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第20話 交渉8 水偵飛来と艦隊合流5
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ティアマト号の食堂で、出されたワインを啜りながら上機嫌でタバコを吸っていた清田上等兵曹たちであったが、突然、後ろから
「よお、貴様ら。喫煙なら声を掛けてくれよ。」
という声がした。
清田が声の主の方を見ると、大谷地中佐が立っていた。
反射的に清田が
「気を付け!」
の号令を掛けると、全員がその場に起立、不動の動の姿勢を取った。
「まあ良い。楽にしてくれ。」
大谷地がそう勧めると、清田が今度は
「休め。」
と号令を掛け、全員が一斉に着席した。
ただ、みんな背筋をピンと伸ばし、着席のまま不動の姿勢でいる。
「いやいや、俺もタバコの匂いに誘われて一服しに来ただけだから、貴様たちもそう畏まらんで楽にしてくれ。タバコが吸い辛いじゃないか。」
大谷地は、苦笑しながら、ポケットから取り出した「光」を一本口に咥え、次いでマッチを取り出そうとすると、兵隊の一人が素早くマッチを擦って差し出した。
「おお、すまんな。」
そう言って大谷地はタバコの先端に火を点け、煙を美味そうに深く吸い込んだ。
彼が周囲を見回すと、清田上曹以下の兵隊たちは、まだ固まったままである。
いくら「楽にしてくれ。」とは言われても、下士官兵が士官、しかも佐官の目の前でくつろぐ訳には行かないのが軍隊である。
食事中に士官が現れて
「みんな食べながら聞いてくれ。」
とか言って何かの指示を行う場合もあるが、さすがに食べながら聞くことはできないので、みんな箸を置くのが普通である。
タバコを燻らしながら大谷地が
「こちらの世界では、タバコも貴重品になりそうだが、貴様たちは平気なのか。」
と一同に問うた。
「いえ、こちらのアニタ嬢のお話では、この世界にもタバコがあって、嗜む方が多いとのことです。」
清田の答えに
「へえ先任、そうなのか。ならば、とりあえずタバコの補給には困らなくて済みそうだな。」
先ほどの清田と同じ感想を、大谷地は述べた。
「さて、俺は艦長室へ戻るとする。貴様たちは、適当に休んでくれ。」
そう言い残して、大谷地は差し出された空き缶灰皿でタバコを揉み消すと、艦長室へと戻って行った。
「副長さんも、タバコが吸えるとなると御機が良いな。」
「まったくです。気持ちは分かりますが。」
清田の言葉に、兵隊の一人が相槌を打った。
「御機が良い。」
とは機嫌が良いことを指す海軍用語で、逆の場合は
「御機悪い。」
などと言う。
「でも、タバコがあるのは意外でした。」
「私もそう思いました。」
兵隊たちが思ったことを言う。
「この世界、存外、いろんな物がありそうだな。」
清田がそう言った後、若い一等水兵が
「私ら、元の世界でどう扱われているんでしょう。戦死になっているんでしょうか。だとしたら、仮に元に戻ってもちゃんと死んで来い、とか言われるんでしょうか。」
と言って、漠然とした不安を口にした。
「まあ、俺たちは特攻隊じゃないからな。ただ、どこかの『玉砕5分前』みたいな戦場に送り込まれる可能性はありそうだな。」
「縁起でもないこと言わんでくださいよ、先任。」
「まあ、それはともかく、今、弱気は禁物だぞ。右も左も分らん世界で、さっきみたいに戦闘がおっ始まったら、真っ先に死んじまうぞ。」
日華事変以来の生き残りである清田が、まじめな顔をして言った。
「無線も来ないようだし、副長さんの言うとおり休ませてもらおうか。アニタさん、どこか俺たちが横になれる場所を貸しちゃ貰えんだろうか。なに、甲板の隅っこでも構わんよ。隅っこ暮らしは慣れっこだ。」
そう言われたアニタは
「いえ、お客様にそんな失礼はできませんわ。お部屋を用意させていただきます。」
と応じた。
