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第ニ章
第56話 控えめに言って、絶体絶命!!?
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星酔の視線の先に立っていたのは、来ないはずの彼方。
この古寺と外界を遮断していた結界を叩き割った……のか?
というか、そんな物理攻撃で結界が破れるのかよ!?
彼方は一瞬辺りに視線を動かしたが改めてこちらをまっすぐ見据え、ゆっくりと歩いてくる。
それを確認した星酔は、俺の方をチラリと見て
「あぁ、宗一郎……まだ動けないとは思いますが、念には念を入れておきましょうね」
そう言って俺に左手を向け、指先をわずかに動かすと
キン……ッ
「!?」
ガラスのような音と共に、俺の周りの空間が一瞬歪んだ…気がする?
手を伸ばしてみると、指先に何か当った。
周囲の音も景色も変わらないが、確実にそこに存在する透明な薄い壁。
「少々狭いですが、結界内で見ていてくださいね──……な……が……を」
そう小さく呟いて再び彼方へ視線を戻す星酔。
「え……?」
その言葉の最後が聞き取れず思わず聞き返そうとしたが、すでに二人の緊迫した空気に俺は言葉を飲み込むしかなかった。
「まさか叩き割られるとは思わなかったですが……思ったより、早かったですね」
彼方は足を止め、小さく答える。
「──白叡が知らせてくれた」
「相変わらず、小賢しいイタチですね」
小さく鼻で笑い、まるで悪びる様子のない星酔。
……あぁ、そうか。
結界を叩き割るなんて…その拳を妖気が纏っていたとしても、彼方の印象からはやや荒っぽくて意外だと思ったが、納得した。
彼方から表情が…いつもの柔らかい雰囲気が完全に消えている。
その瞳に宿るのは“怒り”の色。
ただ、白叡が彼方に知らせたということは、無事であったということだろうか?
……そうであったとしても、彼方の怒りが収まるわけではないが。
「宗一郎を返して」
冷たく、有無を言わせぬような声音。
一触即発──だが、そんな張り詰めた空気の中、星酔は敢えてだろう…盛大な溜め息をつきながら
「もう諦めたらどうです? 紅牙としての覚醒どころか記憶すら戻らない、妖としても不完全……なのに、まだ必要なのですか?」
……っ!
正直、俺の心を抉るには十分すぎる言葉。
だが彼方は表情一つ変わらない。星酔を真っ直ぐ…射抜くように見つめたまま。
「もちろん。オレの、オレたちの大切な仲間だ」
即答。そこに一切の迷いはない。
「貴方たち…貴方のことを忘れたままでも……それでも仲間だと?」
「そうだ、と言ってる」
静かに…だが強い意志が込められた彼方の答え。
「…………彼…方」
俺には…いや紅牙にとっても、響く言葉だっただろう。
星酔の言葉に揺らぐものなどない。これが彼方の想いで、真実なのだと。
彼方はチラリと俺…と俺を囲む結界を確認すると
「星酔の目的は天狗のはずでしょ?」
「もちろん天狗の命は欲しいですよ」
「…………」
にっこりと微笑む星酔に、変わらず彼方の表情は険しい。
白叡をあの場に置いてきたのは──所謂、宣戦布告。
誰が見つけるか…誰が来るか分かっていてやったこと。そして、そんなことをすればどうなるかも。
最初から星酔の狙いは一族の仇である天狗の、彼方の命。
そして、彼方はやって来た。
だが獏と天狗、元より力の差が明らかであり、勝ち目がないと分かっているのに──チラリと星酔の表情をうかがってみても全く動揺する様子はなく、その口元には余裕の笑み。
彼方は白叡に危害が及び、俺がさらわれたことにブチ切れてここへやって来たのに、だ。
……ん? あれ?
改めて彼方に視線を移してみての違和感。
元々色白ではあるが、彼方の顔色が悪い気がする。もしかして、調子が悪い……とか?
まさか、ここの結界を突破した時か、もしくはここへ来るまでに何かあったのだろうか??
