俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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第ニ章

第55話 嫌な予感しかしない!!?

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 ──その、何事もなく2日が過ぎた。

 篝と幻夜は相変わらず留守にしがち。天狗2人からも音沙汰がない。
 俺の置かれた現状はほぼ変わらず、新たに記憶が戻ったり何か変化することもなく、ただただ時間を無駄にしているだけ……のような気もする。

 テレビや新聞ネットでも変わらず、“道路や土地建物等の連続陥没・破壊事件”のニュースばかり。
 各所で原因の憶測が飛び交ってはいるが…言うまでもなく、原因は俺と篝を狙う刺客との戦闘である。

 ちなみに篝と不知火がり合ったであろう工事中のビルは完全に破壊されていた。
 ……確かにここまでやれば“派手にやりすぎ”と責められても文句は言えないだろう。
 ただこの状態になるような戦闘があっても負傷者等はゼロ 。
 これは幻夜の結界のおかげ…かもしれない。

 結局、俺は未だ戦力外。
 流石に今のままではダメだという自覚と危機感──記憶と言えるようなものは戻らず、戦力にもならないまま命を狙われ、仲間たちの足手纏いでしかない。

 もう1人残っているというがどの程度の強さなのかなんて関係ない。

 敵の襲撃に何度もあってはいるが、ずっと逃げてるだけなのももう嫌だ。
 このままでは下手すると、俺のせいで仲間が危険に晒されてしまう。
 そうは言っても、俺にできることは何か……

『オレ様たちが何のためにお前のお守りをしてると思っているんだ……お前がすべきことは、ことだ』

 ……うん、確かに。それはそうだな。
 むしろそれ以上に頑張ることがあるだろうか。
 記憶だ覚醒だと言っても命がなければ何の意味もない……てことだからな。
 言い方はともかく、白叡の溜め息混じりの言葉には納得するしかなかった。

 だが……一応用心はしているが、ずっと外出せずにいるわけにもいかないのも事実。
 時間的には昼を過ぎたところだが、相変わらず幻夜と篝は留守のまま。

「……散歩がてらコンビニでも行くか」

 白叡に俺の中に入ってもらい部屋を出る。

 それは、マンションの敷地を出るか出ないかの瞬間だった。

『出るな! 宗一郎ッ!!』

「え?」

 グラッ……

「……!?」

 白叡の声とほぼ同時。強烈な眠気が襲い、意識を持っていかれそうになるのを必死にあらがう。
 何とか霞む目を擦りながら顔を上げると、いつの間にか目の前に立っていたのは──

「出てくるのを待ってましたよ」

 柔らかな笑みをうかべた、青い髪の優男。

「……星…酔…!?」

「あの方の結界内にいるうちは手を出せないのでね。……さぁ、私と来てください」

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに俺の意識は闇に落ちていった──。 

 ………………
 …………
 ……?

 ゆっくり目を開ける。
 ぼんやりとした視界。
 どのくらい時間が経ったのか、ここがどこなのかも分からない。
 目は覚めた…覚めているはず……だが、頭にモヤがかかっているような…?

 横になったまま、事態を把握できずにいると

「おや、目が覚めましたか?」

 声の主は、すぐそばの木柱はしらのところで気怠けだるげに立っていた。

「…せ……星…酔……? ここ…は?」

 なんとか絞り出した声で問うと、星酔はにっこり微笑んで

「あのマンションからは少し離れてますが……古寺を見つけたのでお連れしたんですよ」

「……古…寺…?」

 無理矢理眠らされたからであろう酷い倦怠感の中、なんとか起き上がって辺りを見渡す。

 確かに自分が今いるのは、古くて朽ちかけた寺…の賽銭箱が置いてあったであろう場所。
 辺りは木々に囲まれ……夏には元気に伸びていただろう枯れ草が生い茂る境内。人が最後に来たのはいつなのか、存在自体忘れられていそうな古寺…正しくは廃寺か。

 そういえば、地元で話題になっていた心霊スポットがあったな……入ると高確率でなる廃寺がある、と。
 ここがそれかは分からないが、たぶん当該あたり
 漂う空気感が普通じゃない。
 これなら噂のようなこともありえそうだ。

 だがそれより、どこか景色にも違和感が──?

「結界…か……?」

 俺の言葉に星酔は笑顔のまま頷いた。
 おそらくに星酔が張った結界で間違いない。
 
 寺の周りが外の空間から切り取られているような、そんな感覚。
 こんな時は白叡の説明が──そうだ、白叡は!?

 …………?
 白叡の声がしない……というか、自分の中に白叡の気配がしない?

「白叡…はどうした?」

 星酔が何かしたことは間違いない。
 確信と精一杯の威圧を込めて問う俺に

「ご自分の心配よりイタチの心配ですか?」

 笑みをうかべたまま呆れたように言う星酔。
 その様子に苛立つが、視線を外さない俺に小さく溜め息をつくと

「………貴方を眠らせた時出てきたので、で深く深く眠らせましたよ」

「な……っ!?」

 幻夜の結界から一歩でも出れば、幻夜のはなくなる──そこを狙われた。
 
 俺を守るため、星酔と対峙するべく出てきたのは間違いない。
 その白叡を術で眠らせ…少なくとも意識のない状態で放置してきた、それは……無事と言えるのか?
 いや、言えない。

 ただ、あの場に白叡を敢えて残してきたのなら……少なくとも幻夜か篝のどちらかは気づく可能性が高い。
 そして発見・保護すれば白叡にかけられた術の主が星酔だとも、俺が行方不明になっていることにも気づくはずだ。
 そこから現在地ここをどう特定するのかは、俺には分からないけれど。

 今のところ、俺をいきなり殺すような感じではないが……何をされるかは分からない。とはいえ自力で逃げられそうにもないし、逃してもくれないだろう。

 どうする……?
 このまま助けを待っていていいのか?
 白叡の安否も気にはなるが、ここは何とか自分一人で切り抜けなければ……死なないために!

