八卦は未来を占う

ヒタク

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第二章 現象②

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「よ、ようやく、追いついた……」

 寛太が息を荒くしながらも俺たちに追いついた。
 夢の住む住宅街に来たあたりでようやく雫が止まったので、皆で寛太を待っていたのだ。

「お疲れさん」

「お前なあ……」

 片手をあげてねぎらう俺に寛太は大きくため息をついた。

「まあ、いいや。それでここに夢ちゃんが住んでいるんだっけ?」

「そうだよ。だから、もうちょっと頑張ってね、寛太!」

「はあ……」

 いくつもの家が立ち並び、時折、どこかの家から犬の鳴き声がする。そんな住宅街がかなり広いことを見た寛太は再びため息をついた。

 俺も周りを見てみた。薄暗くなってきたためか、あたりにいる人が少ない。もちろん全くいないわけではないが、学校の近くと比べて明らかに少なかった。
 しかし、俺はそれでも数が少なすぎるような気がした。

「なんだかずいぶんと人が少ないね。ここって住宅街なのにこうまで少ないものなのかな」

 俺の疑問を代弁するかのように千歳が口にした。どうやら疑問に感じていたのは俺だけではなかったらしい。
 千歳の疑問により、気になったのだろう。寛太がしきりに辺りを見渡す。

「お? これはもしや、何か面白いことが起こったせいか……!」

 寛太は疲れなど吹き飛んだかのようでずいぶんと面白そうだ。その言葉に少し呆れたような顔をする雫であったが、やはり雫も疑問に感じていたようで小さく首をかしげる。

「確かに変といえば変ですよね。いつもならもっと人が多いはずですのに」

 もともと夢と帰ることが多い雫だ。今日は夢が千歳の部活が終わるまで我慢できないということで先に帰ってしまったが、普段ならいつものようにこの住宅街を通って帰っているらしい。
 住宅街を通ると少し家に帰るには遠回りになってしまうために俺はあまりここに来ることはないが、普段から通る雫は今日の人が少ないのをより感じるのだろう。

「何かあったのか?」

 気になった俺は近くにいた少女に尋ねた。背中にかかるくらいの黒い髪を後ろに紐で束ねた少女だ。
 一瞬、訊かれた少女は自分に尋ねられたのか分からなかったのだろう。周りを見回し、自分以外がいないことに気がつくと慌てて返事をした。

「わわわ私はよくわかりましぇん!」

 あまりにも慌てていたために噛みまくっていた。

「いや、そんなに慌てなくてもいいんだけど……」

 そう諭す俺だったが、少女はさらに顔を赤くして両手を身体の前で大きく振り出した。

「とととにかく私はわかりませーん!」

「あ、おい!」

 走り去っていく少女に腕を伸ばした状態で固まった俺。固まったのは周りからの視線が原因だった。

「お兄様……?」

「圭くん……?」

「またかよ、圭……?」

 三人が一様に声を出す。しかし、三人の感情は全く異なっているようだ。雫の目は冷たいし、千歳の目に込められた好奇心は隠しきれていない。寛太の目に込められていた感情は呆れだ。
 三人の視線を受けた俺はしどろもどろに弁解をし始める。

「さ、さっきのやり取りを見ていただろう? 俺は別に何もしていないぞ!」

「何もしていないのなら何故あの子は逃げたのですか?」

 雫が尋問をするかのように尋ねてくる。

「し、知るかよ! あの子が勝手に逃げただけだって!」

「勝手に、ですか……」

「ふむふむ。圭くんは勝手にあの子が逃げるほどの何かを持っていたってことだね?」

「話を変な風に捉えないでくれ!」

 にやけながら訊いてくる千歳に俺は怒鳴った。このまま黙っていればあらぬ方向へ話を持っていかれそうだった。

「圭……」

 寛太は相も変わらず呆れた顔を崩していなかった。

「お前はまた……女の子に……」

「「その話を詳しく!」」

 寛太の呟いた言葉に食いつく二人。その目はさながら獲物を見つけた肉食獣のようだった。
 二人に嬉々として説明を始めようとする寛太の頭へ俺はチョップを入れた。そして、こちらを向いた三人に文句を言うため口を開く。

「お前ら……いい加減に――」

「み、皆さん。こ、ここは危ないですから、帰った方がいいですよ」

「――って、さっきの子?」

 先ほどどこかに行ったと思った少女がいつの間にか近くにいた。

「み、皆さんが心配で戻ってきちゃいました。なんでも通り魔が出たらしいですから……」

「通り魔?」

「は、はい。最近、通り魔が現れているらしいんです。し、知らないんですか?」

「いや、知らないわけじゃあないさ。昨日テレビで見たしな。でも、それってこの町じゃなかっただろう?」

 俺は昨日を思い出しながら言う。千歳と眺めていたテレビで通り魔についてやっていたはず。そのことだろう、と検討をつけながら。

「し、知っているんですね。でも、それは昨日までのことです」

「昨日までは……?」

「は、はい。聞いたところによると今日新しい被害者が出たらしいです。……しかもこの住宅街からさほど離れていない場所で」

「なっ!」

 驚きで目を丸くする俺。他の三人も同じだった。
 少女は俺たちを気にすることなく、話を続けた。

「だ、だからこそ、ここの住人はあまり出歩いていないみたいです」

「…………」

 一行の間に沈黙が満ちる。危険人物がうろついているということが予想以上にショックを与えたらしい。

「で、では、私も怖いので帰りますね。皆さんも早く帰った方がいいですよ」

 少女はそう言うと俺たちに背を向けて歩き出した。

「あっ! そういえば、皆さんは黒くて長い髪の笑顔が素敵な女の子知りませんか?」

「急にどうしたんだ?」

 俺が返すと少女はえへへ、と笑みをこぼした。

「私たちの大事なお友達で私の恩人なんです。ここに来たのもその子を探しに来ていたんですよ」

「そうなのか」

「はい!」

 黒髪の素敵な女の子。そういえば、八卦も髪は長かったっけ。

「もしかして、その子は――」

 言いかけて、違うと思った。少女の言う友達は笑顔が素敵だという。しかし、八卦の笑顔が素敵というにはあまりに無表情すぎる。

「…………?」

 俺の言いかけた言葉が気になったのか、少しだけ少女は首をかしげた。
 俺がなんでもないよ、と言ったその時、かわいらしい着信音が響いた。

「……!」

 音が恥ずかしかったのか、雫は顔を少し赤くした。自身のバッグから携帯を取り出し、画面を見ると微笑んだ。

「夢のようです。ちょっと失礼します」

 そう了解を取ると携帯を耳にあてて会話を始めた。
 おそらく待ちきれなくなった夢が電話をしてきたのだろう。

「では、皆さん、さようならです」

 雫の電話を邪魔してはまずいと思ったのか、少女は俺たちに一礼すると離れていった。
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