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三十六話 WOSO そして、私の相棒はいぬ
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あの闘技大会からもう二週間が経つ。
あれから僕たちの周囲は色々と変わった。
最後に戦った時、スサノオ――秋月に僕のリアルがばれてしまい、美衣が浚われるのではないかと懸念していたけれど、それはすぐに杞憂となった。
秋月の親が捕まったために秋月は僕たちに構っていられなくなったのだ。
秋月グループといえばかなり大きなグループであり、色々とあくどいことをしているという噂自体は昔からあった。それにもかかわらず、決定的な証拠は見つからずに今まで存続していたのだ。
しかし、僕がちょうどスサノオと戦っている時、内部情報がリークされた。その多くが犯罪であり、中には人を死に追いやるような事件すら入っていたという。
そんな情報が漏れたために秋月の親は逮捕され、秋月もまた逃げるかのように転校していってしまった。
噂では転校した先で起こした暴力事件によって秋月が以前僕たちに行ってきた事件性の高い行為がばれてしまい、少年院へ送り込まれたとのことだ。
ひとまず、秋月に関する問題は解決したと思っていいだろう。
夏休みが明けたらクラスの雰囲気が大きく変わっていると思うと、少し登校するのが楽しみだな。
他にあったことといえばリーンのリアルが五ノ山さん、いや鈴音だと判明し、改めて僕と友達になってくれたということだ。
リーンの正体をミイは知っていたらしく、鈴音を家に呼んだとき、ひどく悪だくみをしているような笑みを浮かべていたのを思い出す。
全く、もっと前に教えてくれてもいいじゃないか。
そんなことを考えはしたけれど、鈴音と友達になれたから良しとしよう。
……鈴音は前から友達だと思っていたとのことで、僕が「友達になってください!」と言った時にひどく驚いていたけれど。
色々あったこの二週間だけれど、本当に今日が待ち遠しかった。
なぜなら今日はWOSOのオープンベータが始まる日だからだ。
僕は逸る気持ちを抑えつつ、カプセル機械へ入り込むと横たわった。
そして、訪れた眠気に抵抗することなく、身を任せていった。
「ようこそ! ワールドオブスピリットオンラインへ!」
「……こんにちは」
前と同じく僕は目の前に現れたNPCへ返事を返す。
「ここではアバターの設定を行います。あなたの希望を教えてください」
「ああ、僕の希望は――」
前と同じ言葉を返すNPCに僕は希望を伝え、チュートリアルを終えた。
そして、僕は始まりの街へと転送された。
懐かしいな。たった二週間入っていなかっただけのはずなのに、もうずっと入っていなかったように感じてしまう。
周りには僕と同じようにオープンベータが始まってすぐにログインしたのであろうプレイヤーが大勢いた。
「あれ? もしかして、天使ちゃ――」
僕を見たプレイヤーが何かを言いかける。
やばい。早くここから逃げないと――
僕は急いでその場から走り去ったのだった。
「ここまで来ればきっと大丈夫だな」
僕がたどり着いた場所。
そこは以前いぬを召喚した路地裏だ。
ここならば他のプレイヤーもほとんど来ないだろうから、邪魔は入らない。
いぬと会うなら前と同じ姿じゃないとダメだろう、なんて考えからクローズドベータの姿と同じにしたのは失敗だったかな。
今更ながらに少しだけ後悔する。
しかし、それも一瞬のことだった。
僕は自身のスキル欄を見る。
そこにあったのはいくつかのスキルと≪ビーストテイマー≫のスキル。
闘技大会で優勝までして引き継いだスキルだ。
「よ、よし。いくぞ……」
自分の声が少し震えているのが分かる。
もしかして、召喚されるのがいぬじゃないかもしれない。