「そいつは有り難いが、副長、大谷地中佐とは別にしてくれよ。あの人は格が違うんだから。俺たちゃおまけだよ。」
「承知しておりますわ。」
アニタは笑いながらそう答えると、清田たち4人を前楼にある一室へと案内した。
広くはないが、2段ベッドが3つ設えてあって、4人が休むには十分である。
「さて、寝るのは良いが、明日の朝、どうやって起きたものか。」
清田は、そんなことを気に掛けながら眠りに就いた。
令川丸後部飛行甲板 12月25日06:30
まだ明けきらない朝、令川丸飛行甲板の射出機上には、零式水上観測機が載せられていた。
搭乗は、操縦廣田特務少尉、偵察中川一等飛行兵曹の熟練ペアである。
彼らが飛び立とうとしている理由は、昨夜、令川丸南郷艦長が、ティアマト号艦長付きのアナセン准男爵から話を聞き、25航空戦隊と合同した後に備え、その先の海域やブリーデヴァンガル島について、偵察をしておこうと考えたためである。
風に恵まれず、ティアマト号が、一晩かけて40㌋ほどしか進めなかったこともあった。
海賊との戦闘で逆方向に進んだり、令川丸との交渉で停止したりと、予定より大分遅れていると思われたので、南郷がティアマト号の遅れを、行き先のデ・ノーアトゥーン港へどう知らせるつもりかアナセンに尋ねたところ
「通信用の鳩を使うと思われます。」
という答えだった。
伝書鳩は、日本軍でも広く用いられていたが、同じ通信手段があることに、南郷は感心した。
同時に、艦隊や水上機の運用に適した停泊地の有無を聞いたところ
「それならば、デ・ノーアトゥーン港から程近い場所にあるギムレー湾がよろしいでしょう。」
と勧められた。
昔から、通りがかりの船の休憩や、嵐を避ける避泊地として重宝され、令川丸クラスの船でも、10隻や20隻は停泊できるのではないかと、アナセンは言った。
「よし、艦隊が合同したら、そこへ行ってみよう。」
南郷はそう思ったが、25航戦の幹部たちにもそう勧めるには、自分たちの目で確認が必要だとも考えた。
また、ついでに、まだ会っていない25航戦の姿も確認しておきたいと思ったのである。
そんな訳で、前方、つまり西の方角を90度の範囲でカバーできるように偵察を実施することとした。
機材は、さほど長距離にならないこと、そうそうあるとは思えないが、万一、ワイバーンに遭遇したときには空中戦が可能であることから、零式水上観測機(零観)を3機、出すことにした。
幸い、天気は雲一つない好天、機体を操るペアは、いずれも練達の搭乗員である。
「無理はするな。燃料に余裕をもって帰投せよ。迷ったら、遠慮せずに誘導電波発射を要請しろ。」
南郷は、出発前、艦橋に集合した3組のペアに、そう言い含めた。
廣田少尉と中川一等飛行兵曹ペアが搭乗した零観が射出機から発進し、5分後に2番機、さらにその5分後に3番機が射出され、それぞれエンジンの爆音を轟かせて西の空を目指して行った。
その頃、前夜、イザベラが中座した後、夜半過ぎまでバース艦長と語らっていた大谷地中佐は、夢心地に爆音を聞いたような気がした。
もっとも、清田上曹以下の下士官兵は、朝5時55分、つまり起床時間5分前きっかりに目を覚まし、ティアマト号の甲板上で、早起きしたほかの乗客たちと一緒に零観を見送ったのであるが。
廣田機は、母艦令川丸から270度方向、つまり真西を目指して、高度2千mを時速120ノットで飛行していた。
30分ほど経った頃、廣田少尉は、前方海上に、幾つかの点を発見した。
計算上だと、それらの点が25航戦の艦艇ということになるが、そうであれば、電探に捉まっていて、眼下の艦艇は待ち構えているはずと思われたため、点が影に見え始めた辺りで、彼は敵味方識別のバンクを振った。
高度を徐々に下げていくと、艦影がはっきり見え始め、平べったい艦影の空母と、後部が飛行甲板になり、水上機が並べられた、伊勢型航空戦艦などが見えてきた。
「おい、中川兵曹。味方だ、友軍の機動部隊がいるぞ!」
廣田は少し興奮気味に、伝声管へ向かって叫んだ。
