を使えないから! いきなり打ち合うとか出来るわけがないからっ!」
必死にメアリーが伝える言葉はパステルにはどうも届いていないらしい。パステルは未だにわけが分からないといった様子だった。
「……それだけ見事な変身魔法を使っておるのじゃ。十分に魔法を使えるだろうに」
パステルがメアリーに返す。
(なんだかすごい勘違いをしていらっしゃる!? どうして、私が変身魔法を使えるなんてことになっているの!?)
メアリーが内心で騒いでいる様子を余裕と見たのか、メアリーに聞こえないぐらいの小さな声でパステルは呟いた。
「……もしや、儂を相手に手加減するような魔法を使うことが出来ない、とでも言うつもりか……?」
静かに、少しずつパステルの周りに空気が渦巻いていくのをメアリーは感じた。
(なんかすごい怒っているっぽいんですけどっ! 一体何がどうしてこんな怒っているっていうの!?)
未だに思考が落ち着かないメアリーを前にパステルは口を開いた。
「儂はこれでもバルバトス国では随一の魔法行使者であると自負しておる。そんな儂を相手に手加減など――生温いわっ!」
(え、えええええええええええええ)
メアリーの驚愕をよそにパステルが呪文の詠唱を始めた。
「――――」
その詠唱の早さは熟練の魔法使い――パステルの言葉を借りれば魔法行使者――ということだろうか。メアリーにはよく聞き取れないぐらいに早い。
メアリーの思考が落ち着いた時には既に詠唱が完了したのか、パステルの周りに集まっていた風がパステルの頭上に掲げられた手の上に大きな球体となって存在していた。
その球体は未だに周りから空気を吸い寄せているのか、周囲に存在していた草を千切ってその内部に取り込んでいる。人は吸い込まないように調整されているのか、パステルやメアリーを吸い込むことはない。それが余計にパステルの魔法に対する技量の高さをメアリーに感じさせた。
そして、今どこからか飛んできた岩をその内部に吸い込み――
一瞬で粉砕した。
「う、うっそぉ……」
「ほっほっほ。これでもまだ手加減する余裕があるというのかの? ……防げるものなら防いでみよ!」
好々爺然とした容貌を突如、崩したかと思うとパステルは腕を振り下ろした。
そして、その振り下ろした動きに合わせ、球体がメアリーの元へ飛んでいく。
――その巨大な存在は大きさに見合わない速度を持ってメアリーの元へ飛来した。
「ままま待って、待ってってばっ! ……ああもう、なんでもいいから何か壁的なもの出てきて!」
メアリーの言葉に反応したのか、メアリーの目の前に透明な壁が現れ――パステルの球体が触れた瞬間、ガラスが割れたような音を立てて消えた。
(あ、私、終わった)
諦めの境地に達したメアリーが目を閉じてしばらく。
「…………あれ?」
いつまでの来ない衝撃に疑問の声を漏らしながら目を開いた。
目の前にはつい先ほどまで存在していたはずの球体は存在しない。
ただ、荒れ果てた演習場が見えるばかり。
「…………」
そして、メアリーの方を驚愕の表情を浮かべながら見つめるパステルの姿もメアリーの目に入った。
「あ、あの……、一体何がどうしてこうなったの……?」
訳も分からないメアリーが呟くが、パステルは――
「……くくくっ、そうか、ここまで力の差があるというのかっ!」
何故か面白そうにそう言って笑うばかりだった。
(えー……。何が面白いって言うの……? というか、何が起こったのか教えてほしいんだけど……)
突然のパステルに驚くメアリーをよそにパステルはひとしきり笑った後、改めてメアリーに話しかけた。
「……すまんのう。現人神は魔法が効かないと文献に載っていることは知っておったんじゃが、一度試してみたくてのう。まさか、ここまで儂の魔法が効かないとはさすがに予想しておらなんだが、実に面白いものを見せてもらったわい」
「…………魔法が効かない……?」
「そうじゃ」
恐る恐る尋ねたメアリーの言葉にパステルは一言で肯定した。
(…………つ、つまり、私があれだけ焦ったのが意味なかったってこと……? ……ってそんなのないって!)
衝撃のあまり、メアリーは地面に膝をついた。
「す、すまんかった」
メアリーの様子にばつが悪くなったのか、謝るパステル。
そんなパステルにメアリーは叫んだ。
「すまんですむのなら、警察はいらないんだよっ!」
「……ほ?」
もっとも、パステルにその言葉の意味は全く伝わらなかったが。
◇
「ところで、どうして私が変身魔法を使えるなんて言っていたの?」
ようやく衝撃が抜けたメアリーがパステルに話しかけた。
パステルはメアリーの言葉を受け、不思議そうに首を傾げてから答える。
「……おかしなことを言いおるのう。お主がしているその姿が何よりの証拠だろうに」
「……え? 私の姿……?」
(そ、そんなに何かおかしなことでもあったのかな……?)
メアリーは思い返す。
多くの子供がいた魔法の儀目立つことがほとんどなかった自身のことを。いや、強いえて言えば他の子供はもう少し年齢が上だったために少しは目立っていたが、それでもおかしなことがあったとは考えられなかった。
(もしかして、髪のことかな……? でも、現人神って魔力が全くないから、黒髪って特におかしなことはないはずだよね?)
