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第49話 拿捕船曳航と溺者救助
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深川大尉以下10名が乗った内火艇は、降伏した敵艦の周囲をぐるりと一回りして様子を探り、抗戦の意思がないことを確認してから、あえて、舷側に開かれた乗降口ではなく、上甲板から垂れていた縄梯子をよじ登り、直接、上甲板に乗り移った。
深川大尉は拳銃を構え、ほかの下士官兵たちは、九九式小銃、一人は軽機関銃を構えて、「寄らば撃つ」の体勢である。
「艦長は誰か。指揮官は何処か。」
少しばかり硬い言い回しで深川が周囲の敵兵に問うた。
だが、敵は、いずれも反応しない。
深川たちは、魔術師ソフィアの術式が掛かった腕輪を持っているので、言葉は問題ないはずである。
「誰が指揮を執り、降伏を判断したのか。」
今一度、深川が問うた。
すると、負傷しているのか、頭と左足に血だらけの包帯を巻き、左肩を水兵に支えられ、右手の剣で自分の右半身を支えた、血まみれではあるが服装の良い士官らしい男が前に出た。
「私がヴァナヘイム王国准海軍艦アムリッツァ号副長テーマ・ド・ヤンセン准男爵である。死亡したド・ヨーン艦長から指揮を引き継いだ。よって私の判断で、貴公らに降伏する。」
甲板は、死傷者で溢れる、戦場馴れしている深川たちでも、一瞬、目を背けたくなる惨状を呈し、血の臭いでむせ返るほどである。
「それは、生存艦3隻が同様に降伏、ということでよろしいか。」
深川が念押しのために聞く。
「無論である。この惨状、このあり様は、貴公も我らの立場を一目瞭然であろう。」
ヤンセンが「何を今さら」というふうに答えて寄越した。
「そうであれば、今少し早い段階で降伏、という選択肢もあったのでは?」
深川は、少し意地の悪い質問をしてみた。
「そのようなお考えもあるだろうが、そうでない選択をする者もいる、ということだ。私自身、未だに信じられないのだよ。百隻から成る大艦隊が、ワイバーンの大群にあれよあれよと沈められ、10隻にも満たない数にまで撃ち減らされてしまったのだからな。」
ヤンセンは、名指しこそしないが、死亡した指揮官のド・ヨーンを暗に批判しているようであった。
周囲の敵兵や船乗りたちが、諦めと憎悪が混じった複雑な、しかし鋭い視線を浴びせて来る。
すると、その中の一人で、帆柱の近くに立っていた若い兵士が、突然、剣を振りかざし、深川目指して切り掛かって来た。
深川は拳銃を構え、立検隊の下士官兵はそれぞれ小銃を構えた。
「抵抗は止めろ!」
深川がその兵士を一喝し、全員が銃を発砲しようとした、当にその瞬間、ヤンセンがどこに隠し持っていたのか短銃を取り出すと、その若い兵士に向かって
ズドン
と発砲した。
若い兵士は、一瞬、驚いたような表情を見せたが、次の瞬間には胸から血を吹き出し、白目を剥いてその場に倒れ込み、一言
「父上…。」
と言って絶命した。
「良いのです。構いません。あれ一人のせいで、生存者全員の命を危険に晒すことになる。父親たる私の教育が行き届かなかった、ということです。いずれ、私が死んだら、あの世で亡妻には言って聞かせてやりますから。」
ヤンセンは、冷静にそう言った。
「降伏は承知した。貴殿らは、今から日本帝国海軍及びミズガルズ王国の戦時俘虜として取り扱われる。抵抗しなければ、我々は貴殿らを務めて人道的に扱い、その生存は保障されるでしょう。」
ここまで言ってから、深川は一呼吸置き
「本当にご苦労様でした。」