「それはそうと……宗一郎、どうです? 覚醒は進みました?」

「……っ」

「その様子ではまだまだといったところのようですね」

 口元は笑みの形を作ってはいるが、明らかに冷やかな視線を俺に向け

「貴方の記憶を取り戻すために何が一番効果的か……考え直したんですよ」

「は……?」

との戦闘なんかより、紅牙貴方が大切にしていた仲間ものが傷つき血を流し、壊れていく──その目の前で。どうです?」

 確かに、かつての仲間の危機はキッカケにはなるかもしれない。
 紅牙自身がどう言おうと……間違いなくだったはずだから。
 
 だが、最低な提案でしかない。

 加えて、どうもひっかかる。
 星酔は今も紅牙の覚醒を望んでいる? 本当に??

 幻夜の前から姿を消し、俺を殺してもおかしくないような強行策をとった星酔。
 幻夜が探していないはずはないが、本当に見つけられなかったのか…見つける気がなかったのかは分からない。
 そうだとしても、幻夜から逃げきっていたのは事実。

 それも、幻夜から姿を消してまでを計画・準備のため?

 ──相変わらず体は上手く動かないが、頭はスッキリしてきた。

「…… 星酔お前の本当の目的はなんだ」

「おや、分かってるのではないですか?」

 白叡が言っていた、星酔にとっての俺の利用価値──ああ、やはりことか。

「──彼方なら来ないぞ」

「来ますよ」

 即答。

 白叡をあの場に残してきたことも、俺をさらったのも、全てはここへ彼方を誘き出すため。

 だが、彼方はしばらく来られそうにないと聞いている。
 それに、例え彼方がここへ来られたとしても……

「星酔が彼方をかたきだと思ってるのは分かるけど……」

 天狗と獏の実力差は明らか。
 結果が見える仇討あだうちに意味があるのか?
 事情を知ってしまっただけに気まずいというか、見過ごせないというか……

 もちろん星酔が無策でこんなことをするとは思えないけれど、嫌な予感しかしない。

「よ…よく考えてみろ、彼方だからお前が生き残れたんじゃないのか?」

「…………でしょうね」

 星酔のが物語っていた。

 おそらく彼方でなければ、瀕死の生き残り星酔はその場でとどめをさされていただろう。
 彼方が何を考えて見逃したのかはともかく、結果として星酔の命が今あるのは事実。

 俺が言うのも何だが、命は大切にしろよ!!

 獏や星酔に同情する…というのは簡単だ。それで解決するのなら。
 だがそんなこと、星酔だって望んではいないだろう。
 
 やり場のない気持ちを仇である彼方にぶつけることで保ってたもあったのかもしれない。

 それでも。
 このままだと、星酔に待っているのは──

 これまでは見逃されたかもしれない。
 だが、次は分からない。

 まだ間に合う……か?

「……彼方はしばらく来れそうにないって聞いてる」

 改めて事実のみを伝える、が

「いえ、来ますよ」

 俺を真っ直ぐ見据えたまま断言する星酔。
 だが事実は事実だ。

「彼方は来ない…来られないって言ってるだろ。それより、幻夜か篝が来るかもしれないだろうが……!」

 そう、可能性で言うならここへ来るのは幻夜か篝が先のはず。
 なのに、星酔は呆れたように盛大な溜め息をつくと

「…………本気でそう思っているんですか?」

「え?」

「前回、白叡イタチを眠らせた時どうでした?」

 ……あ。確かに前回、あいつは星酔に眠らせられた白叡の様子を確認しに来ていた。
 だがそれはあくまでも白叡の元へだ。
 今回白叡が放置された場に来たとしても、ここを見つけれるのか──

「おや……を一番に見つけたのは誰だったか、忘れてしまったのですか?」

 一番、最初……?
 
「!」

 あぁ。
 俺を……今世で…いや前世でも、一番最初に見つけた…見つけてくれたのは…… 彼方あいつだ。

「…………あの天狗が来ないはずがない」

 静かにそう言うと、俺からゆっくり寺入り口正面の一点へと視線を移す──

「!! ……か…彼方?」

 星酔の視線の先…結界の外側、そこには来られないはずの彼方の姿。
 表情まではよく分からないが、どこか雰囲気が違う?

「……本…物……だよな?」

 俺の疑問には誰も答えてはくれない。だが多分、本物。

 やがて結界前で足を止めると、おもむろに拳を振り上げ……
 
 
 ドン……ッ


「「!?」」

 振動するようなやや重い衝撃音が辺りに響いた、直後


 ガシャーン……!
 

 大きな音をたてて目の前の空間を隔てていた分厚いガラス結界が割れ、そこには無表情の彼方が立っていた。
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