作戦行動中の空母や戦艦など、ご無沙汰であった。
「本当ですね。雲龍型空母に伊勢型航空戦艦、給油艦にも水上機を乗せていますね。ほかに護衛の駆逐艦がいて、小振りですが、ちゃんと機動部隊ですね。」
中川も嬉しそうに返事を寄越した。
廣田は、改めてバンクを振りながら海面スレスレに降下し、空母と戦艦の間を飛び抜けた。
どちらの艦も、そしてほかの艦艇も、甲板は乗り組み将兵が鈴なりで、廣田機へ向かって帽子や手を千切れんばかりに振っている。
「あれが25航戦だ。中川兵曹、母艦宛て報告。『我レ25航戦ト遭遇ス 25航戦ハ空母1戦艦1水上機母艦型給油艦1他駆逐艦3ハイカラ成ル』位置、時間だ。平文で構わん。」
廣田の指示に
「了解しました。」
という中川の返事があり、彼は、直ちに言われた内容を令川丸宛てに打電した。
廣田が空母を見下ろしていると、発光信号が呼んでいることに気付いた。
彼が操縦席から信号を読むと
「我レ25航戦旗艦蛟龍ナリ 貴機ハ令川丸搭載機ナリヤ」
と問い掛けていた。
「中川兵曹、打電は終わったか。」
「終わりました。」
廣田の問いに、中川は電文の打電が終わったことを報告
した。
「よし。オルジス灯で空母宛て信号。『我レ令川丸搭載ノ廣田少尉機ナリ 現在艦長ノ命ヲ受ケ進路啓開偵察中』だ。」
「了解。」
中川一飛曹が、偵察席から空母に向けて信号を送っている。
廣田は、信号を送りやすいように、機体を緩い旋回飛行で安定させてやった。
「空母蛟龍から返信。『貴機ノ飛来ヲ歓迎ス 25航空戦隊司令官海軍少将桑園了也』です。」
「へえ、戦隊司令名の信号か。大歓迎じゃないか。」
「そうですね。我々同様、大型艦の艦隊でも不安があったんでしょうかね。」
蛟龍からは、続けて行先を問うて来たので
「我レ西方所在ノ『ブリーデヴァンガル島』偵察へ向カフモノナリ」
と偵察任務を告げた。
これに対して蛟龍からは
「貴機ノ安全ナル飛行を祈願ス」
という、励ましの信号が送られてきた。
「よおし、異世界飛行偵察第一号だ。何が見えるか楽しみだぜ。」
廣田は、25航戦の艦艇に翼を振って別れを告げ、スロットルレバーを開けて高度を上げ、さらに西方を目指して飛行を開始した。
「よお、貴様ら。喫煙なら声を掛けてくれよ。」
という声がした。
清田が声の主の方を見ると、大谷地中佐が立っていた。
反射的に清田が
「気を付け!」
の号令を掛けると、全員がその場に起立、不動の動の姿勢を取った。
「まあ良い。楽にしてくれ。」
大谷地がそう勧めると、清田が今度は
「休め。」
と号令を掛け、全員が一斉に着席した。
ただ、みんな背筋をピンと伸ばし、着席のまま不動の姿勢でいる。
「いやいや、俺もタバコの匂いに誘われて一服しに来ただけだから、貴様たちもそう畏まらんで楽にしてくれ。タバコが吸い辛いじゃないか。」
大谷地は、苦笑しながら、ポケットから取り出した「光」を一本口に咥え、次いでマッチを取り出そうとすると、兵隊の一人が素早くマッチを擦って差し出した。
「おお、すまんな。」
そう言って大谷地はタバコの先端に火を点け、煙を美味そうに深く吸い込んだ。
彼が周囲を見回すと、清田上曹以下の兵隊たちは、まだ固まったままである。
いくら「楽にしてくれ。」とは言われても、下士官兵が士官、しかも佐官の目の前でくつろぐ訳には行かないのが軍隊である。
食事中に士官が現れて
「みんな食べながら聞いてくれ。」
とか言って何かの指示を行う場合もあるが、さすがに食べながら聞くことはできないので、みんな箸を置くのが普通である。
タバコを燻らしながら大谷地が
「こちらの世界では、タバコも貴重品になりそうだが、貴様たちは平気なのか。」
と一同に問うた。
「いえ、こちらのアニタ嬢のお話では、この世界にもタバコがあって、嗜む方が多いとのことです。」
清田の答えに
「へえ先任、そうなのか。ならば、とりあえずタバコの補給には困らなくて済みそうだな。」
先ほどの清田と同じ感想を、大谷地は述べた。