もしかして、召喚されたいぬはクローズドベータで会ったいぬとは別なのかもしれない。
もしかして――
いくつもの不安が僕の頭をよぎる。
でも、それでも今はこのスキルを使おう。
僕は大きく深呼吸するとスキルを使用した。
「≪ビーストテイマー≫」
スキルを発動させた瞬間、魔法陣が三つ現れ、それぞれが回転して一か所に集まっていく。
「お願いだ――」
僕はその光景を目にした瞬間、我慢できなくて目を閉じてしまった。
やがて、召喚の音が途切れた。
僕は恐る恐る目を少しだけ開いてみる。
ちらりと黄金色の毛並みが見えた。
瞬間、僕は大きく目を開く。そこにはいぬの姿があった。
「いぬ、なのか……?」
もしかしたら、いぬがいぬじゃないかもしれない。
そんな考えから思わず、僕は言葉を口にした。
「わんっ!」
いぬは嬉しそうに一声鳴くと僕に飛びついてくる。
「う、うわっ」
巨体に僕は押し倒され、顔をぺろぺろとなめられる。
「あはは。やめろって」
くすぐったくて笑ってしまう僕の目にいぬの情報が飛び込んできた。
魔獣名称:いぬ
状態:獣魔(友好度:100)
種族:犬
レベル:1
HP:20
MP:8
SP :32
筋力:10(+1)
魔力:2
体力:8
耐久:5
精神:4
器用:3
敏捷:8
成長点:0
補正値:友好度MAX(全てのステータスに対し、10で割った切り捨ての値を上昇)
説明:犬の魔獣。特筆すべき個所はない。人に懐きやすく、
プレイヤーの言うことをよく聞く。攻撃方法は爪と牙による攻撃。
プレイヤー:ヒカリのクローズドベータからの獣魔
「あ、あはは……」
僕の心配は杞憂だった。
いぬはいぬだったんだ。
嬉しさのあまり、僕の目から涙が出るのを感じる。
僕はいぬに抱き着く。
「あはは! ようやく会えた。ようやく会えたんだ! お帰り、いぬ!」
「わふっ!」
やっとの思いでつながった絆。消えてしまうかもしれないと考えていた絆。それでも僕は取り戻したんだ。もう君を離したりなんかするもんか。
だって君は僕のいや――
「私の相棒はいぬ、だ!」
「わんっ!」
あれから僕たちの周囲は色々と変わった。
最後に戦った時、スサノオ――秋月に僕のリアルがばれてしまい、美衣が浚われるのではないかと懸念していたけれど、それはすぐに杞憂となった。
秋月の親が捕まったために秋月は僕たちに構っていられなくなったのだ。
秋月グループといえばかなり大きなグループであり、色々とあくどいことをしているという噂自体は昔からあった。それにもかかわらず、決定的な証拠は見つからずに今まで存続していたのだ。
しかし、僕がちょうどスサノオと戦っている時、内部情報がリークされた。その多くが犯罪であり、中には人を死に追いやるような事件すら入っていたという。
そんな情報が漏れたために秋月の親は逮捕され、秋月もまた逃げるかのように転校していってしまった。
噂では転校した先で起こした暴力事件によって秋月が以前僕たちに行ってきた事件性の高い行為がばれてしまい、少年院へ送り込まれたとのことだ。
ひとまず、秋月に関する問題は解決したと思っていいだろう。
夏休みが明けたらクラスの雰囲気が大きく変わっていると思うと、少し登校するのが楽しみだな。
他にあったことといえばリーンのリアルが五ノ山さん、いや鈴音だと判明し、改めて僕と友達になってくれたということだ。
リーンの正体をミイは知っていたらしく、鈴音を家に呼んだとき、ひどく悪だくみをしているような笑みを浮かべていたのを思い出す。
全く、もっと前に教えてくれてもいいじゃないか。
そんなことを考えはしたけれど、鈴音と友達になれたから良しとしよう。
……鈴音は前から友達だと思っていたとのことで、僕が「友達になってください!」と言った時にひどく驚いていたけれど。
色々あったこの二週間だけれど、本当に今日が待ち遠しかった。
なぜなら今日はWOSOのオープンベータが始まる日だからだ。
