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三十四話 奇跡解放 そして、条件は満たされた
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「さっきのはなんなんだ?」
「システムメッセージが流れたわよね?」
「スサノオってやつが自分のスキルを使っただけだろ?」
「自分のスキルを使ったのならなんで獣魔がいないなんてシステムメッセージが流れるんだよ」
スサノオが≪ビーストテイマー≫のスキルを使ったことによって流れたシステムメッセージ。それはヒカリとスサノオの試合を見ていた観客たちにもまた流れていた。
「確かスキルって自分で手に入れたり、店で買ったりしないと入手出来ないんだよな。でも、使うために条件が必要なスキルって何かあったか?」
「私、ホームページにスキルを使うための条件は基本的にないって書かれてたの見たわよ」
「それならなんでスサノオは≪ビーストテイマー≫を使えないんだ」
「もしかして、≪ビーストテイマー≫は使うために特別な条件があるスキルなのか?」
「でも、天使ちゃんは≪ビーストテイマー≫を使っていただろ。それにあのスキルを初めて使った時のことを俺は知ってるけど、さっきスサノオが使ったときみたいに魔法陣が重なって召喚されるみたいだぞ」
目の前で起こった光景。それは本来なら起こらないはずの事象。今でこそ、観客に甘んじているが、彼らはWOSOを楽しんできたプレイヤーもしくはWOSOを楽しみたいと思って色々な情報を手に入れてきた者たち。そんな彼らがスサノオが使ったスキルの異常性に気づかないはずがなかった。
「そういえば掲示板でスサノオにスキル奪われたプレイヤーがいるとか聞いたことがあるな」
「あら? それ私のもふもふ掲示板にも書かれていたわよ? 本当にスキル奪われたプレイヤーなんて存在するの?」
「……実は俺のスキルも取られたんだ……。……返せ。返してくれ……! 俺の、俺の……≪お笑い≫スキル!」
「それは取られてもよかったんじゃない? というか、あんたの場合はあってもなくても変わらないわよ」
疑念は観客間で話をする度により強まり、次第に疑念は確信へ近づいていく。
そして、中には実際にスサノオによってスキルを奪われたプレイヤーも現れ、観客たちは確信する。すなわち、スサノオはプレイヤーのスキルを奪っているのだ、と。現在、戦っているヒカリのスキルである≪ビーストテイマー≫のスキルを奪ったのだと――
◇
「本当についてないぜ。お前から奪ったスキルがこんなにゴミスキルだったとはな」
スサノオは相も変わらず、僕から奪った≪ビーストテイマー≫のスキルをこき下ろしている。
僕はそんなスサノオを見て笑いがこみ上げてくるのを感じた。
それも当然のことだろう。
何せ、スサノオは僕から≪ビーストテイマー≫を奪っておきながら、いぬを奪えなかったために、10個しかないスキル欄を無駄にしているのだから。
それに加えてスサノオが≪ビーストテイマー≫をうまく扱えなかったということはもう一つスサノオの≪神喰狼≫の欠点があるということを示している。
「何を笑っているんだよ、お前」
僕を見たスサノオが不機嫌そうな顔を隠そうともせず、問いかけてきた。
「お前が奪ってきたスキルは僕や他のプレイヤーから奪ってきた借り物のスキルだ。うまく使えるわけがないだろう」
実際、僕のスキルは獣魔であるいぬがいなければ使えない。きっと他のスキルだってそうに違いない。
今、考えてみればスサノオが使っていた勇者ああああのスキルである≪勇者≫も見えない魔剣を使ってこなかった。いや、≪ビーストテイマー≫のことを考えれば使えなかったということなのだろう。
つまり、スサノオが奪ったスキルは持ち主に比べ、弱体化もしくは使えない効果があるということだ。そして、それが凶悪だと思われた≪神喰狼≫のスキルの大きな欠点だ。
……それでも凶悪なことには変わりがないけど。
「はっ、よく言うぜ。俺が手に入れたスキルなんだ。使えないわけがないだろうが。お前のスキルはたまたま条件が合わなかっただけだろうよ」
「そんなわけがない。本当にお前が奪ったスキルを十分に使えるのならば、僕のスキル以外にも勇者ああああが使っていたスキルもうまく使えていないだろう」
