俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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第ニ章

第54話 これだから戦闘マニアは!!?

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 フジの店に迎えに来てくれた幻夜、白叡と無事合流し、マンションへ戻ってきた俺たち。

 店の外は夕方…いや夜のように暗かったが、こちらは不知火と対峙した時も今もまだまだ明るい。
 時刻を確認してみると、15時をまわったくらいだった。
 幻夜曰く、あの店の空間は人界にはあるが、常に夕暮れから夜なのだとか。
 如何にもが営んでいる小料理屋、といった感じで妙に納得してしまう。

 俺たちが玄関からリビングに向かう途中、丁度シャワーを終えたところらしい篝が廊下に顔を出した。

「みんな、おかえりー!」

 バスタオルで髪を拭きながら明るい笑顔で迎えてくれたが……その下は全裸、だな。
 相変わらずの肉体美はいいとして、

「篝…そのケガ……!」

 所々に擦り傷や打撲のようなケガ……中には血が滲むようなものもある!?

「あ、これ? 大したことないし、すぐ治るよ⭐︎」

 本人はそう笑顔で答えるが……見るからに痛そうだと動揺する俺の後を

「とりあえず、服を着てリビング集合」

 幻夜が冷たくそう言って通り過ぎていった。

 ……その後。
 おとなしく服を着てきた篝も一緒に、リビングで軽く報告会となった。
 幻夜が煎れていくれたお茶を飲みながら

「近くにはいたんだけど不知火アイツの位置まではイマイチ分からなくてね、白叡が知らせてくれて助かったよ。とにかく、宗一郎が無事で良かった」

 篝はそう言って微笑んだ。それには俺も素直に頷いた…が

「でも篝があんなケガをうなんて……」

 篝が負傷するような敵なんだから、最初からかなうはずがなかったな。
 本人はすぐに治るとは言っていたがケガはケガ。心配する俺の横で、

『ただるだけならそんなケガを負うこともなく、もっと早く片付いただろうに』

「派手に暴れるからだよ」

 白叡たちの盛大な溜め息付きな言葉に、篝は心外とばかりに

「ボクは派手にやってそんなことしてないよ!?」

随分楽しそうだったそうは見えなかったけどね」

 幻夜が遠い目でそう呟き、白叡も完全同意とばかりに頷いた。 
 これには流石の篝も居た堪れなくなったのか、手取り早く話題を戻すことにしたようで
 
「まぁ…とりあえず! 白叡はあの場から宗一郎を逃がしたのは正解だし、逃げ切れて本当に良かったね⭐︎」

 それには白叡も小さく溜め息をつきつつ、俺に視線を向けると

『言っただろう? チャレンジ失敗しても、しなくても死ぬ、と』

 あぁ、そうだな。
 成功して良かったよ……本当に。

「……紅牙なら余裕で勝てただろうけど、ね」

 ボソリと付け加えられた幻夜の言葉は、この際聞かなかったことにするけどな。
 それでも篝はハハッと笑うと、

「まぁまぁ、ちなみに不知火は“今回の刺客たち”の中で言うと…実力は2番目だね」

「2番目!?」

「あくまでも、この前聞いた実力者リストの中で、だけどねっ」

 今回、何人の実力者が紅牙と篝の刺客として動いているのかは分からないが、その中でも実力2位とは……。
 そりゃあ…幻夜があれほど心配していたのも納得、かもしれない。
           
 そういえば……

「なぁ、ちょっと気になったんだけど」

「ん?」

「篝、不知火と何かあったのか? 例えば……因縁…とか」

「え、別にないけど……そういえば何かうるさかったなぁ?」

 あ、これはもしかして……

『……』

 白叡の溜め息をつく中、篝は何か思い当たることがあったのか

「あ、さっきは思い出せなかったんだけど……もしかしたら前にボクがちょっとことがあった…かも?」

「だいぶ、の間違いなんじゃないかい?」

「そこまでじゃないよぉ」

 幻夜の呆れた表情に、篝はそんなはずはないと笑う。が……絶対、煽ったな。
 そうでなければ、あれほど無表情の奴の表情をその名一つで歪ませられない。

 篝がどれだけ強いかには分かっていないが、今までの鬼やあの不知火を相手に煽り散らすくらいには強いのだろう、けど……

『さっきも煽っていただろうが』

 白叡の一言で確信した。

「ちょっと待て。もしかして、そのケガって……」

 幻夜が呆れたように答える。

過ぎなんだよ、篝の悪い癖だね」

 つまり、本来ならすぐに始末できるくらいの実力差がある相手だったのに煽り散らして戦うのを楽しんでしまった挙句、負わなくてもいいはずのケガを負った……ということか?

