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第3章・炎帝龍の山

四十五話・辺境伯日誌・飛竜での調査記述「4」

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使者の隊員が騒いでいたが、飛竜たちが一頭一頭がそれなりの距離を保って飛んでいるからだろうか?
先ほどのように騒がしくはないな。

隊員たちが騒いでいたのとは別に、ワルツはっと言うと…
目を輝かせて、子供の様に喜んでいたんだがな。

その騒がしい御一行となっている我々を乗せている飛竜たちは、まばらな雲を突き抜けて
雲よりも高い位置へと登ると大空の中を平然と羽ばたき
目的地の宮殿へと向かう為に帝国へ向けて飛んで行く。

「…やはり、おかしい。」
「どうした?」

ジルヴァが何かを探すように長くて太い首を動かしている。

「お主の所へ行く途中もそうだったが、どうも雲虫どもの姿が全く見えんな」

雲虫…
鳥とも虫とも区別がつかないので、雲虫って言われてる。
群れて雲の上に飛んでいて、何かをしているのか?移動中か?食事をしているのか?
それすら、よく分からない魔物だな
空を飛ぶ時には、必ずっと言って良いほどに見かける魔物だ

「確かに、そう言われてみれば居ないな。」
「うむ、炎帝龍様の気が立っているのが、影響しているのだろうが…」

炎帝龍…この世界イレベリアに4体しかいない龍
最強存在とされる龍帝エンペラー・ドラゴンの龍のうちの一体
人間では、その強大な力に対抗する術がない。
それは、龍帝エンペラー・ドラゴンと人間の間にある絶対的な壁だ。

4体の大精霊が個々に選ぶ勇者
その4人の勇者であったとしても例外ではない…
伝承では、
突如、空より炎帝龍が飛来し
一方的に破壊を繰り返したのだと言う。
三つの教会があった三つの国の内、二つの国が滅んだ際に
当時いた3人のう内、2人の勇者が死んだのだと言う。

勇者の力は、一騎当千以上といされる程に絶大だが
それ程の力でも、炎帝龍には遠く及ばないとは…

「ジルヴァ仮にだが…仮に、炎帝龍と対決するなんて事になっ…」
「は?わしらは、すぐさま逃げるぞ?炎帝龍様と戦うなど、あり得んわ」

食い気味にそう答えた。

「即答か?」
「もちろんだ。もし仮にそうなったら、お主との契約など知らぬわ」

契約破棄してまで逃げる…
まぁ…当然といえば、当然の選択だな

「その話はさておき…そろそろ、国境線の川だぞ?」
「お、もうか?」

下を覗き込むと確かに雲の合間から一本の川が前方にちらっと見える
マーラックス公国の国境線の一つサームス川だ。

「お主がいつもよりも飛ばせと言うからな、いつもよりもずっと早く飛んでおるわ。」

はるかに前方にあった川がすぐ下までに近づいたと思ったら、すぐに通り過ぎ、
マーラックス公国と帝国の国境であるサームス川を通過したのだ。

「おい、ワルツ君?憧れた飛竜に乗れて興奮しているところ邪魔して悪いが、国境線サームス川を越えたぞ?」
「え⁉︎もうですか⁉︎」
「ああ、ジルヴァにかなり飛ばしてもらってるからな」
「さ、さすがは飛竜…だとしたら、帝都はもうすぐですね。」

ワルツの言う通りだ。
帝都は、もう直ぐそこだ。

「もうそろそろだ。話はもういいか?高度を下げるぞ?」
「ああ、分かった。」

ジルヴァが徐々に高度を下げていく。

「ええー、も、もう着くのか?確かに、早いなぁ…俺たちの鳥だと三倍はかかるのに…」

そんな事をワルツが呟いていた。
ジルヴァが本気を出したら、まだまだ早く飛べる事をワルツに言ってみたい衝動にかられたが…
面倒だからやめた。
そうこうしている内に…
見慣れた建物がはっきりっと見えてきた。
イグヌス帝国の帝都
帝都ニース
その中央にあるのが
ヴルス・ムール宮殿だ。
その宮殿の前の広場にジルヴァたち飛竜が降り立った。
本来ならば、ヴルス・ムール宮殿へ直接降りるのはダメだろうが…
あ…誰かこっちに向かって走って来るな
あれは、宮殿の衛兵だな。
腰にぶら下げていた剣を鞘から引き抜いた。
その剣をこちらに向けながら…

「何者か?ここをヴルス・ムール宮殿と知ってのことか?」
「知らぬでは、通らぬぞ!!」

ものすごく怒ってるな…
しかし、飛竜たちに騎乗出来る様な人物が一体誰か
聞かずともわかると思うんだが?
それに、召集されている事を知っているはずなんだがな…
次から次へとこっちに集まって来ているのが見える
その集まって来る衛兵の連中にいちいち説明するのは、かなりメンドくさいな…
辺境伯を証明する物を出して見せてもいいんだが…
飛竜の事を知らない奴に見せても効果あるのかが微妙な感じだな…。

そう思っていると、全力疾走して来る衛兵をいるのが見えた。
額から大量の汗を流しながら、何やら必死に叫んでるが…
走りながら叫んでいるからか良く聞こえない。
その男がこちらに走ってくる

「お、おい馬鹿たれ!!やめんか!!」
「隊長!!侵入者です!!」

そう言った途端、衛兵の頭を平手打ちした。
平手打ちされた彼は、頭を押さえながら困惑した顔で隊長を見た。

「馬鹿者がやめんか!!その方に失礼だぞ!!その方は、のお一人のリトル・マウンテン殿だ!!」
⁉︎」

色付きの辺境伯その言葉を聞いた途端、彼の顔からみるみる血の気が引いていく。

「そうだ。この方は、マーラックス公国を担当されとる色付きの辺境伯のリトル・マウンテン殿だぞ?」
「……、……」

怒られている衛兵の彼全身から滝の様に汗を流している
ああ、無知とは恐ろしい。
説教を始めてしまった。
良くある風景だが…
こちらは、それに付き合っている訳には行かないんだ、

「あの…すまないが、こっちは急いでいるんだ。ここで説教をされても困るんだが?」

そう言うと、衛兵の隊員に説教をしていた衛兵の隊長がこちらに振り返り頭を下げた。

「申し訳ありません。リトル・マウンテン殿この度は、私の教育が至らなかったばかりに、貴方様に大変ご迷惑を…」

頭をブンブンっと、音がする勢いで必死に上下に動かして謝罪を始めた。
あ、ヤバイ奴だな。
これを放っておくと永遠と謝罪を続ける奴だな。

「あー、謝罪はもういいからさ、通してもらいたいんだが?」

頭を上げ下げをやめて、頭をあげた。

「これは、失礼しました。誠にこの度は…」
「あーもう、いい加減にしなさいよ。急いでいるって仰ってるでしょう?」

その声が聞こえてくる方を見ると
知った顔の女性が立っていた。
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