俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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第ニ章

第40話 ヒントが欲しい!!?

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 幻妖界から人界へ、幻夜と共に戻った俺…と中にいる白叡。
 幻夜が俺の家族にかけたと言う“俺の不在に違和感を持たない”暗示を更に強化してもらい、俺は自宅には戻らず、幻夜所有の高級マンションの一室にお世話になることになった。
 
 着いてから軽く話をして、一旦マンション部屋を出ていった幻夜が手渡していったのは現金一万円とスペアのカードキー。

 ……ていうか。
 好きに使っていいと置いていった一万円…… 現金これ…本物だよな?

 幻夜が狐だからか疑ってしまう……が、ちゃんと本物の一万円札だな。
 思わず裏表と透かしまで確認してしまって、なんだか申し訳ない。

 さて…夕方まではまだ時間がある。
 ここのところまともに食事をしていないから空腹ではあるが……どうせ後で行くというなら、今からここを出るのはちょっと面倒。
 とりあえずシャワーを浴びてから、少し休むべくベッドに寝転んだ。
 
 この高級そうなベッド、ほぼ新品じゃないだろうか?
 ベッドだけじゃない、部屋も家具等も…どこもかしこも高級そうだし新品と思われるものばかり。
 一体なんのために揃えているのか分からないくらいだ。
 幻夜の現金収入源と金銭感覚は不明だが、詳しく聞く気にもならないし、聞いちゃいけない気もする。
 ──まぁいい、俺は居候の身だしな。
 
 仰向けになり、天井をぼーっと見上げながら両手を天井へと伸ばす。
 左手には白叡…右手には幻夜の妖力制御腕輪バングル
 ──あぁ…俺、一人じゃないんだな。
 確かに不安はあるが、孤独感はない……改めて感じるのは仲間の存在の大きさ。

 確か、この部屋全体に幻夜の結界が張られてると言ってたな。
 あの森同様、結界に侵入したモノがいればすぐに幻夜が気づくのだろうか?
 
 逆に、俺の方は今回も気づかないうちに幻夜の結界に入っていた。
 人形たちの結界の時は気持ちの悪い違和感があったが── 幻夜の結界は俺が入っても何も感じない…あくまで自然で結界それの存在自体気づかないまま入っている…?

『……目的が全く違うからな』

 ぼそりと聞こえた白叡の呟き。
 今まで黙っていたのに……起きてたんだな。

人形たちあっちのは空間を遮断し、対象を内部に閉じこめるためのものだからな。── 幻夜アイツが使う結界の中でもお前が見てきたのは結界内部のものを護り、外部からの進入を感知したり攻撃を防ぐためのものだ』

 あぁ…なるほど。目的が違えば感覚も変わるものなのか。
 どうやら結界にも色々種類があって、目的によって使い分けがされているということらしい。

 それにしても、白叡と二人きりで話をするはなんだか久しぶりだな。
 そういえば前にもこんなことがあったな……確か、初めて白叡が俺の中に入った日の夜だ。
 あの時も記憶だ覚醒だと頭がゴチャゴチャだった。

 ──せっかく白叡が起きているなら、少し話してもいいかな?

『……少しだけだぞ』

 渋々といった様子だが大丈夫そうだ。

「……白叡は前に、紅牙の記憶を取り戻すには“まずは認めること”って言ってただろ?」

『あぁ』

「俺さ、あの時に比べてだけど…事実を認められてきたと思うし、俺の中にあるだろう紅牙の存在は感じる。でも、だ」

『……』

「このままじゃダメなんだよ……少しでもヒントが欲しい。前に白叡は彼方から紅牙に関しての話は口止めされてたけど、今もか?」

『あぁ。……だが、記憶を取り戻せるようできるだけ手伝えとは言われている』

「取り戻す手伝い……か。じゃあ、紅牙のことじゃなくて仲間のこと…彼方のこととか聞いてもいいか?」

 俺が紅牙の感覚が蘇る時はほぼ仲間あいつらや彼方といる時だ。
 紅牙にとって仲間の存在は大きかったのは間違いない。
 この先あいつらと過ごすうちにはたくさんあるかもしれない……ただ、懐かしい感覚があったり映像が重なって見えただけでは、いつまで経っても記憶が戻るとか覚醒までいける気がしない。
 何かあるはずなんだ…記憶を封じている理由が、それを解き放つ鍵が。