「……っ」
図星を突かれたのか、一瞬悔しそうに顔を歪めるスサノオ。
しかし、すぐに何か気づいたのか、顔を笑みの形へと変えた。
「……例え使えなかったとしても、それがどうしたっていうんだ。いくつか使えないスキルがあったとしてもお前らの自慢のスキルを持っているんだぜ? 俺の優位は変わらないだろうが。それに、どうせお前らが持っているスキルなんてランクの低いスキルばかりだろう? そんなお前らが高ランクのスキルをいくつか持っていても宝の持ち腐れだ。俺が有効活用してやった方がはるかに有意義な使い方だろうよ」
「ふざけるなっ! 僕たちから自分勝手にスキルを奪っておいて何を言っているんだ!」
「はあ? 奪われる奴が悪いだけだろ、そんなことは。それに前から言っているだろう? お前らは奪われる者で、俺は奪う者なんだってな。生まれた時からそんなルールは決まりきっているんだ。恨むのならそうなってしまった自分たちを恨めよ」
何を言っているんだ、こいつは。
いや、その言葉はきっと本気なんだろう。何せ、こうまで自分の行いを誇らしげに言うのだから。
これ以上、こいつと話をしても無駄だな。
僕はそう判断するとスサノオに対して取るべき行動を考え――
「それにしても、お前って犬のNPCに対して入れ込みすぎてんじゃねえの? ああ、もしかしてお前もあいつみたいに創作物の犬が好きとか言っちゃう奴だったりするわけか?」
「……お前には関係ないだろうが」
「あれ? マジでそうなのかよ。くくく、傑作だな、お前。それじゃあ、あれか。お前も幽霊女みたいな友情とか愛情とかそんなありえないものを信じちゃってる痛いやつってわけか! 本気で最高に面白いよ、お前」
今、こいつはなんて言った……?
幽霊女。そのあだ名はあいつしか言っていなかったはず。
もしかして、こいつは――秋月なのか。
「ははは。そういえばお前って幽霊女にそっくりだな。もしかして、本人だったりするのか?」
「…………」
姿をいじらなかったことを今になって後悔する羽目になるとは。
僕が黙っているのを見たスサノオは更に笑みを深めた。
「ははは。さすがにそれは違うか。あいつみたいな弱虫がこの俺に向かってくるわけがないしな。まあ、あいつだったら妹をまた拉致ってやれば――」
「――黙れ!」
スサノオの言葉に僕は反応を抑えることが出来なかった。
妹――美衣が秋月に浚われた時のことが頭によぎった。
もうあんなことは繰り返させない。美衣は誤魔化しているけれど、深く傷ついているのは違いないのだから。
「へえ? ああ、お前ってそうなんだ」
秋月――スサノオは僕のリアルに感づいたようだ。でも、それでも構わない。今はただ絶対にこいつを許せないという気持ちでいっぱいだった。
「ちっ、もっと早く知ってればお前の妹をまた拉致っておいたってのによ」
相変わらず下種だな、こいつは。
スサノオの言葉に僕は吐き気を覚えた。
しかし、今はお互いゲームにいるんだ。すぐにスサノオがミイに対して何かをすることは出来ないだろう。
「そうだ。一つ取引をしようぜ。今から使う俺の攻撃を何もせずに喰らったら、お前の妹に何もしないでおいてやるよ。加えて俺が奪ったスキルの≪ビーストテイマー≫もお前に返してやろう」
「なに……? それは本当なのか……?」
スサノオは僕を見て、いやらしく笑う。その笑みはまるで獲物を見つけた狩猟者のようだった。
「ああ。約束してやる。このまま何もしなくても俺の勝ちは決まってるんだ。いい取引だろう?」
そうだった。思い出した。こいつはこんな男だった。
自分が有利な時に相手に対して、少しでも希望を与えようとする。
しかし、それは全くの嘘でしかない。単に相手を絶望に落とすための余興がほしいなどと言っていたのを聞いたことがある。
つまり、今こいつが言っていたことはほぼ間違いなく嘘だ。
でも、それでも僕はまたミイをあんな目に合わせるなんてことは出来ない。それにクローズドベータが終わるまでとはいえ、いぬとまた会えるかもしれないんだ。嘘だとわかっていても本当に少しでも可能性があるのなら――
「…………分か――」
「――絶対に信じちゃ、ダメ!」
僕の言葉を遮るようにミイの言葉が響いた。
どうして、ミイが……?
