俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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第一章

第32話 状況をおさらい!!?

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 急遽、紅い荒野で開かれた状況整理とおさらいの場。
 幻夜は地面に小枝で地面に鬼、天狗、妖狐の文字を三角になるように書き、鬼に向かい二本の矢印を加えると──

「では、まず今までのおさらい」

「……うん」

 固唾を飲み込むような気分で俺は頷いた。 
 それを確認すると、

「古来から幻妖界ではこの三妖が三大勢力として存在している。その中で中心勢力となっているのが……鬼の一族」

 ピシッと鬼の文字を枝で指した。

「それが出来たのも鬼が持つ宝…鬼哭の存在があったからこそと言っても過言ではない。もちろん、それをよく思ってないのがこの二つの種族」

 幻夜は自嘲気味な笑みを微かにうかべ、天狗と妖狐の文字をつついた。だが、すぐに真面目な表情で俺を見つめなおすと、

「──ともかく、紅牙が鬼哭を奪ったのが今から17年前。直後、宝と共に紅牙も幻妖界から姿を消した。……もちろん、鬼は紅牙を探し続けたが、あまりにも見つからないから死…消滅説も出る中、人界まで範囲を広げて探し続けていたところ、たまたま宗一郎が見つかった。……実際には消滅ではなく人間に転生していたわけだけど」

 ──消滅
 確かに今まで倒された妖たちはその死体ごと全て消し去って…消滅していった。
 あれは体も魂も全て消え去っていくということか?
 だが、俺は紅牙の生まれ変わりとして今ここにいる……??

「鬼は自分たちの地位と力を守るためにも、一刻も早く鬼哭を取り戻そうと躍起になっている──で、ここにきて紅牙…宗一郎が見つかり事態が大きく動き出した」

 幻夜の言葉に、篝は小さく溜め息をついた。その様子をちらりと見つつも、

「鬼の目的はずっと変わらない……紅牙…宗一郎に宝の在処をはかせ、改めて裏切り者として抹殺、そして鬼哭を取り戻すこと」

 確かに、以前にもそう言っていたな。
 今までの流れからそういうことになるのは分かる……とはいえ、

「まぁ、実際には宗一郎に紅牙の記憶はないし、戻りきってもない。完全な覚醒もまだな状態──宝もなにも…宗一郎にとっては、ただ無駄に命を狙われるということだな」

 溜め息混じりの天音の言葉に、俺はコクコクと頷いた。
 すると、篝が苦笑をうかべ、 

「これはボクらにも計算外だったんだけどね……。本来なら紅牙の記憶も能力もそのままに転生すると聞いていたから」

 ──!
 そういえば…隠れ家で彼方は俺に、

 “本来なら紅牙として生まれてくるハズだった”

 そう言っていた。 
 だからこそ、俺…宗一郎の存在に意味があるはずだ、と。

「……それは、どういうことなんだ…?」

 俺は覚悟を決めてからそう切り出した。
 すると幻夜は小さく溜め息をつき、

「少なくとも紅牙からはそう聞いていたし、それを信じて…紅牙を人界に逃がしたんだよ……僕たちが」

「え…??」

 幻夜の言葉の意味とは……?
 こいつらで紅牙を鬼の手から人界へ逃がしたということか──人間に転生という形で??
 そのおかげで俺が今存在している…ということなのか? 

「ボクらだって最初は信じられなかったんだけどね……」

 篝が苦笑をうかべてそう呟き、天音は苦渋い表情で頷くと、

「まぁ……ある意味、賭けみたいなもんでな…結果的に成功したが、転生なんて前代未聞だからなぁ」

 その天音の言葉を受けるように、幻夜は小さく溜め息をつき、

「元々妖は人間に取り憑くことはあっても転生はしない。死んだらそれでおしまい、消え去るだけだからね」

 ……そういえば、前に白叡もそんなこと言ってたな。
 “転生”とは妖の中では常識外なのだと。 

「だが…紅牙を逃がすためには──その常識外の案を信じてやるしかなかった」

 そう言う幻夜の言葉も表情も硬い。

 たとえ、確率がゼロに限りなく近いとしてもそうするしかなかった。
 失敗すれば、消滅する……苦渋の選択。
 それでもこいつらはその可能性に賭けた。
 紅牙を逃がし、紅牙を守る最後の手段として。 
 逆を言えば、その常識を覆しての作戦だったからこそ鬼の目をしばらくでも紅牙から離せる……時間稼ぎになるのだから。

「そもそも転生なんて、紅牙が言い出したんだ。どこで仕入れてきた情報なのか…詳しい方法を聞いたわけじゃねぇが……成功して良かったな」

 天音が溜め息混じりにそう言って、彼方にそっと視線を移した。 

「本当に転生が成功していた確証もなかったけど、結果的に宗一郎が存在するのは事実だしね。まぁ……探すのは本当に大変だったけど」

 苦笑をうかべた彼方に、俺は思いついたままの疑問をぶつけてみることにした。

「でも…お前らで転生させたんなら探すのは簡単だったんじゃ……?」

「うーん…オレたちは人界へと逃がす……転生をするまでしか手伝えてない。後は紅牙の意思に任せるしかなかったんだ」

 彼方の表情は曇ったまま……

「それに、あの後オレたちも動きがとれなかったからね……」

 更にそう申し訳なさそうに付け加えた。 
 
 ここまでの話を総合すると、紅牙が鬼の宝を奪った上に、“転生”という方法で姿を隠す必要があると言い出したため、その手伝いをした…と。
 それがどれほど各々の状況に影響があったのか……俺には分からない。

 いや、今はそれより気になることが……

「なぁ…妖が人間に転生するってのは……どういうことなんだ?」

 思わず口にした俺の言葉に幻夜は、

「紅牙曰く…人間の胎児の魂を喰らい肉体に同化すればいい、ということ……らしい」

 正直よく分からない。
 だが、それなら少なくとも意識的には、本来なら紅牙としての意識も記憶もある状態で生まれるはずだったってことか?

