ワールドオブスピリットオンライン ――相棒はいぬ――

ヒタク

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十八話 運否天賦 そして、必ずしも使えるとは限らない

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「あ、ヒカリちゃん!」

 ゲームにログインし、始まりの町に降り立った僕の側にいたらしいリーンが声をかけてきた。
 何故か顔をこわばらせているな。脳から出た信号をキャッチしてすぐさまゲームのアバターに反映するらしく、WOSOでは基本的に感情を隠すことは難しい。
 つまり、今リーンは顔をこわばらせるような感情を持っているという訳だが、一体どうしたというのだろうか。

「……ヒカリちゃん、怒ってない……?」

「……え?」

 どういうことだろうか。
 僕の訝しげな視線に気づいたのか、リーンが心底ほっとしたような息を吐いた。

「よかったー。阿部さんがあんなPT名つけちゃってたから、まだ怒ってるんじゃないかと思ったよ」

 それに昨日はあんなに怒ってたわけだしね。
 そう最後にリーンは付け足す。
 ……ああ。思いだした。

 阿部が付けたPT名「天使ちゃんと愉快な仲間達」が気に入らなかった僕は昨日リーンと阿部に怒ったんだったな。
 あまりに夢見が悪かったせいで忘れてしまっていた。
 思い出した現在、ふつふつと怒りが再燃し始めてるけど。

「そ、それより! 今日はどうしようか? 阿部さんは今日ログイン出来ないらしいから他の人誘って冒険行ったりする?」

 僕の顔を見たリーンが慌てた様子で言う。
 もしかして、顔に感情が出ちゃってたのかな。
 思わず僕は自身の顔を手で触ってみる。……うん。特に変わってない気がする。

「阿部は今日来ないのか」

「そうみたい。今日はどうする?」

「そうだな……。闘技大会のために少しでもレベル上げを――あ、いや、ちょっと待っててもらってもいいか? もう少ししたらミイがログインするんだ」

「ミイちゃん……? あれ? もしかして、その子ってキツネ娘の格好をしている子だったりする?」

 僕は驚いた。
 もしかして、リーンはミイのこと知っているのか。

「あ、ああ。リーンはミイのこと知ってるのか?」

「うん、知ってるよ。というか、知ってるも何も……」

 リーンが言葉を紡ぎきる前に僕達の側に召喚陣のような模様が現れ、光を放ち始める。
 これはプレイヤーがログインする時の描写だ。

「おっはよー。お姉ちゃん、さっき振り!」

 召喚陣から現れたミイが勢いよく僕に飛びついてくる。
 何気に勢いがあって危険と判断したのかいぬが間に割り入った。

「わふん!」

「うわっぷ」

 飛びつく相手が僕からいぬに変わり、ミイはいぬのもふもふに包まれた。
 飛びついたままミイはその場を動かない。……ふっ。いぬの魔性のもふもふにやられたようだな。

「やっぱりミイちゃんじゃない!」

 リーンがミイを見て大きな声を出した。
 その声に驚いたのか、ミイはいぬのもふもふから顔を出してリーンを見た。

「あれ? リーンちゃん?」

 どうやらミイもリーンを知っているようだ。
 本当に二人は知り合いだったんだな。

「どうしてリーンちゃんがここにいるの?」

「それは私のセリフだよ! ミイちゃんこそ、ヒカリちゃんと知り合いだったの?」

 リーンのセリフにミイは僕の方を向く。
 目が何かを訴えているのが分かる。
 ふむふむ。

「別に言ってもいいぞ」

「分かった! リーンちゃん! ヒカリお姉ちゃんは私のお姉ちゃんだよ!」

「え? あ、それってリアルのってこと?」

「そうそう!」

 リーンが僕の方を驚いたように目を丸くして見ている。
 本当ならリアルのことを伝えるのはまずいんだろうけど、なんとなくリーンなら大丈夫な気がした。
 ミイとリーンはお互い楽しそうに話している。
 手持無沙汰な僕はいぬのことを抱きしめた。