そう僕が疑問に思った時、いつの間にかスサノオと僕の会話が個人チャットではなくなっていることに気が付いた。
驚いた僕はスサノオを見るが、スサノオは笑っている。
どうやらスサノオは意図的に個人チャットではなく、通常チャットを使っていたらしい。
「お姉ちゃんは私のことなんか気にしちゃダメ! 絶対にスサノオなんかに負けないで!」
ミイ……。
「あー、こいつは予想外だなあ。物分かりが悪いやつがいると本当に困るぜ」
スサノオはミイのいる方向を探しているのか周囲を見渡しながら言う。言葉とは裏腹にひどく楽しそうな声色だった。
「でも、お前は分かっているだろう? なあ、幽霊女。また前みたいなことにはなってほしくないだろう?」
「…………」
「くそ。だんまりかよ。まあ、いい。お前がどうなるかはお前自身の行動で分かるわけだからな。お前が賢い選択をしてくれることを期待してるぜ? 俺もこれでどんなスキルを奪えるか楽しみなんだからよ。……二度目の餌をとくと味わえ――≪神喰狼≫」
スサノオの放った≪神喰狼≫が僕に迫る。
このままスキルが当たればまた僕のスキルが奪われるのか。
もしかすると今度は≪天使ちゃん≫とか奪われるかもしれないな。スサノオは勇者ああああの称号スキルでさえ、奪っていたのだから。
「――お姉ちゃんが負けたら、いぬちゃんがいなくなっちゃうんだよ! いぬちゃんを消させないために絶対闘技大会で勝つって言ってたじゃない!」
――そうか。そうだったな。
ミイの言葉で目が覚めた。
スサノオの奴が約束なんて守るわけがない。今、僕が負ければいぬを永遠に失うことになるんだ。
僕は前を見据えた。
すぐ目の前に≪神喰狼≫が迫っている。
「≪ライトアロー≫!」
スサノオ自身に対しては意味がないこのスキルも≪神喰狼≫に対しては効果がある。しかし、すぐ目の前に迫った≪神喰狼≫が消えるまでには少し時間がかかる。そして、その時間は僕に当たるまでに十分すぎるだろう。
僕は魔法を放つとすぐに≪神喰狼≫から逃げた。
「うわっ――」
そして、背を向いて動いた瞬間、急に訪れた加速に驚いてしまい、空中で前のめりに回転してしまった。
――≪脱兎の心得≫がこんなところで……!
激しく動く目の前の景色を前に僕へ迫る≪神喰狼≫が見えた。
どうやら≪ライトアロー≫では耐久値を削り切れなかったらしい。
――あはは。せっかく、目が覚めたのに。
僕が諦めかけたその時、急に幾つかウインドウが現れ、回転しているうちに手が触れたのか一瞬で消えていく。
そして、現れたスキルを咄嗟に僕は発動した。
「≪人獣一体≫!」
同時に僕は≪神喰狼≫によって飲み込まれた。
◇
――プレイヤーヒカリに対して一定数のプレイヤーの感情値が一定レベルを超えました。
――これより、特別技能≪奇跡≫の使用が解放されます。
――プレイヤーヒカリの希望スキルを感知しました。特別技能≪奇跡≫によって≪ビーストテイマー≫を取得します。
――プレイヤーヒカリのスキル合成条件が整いました。
――≪スキル合成≫を行いますか?
