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十九話 前戦PT そして、エクストラボスへの誘い
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「お姉ちゃん! 私はとんでもないことに気がついたよ!」
「急にどうしたんだ、ミイ?」
僕とミイがもふもふについて熱い談義を交わし、リーンに呆れられてからしばらく経った時、突然ミイがはっと目を見開き、そう言った。
「お姉ちゃんはさっき≪獣人化≫のスキルはいらないって言っていたよね」
「ああ。いぬのもふもふが減るんだ。いらないのは当然だろう」
「……ステータスを2倍にするなんてかなり強力なスキルなのに要らないんだ……」
隣でリーンが何やらぶつぶつと呟いているが僕は気にしない。ミイも気にしてない。
「確かに≪獣人化≫が使えないってのは私も同意するよ! でも、使えないスキルは使えないスキルで有効活用すればいいんだよ!」
「おお! でも、何か使えることってあったか? スキルを他人に渡せない以上、自分で使うしかないと思うんだが……」
「ふっふっふ。お姉ちゃんはWOSOの公式HPを見ていないのかな? というか、お姉ちゃんがその情報を知らない方が不思議なぐらいだよ!」
「何かあったか……?」
僕が知らないと不思議なこと?
何があっただろうか。
僕の顔を見て、ミイは笑った。そして、口を開く。
「それはスキル合成だよ! 要らないスキルがあるのなら要るスキルになるようにスキル合成しちゃえばいいんだよ!」
「おお!」
スキル合成。僕が――いや、僕達が水龍を倒したことによって解禁された新機能だ。確かに僕が知っていて不思議ではないな。
WOSOではエクストラスキルを除いたスキルを10個までしかスロットに装備できない。
しかし、手に入れることが出来るスキルは10個などという数に収まることはなく、それこそ無数に手に入る。……もちろん、制限はあるのだろうけれど、今までに制限に達するほどスキルを手に入れたという情報は出回っていない。
最も持っているスキルが多いと思われる人物は128個のスキルを手に入れているらしい。……それだけの数を一体どうやって手に入れたのか不思議でならないな。
まあ、そんなことはさておき。スキル合成についてだ。
新機能であるスキル合成は所持しているスキルを合成し、新たなスキルへと変化させることが出来る機能だ。合成にはスキルだけではなく、アイテムや条件が必要なこともあるが、合成して出来たスキルは強力なものばかりとのことだ。
もともとランク5である≪獣人化≫をスキル合成することが出来れば更なる強化を遂げるのは言うまでもない。
もしかするとランク6になるかもしれないな。……≪天使ちゃん≫以外の称号スキルが手に入るのなら天使ちゃんとか呼ばれることも減るかな。なんか最近僕を見てちょくちょく天使ちゃんなんて呼ぶ人がいるから嫌だったんだよな。
よし。さっそくスキル合成を使ってみようじゃないか。
僕は右手を振り下ろしてメインメニューを表示させるとスキル合成を選択した。
目の前にスキルを置く欄が現れる。どうやらここにスキルを置くことでスキル合成が出来るらしい。
早速≪獣人化≫を置いてみる。さて、どうなることやら――
――スキル≪獣人化≫を合成するための条件が整っておりません。条件を整えてから再度スキル合成をお試しください。
「…………」
僕は思わず、無言になった。
そうか。≪獣人化≫はスキル合成すら出来ないのか。
僕はミイの方を向く。どうやら、ミイも同じことを考えたらしい。
『≪獣人化≫って使えないスキルだね』
「本当にさっきからいい加減にしなさい、このもふもふ至上主義姉妹!」
僕とミイが合わせて言った言葉にリーンが鋭く突っ込むのだった。
◇
「それじゃあ、今日は狩りに行こっか」
リーンが言う。闘技大会のためにしばらくはレベル上げを中心に動きたいという僕の意見を取り入れてくれたが故の言葉だ。
「うーん……」
「どうしたんだ、ミイ?」
何故かミイが乗り気ではないみたいだ。
「狩りに行くのはいいんだけど……。でも、正直言ってこの近場じゃ、あまりレベルを上げることは出来ないんじゃない?」