やはり、少し考えてもおかしなことはまるでない――
「そもそもお主の年齢が見た目通りならば、儂との会話へ簡単についていけるのはおかしいじゃろうが」
「……え」
(そ、そういうことかっ! よくよく考えたら私って五歳なんだよね。……それってよく考えなくても色々と受け答えが悪かったってことだよね)
愕然とするメアリー。
しかし、過ぎたことは仕方がない。
今は最善の行動を取るべきだろう。
メアリーはそう考え――
「えー? 私、パステル爺の言っていること全然分からないよ?」
「今更過ぎるじゃろう」
「ですよねー」
バッサリ切られていた。
(なんてこったい。そんな穴があったとは……! ……あれ? でも、今なら逆にパステルは私が変身魔法を使っているって思っているんだから、肯定しておけば変に騒がれないのでは?)
そこまで考えたメアリーはこほんと咳をついた。
「ふふふ。よくぞ、私の変身魔法を見破った。何を隠そう私は――」
「五歳、なんじゃろう?」
「そう、五歳……って、え?」
何を言っているか分からない。
そんな表情を浮かべたメアリーにパステルは言葉を続けた。
「お主の反応を見ておれば、さすがに分かるわい」
(マ、マジですか……)
またもや、膝をつくメアリー。
(ぐぬぬ。こ、こうなったらパステルを亡き者にするしか……)
黒い考えがメアリーをよぎる。
そして、ゆっくりと起き上がったメアリーにパステルが告げた。
「まあ、儂としてはそんなこと関係がないがのう。儂は早くお主に魔法を教えてマーシャのところに行きたいからのう」
「パステル爺、最高!」
実にあほらしい理由でメアリーを気にしないと言ってのけたパステルを、これまたあほな理由でメアリーがほめたたえた。
「よすのじゃ。……照れるからのう。それより、お主が魔法を使えないと言っておったが本当かの?」
「あー、うん。そうなんだと思う。……でも、さっき壁が出てきて、って言ったら壁っぽいのが出てきたんだよね」
メアリーは先ほどのことを思い出した。
あの時、確かにメアリーの前に透明な壁が出てきていた。もっとも一瞬で消え去りはしたが。
「ふむ。壁、かの。どうやって出したのか詳しく教えてくれんか」
「え……? なんでもいいから壁的なもの出てきて、みたいに言っただけだよ?」
「ほ? そ、そんな適当な言葉で魔法を使ったというのか?」
「た、たぶん……」
「……魔法は前言った通り、詠唱や魔法陣、意思が必要じゃ。どれもが、現象である魔法を引き起こすために必要不可欠なものとなっておる。……そんな魔法を適当な言葉で引き起こすとは……」
頭が痛いとでもいうかのようにパステルが額を抑えた。
「で、でも、私一応言葉言っているよ! だから、何もしていないわけじゃ……」
「何もしていないと同然じゃろうが! そんな適当な詠唱で魔法を使えるのならだれも苦労なんてせんわい!」
「ご、ごめんなさい」
パステルの剣幕に思わず、謝ってしまったメアリー。
「……いや、別によいわい。きっとそれが現人神の使う魔法の特徴なんじゃろうて」
(そういえば、フォルカーが言っていたっけ。原始の力を使う現人神は想像するだけで魔法を使えるって。……あれ? それってもしかしなくても言葉すらいらないんじゃ……?)
憔悴しているように見えるパステル。そこに更なる追撃をすることはしないようにしようとメアリーは考えた。
「そ、それより! ちゃんとした魔法ってどうやって使えばいいの? 私も使えるようになりたい!」
メアリーの言葉を受け、パステルは少し元気を取り戻したように見えた。
やはり、自身が培ってきた魔法を肯定されることは嬉しいのだろう。……否定したのはメアリー自身だったが。
「そうかそうか。それなら教えるとしようか」
「お願いします!」
「そうじゃのう。お主がどの属性を使えるのか分からんが、現人神ということもあるわけじゃし、見た目が分かりやすい火の魔法でも試してみるかの。幸い、外にいるから危険なこともないからのう」
そう言うとパステルは何やら呟き――指先に炎を出した。
「基本魔法と呼ばれる簡単なものじゃ。詠唱は『火よ、灯れ』じゃな。詠唱は正確な発音もそうじゃが、引き起こす事象を自身の中に思い描くことも重要じゃ」
(おおおお! 魔法、魔法だ! いや、さっきも見たけど、あんなすごそうなのじゃなくて、まずはこういうのからだよね! よしっ! やってみる――あれ?)
「では、やってみるといい。なに最初なんじゃから、失敗して当然じゃ。何度か繰り返して身に着けると――うむ? どうしたのじゃ?」
パステルの説明を聞いていたメアリーが何の反応も返さないことに疑問を感じたのだろう。パステルの視線がメアリーを見るため、下に向けられ――パステルは固まった。
「…………なんか、出来ちゃったみたい」
そう言って呟くメアリーの指先には火が灯っていた。
(詠唱する前に魔法が発動するとは……。考えるだけで発動するなんて、いくら何でもチートすぎるでしょ!)
心の中で叫ぶメアリー。そんなメアリーの前でゆっくりとパステルが崩れ落ちるのだった。
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注意
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