 そもそも故意なのか無意識なのかは分からないが、敵を煽ることでやる気にさせて戦闘を楽しむスタイルなのかもしれない。しかも、そのための負傷は気にしてない様子。
 確か、浅葱あさぎ戦の時もそうだったな。
 特に篝は“鬼”だし、これだから戦闘マニアは……

しているが、紅牙も大して変わらないからな?』

「え……」

 ニヤリとした白叡に、幻夜もどこか楽しそうな様子で

「紅牙に戻った時を楽しみにしておくよ…ククク」

 なんて笑うもんだから

「待て、は紅牙とは違うぞ!?」

 思わずそう言い返したが

『どうだろうな』

「楽しみだね」

 白叡と篝も楽しそうにニヤニヤしていた。

 ん? 篝は元より、白叡も紅牙の情報を出し始めた?
 記憶を戻すキッカケは少しでもあった方がいいのだろうが、正直こういう情報は複雑な気分。
 
 ……ただ、このは…何だか懐かしい気もする?
 揶揄われているのは一旦置いておくとして。

 そんなことを考えていると
 
『──それはそうと』

 白叡がそう話を戻すように篝へ視線を移す。

『今回動いている鬼の実力者はあとどのくらい残っているんだ?』

 その言葉に篝は記憶を辿るような仕草を見せつつ、

「不知火も始末したし、ボクと幻夜くんでほとんど片付けたはずだけど……」

「て、幻夜もやってたのか!?」

 思わず幻夜に向き直ると、当然とばかりに

「その方が早いからね。でも僕は派手なことはしてないよ──始末したで」

 確かに、手分けして片付けていけば効率はいいかもしれない。
 ただ、最初はこちらから狩りに行こうとする篝を牽制していた気もするが……

「あくまでも君を守るためだよ。妖狐的にもちょうど良かっただけで」

 あー……うん、幻夜の場合は戦闘が目的…という感じではなさそうだけどな。
 もう、を守ることと個人的な理由が上手く合って良かった…ということにしておこう。
 そう無理矢理納得することにした俺の横で、白叡は鼻で笑うと

『随分と都合の良いだな』

 そんな嫌味言葉でスルーしつつ

「……だが、まだあと数人残ってるだろう?」

 幻夜の言葉に篝は軽く頷くが、

「まぁ、残りはもう放っておいてもいいんだけど……まだ1人、がいるんだよね」

「大物!?」

 放っておいていいという残りも俺には脅威なのだが、それ以上に…たとえ1人でも大物がいるというのは!?

「あぁ、うん。今回名が挙がってる奴らでも一番大物強いのが残ってる」

 え……それはかなりやばくないか? もちろん、俺にとってだが。

「……篝は知り合いなのか?」

「知ってるけど、面識はないよ」

 どこか残念そうに言う篝。
 もしや戦闘たたかう機会を狙ってた、とか?
 …………ありうるな。

「そんな目で見ないでよ。……確かに、以前まえから気にはなってるけどね⭐︎」

 俺の視線に気づいて苦笑をうかべたが、やっぱりじゃないか!!
 というか、篝……その強い奴含め、こちらから殺る前提だったよな?
 思わず溜め息をつく俺。

「でも、全然見つからないの。何ならから探してるんだけどね」

『篝のは好戦的な理由だろ?』

 白叡がじとりと篝を見て言った。
 ……うん、俺もそう思う。
 せっかく戦うなら強いのが良いってことだろ?
 当の篝も否定はしなかったが

「理由はともかく、そんな実力者がウロウロしてたら手がかりくらい掴めそうでしょ? なのに、ボクはともかく幻夜くんですら見つけられてないんだよねぇ」

 と幻夜の様子を伺うように視線を向ける。が、幻夜も残念ながら手がかりゼロのようで

「とりあえず、それは僕らで見つけ次第何とかしよう。宗一郎と白叡には引き続き警戒してもらうとして……」

 幻夜は俺を真っ直ぐ見据えると

「宗一郎、記憶と覚醒には何か進展は?」

 ……記憶と覚醒。
 俺は自分でも再確認するように、改めて思い当たることを話した。

 仲間の話、仲間との思い出を聞いてキッカケにしようとしていること。
 以前から時折、おそらく過去の映像と思われるものが脳裏によぎること。
 感覚…五感が鋭敏になったこと。
 身体能力が以前より上がっていること。

「なるほど……少し前進だな」

「身体もちゃんと妖に戻りつつあるようで良かったね」

 安堵したような表情の2人に、少し複雑な気持ちになる。
 2人…仲間たちの望みは、俺が戻ること……だものな。

 紅牙としての記憶、妖としての身体、妖力……それが全て戻った時、宗一郎はどうなるのだろうか──?

 今、考えても仕方がない。
 そんなことは分かっている。

 ……ただ、ちょっと怖かっただけだ。

 気にするのはやめて、話を変えよう。

「そういえば、星酔は見つかったのか……?」

「いや」

 俺の言葉に幻夜は小さく首を振る。

 ほぼ駒扱いではあったが、自分を心酔していたはずの星酔に裏切られたってことになるのだろうか?
 ふと、そう思って幻夜を見たが

「言っただろう? 仲間ではないのだからとも思わないよ」

 俺の心を読んだようにそう答えた。
 声音から幻夜の本心である気はしたが、それはそれでなんだか複雑な気持ちでいると、

「僕はともかく、宗一郎には……気をつけてくれ、としか言いようがない」

 その言葉と、じっと俺を見つめるメガネ越しの紫瞳に改めて念を押され

「…………わかった」

 素直に頷くしかなかった。

 そして俺はこの後、思い知らされる。
 幻夜の言葉の意味を──。
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