「う……」
確かにミイの言うとおりだった。
僕達は第一線と言えるほどにはレベルは高くない。
しかし、準第一線といってもいいぐらいにはレベルが高かった。
つまり、始まりの町周辺である場所ではさほど経験値がもらえないということでもある。
そのため、本来なら次の町へと移動し、狩りも合わせて行うべきだ。しかし、そこには問題があった。
「でも、私達は『セカルド』へ移動するための通行許可証がないわよ?」
リーンが言う通り、僕達はボスを倒したPTにのみ手に入れることが出来るらしい通行許可証を誰一人として持っていなかった。
一応、PT内に一人でも通行許可証を持っている人がいれば町の移動は出来るらしいけれど、僕達のPTには一人も通行許可証を持っている人がいない。
ミイの言う通り、始まりの町周辺で狩りをするのは経験値的にはあまり美味しくないとはいえ、現状狩りが出来る場所がそもそもそこしかなかった。
……これは狩りよりも攻略を優先して『セカルド』へ移動してから狩りをするべきかな……。でも、ボスを倒すのは相当時間がかかりそうなんだよな……。
闘技大会まで後二日しかない。
時間はもったいないけれど、仕方がない、か。
「ミイ、リーン。やっぱり攻略を――」
「お、ようやく見つけました。本当に天使みたいな恰好をしているんですね」
突然、そんなことを言いながら僕に近付いてくる男性プレイヤーに言葉を遮られた。
「誰だ……?」
僕はそのプレイヤーを見る。
西洋風の整った顔立ちに金色の髪。それ自体はWOSOではさほど珍しくもないキャラメイクだ。だが、格好はなかなかお目にかかれないものだった。
そのプレイヤーは左右に刀を帯びており、背にまで大剣といっても過言ではない大きさの剣を背負っている。
正直その異様な姿を僕は見たことがない。しかし、その姿は知っていた。
「もしかして――」
リーンが気付いたかのように言いかけ、
「あ、あなたが『剣鬼』ですか!」
ミイの興奮するような声に被せられた。
「え、ええ。確かに私のことを『剣鬼』なんていう人達がいるみたいですね。……でも、少々恥ずかしいので『剣鬼』ではなく、プレイヤー名の『ルース』って呼んでください」
剣鬼――ルースは照れ臭そうに笑いながら言う。
……剣鬼なんてかっこいいのに。
「それより、ルースはどうして僕達に話しかけてきたんだ……?」
僕はルースに問いかけた。
実際、不思議でならなかった。確かに僕達は準第一線だ。普通ならそれだけでも十分に声をかけられる理由になるだろう。
しかし、だ。それはルースが僕達に話しかけてくる理由にはならない。なぜなら――ルースは第一線のプレイヤーに他ならないのだから。
「ははは。確かに私がいきなり話しかけてきたら、不思議に思うかもしれませんね。一応、これでも皆さんには第一線と認識されていますし」
ルースは笑って言う。そこに嫌みなどは一切なく、単に事実を述べているような言い方だった。
「私があなた達に、いえ――あなたに話しかけたのはお願いがあるからです」
突如、ルースは先ほどまで笑っていた顔を真剣な表情へと変えた。
「ヒカリさん、お願いです! エクストラボスに挑むため、あなたの力を貸してください!」
「ちょ、あ、頭を上げてくれ!」
急に目の前で頭を下げて力を貸してほしいと繰り返すルースに僕は慌てて声をかけた。
周りの人たちも何事かとこちらを見ているのが分かる。
――あいつ、何をしてるんだ?
――天使ちゃんに頭を下げている、だと!
――『剣鬼』さん、さすがっス! 公衆のど真ん中であんな羞恥プレイ!
――はあはあ。大天使ちゃん、はあはあ。
周りの人達もどんどんテンションが上がっているようだ。一部ここから逃げたい気持ちに僕をさせてくる人もいるみたいだが。……あれ、本当に逃げちゃダメ、かな。
「リーンちゃん。さっきの変態は見つけられた?」
「いえ、ミイちゃん。ごめんね。見つけられていないわ」
「そう……。でも、見つけたら――」
「ええ、見つけたら――」
『ブッチギル』
……あれ? おっかしいなー。なんだか身内にも豹変している人達がいるんだけど。僕、ここから逃げたいんだけど、ダメ?