これに星酔が気づいたらまずいのでは──と思った時には、星酔はその笑みを強めていた。
「おや……珍しい。顔色がすぐれませんね?」
「…………いいから、宗一郎を返して」
否定も肯定もしない。星酔も微笑んだまま。
そもそもお互いに話をする気がないのかもしれない。
──流れる沈黙。
彼方は辺りを再度確認するように視線を動かした後、小さく溜め息をつくと
「……仕方ないね」
そう呟き一歩踏み出した、その時
「!?」
地面が淡く光り、八方から彼方に向かい青白い光が走る。
その光…妖気がまるで蜘蛛の巣のように彼方を中心に複雑な図形を描いたかと思うと、その図形に足が縫い付けられたように地面から離れなくなったようだった。
「彼方……っ!」
「……ッ」
俺の声に応えることはなかったが、どうやら無事は無事……?
ただ、次の瞬間には彼方の動きを封じた図形からスルスルと妖気のツル…いや、鎖が出現し彼方の足元に巻き付いていく──その様子を満足そうに見つめつつ
「貴方も分かっていて来たのでしょう?」
星酔の言葉に反応するように図形と鎖が一際光り、
「く……っ!?」
本数を増やしながら伸びていく鎖が、あっという間に彼方の足元から首元まで縛りつけ完全に身動きを封じてしまった。
そして鎖に巻き付かれた彼方からは青白い光がどんどん流れ出て、それが全て鎖に吸い込まれ……鎖を伝って足元の図形へ。
これは…彼方の妖気を図形が吸収されていっている、ってことだよな!?
「──この場所は元々陰の気が強いんですよ。私の妖気を補うだけでなくより強い力を与えてくれるほどに」
これが星酔の用意した仇討ちの舞台。彼方の妖気を奪い、弱体化させる術を発動させる──この場所の力を使って自身の妖気と術を強化させているのか。
しかも奪った妖気を自らに還元することが可能だとすると、いくら彼方の元々の妖気が強かったとしても吸収され続けては……まずいよな!?
彼方も鎖を外そうとしているようだがどうにもならないようだ。
もしや…普段ならともかく、弱っている状態だから余計にか??
「簡単には外せないでしょう? 私が時間をかけ、強力に練り上げた妖力で完成させた術です──我らが仇のために」
「ま…待てよ、星酔……ッ! こんなやり方…仇討ちなんてしなくても──」
咄嗟に出た俺の言葉に、じろりと冷たい視線を一瞬向けた星酔だが、盛大な溜め息をつくと改めて彼方へ向かい
「私は謝罪が欲しいわけじゃないんですよ──欲しいのは、その命です」
「…………そう…だろうね」
小さくそう言って、彼方は苦笑をうかべた。
言葉も同情もいらない。
そんなものに意味はない──失った事実は変わらないのだから。
彼方だってそれを分かっているから何も言わないのだろう。
これはきちんと準備をし、自らの命引き換えにでもこの仇討ちを…復讐を完遂するという星酔の強い意志。星酔自身“後が無い”と分かっている、その覚悟を持ってやっていること。
だからこそ、タチが悪い。
だが俺は……できることなら星酔の仇討ちを止めたい、この期に及んでも願ってしまっていた。
多少なりとも関わりがあったから、事情を知ってしまったから──それもある。
何より、最初から結果の分かっているような復讐はやめろと言いたいだけ…かもしれない。
偽善や自己満足だとも思う。これが人間の甘さと言われれば否定できない。
そもそも俺にとっても星酔は仲間どころか敵寄りの知人といったところなのだから、そこまで止める義理はないのだろうけれど……。
ああ、もう!
これがバトルマニア同士の殺し合いなら、こんな気持ちにはならなかっただろうに!!
しかし、俺がモヤモヤしているうちにも彼方から妖気が奪われていく。
このままではまずい──俺はどうしたら…!?
「さて、せっかく天狗軍副大将さまが来てくださったのだから……私もきちんとしないといけませんね」
そう言って微笑んだ星酔から青白い光が……?