と言って海軍式の敬礼をし、立検隊たちもこれに倣った。
ヤンセンは、ここで気力が尽きたらしく、どうっと甲板に倒れ込んだ。
「葉月に報告、『敵ハ3隻全テ降伏セリ』だ。あと、衛生班を寄越すよう言ってくれ。」
深川が、立検隊の一等兵曹にそう命じた。
「報告終わりました。利尻を派遣するので、到着次第、1隻ずつ敵艦を曳航してデ・ノーアトゥーン港へ向かう準備をしろ、との指示です。」
「どれがどれを曳航しろとか、特に指示はないな。」
「それはありません。」
「よし、じゃあ、葉月がアムリッツア号、あとは…ええと艦名を聞き忘れたな。誰か、後の2隻の艦名を知る者は?」
「本艦に近いのがマル・アデッタ号、その向こうがバーミリオン号である。」
深川の問いに、先ほどヤンセンを支えていた老兵士が答えた。
「それじゃあ、櫟がマル・アデッタ号の曳航、利尻がバーミリオン号の曳航で構わんだろうな。葉月と櫟にも送れ。」
「了解しました。」
一等兵曹が兵に命じて手旗信号を送信した。
「そういえば、溺者も随分沢山でましたが、救助はどうするんでしょう。」
一曹が聞いた。
「さあ、分からんが、ざっと見渡しても相当の人数になるから、みんな救助するのは無理だろうな。」
信号が交わされ、葉月がアムリッツア号の前に出て曳航準備を始め、櫟も、マル・アデッタ号の前へ出て曳航準備を始めた。
そんな葉月と櫟、そして降伏した各艦へ向かって、樽や箱に掴まった漂流者やボートで脱出した者たちが寄って来ている。
利尻は、到着まで約2時間を要するとのことなので、葉月と櫟は、とりあえず、曳航準備の傍ら、寄って来た者やちの救助を始めた。
この救助は、利尻が現場海域に到着し、各艦が曳航準備を終えるまで続けられ、それでも合わせて300名ほどが救助された。
残された者たちは、葉月以下の各艦が動き始めると、絶望の眼差しでこれを見つめていた。
彼らのうち、運の良い者は、後日、マグ・メルの海岸やカルタヘナの港に漂着するか、通りすがりの船に救助され、艦隊・船団壊滅の報を伝える一つの道筋となった。
深川大尉は拳銃を構え、ほかの下士官兵たちは、九九式小銃、一人は軽機関銃を構えて、「寄らば撃つ」の体勢である。
「艦長は誰か。指揮官は何処か。」
少しばかり硬い言い回しで深川が周囲の敵兵に問うた。
だが、敵は、いずれも反応しない。
深川たちは、魔術師ソフィアの術式が掛かった腕輪を持っているので、言葉は問題ないはずである。
「誰が指揮を執り、降伏を判断したのか。」
今一度、深川が問うた。
すると、負傷しているのか、頭と左足に血だらけの包帯を巻き、左肩を水兵に支えられ、右手の剣で自分の右半身を支えた、血まみれではあるが服装の良い士官らしい男が前に出た。
「私がヴァナヘイム王国准海軍艦アムリッツァ号副長テーマ・ド・ヤンセン准男爵である。死亡したド・ヨーン艦長から指揮を引き継いだ。よって私の判断で、貴公らに降伏する。」
甲板は、死傷者で溢れる、戦場馴れしている深川たちでも、一瞬、目を背けたくなる惨状を呈し、血の臭いでむせ返るほどである。
「それは、生存艦3隻が同様に降伏、ということでよろしいか。」
深川が念押しのために聞く。
「無論である。この惨状、このあり様は、貴公も我らの立場を一目瞭然であろう。」
ヤンセンが「何を今さら」というふうに答えて寄越した。
「そうであれば、今少し早い段階で降伏、という選択肢もあったのでは?」
深川は、少し意地の悪い質問をしてみた。
「そのようなお考えもあるだろうが、そうでない選択をする者もいる、ということだ。私自身、未だに信じられないのだよ。百隻から成る大艦隊が、ワイバーンの大群にあれよあれよと沈められ、10隻にも満たない数にまで撃ち減らされてしまったのだからな。」