「それで、どうでしょうか……?」
僕があまりにも返事をしなかったためだろうか。ルースが不安そうな顔をしながら訊ねてきた。
「と、とりあえず! 場所を移動しようじゃないか!」
僕はミイとリーンの意識を人間へと戻すために大きな声を出し、ミイとリーンを引っ張りながら人目が少ない場所へと移動を始めた。
「え、あ、はい。分かりました」
よく分からないという感じだったが、ルースがそれだけでついてきてくれて本当に助かった。
◇
「ふう。ようやく落ち着けそうだ。……さて、先ほどの話をもう一度聞かせてほしい。ああ、僕に力を貸してほしいというのは聞いてるから、どうして僕に力を借りなければならないかを教えてほしい」
はじまりの町の少し入り組んだ場所にある裏通りへ移動し、人目もまばらになって一息ついた僕は改めてルースに訊ねた。
「そうですね。いきなり力を貸してくれと言われても、すんなり納得してくれるわけがありませんよね。理由を説明します」
「ああ。そうしてくれ」
「私は、というより私達というべきですね。第一線と言われる私達は攻略を第一目標にしているプレイヤー集団である、ということは知っていますか?」
ルースが僕達を見まわしながら言う。
まあ、改めて言うことではないだろう。特にルースは有名だ。何せ――
「知ってる知ってる! そんな中でも『剣鬼』であるルースさんはソロにも関わらず、第一のボスを倒しているんですよね!」
ルースは興奮しながら言うミイの言葉を聞き、照れ臭そうに頭の後ろを掻いた。
「第一のボスってかなり耐久力があるって話を聞いたことがあるんだけど……」
「それだけじゃなかったはずだ。確か攻撃力も中ボスの熊達より高かったはずだ」
リーンの言葉に僕は補足した。
第一のボスが討伐されてからしばらく経った今、様々な情報が掲示板を通して得ることが出来ていた。
僕達が倒した額に月や星のマークがついていた熊。情報によると、あれらは総じて中ボスだったらしい。更に複数倒さないとボスも現れないとのことだ。一体を倒すのも時間がかかるというのに、複数倒す必要がある。このことが僕に第一のボスを倒すよりも近場で狩りをすることでレベル上げをした方がいい、と思わせていた理由だ。
「そうですね。ちょっと話を戻します。私達は攻略を目指しているわけなんですが、お互い協力して攻略をしているわけではありません。もちろん、中にはパーティー同士で協力しているところもありますが、少なくとも私は一人で攻略をしています」
「なんでまたそんなことを……。協力した方が早く攻略も進むじゃないですか」
リーンがそんなことを言う。
……全く、リーンは分かっていないな。攻略を一人でやる理由なんて決まっているじゃないか。
それはつまりかっこいい――
「見栄、ですよ」
…………ま、まあ、そんな理由もあるだろう。
「お姉ちゃん? 急に口笛なんか吹きだしてどうしたの?」
「な、なんでもない!」
「そう?」
ミイはさほど追求するつもりはないようでルースの方へ顔を向けた。
「見栄でどうして攻略を一人ですることになるんですか?」
「ははは。それを改めて言われると少々私も答えづらいですね。強いて言えばやはり一人での攻略は旨みが多いから、でしょうかね」
「でしょうかねって……」
ミイが呆れている。
ルースが言うように、一人で攻略をすることは旨みがあるのだろうとは思う。もちろん、その難易度は計り知れない。しかし、そもそもルースがそこに価値を見出していないことは明白だった。
「正直に言ってしまえばもう意地になっているところもあるんですよ。私の場合は他のゲームでもソロを貫いていたということも理由になっていますが」
「はあ……」
ミイが呆れたような声を洩らす。
憧れの『剣鬼』は大した理由もなく、ただソロでやっていたからという理由からソロでやっていたというのだ。ミイの態度も仕方がなかった。
「しかし、WOSOではソロでやっていくには随分と厳しい設定になっているようでして……」
急にルースの言葉が歯切れ悪くなる。
「実は私が見つけたエクストラボスに挑むためにはランク6の称号スキルを持つ者が二人以上必要なのです」
「なっ!?」
ルースの言葉に度肝を抜かれた。
エクストラボス。水龍と同じような敵がもう見つかったというのか。
「あれ? 私達はランク6の称号スキルを持っている人ってヒカリちゃんしかいないですよ?」
リーンが疑問に声を出す。
確かにそうだ。
エクストラボスに挑むために必要なランク6の称号スキルを持つ者が二人必要ということであれば、そもそも一人足りないじゃないか。
ランク6のスキルを持っている人自体、三貴神の三人と僕以外の名前を聞いたことがないというのに――
「ああ。それなら大丈夫ですよ。私も持っていますので」
さらりとルースは言う。
確かに第一線にソロでいるような男だ。持っていてもおかしくはないのかもしれない。
「それで、改めて聞きましょう。私と一緒にエクストラボスを倒しに来てくれませんか?」
「わんっ!」
ルースの言葉に今まで黙っていたいぬが返事をし、ルースを驚かせるのだった。
「急にどうしたんだ、ミイ?」
僕とミイがもふもふについて熱い談義を交わし、リーンに呆れられてからしばらく経った時、突然ミイがはっと目を見開き、そう言った。
「お姉ちゃんはさっき≪獣人化≫のスキルはいらないって言っていたよね」
「ああ。いぬのもふもふが減るんだ。いらないのは当然だろう」
「……ステータスを2倍にするなんてかなり強力なスキルなのに要らないんだ……」
隣でリーンが何やらぶつぶつと呟いているが僕は気にしない。ミイも気にしてない。
「確かに≪獣人化≫が使えないってのは私も同意するよ! でも、使えないスキルは使えないスキルで有効活用すればいいんだよ!」
「おお! でも、何か使えることってあったか? スキルを他人に渡せない以上、自分で使うしかないと思うんだが……」
「ふっふっふ。お姉ちゃんはWOSOの公式HPを見ていないのかな? というか、お姉ちゃんがその情報を知らない方が不思議なぐらいだよ!」
「何かあったか……?」
僕が知らないと不思議なこと?