「!?」
一瞬その光が強くなり、次に光が収まった時その場にいたのは……妖の姿をした星酔だった。
本来の姿になったことで服も現代らしいラフな服装から水色を基調としたアレンジ和服に変わり、その青みを増した瞳と背中まで長く伸びた青髪、そして左顔面から胸まで続く煙のような紫色の紋様が浮かび上がっていた。
これが本来の…獏の星酔。
柔らかい物腰はそのままに、その見た目と気配そのものは俺の知る星酔とは違う…明らかに人ではない佇まい。
獏なんて動物でしか知らなかったが、妖の獏とはこういうものなのか。
その姿を力強い瞳で見つめる彼方だが、鎖で身動きの取れない上すでにだいぶ弱った様子は否めない。
そんな彼方に、星酔はゆっくりと近づき
「原因はともかく…以前、覚醒しきれていない紅牙にも弾かれてしまいましたからね、今回はちゃんと…念入りに準備をさせていただきましたよ」
星酔は静かにそう言うと、その手を彼方の額へかざす。
「さぁ、このまま貴方の“心の扉”を開けて差し上げますよ……」
「…………ッ」
「!!」
……もしかしてさっき、星酔は“大切なものが壊れるところ”て言ったのか!?
俺の脳裏に白叡の言葉がよぎる。
──“獏の能力をどう使うかはともかく、魂の深層…それは記憶を呼び起こす心の扉を開けることと同じ。そんな奥底に封じられてるような記憶が幸せな記憶だけだと思うか?”
もし、星酔がその能力で彼方のトラウマを引き摺り出したら……?
……ッ!!
どんなモノを抱えているかなんて俺には分からない。
だが、星酔の言葉通り…もしそれが彼方の心を壊してしまうようなモノだとしたら?
ダメだ……そんなことさせない…させるわけにはいかない!!
咄嗟に立ちあがろうとしたが
「ぅ……!?」
くそ! まだ体が上手く動かないのかよ!?
「や…やめろぉぉぉぉッ!!」
俺の叫び声が辺りに虚しく響いた。
この古寺と外界を遮断していた結界を叩き割った……のか?
というか、そんな物理攻撃で結界が破れるのかよ!?
彼方は一瞬辺りに視線を動かしたが改めてこちらをまっすぐ見据え、ゆっくりと歩いてくる。
それを確認した星酔は、俺の方をチラリと見て
「あぁ、宗一郎……まだ動けないとは思いますが、念には念を入れておきましょうね」
そう言って俺に左手を向け、指先をわずかに動かすと
キン……ッ
「!?」
ガラスのような音と共に、俺の周りの空間が一瞬歪んだ…気がする?
手を伸ばしてみると、指先に何か当った。
周囲の音も景色も変わらないが、確実にそこに存在する透明な薄い壁。
「少々狭いですが、結界内で見ていてくださいね──……な……が……を」
そう小さく呟いて再び彼方へ視線を戻す星酔。
「え……?」
その言葉の最後が聞き取れず思わず聞き返そうとしたが、すでに二人の緊迫した空気に俺は言葉を飲み込むしかなかった。
「まさか叩き割られるとは思わなかったですが……思ったより、早かったですね」
彼方は足を止め、小さく答える。
「──白叡が知らせてくれた」
「相変わらず、小賢しいイタチですね」
小さく鼻で笑い、まるで悪びる様子のない星酔。
……あぁ、そうか。
結界を叩き割るなんて…その拳を妖気が纏っていたとしても、彼方の印象からはやや荒っぽくて意外だと思ったが、納得した。
彼方から表情が…いつもの柔らかい雰囲気が完全に消えている。
その瞳に宿るのは“怒り”の色。
ただ、白叡が彼方に知らせたということは、無事であったということだろうか?
……そうであったとしても、彼方の怒りが収まるわけではないが。
「宗一郎を返して」
冷たく、有無を言わせぬような声音。
一触即発──だが、そんな張り詰めた空気の中、星酔は敢えてだろう…盛大な溜め息をつきながら
「もう諦めたらどうです? 紅牙としての覚醒どころか記憶すら戻らない、妖としても不完全……なのに、まだ必要なのですか?」
……っ!