「さて、俺は艦長室へ戻るとする。貴様たちは、適当に休んでくれ。」
そう言い残して、大谷地は差し出された空き缶灰皿でタバコを揉み消すと、艦長室へと戻って行った。
「副長さんも、タバコが吸えるとなると御機が良いな。」
「まったくです。気持ちは分かりますが。」
清田の言葉に、兵隊の一人が相槌を打った。
「御機が良い。」
とは機嫌が良いことを指す海軍用語で、逆の場合は
「御機悪い。」
などと言う。
「でも、タバコがあるのは意外でした。」
「私もそう思いました。」
兵隊たちが思ったことを言う。
「この世界、存外、いろんな物がありそうだな。」
清田がそう言った後、若い一等水兵が
「私ら、元の世界でどう扱われているんでしょう。戦死になっているんでしょうか。だとしたら、仮に元に戻ってもちゃんと死んで来い、とか言われるんでしょうか。」
と言って、漠然とした不安を口にした。
「まあ、俺たちは特攻隊じゃないからな。ただ、どこかの『玉砕5分前』みたいな戦場に送り込まれる可能性はありそうだな。」
「縁起でもないこと言わんでくださいよ、先任。」
「まあ、それはともかく、今、弱気は禁物だぞ。右も左も分らん世界で、さっきみたいに戦闘がおっ始まったら、真っ先に死んじまうぞ。」
日華事変以来の生き残りである清田が、まじめな顔をして言った。
「無線も来ないようだし、副長さんの言うとおり休ませてもらおうか。アニタさん、どこか俺たちが横になれる場所を貸しちゃ貰えんだろうか。なに、甲板の隅っこでも構わんよ。隅っこ暮らしは慣れっこだ。」
そう言われたアニタは
「いえ、お客様にそんな失礼はできませんわ。お部屋を用意させていただきます。」
と応じた。
「そいつは有り難いが、副長、大谷地中佐とは別にしてくれよ。あの人は格が違うんだから。俺たちゃおまけだよ。」
「承知しておりますわ。」
アニタは笑いながらそう答えると、清田たち4人を前楼にある一室へと案内した。
広くはないが、2段ベッドが3つ設えてあって、4人が休むには十分である。
「さて、寝るのは良いが、明日の朝、どうやって起きたものか。」
清田は、そんなことを気に掛けながら眠りに就いた。
令川丸後部飛行甲板 12月25日06:30
まだ明けきらない朝、令川丸飛行甲板の射出機上には、零式水上観測機が載せられていた。
搭乗は、操縦廣田特務少尉、偵察中川一等飛行兵曹の熟練ペアである。
彼らが飛び立とうとしている理由は、昨夜、令川丸南郷艦長が、ティアマト号艦長付きのアナセン准男爵から話を聞き、25航空戦隊と合同した後に備え、その先の海域やブリーデヴァンガル島について、偵察をしておこうと考えたためである。
風に恵まれず、ティアマト号が、一晩かけて40㌋ほどしか進めなかったこともあった。
海賊との戦闘で逆方向に進んだり、令川丸との交渉で停止したりと、予定より大分遅れていると思われたので、南郷がティアマト号の遅れを、行き先のデ・ノーアトゥーン港へどう知らせるつもりかアナセンに尋ねたところ
「通信用の鳩を使うと思われます。」
という答えだった。
伝書鳩は、日本軍でも広く用いられていたが、同じ通信手段があることに、南郷は感心した。
同時に、艦隊や水上機の運用に適した停泊地の有無を聞いたところ
「それならば、デ・ノーアトゥーン港から程近い場所にあるギムレー湾がよろしいでしょう。」
と勧められた。
昔から、通りがかりの船の休憩や、嵐を避ける避泊地として重宝され、令川丸クラスの船でも、10隻や20隻は停泊できるのではないかと、アナセンは言った。
「よし、艦隊が合同したら、そこへ行ってみよう。」
南郷はそう思ったが、25航戦の幹部たちにもそう勧めるには、自分たちの目で確認が必要だとも考えた。
また、ついでに、まだ会っていない25航戦の姿も確認しておきたいと思ったのである。
そんな訳で、前方、つまり西の方角を90度の範囲でカバーできるように偵察を実施することとした。