「紅牙の入った肉体はその妖力に反応、変化していき…やがて完全な妖へと再生する──元々、妖の血が濃い肉体を選んでいるから、と聞いているよ」

「え!? それはどういう……??」

 幻夜の言葉に思わず聞き返した俺に、篝が苦笑をうかべると、 

「……昔から妖と人間が交わって、その血を受け継いでる者がいるということだよ。もちろん、表向きその行為は禁止されてるけどね」

 その言葉に天音が呆れが滲む言い方で、

「特に鬼は人間との関わりが昔から多い種族なだけに、そんな禁忌を無視する奴らがいた……そこに情があろうがなかろうがな。まぁ、交わったところで実際に子を授かるのは稀…だが、可能性はゼロじゃない」

 ……ということは、この体は元々鬼の血を受け継いでいると?
 その肉体に本物の鬼…紅牙が入っている?

 つまり紅牙は、現代でも妖の血を受け継ぎつつ生き残っている人間を選んで転生を行い、その人間の一人…この体、宗一郎に転生することで確実に紅牙へと戻る──ということ。

 確か……白叡も以前似たようなことを言っていたな。

 “そもそも人間の体では妖の妖力を受け止めることはできない”
 “鬼の魂の器であるこの身体もそれなりに変化していく”

 ……と。つまりこういうことだったのか。

「だが、紅牙自身が覚醒を…記憶が戻ることを拒んでいるのか……封じられている可能性がある。紅牙にしか分からない何かがあるのだろうけど……もちろん、宝の件があるからとも考えられるが、それだけとも思えない」

 確かに、宝の件を隠すためには記憶を封じてしまえばいいわけだ。 

 ──幻夜の言葉は間違ってない。
 紅牙の意識や記憶がない…拒んでいるからこそ、今俺が存在しているのは事実だ。
 だが、この幻夜の言葉には、星酔の報告があったからこその確信が含まれている気もした。

「それもあって探すのは時間がかかった。紅牙の自我があればまた違ったかもしれないが…な」 

 天音は苦笑をうかべて言ったが……確かに、紅牙としての自我があれば探し出すのは簡単なことだったのかもしれない。
 だが…そう言われても俺には何も答えようがなく、黙って話を聞くしかなかった。

 ──人間という殻の中に隠れている紅牙の妖気を探し出す。
 手がかりは日本人で鬼の流れを汲んでいる者、それだけしかない。 
 日本人の数だけでも膨大…その中から条件にあう人間を探し出し、そして微かな紅牙の気を持つ者…唯一人を探し出す──。

 気の遠くなるような作業だっただろう。
 第一、転生が成功しているかどうかも分からない状態で……必死で探してくれたことは容易に想像がついた。

 ……だが、確かに俺は存在するし、俺の中にも紅牙は存在している。 

 それを見つけ出してくれた彼方。そして、今も一緒に…仲間として認めてくれている。
 それは言葉に出来ないほどの感謝の気持ちに他ならない──のだが、

「手分けして探してはいたし、鬼が捜索してるのも利用させてもらってはいたけど……殺される前に彼方クンが見つけてくれて本当に良かったよ」

 そう言って俺を見ながら、クククっと幻夜が笑うのを見て……ちょっと考え直しそうになった。

「まあ、どちらにしても奴らからすれば、宗一郎ではなく…紅牙として見ている。その記憶があろうが、なかろうが…な」

 現実に引き戻されたような気分になったが、天音の言葉は真実だ。 

 確かに、奴らからすれば俺を裏切り者の紅牙としてしか見てない──。
 宝の在処が知りたい、紅牙も抹殺したい……ただそれだけ。

「鬼ってのは元々戦うことを生業としてるような好戦的な種族。幻妖界で最大勢力として君臨できたのもそのおかげだよ…鬼哭なしにしてもね。実力重視、下克上当たり前…全てを力が支配するような奴らなんだよ」

 篝が自嘲気味にそう言うと、

「本来の性質もあるが、それ故に強力な実力者が多い。他種はもちろん、同種であっても上からしてみれば何時命を狙われるか分からないから周囲に目を光らせておく必要がある」

 苦笑混じりに幻夜が付け加えた。
 そんな話を聞いて、ふいによぎったのは…

「昨日、綺紗が言ってた忠告が本当なら俺だけじゃなくて篝も狙われてるって……」

「まぁ、ボク強いから」

 ……自信満々に言い切った!?
 まぁ、強いのは確かなんだからいいんだけどな。

 そこに、やや呆れたような苦笑をうかべた天音が、 

「その上、紅牙の…裏切り者の仲間として17年前の一件に関わってるのは周知、上からしてみれば邪魔者だった篝の命を狙う大義名分が出来た、てことだな」

 ということは、篝自身も個人的に狙われる要素は元からあったということだな。
 それを紅牙の一件で大義名分付きで公に抹殺令が出たようなものか……。 

 本当に鬼という種族は……聞けば聞くほどろくな話が出てこないな。
 いや、この場に揃っているメンバーもたぶん──

 “妖は本能に忠実”

 そんなイメージが定着しつつもあるが、俺がその中の一人であるという自覚は……正直、出来れば持ちたくない気もした。 
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