正直、俺の心を抉るには十分すぎる言葉。
だが彼方は表情一つ変わらない。星酔を真っ直ぐ…射抜くように見つめたまま。
「もちろん。オレの、オレたちの大切な仲間だ」
即答。そこに一切の迷いはない。
「貴方たち…貴方のことを忘れたままでも……それでも仲間だと?」
「そうだ、と言ってる」
静かに…だが強い意志が込められた彼方の答え。
「…………彼…方」
俺には…いや紅牙にとっても、響く言葉だっただろう。
星酔の言葉に揺らぐものなどない。これが彼方の想いで、真実なのだと。
彼方はチラリと俺…と俺を囲む結界を確認すると
「星酔の目的は天狗のはずでしょ?」
「もちろん天狗の命は欲しいですよ」
「…………」
にっこりと微笑む星酔に、変わらず彼方の表情は険しい。
白叡をあの場に置いてきたのは──所謂、宣戦布告。
誰が見つけるか…誰が来るか分かっていてやったこと。そして、そんなことをすればどうなるかも。
最初から星酔の狙いは一族の仇である天狗の、彼方の命。
そして、彼方はやって来た。
だが獏と天狗、元より力の差が明らかであり、勝ち目がないと分かっているのに──チラリと星酔の表情をうかがってみても全く動揺する様子はなく、その口元には余裕の笑み。
彼方は白叡に危害が及び、俺がさらわれたことにブチ切れてここへやって来たのに、だ。
……ん? あれ?
改めて彼方に視線を移してみての違和感。
元々色白ではあるが、彼方の顔色が悪い気がする。もしかして、調子が悪い……とか?
まさか、ここの結界を突破した時か、もしくはここへ来るまでに何かあったのだろうか??
これに星酔が気づいたらまずいのでは──と思った時には、星酔はその笑みを強めていた。
「おや……珍しい。顔色がすぐれませんね?」
「…………いいから、宗一郎を返して」
否定も肯定もしない。星酔も微笑んだまま。
そもそもお互いに話をする気がないのかもしれない。
──流れる沈黙。
彼方は辺りを再度確認するように視線を動かした後、小さく溜め息をつくと
「……仕方ないね」
そう呟き一歩踏み出した、その時
「!?」
地面が淡く光り、八方から彼方に向かい青白い光が走る。
その光…妖気がまるで蜘蛛の巣のように彼方を中心に複雑な図形を描いたかと思うと、その図形に足が縫い付けられたように地面から離れなくなったようだった。
「彼方……っ!」
「……ッ」
俺の声に応えることはなかったが、どうやら無事は無事……?
ただ、次の瞬間には彼方の動きを封じた図形からスルスルと妖気のツル…いや、鎖が出現し彼方の足元に巻き付いていく──その様子を満足そうに見つめつつ
「貴方も分かっていて来たのでしょう?」
星酔の言葉に反応するように図形と鎖が一際光り、
「く……っ!?」
本数を増やしながら伸びていく鎖が、あっという間に彼方の足元から首元まで縛りつけ完全に身動きを封じてしまった。
そして鎖に巻き付かれた彼方からは青白い光がどんどん流れ出て、それが全て鎖に吸い込まれ……鎖を伝って足元の図形へ。
これは…彼方の妖気を図形が吸収されていっている、ってことだよな!?
「──この場所は元々陰の気が強いんですよ。私の妖気を補うだけでなくより強い力を与えてくれるほどに」
これが星酔の用意した仇討ちの舞台。彼方の妖気を奪い、弱体化させる術を発動させる──この場所の力を使って自身の妖気と術を強化させているのか。
しかも奪った妖気を自らに還元することが可能だとすると、いくら彼方の元々の妖気が強かったとしても吸収され続けては……まずいよな!?