ヤンセンは、名指しこそしないが、死亡した指揮官のド・ヨーンを暗に批判しているようであった。
周囲の敵兵や船乗りたちが、諦めと憎悪が混じった複雑な、しかし鋭い視線を浴びせて来る。
すると、その中の一人で、帆柱の近くに立っていた若い兵士が、突然、剣を振りかざし、深川目指して切り掛かって来た。
深川は拳銃を構え、立検隊の下士官兵はそれぞれ小銃を構えた。
「抵抗は止めろ!」
深川がその兵士を一喝し、全員が銃を発砲しようとした、当にその瞬間、ヤンセンがどこに隠し持っていたのか短銃を取り出すと、その若い兵士に向かって
ズドン
と発砲した。
若い兵士は、一瞬、驚いたような表情を見せたが、次の瞬間には胸から血を吹き出し、白目を剥いてその場に倒れ込み、一言
「父上…。」
と言って絶命した。
「良いのです。構いません。あれ一人のせいで、生存者全員の命を危険に晒すことになる。父親たる私の教育が行き届かなかった、ということです。いずれ、私が死んだら、あの世で亡妻には言って聞かせてやりますから。」
ヤンセンは、冷静にそう言った。
「降伏は承知した。貴殿らは、今から日本帝国海軍及びミズガルズ王国の戦時俘虜として取り扱われる。抵抗しなければ、我々は貴殿らを務めて人道的に扱い、その生存は保障されるでしょう。」
ここまで言ってから、深川は一呼吸置き
「本当にご苦労様でした。」
と言って海軍式の敬礼をし、立検隊たちもこれに倣った。
ヤンセンは、ここで気力が尽きたらしく、どうっと甲板に倒れ込んだ。
「葉月に報告、『敵ハ3隻全テ降伏セリ』だ。あと、衛生班を寄越すよう言ってくれ。」
深川が、立検隊の一等兵曹にそう命じた。
「報告終わりました。利尻を派遣するので、到着次第、1隻ずつ敵艦を曳航してデ・ノーアトゥーン港へ向かう準備をしろ、との指示です。」
「どれがどれを曳航しろとか、特に指示はないな。」
「それはありません。」
「よし、じゃあ、葉月がアムリッツア号、あとは…ええと艦名を聞き忘れたな。誰か、後の2隻の艦名を知る者は?」
「本艦に近いのがマル・アデッタ号、その向こうがバーミリオン号である。」
深川の問いに、先ほどヤンセンを支えていた老兵士が答えた。
「それじゃあ、櫟がマル・アデッタ号の曳航、利尻がバーミリオン号の曳航で構わんだろうな。葉月と櫟にも送れ。」
「了解しました。」
一等兵曹が兵に命じて手旗信号を送信した。
「そういえば、溺者も随分沢山でましたが、救助はどうするんでしょう。」
一曹が聞いた。
「さあ、分からんが、ざっと見渡しても相当の人数になるから、みんな救助するのは無理だろうな。」
信号が交わされ、葉月がアムリッツア号の前に出て曳航準備を始め、櫟も、マル・アデッタ号の前へ出て曳航準備を始めた。
そんな葉月と櫟、そして降伏した各艦へ向かって、樽や箱に掴まった漂流者やボートで脱出した者たちが寄って来ている。
利尻は、到着まで約2時間を要するとのことなので、葉月と櫟は、とりあえず、曳航準備の傍ら、寄って来た者やちの救助を始めた。
この救助は、利尻が現場海域に到着し、各艦が曳航準備を終えるまで続けられ、それでも合わせて300名ほどが救助された。
残された者たちは、葉月以下の各艦が動き始めると、絶望の眼差しでこれを見つめていた。
彼らのうち、運の良い者は、後日、マグ・メルの海岸やカルタヘナの港に漂着するか、通りすがりの船に救助され、艦隊・船団壊滅の報を伝える一つの道筋となった。
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