――≪スキル合成≫を行います。
合成スキル:≪絆≫≪人獣化≫≪獣人化≫≪天使ちゃん≫
合成条件:称号スキルの技能≪奇跡≫を取得する。
友好度:100の魔獣が存在する。
合成結果:≪人獣一体≫
スキルランク:7
扱い:アクティブスキル
「システムメッセージが流れたわよね?」
「スサノオってやつが自分のスキルを使っただけだろ?」
「自分のスキルを使ったのならなんで獣魔がいないなんてシステムメッセージが流れるんだよ」
スサノオが≪ビーストテイマー≫のスキルを使ったことによって流れたシステムメッセージ。それはヒカリとスサノオの試合を見ていた観客たちにもまた流れていた。
「確かスキルって自分で手に入れたり、店で買ったりしないと入手出来ないんだよな。でも、使うために条件が必要なスキルって何かあったか?」
「私、ホームページにスキルを使うための条件は基本的にないって書かれてたの見たわよ」
「それならなんでスサノオは≪ビーストテイマー≫を使えないんだ」
「もしかして、≪ビーストテイマー≫は使うために特別な条件があるスキルなのか?」
「でも、天使ちゃんは≪ビーストテイマー≫を使っていただろ。それにあのスキルを初めて使った時のことを俺は知ってるけど、さっきスサノオが使ったときみたいに魔法陣が重なって召喚されるみたいだぞ」
目の前で起こった光景。それは本来なら起こらないはずの事象。今でこそ、観客に甘んじているが、彼らはWOSOを楽しんできたプレイヤーもしくはWOSOを楽しみたいと思って色々な情報を手に入れてきた者たち。そんな彼らがスサノオが使ったスキルの異常性に気づかないはずがなかった。
「そういえば掲示板でスサノオにスキル奪われたプレイヤーがいるとか聞いたことがあるな」
「あら? それ私のもふもふ掲示板にも書かれていたわよ? 本当にスキル奪われたプレイヤーなんて存在するの?」
「……実は俺のスキルも取られたんだ……。……返せ。返してくれ……! 俺の、俺の……≪お笑い≫スキル!」
「それは取られてもよかったんじゃない? というか、あんたの場合はあってもなくても変わらないわよ」
疑念は観客間で話をする度により強まり、次第に疑念は確信へ近づいていく。
そして、中には実際にスサノオによってスキルを奪われたプレイヤーも現れ、観客たちは確信する。すなわち、スサノオはプレイヤーのスキルを奪っているのだ、と。現在、戦っているヒカリのスキルである≪ビーストテイマー≫のスキルを奪ったのだと――
◇
「本当についてないぜ。お前から奪ったスキルがこんなにゴミスキルだったとはな」
スサノオは相も変わらず、僕から奪った≪ビーストテイマー≫のスキルをこき下ろしている。
僕はそんなスサノオを見て笑いがこみ上げてくるのを感じた。
それも当然のことだろう。
何せ、スサノオは僕から≪ビーストテイマー≫を奪っておきながら、いぬを奪えなかったために、10個しかないスキル欄を無駄にしているのだから。
それに加えてスサノオが≪ビーストテイマー≫をうまく扱えなかったということはもう一つスサノオの≪神喰狼≫の欠点があるということを示している。
「何を笑っているんだよ、お前」
僕を見たスサノオが不機嫌そうな顔を隠そうともせず、問いかけてきた。
「お前が奪ってきたスキルは僕や他のプレイヤーから奪ってきた借り物のスキルだ。うまく使えるわけがないだろう」
実際、僕のスキルは獣魔であるいぬがいなければ使えない。きっと他のスキルだってそうに違いない。
今、考えてみればスサノオが使っていた勇者ああああのスキルである≪勇者≫も見えない魔剣を使ってこなかった。いや、≪ビーストテイマー≫のことを考えれば使えなかったということなのだろう。
つまり、スサノオが奪ったスキルは持ち主に比べ、弱体化もしくは使えない効果があるということだ。そして、それが凶悪だと思われた≪神喰狼≫のスキルの大きな欠点だ。
……それでも凶悪なことには変わりがないけど。
「はっ、よく言うぜ。俺が手に入れたスキルなんだ。使えないわけがないだろうが。お前のスキルはたまたま条件が合わなかっただけだろうよ」
「そんなわけがない。本当にお前が奪ったスキルを十分に使えるのならば、僕のスキル以外にも勇者ああああが使っていたスキルもうまく使えていないだろう」