何があっただろうか。
僕の顔を見て、ミイは笑った。そして、口を開く。
「それはスキル合成だよ! 要らないスキルがあるのなら要るスキルになるようにスキル合成しちゃえばいいんだよ!」
「おお!」
スキル合成。僕が――いや、僕達が水龍を倒したことによって解禁された新機能だ。確かに僕が知っていて不思議ではないな。
WOSOではエクストラスキルを除いたスキルを10個までしかスロットに装備できない。
しかし、手に入れることが出来るスキルは10個などという数に収まることはなく、それこそ無数に手に入る。……もちろん、制限はあるのだろうけれど、今までに制限に達するほどスキルを手に入れたという情報は出回っていない。
最も持っているスキルが多いと思われる人物は128個のスキルを手に入れているらしい。……それだけの数を一体どうやって手に入れたのか不思議でならないな。
まあ、そんなことはさておき。スキル合成についてだ。
新機能であるスキル合成は所持しているスキルを合成し、新たなスキルへと変化させることが出来る機能だ。合成にはスキルだけではなく、アイテムや条件が必要なこともあるが、合成して出来たスキルは強力なものばかりとのことだ。
もともとランク5である≪獣人化≫をスキル合成することが出来れば更なる強化を遂げるのは言うまでもない。
もしかするとランク6になるかもしれないな。……≪天使ちゃん≫以外の称号スキルが手に入るのなら天使ちゃんとか呼ばれることも減るかな。なんか最近僕を見てちょくちょく天使ちゃんなんて呼ぶ人がいるから嫌だったんだよな。
よし。さっそくスキル合成を使ってみようじゃないか。
僕は右手を振り下ろしてメインメニューを表示させるとスキル合成を選択した。
目の前にスキルを置く欄が現れる。どうやらここにスキルを置くことでスキル合成が出来るらしい。
早速≪獣人化≫を置いてみる。さて、どうなることやら――
――スキル≪獣人化≫を合成するための条件が整っておりません。条件を整えてから再度スキル合成をお試しください。
「…………」
僕は思わず、無言になった。
そうか。≪獣人化≫はスキル合成すら出来ないのか。
僕はミイの方を向く。どうやら、ミイも同じことを考えたらしい。
『≪獣人化≫って使えないスキルだね』
「本当にさっきからいい加減にしなさい、このもふもふ至上主義姉妹!」
僕とミイが合わせて言った言葉にリーンが鋭く突っ込むのだった。
◇
「それじゃあ、今日は狩りに行こっか」
リーンが言う。闘技大会のためにしばらくはレベル上げを中心に動きたいという僕の意見を取り入れてくれたが故の言葉だ。
「うーん……」
「どうしたんだ、ミイ?」
何故かミイが乗り気ではないみたいだ。
「狩りに行くのはいいんだけど……。でも、正直言ってこの近場じゃ、あまりレベルを上げることは出来ないんじゃない?」
「う……」
確かにミイの言うとおりだった。
僕達は第一線と言えるほどにはレベルは高くない。
しかし、準第一線といってもいいぐらいにはレベルが高かった。
つまり、始まりの町周辺である場所ではさほど経験値がもらえないということでもある。
そのため、本来なら次の町へと移動し、狩りも合わせて行うべきだ。しかし、そこには問題があった。
「でも、私達は『セカルド』へ移動するための通行許可証がないわよ?」
リーンが言う通り、僕達はボスを倒したPTにのみ手に入れることが出来るらしい通行許可証を誰一人として持っていなかった。