僕は逸る気持ちを抑えつつ、カプセル機械へ入り込むと横たわった。
そして、訪れた眠気に抵抗することなく、身を任せていった。
「ようこそ! ワールドオブスピリットオンラインへ!」
「……こんにちは」
前と同じく僕は目の前に現れたNPCへ返事を返す。
「ここではアバターの設定を行います。あなたの希望を教えてください」
「ああ、僕の希望は――」
前と同じ言葉を返すNPCに僕は希望を伝え、チュートリアルを終えた。
そして、僕は始まりの街へと転送された。
懐かしいな。たった二週間入っていなかっただけのはずなのに、もうずっと入っていなかったように感じてしまう。
周りには僕と同じようにオープンベータが始まってすぐにログインしたのであろうプレイヤーが大勢いた。
「あれ? もしかして、天使ちゃ――」
僕を見たプレイヤーが何かを言いかける。
やばい。早くここから逃げないと――
僕は急いでその場から走り去ったのだった。
「ここまで来ればきっと大丈夫だな」
僕がたどり着いた場所。
そこは以前いぬを召喚した路地裏だ。
ここならば他のプレイヤーもほとんど来ないだろうから、邪魔は入らない。
いぬと会うなら前と同じ姿じゃないとダメだろう、なんて考えからクローズドベータの姿と同じにしたのは失敗だったかな。
今更ながらに少しだけ後悔する。
しかし、それも一瞬のことだった。
僕は自身のスキル欄を見る。
そこにあったのはいくつかのスキルと≪ビーストテイマー≫のスキル。
闘技大会で優勝までして引き継いだスキルだ。
「よ、よし。いくぞ……」
自分の声が少し震えているのが分かる。
もしかして、召喚されるのがいぬじゃないかもしれない。
もしかして、召喚されたいぬはクローズドベータで会ったいぬとは別なのかもしれない。
もしかして――
いくつもの不安が僕の頭をよぎる。
でも、それでも今はこのスキルを使おう。
僕は大きく深呼吸するとスキルを使用した。
「≪ビーストテイマー≫」
スキルを発動させた瞬間、魔法陣が三つ現れ、それぞれが回転して一か所に集まっていく。
「お願いだ――」
僕はその光景を目にした瞬間、我慢できなくて目を閉じてしまった。
やがて、召喚の音が途切れた。
僕は恐る恐る目を少しだけ開いてみる。
ちらりと黄金色の毛並みが見えた。
瞬間、僕は大きく目を開く。そこにはいぬの姿があった。
「いぬ、なのか……?」
もしかしたら、いぬがいぬじゃないかもしれない。
そんな考えから思わず、僕は言葉を口にした。
「わんっ!」
いぬは嬉しそうに一声鳴くと僕に飛びついてくる。
「う、うわっ」
巨体に僕は押し倒され、顔をぺろぺろとなめられる。
「あはは。やめろって」
くすぐったくて笑ってしまう僕の目にいぬの情報が飛び込んできた。
魔獣名称:いぬ
状態:獣魔(友好度:100)
種族:犬
レベル:1
HP:20
MP:8
SP :32
筋力:10(+1)
魔力:2
体力:8
耐久:5
精神:4
器用:3
敏捷:8
成長点:0
補正値:友好度MAX(全てのステータスに対し、10で割った切り捨ての値を上昇)
説明:犬の魔獣。特筆すべき個所はない。人に懐きやすく、
プレイヤーの言うことをよく聞く。攻撃方法は爪と牙による攻撃。
プレイヤー:ヒカリのクローズドベータからの獣魔
「あ、あはは……」
僕の心配は杞憂だった。
いぬはいぬだったんだ。
嬉しさのあまり、僕の目から涙が出るのを感じる。
僕はいぬに抱き着く。
「あはは! ようやく会えた。ようやく会えたんだ! お帰り、いぬ!」
「わふっ!」
やっとの思いでつながった絆。消えてしまうかもしれないと考えていた絆。それでも僕は取り戻したんだ。もう君を離したりなんかするもんか。
だって君は僕のいや――
「私の相棒はいぬ、だ!」
「わんっ!」
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