「……っ」
図星を突かれたのか、一瞬悔しそうに顔を歪めるスサノオ。
しかし、すぐに何か気づいたのか、顔を笑みの形へと変えた。
「……例え使えなかったとしても、それがどうしたっていうんだ。いくつか使えないスキルがあったとしてもお前らの自慢のスキルを持っているんだぜ? 俺の優位は変わらないだろうが。それに、どうせお前らが持っているスキルなんてランクの低いスキルばかりだろう? そんなお前らが高ランクのスキルをいくつか持っていても宝の持ち腐れだ。俺が有効活用してやった方がはるかに有意義な使い方だろうよ」
「ふざけるなっ! 僕たちから自分勝手にスキルを奪っておいて何を言っているんだ!」
「はあ? 奪われる奴が悪いだけだろ、そんなことは。それに前から言っているだろう? お前らは奪われる者で、俺は奪う者なんだってな。生まれた時からそんなルールは決まりきっているんだ。恨むのならそうなってしまった自分たちを恨めよ」
何を言っているんだ、こいつは。
いや、その言葉はきっと本気なんだろう。何せ、こうまで自分の行いを誇らしげに言うのだから。
これ以上、こいつと話をしても無駄だな。
僕はそう判断するとスサノオに対して取るべき行動を考え――
「それにしても、お前って犬のNPCに対して入れ込みすぎてんじゃねえの? ああ、もしかしてお前もあいつみたいに創作物の犬が好きとか言っちゃう奴だったりするわけか?」
「……お前には関係ないだろうが」
「あれ? マジでそうなのかよ。くくく、傑作だな、お前。それじゃあ、あれか。お前も幽霊女みたいな友情とか愛情とかそんなありえないものを信じちゃってる痛いやつってわけか! 本気で最高に面白いよ、お前」
今、こいつはなんて言った……?
幽霊女。そのあだ名はあいつしか言っていなかったはず。
もしかして、こいつは――秋月なのか。
「ははは。そういえばお前って幽霊女にそっくりだな。もしかして、本人だったりするのか?」
「…………」
姿をいじらなかったことを今になって後悔する羽目になるとは。
僕が黙っているのを見たスサノオは更に笑みを深めた。
「ははは。さすがにそれは違うか。あいつみたいな弱虫がこの俺に向かってくるわけがないしな。まあ、あいつだったら妹をまた拉致ってやれば――」
「――黙れ!」
スサノオの言葉に僕は反応を抑えることが出来なかった。
妹――美衣が秋月に浚われた時のことが頭によぎった。
もうあんなことは繰り返させない。美衣は誤魔化しているけれど、深く傷ついているのは違いないのだから。
「へえ? ああ、お前ってそうなんだ」
秋月――スサノオは僕のリアルに感づいたようだ。でも、それでも構わない。今はただ絶対にこいつを許せないという気持ちでいっぱいだった。
「ちっ、もっと早く知ってればお前の妹をまた拉致っておいたってのによ」
相変わらず下種だな、こいつは。
スサノオの言葉に僕は吐き気を覚えた。
しかし、今はお互いゲームにいるんだ。すぐにスサノオがミイに対して何かをすることは出来ないだろう。
「そうだ。一つ取引をしようぜ。今から使う俺の攻撃を何もせずに喰らったら、お前の妹に何もしないでおいてやるよ。加えて俺が奪ったスキルの≪ビーストテイマー≫もお前に返してやろう」
「なに……? それは本当なのか……?」
スサノオは僕を見て、いやらしく笑う。その笑みはまるで獲物を見つけた狩猟者のようだった。
「ああ。約束してやる。このまま何もしなくても俺の勝ちは決まってるんだ。いい取引だろう?」
そうだった。思い出した。こいつはこんな男だった。
自分が有利な時に相手に対して、少しでも希望を与えようとする。
しかし、それは全くの嘘でしかない。単に相手を絶望に落とすための余興がほしいなどと言っていたのを聞いたことがある。
つまり、今こいつが言っていたことはほぼ間違いなく嘘だ。
でも、それでも僕はまたミイをあんな目に合わせるなんてことは出来ない。それにクローズドベータが終わるまでとはいえ、いぬとまた会えるかもしれないんだ。嘘だとわかっていても本当に少しでも可能性があるのなら――
「…………分か――」
「――絶対に信じちゃ、ダメ!」
僕の言葉を遮るようにミイの言葉が響いた。
どうして、ミイが……?
