ハイスペな車と廃番勇者の少年との気長な旅をするメガネのおっさん

夕刻の灯

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5話・何でも出てくる…けど、出ない

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俺は今、医薬品の引き出しの中を引っ掻き回している。
森の中で倒れていた少年が高い熱を出しているんだ。
おそらくだが…
冷たい雨が降りしきる夜の森の中を歩いていたせいでってだけじゃないんだろう。
極度の疲労と体温の低下から発熱したんだろうな…

「何々…成人男性の悩みを解決~!!スッキリ爽快な日々を!!水虫の薬~…ちがう!!なら、コレは?痒み止め?コレも違うな」

散々引っ掻き回したが、子供用の薬が見つからない。
見るもの見るものが、大人用な薬ばっかりだった。
仕方なく、その引き出しを閉めて下の引き出しを開けると
再び、薬の箱が沢山つまっている引き出しだった。
その引き出しの中にある薬の箱の一つを取り出して、箱を見る…

「えーっと?これはなんだ?お!!コレかな?」

【風邪薬】
・解熱剤
・発熱・頭痛の症状時に服用
・1日2回食後30分以内に水または、ぬるま湯で服用する事
《15歳未満3歳以上2錠》
《15歳以上3錠》

目的の薬を発見した。
今回の引き出しでは先ほどとは違って一発で見つけられた。
どうやら俺は、違う引き出しをひたすら引っかき回していたようだ。

「食後にか…なら何か、そう消化に良いものがいいだろう?何かないかな?」

違う戸棚を開けて、その中の引き出しの上から順に中身を見て行く。
まず最初の引き出しは、様々な形状のパスタやそのソース
次の引き出しは、レトルト食品が入っていた。
どうやら今後の戸棚は、目的の物が入っている戸棚のようだった。
うーん、消化に良いもの…消化に良いもの
スープとか無いかなぁ~
おっと、早速発見した。
カップスープの素~
さっき、暖炉の火にポットがかけてあったから
それ使えばすぐ出来るぞ
これをコップに入れて~…って
肝心のコップは、一体何処だ??
仕方ないもう一回探し直すか…
そう思って、扉を閉めてもう片方の扉を開けた。

「あ、さっきと同じ扉開けてどうすん…」

さっきまで開けて中を見ていた同じ扉を開けても、さっきと同じ物が見えるだけ…
そう思った。

「え⁉︎何で⁉︎」

しかし…それは、違った。
扉の向こう…戸棚の中身が違うのだ。
さっきは、上から下まで引き出しがびっしりと並んでいた。
今は、その引き出しは一つもない。
代わりにあるのは棚だった
そして、その棚には…

「コレ…全部が全部、食器か⁉︎」

目の前に所狭しと並んでいるのは、様々な食器だった。
平たい皿や深い器に、フルコースの一式のセットとか
それにコレなんて、って何だコレ…
歪な形で見るからにバランスが悪そうな食器?だが触ったら微動だにしないほどしっかりしていた。
目的の食器だけど、いろんな種類があるんだな。
皿に入れるのもいいかもしれないけど。
やっぱり、スープを飲むなら
そう思いながら食器棚の中を見回すと…

「あった。このスープの素ならやっぱり、この食器かな?」

取っ手が付いているコップ、マグカップ
見つけたマグカップに手を伸ばすと…
背後で何か物音がした。
少年が動いた様だった。
頭に乗せていたタオルが落ちているし
ベットに寝かせた少年がうなされていた。
いきなり、少年が両手を突き出した。
その両方の手で、何もない空中をかいている。
まるで、何かを掴もうとしているかのように…

「父さん。母さん。兄さん…みんな、ごめん。」

俺は、少年のそばに近寄り
少年が空中に突き出した両手をそっと握った。
少年の閉じている目から涙が流れ落ちた。
そして、握っていた手の力が弱まった。
再び深い眠りの中へと戻ったようだ。
両手をそっと話して、布団の中へと戻し
うなされて、乱れた掛け布団を少年の上に掛けた。
少年の手はまだ熱かった。

「まだ、熱が下がってないな。」

少年の額に乗せていたタオルを拾い上げたが…
やっぱり、このタオル温くなっている。

「これは、もうダメだな…もう一度洗面所で洗って来ないと」

そう思って、ベッドで眠る少年を残して部屋から出た。
洗面所で、ジャブジャブとタオルを水で濡らしていると…

ふとある事が頭を中をよぎった。
さっき、うなされていたあの少年を見て改めて思ったんだ。
一体、あの少年が何したって言うんだ?
あの手紙にも、書いてあった。

それに…
洗面所の一角に目を向けると、あるものが視界に入った。
それは、あの少年が着ていた服だ。
いまだに水分をたっぷりと含んでいるのか
服の裾から水滴がポタポタっと床に滴り落ちる。

あの森の中で見つけた時、森の中を歩くのに必要な装備といった物を一切身につけていなかった。
これ程の雨が降るところにある国なら、どの国にも雨具はあるはずだ
それなのに…
この子は、全身ずぶ濡れだった。
着の身着のままに急いで、森の中へ入ったようにしか見えなかった。

あの手紙には、この子の生まれ育った村はもう無いと書かれていた。
生き残りは、この子1人だけだとも…
それも滅ぼされた村は、一つだけじゃない周りにあったすでに村もなくなっている。
三つの村の人間を1人残らず、みな殺し…
みな殺しの理由は、少年を匿っている可能性があるからだそうだ。
三つの村の人間の命を奪ってでも、この少年を殺したいって事だ。

「この世界の勇者っていうのは、どうなってるんだ?」

勇者は、世界を救う存在のはず…
勇気ある者で、厄災やら魔王やらから世界を守り戦うって言う。
大概は、生まれる前に神によって世界に誕生する。
もしくは、大精霊とかによって後から選ばれるんだろう?
この世界では、勇者が産まれなくなっているって書いてあるが…
それでも、その勇者を村人たちもろとも殺そうとするとはな。
この国、いや帝国だったな。
まぁ…どちらにせよ、とんでもない話だよ。
勇者が民を虐げる暴君や独裁者を殺したりする
…って言う物語が数え切れないほどあった。
今回の件は、まさにそれに当たるんだと…

「やっぱ、許せねよな。」

そう呟いて、濡らしたタオルの水気を絞って
洗面台の下にあった洗面器に水を入れて
洗面所を後にした。
あの子に実際に会うまで
俺は、どうするべきなのかを悩んでいたでも…
これからどうするべきか、もう決めた。
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