機材は、さほど長距離にならないこと、そうそうあるとは思えないが、万一、ワイバーンに遭遇したときには空中戦が可能であることから、零式水上観測機(零観)を3機、出すことにした。
幸い、天気は雲一つない好天、機体を操るペアは、いずれも練達の搭乗員である。
「無理はするな。燃料に余裕をもって帰投せよ。迷ったら、遠慮せずに誘導電波発射を要請しろ。」
南郷は、出発前、艦橋に集合した3組のペアに、そう言い含めた。
廣田少尉と中川一等飛行兵曹ペアが搭乗した零観が射出機から発進し、5分後に2番機、さらにその5分後に3番機が射出され、それぞれエンジンの爆音を轟かせて西の空を目指して行った。
その頃、前夜、イザベラが中座した後、夜半過ぎまでバース艦長と語らっていた大谷地中佐は、夢心地に爆音を聞いたような気がした。
もっとも、清田上曹以下の下士官兵は、朝5時55分、つまり起床時間5分前きっかりに目を覚まし、ティアマト号の甲板上で、早起きしたほかの乗客たちと一緒に零観を見送ったのであるが。
廣田機は、母艦令川丸から270度方向、つまり真西を目指して、高度2千mを時速120ノットで飛行していた。
30分ほど経った頃、廣田少尉は、前方海上に、幾つかの点を発見した。
計算上だと、それらの点が25航戦の艦艇ということになるが、そうであれば、電探に捉まっていて、眼下の艦艇は待ち構えているはずと思われたため、点が影に見え始めた辺りで、彼は敵味方識別のバンクを振った。
高度を徐々に下げていくと、艦影がはっきり見え始め、平べったい艦影の空母と、後部が飛行甲板になり、水上機が並べられた、伊勢型航空戦艦などが見えてきた。
「おい、中川兵曹。味方だ、友軍の機動部隊がいるぞ!」
廣田は少し興奮気味に、伝声管へ向かって叫んだ。
作戦行動中の空母や戦艦など、ご無沙汰であった。
「本当ですね。雲龍型空母に伊勢型航空戦艦、給油艦にも水上機を乗せていますね。ほかに護衛の駆逐艦がいて、小振りですが、ちゃんと機動部隊ですね。」
中川も嬉しそうに返事を寄越した。
廣田は、改めてバンクを振りながら海面スレスレに降下し、空母と戦艦の間を飛び抜けた。
どちらの艦も、そしてほかの艦艇も、甲板は乗り組み将兵が鈴なりで、廣田機へ向かって帽子や手を千切れんばかりに振っている。
「あれが25航戦だ。中川兵曹、母艦宛て報告。『我レ25航戦ト遭遇ス 25航戦ハ空母1戦艦1水上機母艦型給油艦1他駆逐艦3ハイカラ成ル』位置、時間だ。平文で構わん。」
廣田の指示に
「了解しました。」
という中川の返事があり、彼は、直ちに言われた内容を令川丸宛てに打電した。
廣田が空母を見下ろしていると、発光信号が呼んでいることに気付いた。
彼が操縦席から信号を読むと
「我レ25航戦旗艦蛟龍ナリ 貴機ハ令川丸搭載機ナリヤ」
と問い掛けていた。
「中川兵曹、打電は終わったか。」
「終わりました。」
廣田の問いに、中川は電文の打電が終わったことを報告
した。
「よし。オルジス灯で空母宛て信号。『我レ令川丸搭載ノ廣田少尉機ナリ 現在艦長ノ命ヲ受ケ進路啓開偵察中』だ。」
「了解。」
中川一飛曹が、偵察席から空母に向けて信号を送っている。
廣田は、信号を送りやすいように、機体を緩い旋回飛行で安定させてやった。
「空母蛟龍から返信。『貴機ノ飛来ヲ歓迎ス 25航空戦隊司令官海軍少将桑園了也』です。」
「へえ、戦隊司令名の信号か。大歓迎じゃないか。」
「そうですね。我々同様、大型艦の艦隊でも不安があったんでしょうかね。」
蛟龍からは、続けて行先を問うて来たので
「我レ西方所在ノ『ブリーデヴァンガル島』偵察へ向カフモノナリ」
と偵察任務を告げた。
これに対して蛟龍からは
「貴機ノ安全ナル飛行を祈願ス」
という、励ましの信号が送られてきた。
「よおし、異世界飛行偵察第一号だ。何が見えるか楽しみだぜ。」
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