一応、PT内に一人でも通行許可証を持っている人がいれば町の移動は出来るらしいけれど、僕達のPTには一人も通行許可証を持っている人がいない。
ミイの言う通り、始まりの町周辺で狩りをするのは経験値的にはあまり美味しくないとはいえ、現状狩りが出来る場所がそもそもそこしかなかった。
……これは狩りよりも攻略を優先して『セカルド』へ移動してから狩りをするべきかな……。でも、ボスを倒すのは相当時間がかかりそうなんだよな……。
闘技大会まで後二日しかない。
時間はもったいないけれど、仕方がない、か。
「ミイ、リーン。やっぱり攻略を――」
「お、ようやく見つけました。本当に天使みたいな恰好をしているんですね」
突然、そんなことを言いながら僕に近付いてくる男性プレイヤーに言葉を遮られた。
「誰だ……?」
僕はそのプレイヤーを見る。
西洋風の整った顔立ちに金色の髪。それ自体はWOSOではさほど珍しくもないキャラメイクだ。だが、格好はなかなかお目にかかれないものだった。
そのプレイヤーは左右に刀を帯びており、背にまで大剣といっても過言ではない大きさの剣を背負っている。
正直その異様な姿を僕は見たことがない。しかし、その姿は知っていた。
「もしかして――」
リーンが気付いたかのように言いかけ、
「あ、あなたが『剣鬼』ですか!」
ミイの興奮するような声に被せられた。
「え、ええ。確かに私のことを『剣鬼』なんていう人達がいるみたいですね。……でも、少々恥ずかしいので『剣鬼』ではなく、プレイヤー名の『ルース』って呼んでください」
剣鬼――ルースは照れ臭そうに笑いながら言う。
……剣鬼なんてかっこいいのに。
「それより、ルースはどうして僕達に話しかけてきたんだ……?」
僕はルースに問いかけた。
実際、不思議でならなかった。確かに僕達は準第一線だ。普通ならそれだけでも十分に声をかけられる理由になるだろう。
しかし、だ。それはルースが僕達に話しかけてくる理由にはならない。なぜなら――ルースは第一線のプレイヤーに他ならないのだから。
「ははは。確かに私がいきなり話しかけてきたら、不思議に思うかもしれませんね。一応、これでも皆さんには第一線と認識されていますし」
ルースは笑って言う。そこに嫌みなどは一切なく、単に事実を述べているような言い方だった。
「私があなた達に、いえ――あなたに話しかけたのはお願いがあるからです」
突如、ルースは先ほどまで笑っていた顔を真剣な表情へと変えた。
「ヒカリさん、お願いです! エクストラボスに挑むため、あなたの力を貸してください!」
「ちょ、あ、頭を上げてくれ!」
急に目の前で頭を下げて力を貸してほしいと繰り返すルースに僕は慌てて声をかけた。
周りの人たちも何事かとこちらを見ているのが分かる。
――あいつ、何をしてるんだ?
――天使ちゃんに頭を下げている、だと!
――『剣鬼』さん、さすがっス! 公衆のど真ん中であんな羞恥プレイ!
――はあはあ。大天使ちゃん、はあはあ。
周りの人達もどんどんテンションが上がっているようだ。一部ここから逃げたい気持ちに僕をさせてくる人もいるみたいだが。……あれ、本当に逃げちゃダメ、かな。
「リーンちゃん。さっきの変態は見つけられた?」
「いえ、ミイちゃん。ごめんね。見つけられていないわ」
「そう……。でも、見つけたら――」
「ええ、見つけたら――」
『ブッチギル』
……あれ? おっかしいなー。なんだか身内にも豹変している人達がいるんだけど。僕、ここから逃げたいんだけど、ダメ?