そう僕が疑問に思った時、いつの間にかスサノオと僕の会話が個人チャットではなくなっていることに気が付いた。
驚いた僕はスサノオを見るが、スサノオは笑っている。
どうやらスサノオは意図的に個人チャットではなく、通常チャットを使っていたらしい。
「お姉ちゃんは私のことなんか気にしちゃダメ! 絶対にスサノオなんかに負けないで!」
ミイ……。
「あー、こいつは予想外だなあ。物分かりが悪いやつがいると本当に困るぜ」
スサノオはミイのいる方向を探しているのか周囲を見渡しながら言う。言葉とは裏腹にひどく楽しそうな声色だった。
「でも、お前は分かっているだろう? なあ、幽霊女。また前みたいなことにはなってほしくないだろう?」
「…………」
「くそ。だんまりかよ。まあ、いい。お前がどうなるかはお前自身の行動で分かるわけだからな。お前が賢い選択をしてくれることを期待してるぜ? 俺もこれでどんなスキルを奪えるか楽しみなんだからよ。……二度目の餌をとくと味わえ――≪神喰狼≫」
スサノオの放った≪神喰狼≫が僕に迫る。
このままスキルが当たればまた僕のスキルが奪われるのか。
もしかすると今度は≪天使ちゃん≫とか奪われるかもしれないな。スサノオは勇者ああああの称号スキルでさえ、奪っていたのだから。
「――お姉ちゃんが負けたら、いぬちゃんがいなくなっちゃうんだよ! いぬちゃんを消させないために絶対闘技大会で勝つって言ってたじゃない!」
――そうか。そうだったな。
ミイの言葉で目が覚めた。
スサノオの奴が約束なんて守るわけがない。今、僕が負ければいぬを永遠に失うことになるんだ。
僕は前を見据えた。
すぐ目の前に≪神喰狼≫が迫っている。
「≪ライトアロー≫!」
スサノオ自身に対しては意味がないこのスキルも≪神喰狼≫に対しては効果がある。しかし、すぐ目の前に迫った≪神喰狼≫が消えるまでには少し時間がかかる。そして、その時間は僕に当たるまでに十分すぎるだろう。
僕は魔法を放つとすぐに≪神喰狼≫から逃げた。
「うわっ――」
そして、背を向いて動いた瞬間、急に訪れた加速に驚いてしまい、空中で前のめりに回転してしまった。
――≪脱兎の心得≫がこんなところで……!
激しく動く目の前の景色を前に僕へ迫る≪神喰狼≫が見えた。
どうやら≪ライトアロー≫では耐久値を削り切れなかったらしい。
――あはは。せっかく、目が覚めたのに。
僕が諦めかけたその時、急に幾つかウインドウが現れ、回転しているうちに手が触れたのか一瞬で消えていく。
そして、現れたスキルを咄嗟に僕は発動した。
「≪人獣一体≫!」
同時に僕は≪神喰狼≫によって飲み込まれた。
◇
――プレイヤーヒカリに対して一定数のプレイヤーの感情値が一定レベルを超えました。
――これより、特別技能≪奇跡≫の使用が解放されます。
――プレイヤーヒカリの希望スキルを感知しました。特別技能≪奇跡≫によって≪ビーストテイマー≫を取得します。
――プレイヤーヒカリのスキル合成条件が整いました。
――≪スキル合成≫を行いますか?
――≪スキル合成≫を行います。
合成スキル:≪絆≫≪人獣化≫≪獣人化≫≪天使ちゃん≫
合成条件:称号スキルの技能≪奇跡≫を取得する。
友好度:100の魔獣が存在する。
合成結果:≪人獣一体≫
スキルランク:7
扱い:アクティブスキル
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