彼方も鎖を外そうとしているようだがどうにもならないようだ。
もしや…普段ならともかく、弱っている状態だから余計にか??
「簡単には外せないでしょう? 私が時間をかけ、強力に練り上げた妖力で完成させた術です──我らが仇のために」
「ま…待てよ、星酔……ッ! こんなやり方…仇討ちなんてしなくても──」
咄嗟に出た俺の言葉に、じろりと冷たい視線を一瞬向けた星酔だが、盛大な溜め息をつくと改めて彼方へ向かい
「私は謝罪が欲しいわけじゃないんですよ──欲しいのは、その命です」
「…………そう…だろうね」
小さくそう言って、彼方は苦笑をうかべた。
言葉も同情もいらない。
そんなものに意味はない──失った事実は変わらないのだから。
彼方だってそれを分かっているから何も言わないのだろう。
これはきちんと準備をし、自らの命引き換えにでもこの仇討ちを…復讐を完遂するという星酔の強い意志。星酔自身“後が無い”と分かっている、その覚悟を持ってやっていること。
だからこそ、タチが悪い。
だが俺は……できることなら星酔の仇討ちを止めたい、この期に及んでも願ってしまっていた。
多少なりとも関わりがあったから、事情を知ってしまったから──それもある。
何より、最初から結果の分かっているような復讐はやめろと言いたいだけ…かもしれない。
偽善や自己満足だとも思う。これが人間の甘さと言われれば否定できない。
そもそも俺にとっても星酔は仲間どころか敵寄りの知人といったところなのだから、そこまで止める義理はないのだろうけれど……。
ああ、もう!
これがバトルマニア同士の殺し合いなら、こんな気持ちにはならなかっただろうに!!
しかし、俺がモヤモヤしているうちにも彼方から妖気が奪われていく。
このままではまずい──俺はどうしたら…!?
「さて、せっかく天狗軍副大将さまが来てくださったのだから……私もきちんとしないといけませんね」
そう言って微笑んだ星酔から青白い光が……?
「!?」
一瞬その光が強くなり、次に光が収まった時その場にいたのは……妖の姿をした星酔だった。
本来の姿になったことで服も現代らしいラフな服装から水色を基調としたアレンジ和服に変わり、その青みを増した瞳と背中まで長く伸びた青髪、そして左顔面から胸まで続く煙のような紫色の紋様が浮かび上がっていた。
これが本来の…獏の星酔。
柔らかい物腰はそのままに、その見た目と気配そのものは俺の知る星酔とは違う…明らかに人ではない佇まい。
獏なんて動物でしか知らなかったが、妖の獏とはこういうものなのか。
その姿を力強い瞳で見つめる彼方だが、鎖で身動きの取れない上すでにだいぶ弱った様子は否めない。
そんな彼方に、星酔はゆっくりと近づき
「原因はともかく…以前、覚醒しきれていない紅牙にも弾かれてしまいましたからね、今回はちゃんと…念入りに準備をさせていただきましたよ」
星酔は静かにそう言うと、その手を彼方の額へかざす。
「さぁ、このまま貴方の“心の扉”を開けて差し上げますよ……」
「…………ッ」
「!!」
……もしかしてさっき、星酔は“大切なものが壊れるところ”て言ったのか!?
俺の脳裏に白叡の言葉がよぎる。
──“獏の能力をどう使うかはともかく、魂の深層…それは記憶を呼び起こす心の扉を開けることと同じ。そんな奥底に封じられてるような記憶が幸せな記憶だけだと思うか?”
もし、星酔がその能力で彼方のトラウマを引き摺り出したら……?
……ッ!!
どんなモノを抱えているかなんて俺には分からない。
だが、星酔の言葉通り…もしそれが彼方の心を壊してしまうようなモノだとしたら?
ダメだ……そんなことさせない…させるわけにはいかない!!
咄嗟に立ちあがろうとしたが
「ぅ……!?」
くそ! まだ体が上手く動かないのかよ!?
「や…やめろぉぉぉぉッ!!」
俺の叫び声が辺りに虚しく響いた。
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