「それで、どうでしょうか……?」
僕があまりにも返事をしなかったためだろうか。ルースが不安そうな顔をしながら訊ねてきた。
「と、とりあえず! 場所を移動しようじゃないか!」
僕はミイとリーンの意識を人間へと戻すために大きな声を出し、ミイとリーンを引っ張りながら人目が少ない場所へと移動を始めた。
「え、あ、はい。分かりました」
よく分からないという感じだったが、ルースがそれだけでついてきてくれて本当に助かった。
◇
「ふう。ようやく落ち着けそうだ。……さて、先ほどの話をもう一度聞かせてほしい。ああ、僕に力を貸してほしいというのは聞いてるから、どうして僕に力を借りなければならないかを教えてほしい」
はじまりの町の少し入り組んだ場所にある裏通りへ移動し、人目もまばらになって一息ついた僕は改めてルースに訊ねた。
「そうですね。いきなり力を貸してくれと言われても、すんなり納得してくれるわけがありませんよね。理由を説明します」
「ああ。そうしてくれ」
「私は、というより私達というべきですね。第一線と言われる私達は攻略を第一目標にしているプレイヤー集団である、ということは知っていますか?」
ルースが僕達を見まわしながら言う。
まあ、改めて言うことではないだろう。特にルースは有名だ。何せ――
「知ってる知ってる! そんな中でも『剣鬼』であるルースさんはソロにも関わらず、第一のボスを倒しているんですよね!」
ルースは興奮しながら言うミイの言葉を聞き、照れ臭そうに頭の後ろを掻いた。
「第一のボスってかなり耐久力があるって話を聞いたことがあるんだけど……」
「それだけじゃなかったはずだ。確か攻撃力も中ボスの熊達より高かったはずだ」
リーンの言葉に僕は補足した。
第一のボスが討伐されてからしばらく経った今、様々な情報が掲示板を通して得ることが出来ていた。
僕達が倒した額に月や星のマークがついていた熊。情報によると、あれらは総じて中ボスだったらしい。更に複数倒さないとボスも現れないとのことだ。一体を倒すのも時間がかかるというのに、複数倒す必要がある。このことが僕に第一のボスを倒すよりも近場で狩りをすることでレベル上げをした方がいい、と思わせていた理由だ。
「そうですね。ちょっと話を戻します。私達は攻略を目指しているわけなんですが、お互い協力して攻略をしているわけではありません。もちろん、中にはパーティー同士で協力しているところもありますが、少なくとも私は一人で攻略をしています」
「なんでまたそんなことを……。協力した方が早く攻略も進むじゃないですか」
リーンがそんなことを言う。
……全く、リーンは分かっていないな。攻略を一人でやる理由なんて決まっているじゃないか。
それはつまりかっこいい――
「見栄、ですよ」
…………ま、まあ、そんな理由もあるだろう。
「お姉ちゃん? 急に口笛なんか吹きだしてどうしたの?」
「な、なんでもない!」
「そう?」
ミイはさほど追求するつもりはないようでルースの方へ顔を向けた。
「見栄でどうして攻略を一人ですることになるんですか?」
「ははは。それを改めて言われると少々私も答えづらいですね。強いて言えばやはり一人での攻略は旨みが多いから、でしょうかね」
「でしょうかねって……」
ミイが呆れている。
ルースが言うように、一人で攻略をすることは旨みがあるのだろうとは思う。もちろん、その難易度は計り知れない。しかし、そもそもルースがそこに価値を見出していないことは明白だった。
「正直に言ってしまえばもう意地になっているところもあるんですよ。私の場合は他のゲームでもソロを貫いていたということも理由になっていますが」
「はあ……」
ミイが呆れたような声を洩らす。
憧れの『剣鬼』は大した理由もなく、ただソロでやっていたからという理由からソロでやっていたというのだ。ミイの態度も仕方がなかった。
「しかし、WOSOではソロでやっていくには随分と厳しい設定になっているようでして……」
急にルースの言葉が歯切れ悪くなる。
「実は私が見つけたエクストラボスに挑むためにはランク6の称号スキルを持つ者が二人以上必要なのです」
「なっ!?」
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エクストラボス。水龍と同じような敵がもう見つかったというのか。
「あれ? 私達はランク6の称号スキルを持っている人ってヒカリちゃんしかいないですよ?」
リーンが疑問に声を出す。
確かにそうだ。
エクストラボスに挑むために必要なランク6の称号スキルを持つ者が二人必要ということであれば、そもそも一人足りないじゃないか。
ランク6のスキルを持っている人自体、三貴神の三人と僕以外の名前を聞いたことがないというのに――
「ああ。それなら大丈夫ですよ。私も持っていますので」
さらりとルースは言う。
確かに第一線にソロでいるような男だ。持っていてもおかしくはないのかもしれない。
「それで、改めて聞きましょう。私と一緒にエクストラボスを倒しに来てくれませんか?」
「わんっ!」
ルースの言葉に今まで黙っていたいぬが返事をし、ルースを驚かせるのだった。
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