俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

文字の大きさ
4 / 58
序章

第5話 信じるモノは救われる!!?

しおりを挟む
 ──なんだか
 今日は人生で一番疲れた一日だった……。

 俺はベッドに入り、薄暗い天井を見上げたまま、盛りだくさんだった一日を振り返っていた。

 はぁぁぁ……

 ……もう、溜め息しかでない。

 ふと、自分の左手を確かめるように見つめる……が、そこにあるのはいつもの俺の手。

 なのに、どうやらこの左手には妖怪が…イヅナの白叡が入っている(らしい)。
 彼方はしばらく貸すって言ってたけど……“しばらく”っていつまでだ??

『──お前が自分一人で何とかできるようになるまでか、覚醒するまでだろうな』

 不意に頭に直接響いた白叡の無情な言葉──。

 そう言われてもなぁ……
 
 どっちもすぐには無理…というか、ずっと無理そうに思えるぞ?

 ……ん?

 そういえば、白叡は彼方の“使い”のはず。
 彼方は俺にこいつを貸してくれたけど……平気なのかな?

 そんな素朴な疑問に、再び白叡の声が聞こえた。

『──アイツがお前を守れと言ったから、オレ様がここにいるんだ』

 ──つまり、命令だからか。

『…オレ様のあるじはあくまでも彼方だからな……』

 ……舌打ちが聞こえてきそうな程のあからさまに嫌そうな声音。

 まぁ、その“主”が言うんだから、白叡が俺のとこにいても問題はないということかな?

『──…そういうことだ』

 今までの感じとか、この苛立ち混じりな答えから察するに、彼方と白叡の中に不穏な色が見えた気もするが……まぁ、いい。
 俺は別の話題をふることにした。

「……それよりさ、白叡」

『……なんだ?』

 面倒そうな返事にめげず、俺は続ける。

「訊いてもいいか?」

『──答えられる範囲ならな』

 ……あぁ、そう。

 さらに面倒そうな白叡に、俺は様子を伺いながら質問することにした。

「じゃあさ、白叡は紅牙に会ったことあるのか?」

『……』

 ……なんだ? いきなり範囲外の質問だった??

 だが、一瞬の間をおいて

『ある』

 その一言だけ返ってきた。

「なら、紅牙ってどんな……」

『それは答えられない』

 そうピシャリと俺の質問は遮断された。
 思わず聞き返そうとした俺に、白叡は仕方ないというように……

『……それは、彼方から口止めされている』

 え? 彼方に……??

 彼方は俺に紅牙としての記憶を思い出すよう言ったはず……!
 なら──…ッ

『自分で思い出さなきゃ意味がない、とさ』

 うぅ……
 それはそうかもしれないけど……

『まぁ、いきなり全てを思い出せというのも酷だろう? ……それは彼方も分かっているさ。焦ったところで解決せんしな』

 ──まぁ、な。

 でも、このままだとまたいつ襲われるかわからない。
 確かに白叡は助けてくれるけど……

『第一…まだお前は信じてない……いや、認めてないだろう?』

 ……そうだな。
 認めていないし、認めたくはない。

 こんなことに巻き込まれることも、妖怪が実在するなんてことも……自分が人間ではなく、その妖怪だということも。

『──まずは認めることだな。それが今お前に出来る全てだ』

 ……確かにそうなのかもしれない。

 今の俺は自分が紅牙であるということも、紅牙ではないということも分からない。

 ──ただ目の前に“現実”を突きつけられているだけで。

『アイツも言ってただろう? 事実は変わらない、と』

 確かに彼方はそう言ってた。

 ──なら、それを楽しめ、と。

 今の俺には前向きすぎる言葉。

 これは、事実は事実として受け止めて、初めて言えることだから。

 分かってはいても戸惑う俺に、

『…彼方もそうだと思うぞ……?』

 それは、白叡の小さな呟き。

 ……あぁ、そうかもしれない。

 記憶のない俺に戸惑いもあったはず……
 それでも彼方は、俺を“紅牙”としてより“宗一郎”としてみくれていた……?

