日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

文字の大きさ
49 / 163

第49話 拿捕船曳航と溺者救助

しおりを挟む
 深川大尉以下10名が乗った内火艇は、降伏した敵艦の周囲をぐるりと一回りして様子を探り、抗戦の意思がないことを確認してから、あえて、舷側に開かれた乗降口ではなく、上甲板から垂れていた縄梯子じゃこっぷをよじ登り、直接、上甲板に乗り移った。
 深川大尉は拳銃を構え、ほかの下士官兵たちは、九九式小銃、一人は軽機関銃を構えて、「寄らば撃つ」の体勢である。

「艦長は誰か。指揮官は何処か。」

 少しばかり硬い言い回しで深川が周囲の敵兵に問うた。
 だが、敵は、いずれも反応しない。
 深川たちは、魔術師ソフィアの術式が掛かった腕輪を持っているので、言葉は問題ないはずである。

「誰が指揮を執り、降伏を判断したのか。」
 
 今一度、深川が問うた。
 すると、負傷しているのか、頭と左足に血だらけの包帯を巻き、左肩を水兵に支えられ、右手の剣で自分の右半身を支えた、血まみれではあるが服装の良い士官らしい男が前に出た。

「私がヴァナヘイム王国准海軍艦アムリッツァ号副長テーマ・ド・ヤンセン准男爵である。死亡したド・ヨーン艦長から指揮を引き継いだ。よって私の判断で、貴公らに降伏する。」

 甲板は、死傷者で溢れる、戦場馴れしている深川たちでも、一瞬、目を背けたくなる惨状を呈し、血の臭いでむせ返るほどである。

「それは、生存艦3隻が同様に降伏、ということでよろしいか。」

 深川が念押しのために聞く。

「無論である。この惨状、このあり様は、貴公も我らの立場を一目瞭然であろう。」

 ヤンセンが「何を今さら」というふうに答えて寄越した。

「そうであれば、今少し早い段階で降伏、という選択肢もあったのでは?」

 深川は、少し意地の悪い質問をしてみた。

「そのようなお考えもあるだろうが、そうでない選択をする者もいる、ということだ。私自身、未だに信じられないのだよ。百隻から成る大艦隊が、ワイバーンの大群にあれよあれよと沈められ、10隻にも満たない数にまで撃ち減らされてしまったのだからな。」

 ヤンセンは、名指しこそしないが、死亡した指揮官のド・ヨーンを暗に批判しているようであった。
 周囲の敵兵や船乗りたちが、諦めと憎悪が混じった複雑な、しかし鋭い視線を浴びせて来る。

 すると、その中の一人で、帆柱の近くに立っていた若い兵士が、突然、剣を振りかざし、深川目指して切り掛かって来た。
 深川は拳銃を構え、立検隊の下士官兵はそれぞれ小銃を構えた。

「抵抗は止めろ!」

 深川がその兵士を一喝し、全員が銃を発砲しようとした、当にその瞬間、ヤンセンがどこに隠し持っていたのか短銃を取り出すと、その若い兵士に向かって

 ズドン

と発砲した。

 若い兵士は、一瞬、驚いたような表情を見せたが、次の瞬間には胸から血を吹き出し、白目を剥いてその場に倒れ込み、一言

「父上…。」

と言って絶命した。

「良いのです。構いません。一人のせいで、生存者全員の命を危険に晒すことになる。父親たる私の教育が行き届かなかった、ということです。いずれ、私が死んだら、あの世で亡妻には言って聞かせてやりますから。」

 ヤンセンは、冷静にそう言った。

「降伏は承知した。貴殿らは、今から日本帝国海軍及びミズガルズ王国の戦時俘虜として取り扱われる。抵抗しなければ、我々は貴殿らを務めて人道的に扱い、その生存は保障されるでしょう。」

 ここまで言ってから、深川は一呼吸置き

「本当にご苦労様でした。」

 と言って海軍式の敬礼をし、立検隊たちもこれに倣った。

 ヤンセンは、ここで気力が尽きたらしく、どうっと甲板に倒れ込んだ。

「葉月に報告、『敵ハ3隻全テ降伏セリ』だ。あと、衛生班を寄越すよう言ってくれ。」

 深川が、立検隊の一等兵曹にそう命じた。

「報告終わりました。利尻を派遣するので、到着次第、1隻ずつ敵艦を曳航してデ・ノーアトゥーン港へ向かう準備をしろ、との指示です。」
「どれがどれを曳航しろとか、特に指示はないな。」
「それはありません。」
「よし、じゃあ、葉月がアムリッツア号、あとは…ええと艦名を聞き忘れたな。誰か、後の2隻の艦名を知る者は?」
「本艦に近いのがマル・アデッタ号、その向こうがバーミリオン号である。」

 深川の問いに、先ほどヤンセンを支えていた老兵士が答えた。

「それじゃあ、櫟がマル・アデッタ号の曳航、利尻がバーミリオン号の曳航で構わんだろうな。葉月と櫟にも送れ。」
「了解しました。」

 一等兵曹が兵に命じて手旗信号を送信した。

「そういえば、溺者も随分沢山でましたが、救助はどうするんでしょう。」

 一曹が聞いた。

「さあ、分からんが、ざっと見渡しても相当の人数になるから、みんな救助するのは無理だろうな。」

 信号が交わされ、葉月がアムリッツア号の前に出て曳航準備を始め、櫟も、マル・アデッタ号の前へ出て曳航準備を始めた。
 そんな葉月と櫟、そして降伏した各艦へ向かって、樽や箱に掴まった漂流者やボートで脱出した者たちが寄って来ている。
 利尻は、到着まで約2時間を要するとのことなので、葉月と櫟は、とりあえず、曳航準備の傍ら、寄って来た者やちの救助を始めた。

 この救助は、利尻が現場海域に到着し、各艦が曳航準備を終えるまで続けられ、それでも合わせて300名ほどが救助された。
 残された者たちは、葉月以下の各艦が動き始めると、絶望の眼差しでこれを見つめていた。

 彼らのうち、運の良い者は、後日、マグ・メルの海岸やカルタヘナの港に漂着するか、通りすがりの船に救助され、艦隊・船団壊滅の報を伝える一つの道筋となった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...