『なるほど…そうくるか。まぁ、それも答えられる範囲で、だがな』

「じゃあ……そうだな、彼方っていつもあんな感じなのか?」

『──あぁ。どこでも変わらんな』

 白叡の答えは盛大な溜め息混じりだった。
 どうやら、彼方は基本どこでもマイペースらしい。
 天音も言っていたが、上層部も軍も振り回されてるということなのだろう……。

『気まぐれだし、何を考えてるか分からないようなヤツだからな……それこそ、昔から変わらない』

 ということは、紅牙といた時から変わってないな…。

「でも天狗の軍の副大将って言ってたし、強いんだよな?」

 いくら彼方が、マイペースでやや天然ぽくて腹ペコキャラだろうとも。
 俺はまだ直接彼方が戦っているところを見たことはないが、立場的には強いはずだ。
 すると白叡は、

『──認めたくは無いが、あぁ見えて彼方はあっちでも屈指の実力者だ。そうでなければ、このオレ様が使役されたままでいるわけがない……!!』

 怒り混じりに言うが、実力は認めているといったところか。
 そういえば天音は彼方の幼馴染と言っていたが、

「彼方と白叡はいつから一緒にいるんだ?」

 俺の質問に白叡は小さく溜め息をつくと、不本意そうにぼそりと答えた。

『……彼方がガキの頃からだ』

「それって、紅牙と彼方が出会う前?」

『あぁ』

「じゃあ、彼方と紅牙が初めて会った時のこととか覚えているか?」

 ──この質問は流石に答えられるギリギリだったのか、白叡はしばらく沈黙した後静かに答えた。

『……あぁ。ただ、詳しく教える気はないぞ。それは自分で思い出せ』

「だよなぁ…」

『まあ、言えるのは……紅牙と出会った時点で、すでに彼方は天狗軍副大将だった、ということくらいだな』

 その立場があっても尚、敵対する鬼である紅牙とつるんでたのか。

『……一応、よく考えろとは言ったんだが…聞くようなヤツではないからな』

 ……だろうな。
 まぁ…彼方とだけでなく、あいつらとの出会いやら仲間になったきっかけとかは確かに気になるから、思い出せるものなら早く思い出したい。
 ……少なくとも、紅牙から仲間になりたがるイメージはないけれど。

『──これは……オレ様のだが』

 そう切り出すと、白叡は小さく溜め息をついてから話してくれた。

『彼方が紅牙に初めて会った時は紅牙お前は一人だった。その後幻夜、天音、篝と仲間が増えていったんだ……そして、アイツらにとってお互いが、種族や立場を超えて…自分たちで手に入れた大切な仲間で、居場所になっていった。その中でも彼方の存在は大きかった。仲間の…おそらく紅牙の中でも──だから、だろうな』

 それは、仲間…紅牙の中でも彼方の存在が大きくて、だから……に俺の…紅牙の魂が締め付けられるのだろうか。

『──にしても、宗一郎…お前、変わったな』

 白叡がぼそりと呟いた。

「そうかな…?」

『……あぁ。現実を受け入れたことでだいぶ前を向けるようになった』

「……」

『彼方の中にいたときにもそう思って見てはいたが、またお前の中に入ったときに確信した──少しずつではあるが、確実に覚醒に近づいているようだ。……お前が本当に望んでいるかはともかく、な』

「……望んでるよ」

 今も昔もには仲間がいる。
 もう…仲間の……彼方のあんな表情かお見たくはないから。
 ガッカリさせたくない、悲しませたくない──…裏切りたくない。

『──…そうか』

「……白叡は俺が覚醒することに反対なのか?」

『いや。覚醒して…早く思い出してほしいと思っている。ただ──…』

「?」

『ただ…覚醒し、記憶を取り戻したお前がどう行動するかが気になるだけだ。昔のようにいくのかどうかは分からないからな』

「……」

 そのまま黙ってしまった白叡。
 無音が続くと、久しぶりのベッドと急に自覚した疲労感でつい…うとうとしてしまう──
 
 ・
 ・
 ・

 コンコン…

「!」

 不意に聞こえた音に、飛び起きた俺。
 部屋のドアの方を見ると、そこにはドアを開けた状態でノックする幻夜の姿。

「ただいま……起きれるかい?」

「……あぁ」

 どうやらあのまま眠ってしまっていたらしい。
 体を起こし、時刻を確認すると……18時を少し過ぎたくらいか。

「……じゃあ、食事に行こうか」

 そう言って先に玄関へ向かう幻夜を俺は慌てて追いかけた。

「どこに食べに行く気なんだ……?」

「僕の友人の店に案内するよ」

 俺の問いに幻夜は軽く振り返り、にこやかに答えた──。
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