『……まぁ、アイツがそこまで深く考えてるかは分からんがな』

 オイオイオイ……!

 確かに彼方は天然ぽいかんじだったけど……
 ちょっとしんみりした俺の気持ちをどうしてくれるんだ!?

 ていうか、なんで俺の考えは筒抜けなのに飼い主(?)の考えは読めないんだよ!!

 そんな俺のツッコミに、白叡は当たり前といわんばかりに、

『お前の考えなんてすぐ分かる。……アイツはオレ様に聞かれないようにして……いや、何も考えてはないのかもしれん』

 ……それは、仮にも主に言うことではないだろ。

 軽く脱力しかけた俺に白叡は改めて……

『だが、アイツは決して嘘は言わない。──それだけは言える』

 ……

 白叡の声音に偽りはなかった。

 この白叡がそこまで言うなら、信じていいのかな……?

 ──でも、俺もそんな気がするよ。

 彼方と会ったのも話したのも今日が初めてだし、すごく短い時間だけど……何故か、そう思えた。

 これは……確信?

『そりゃあ、そうだろう……お前は知っているはずだからな』

 ……え?
 それは、つまり──…

 つまり。
 俺…いや、紅牙は彼方と友だちだから……彼方のことをよく知っているはず、ということか?

『──お前が覚えていないだけさ』

 そう言われると、なんだか本当に申し訳ない気になってくるんだけど……。

 改めて自分を責め始めた俺に向かい、

『別に気にしなくてもいいだろ。少なくともアイツは気にしてないし』

 そう…なのかな??

『……気にする位なら早く事実を認めて、思い出す努力でもするんだな』

 う……っ
 白叡の言葉は、ごもっともだと思うよ?
 でも、努力と言われてもねぇ……??

 そうは言っても、一番ヒントになりそうな“紅牙”に関しての質問は却下されるんだから、白叡からのヒントは絶望的か……

 ん?
 いや、待てよ?

 ……俺は彼方に会った時を思い返してみることにした。

 確か、“彼方“って名前を聞いた時──
 何故か懐かしい感じがしたような……?

 今の会話にしても、もしかしたら彼方関係から記憶を探れるのか……??

『焦るなと言ったはずだ。……とりあえず、今日は寝ろ』

 俺独りでぐるぐる考えている中、白叡の面倒そうな声で一気に現実に引き戻された気がした。

 ……まぁ、俺もいろいろ盛りだくさんな一日で疲れたしな。
 でも、寝てる間とか襲われたりしないか?
 一番、油断……というか襲われたらどうにもならないシチュエーションだよな??
 襲うなら今!! みたいな状況に危機感を覚えるの当然だろう……だが、

『何のためにオレ様が居てやってると思っているんだ?』

 白叡の高飛車発言(溜め息付き)──…
 いや、頼りにしてる! もちろん寝てる時以外でも、だ。

 むしろ、今の俺の命運がかかっているのだから……ん? 待てよ??
 それは、ずっと一緒ってことだよな……白叡と。

 ……なんだかプライベート丸見え?

 すでに考えていることまで筒抜けなんだから…今更って気もするが……それでなくても気になることは多々ある。
 だが……

『安心しろ。普段は休眠している…もちろん妖気を察知したら起きるがな。……お前は普段どおりに過ごしてくれ……』

 あ、もう眠そうな雰囲気か……?

 ……にしても。
 左手に妖怪が入ってるなんてのは、なかなか出来ない経験だ。いろんな意味で気になって、普段どおりというのも……

『左手は出入口なだけだ…──もう、オレ様は寝るからな……』

 そう面倒そうに“寝る宣言”をすると、そのまま声が止んだ。

 彼方が貸してくれた、小さいけど高飛車で話好きなイヅナの白叡。

「……おやすみ、白叡」

 そして
 これからよろしく──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...