「わふ?」

「今は何も言わずに抱きしめられていてくれ……」

「わふ」

 ……寂しくなんか、ないやい。
 結局、二人が僕に気付くまで十分ぐらい僕はいぬのもふもふに包まれていた。


         ◇


「ごめんね、ヒカリちゃん」

「……別にいいさ」

 謝ってくるリーンにちょっとだけばつが悪くなった僕は顔を背けつつ答えた。
 背けた先にはミイがいた。
 そうだ。ちょうどいいし、ミイに渡しちゃおう。

「ミイ。トレードを申し込むから承諾してくれ」

「え、あ、うん。別にいいけど」

 僕がトレードを申し込んだことで現れたウインドウの承諾ボタンを少しだけ慌てながらもミイは押そうとして――目を見開いた。

「スキル取得券を二つも……! お姉ちゃん! こんなにもらっちゃって悪いよ!」

「別にいいさ。ミイのために取って来たんだからな」

 龍を倒すことによって二つ目のスキル取得券も手に入った。これならきっとミイもいいスキルを手に入れることが出来るだろう。

「でも……」

 ミイが頑なになっているのを見たためか、リーンが口を開いた。

「それならさ。一つずつ受け取って、いいスキルが手に入ったら受け取らないとかでいいんじゃないかな」

「そ、それなら……。でも、お姉ちゃん、本当にいいの?」

「もちろんだ」

 僕は頷いた。
 ミイのために取って来たんだから当然のことだ。……僕のご飯もきっとこれでマシなものになるに違いないなんてことは考えてないぞ。

「そ、それじゃあ使ってみるね」

 僕からスキル取得券を受け取ったミイが恐る恐るといった様子でスキル取得券を使用した。
 ミイの前にスロットが現れる。どうやらランダムにしたみたいだ。……また、変なスキルが手に入らなければいいんだけど。
 しばらく回転していたスロットの絵が止まる。
 そして、スキルを手に入れたらしいミイが笑顔になった。
 よしっ。いいアイテムが手に入ったみたいだな――大丈夫だよね、僕のご飯。

「お姉ちゃん! 本当にありがとう! 手に入ったのはスキル≪絆≫だって!」

「よさそうなスキル名じゃないか。どんな効果なんだ?」

「うん!」

 ミイが僕にスキル詳細を教えてくれた。


スキル名称:絆(ランク5)
扱い:パッシブスキル
効果:PTを組んでいる時に効果が発生する。
   PTメンバー及びフレンドに対し、
   全ステータス上昇効果(+3)を付与する。
   PTメンバーまたはフレンドがログインしている場合、
   自分自身にも全ステータス効果(+5)が発生する。
   効果はレベル上昇 によって変化することはない。
   ≪以下の効果についてはまだレベルが満たされていないため、
    情報の開示は行われません≫


「全ステータスが上昇するのか!」

「え、ミイちゃんの手に入れた≪絆≫って壊れスキルじゃないの……?」

 リーンが驚くのも無理はない。
 ミイが手に入れたスキルは予想以上の効果を持っていたからだ。
 WOSOでは正直言うとさほどステータスが上昇しないゲームだ。

 レベル10とレベル20で5点分の成長点のボーナスがあるとはいえ、通常のレベル1上昇するごとでは2点の成長点しか付与されない。
 しかし、ミイが手に入れたスキル≪絆≫の効果は凄まじい。何せPTメンバーの全ステータスが+3されるということは成長点にして21点分――レベル10上昇といっても他ならないのだから。まして、ミイ自身は35点分も手に入る。つまりはレベル15上昇分ということだ。

「本当にありがとう!」

 ミイが感謝の言葉を繰り返す。
 正直言ってミイとフレンド登録している僕にもうまみがあるスキルだ。
 でも、そんなことよりもミイが喜んでいるということ自体が僕は嬉しかった。

「ミイに喜んでもらえて良かったよ」

「それより、ミイちゃんはかなりいいスキル手に入れたみたいだけど、もう一個引くの?」

 リーンがミイに訊ねた。

「ううん。私はもういいよ。だから、お姉ちゃんが引いて」

「いや、僕が引くよりリーンが引くべきだろう。何せ、スキル取得券のうち一個はリーンからもらったものだしな」

 僕はリーンを見て言った。
 実際、今回手に入ったスキル取得券のうち一個は星熊を倒した時に手に入れたスキル取得券であり、リーンからもらったものだ。
 僕が使うよりもリーンが使うべきだろう。

「あはは。私はいいよ。私の分はヒカリちゃんにあげたんだし、ヒカリちゃんが使ってよ」

「いいのか……? 龍のアイテムも手に入らなかったんだし、リーンが使ってもいいんだぞ?」

 リーンと阿部は龍と戦っている途中でドロップアウトした。
 WOSOでは敵を倒した時に手に入るアイテムは、その場にいたプレイヤーかつダメージを与えたプレイヤーのみに手に入れることが出来る。
 つまりはリーンと阿部はアイテムを手に入れることが出来ていないわけだ。
 しかし、実際には僕一人で龍を倒すことなんか出来はしない。そのため、僕はリーンと阿部にアイテムを渡してあげたいと思っているのだ。

「別にいいよ。あ、でももしもらえるのなら素材アイテムを少し分けてもらえると嬉しいかな。装備を強化できるなら強化したいし」

「それぐらいならお安い御用だ。すぐに渡そう」

 言い終わると同時に僕はリーンに素材アイテムを渡す。
 水龍の鱗、水龍の爪に水龍の牙の三種類だ。ボスから手に入れたアイテムなだけあり、いずれも高ランクアイテムとなっている。
 きっと良質な武器や防具を作れるに違いない。
 僕は感謝の意味も込めて、持っている素材の半分をリーンに渡した。残り半分は阿部に渡すつもりだ。

「ありがとう。それじゃ、ヒカリちゃんもスキル取得券を使ってみたら?」

「そうだな。使ってみるか」

 リーンに促され、僕もスキル取得券を使うことにした。
 スキル取得券を使用したことで表示されたスキル一覧を眺めてみる。
 ……あまり取りたいスキルはないな。
 眺めていた僕はそう結論を出すと画面右下に出ていたランダムボタンを押した。
 先ほど見たミイの前に現れたスロットが僕の目の前にも現れる。
 さて、いいスキルが手に入るといいんだけど。
 僕の目の前でスロットが止まる。そして、手に入ったスキルは――

「≪獣人化≫?」

「おー! 私が持っているスキルと同じような名前じゃない! お姉ちゃん、どんなスキルなの?」

 僕の呟いたスキル名に反応したミイが訊いてくる。
 僕は手に入れたスキルの詳細を読んだ。


スキル名称:獣人化(ランク5)
扱い:アクティブスキル
効果:獣タイプのモンスター及びプレイヤーのみ使用可能。
   獣の姿を獣人へと変化させることが出来る。
   持続時間はレベルに応じて変化する。
   変化した獣人状態では各パラメータが2倍となる。
   また、獣人になることにより、獣の種族に応じた技能を使用可能となる。


「すごいじゃない! これを使えばいぬちゃんが大幅に強化されるわ! さすが私のスキルと似た名前なだけあるわね!」

 僕はいぬを見た。

「わう?」

 確かに獣タイプなのはいぬしかいない。
 しかし、いぬが獣人になるのか。
 獣人になるということは当然のことながらいぬの姿が変わってしまうということ。人に近付くことだよな。
 それってもしかして、いや、間違いなく――もふもふが減るということか。

「ミイ。僕はこのスキルはいらないよ」

「何でよ! かなり使えるスキルじゃない!」

「だって、いぬのもふもふが減るじゃないか!」

「え、あ、うん。……そうか、そうよね。それは問題だわ」

 いぬのもふもふに落されているミイが同意する。
 うん。分かってくれてうれしいよ、ミイ。

「何なの、この似たもの姉妹は……」

 呆れるように呟いたリーンの言葉が僕の耳を通り過ぎていくのだった。
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