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第98話 セイレーンの巣殲滅艦砲射撃準備方
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朝日隊がゴブリンの巣で救出したエルフの女性は、パウラという名であった。
付ききりで看護していたエルザによれば、パウラは、元々は天地教会の修道女であったが、その後、故あって冒険者パーティーの回復師になった。
しかし、パーティーがエルフの里近傍の森林でゴブリンの大群と戦闘になり、その最中、パーティーは散り散りとなって、パウラはゴブリンに捕えられてしまったという。
ゴブリンに囚われた女性は、性的虐待を受けるのが常であるが、パウラは回復魔術が使えるが故に、そうした目には遭わず、いわば衛生兵のような役割を負わせられていたとのことであった。
それでも虜囚の生活は、女性の身の上には相当に堪えたようで、エルザとの会話の最中でも、しばしば身を震わせていたとのことであった。
エルザ自身、エルフ戦士の中で治癒・回復魔術を使う女性であるが、これらの魔術は天地教会で習得したもので、パウラとは似通った経歴を持っており、他人事とは思えなかったのである。
「ゴブリンどもは、組織立った戦闘を行い、銃を製造し装備しておりました。また、自分、朝日は予想しており、長老殿は否定しておられましたが、囚われたエルフがおりました。かかる状況は、長老殿も、当然ご承知であったのではありますまいか。」
朝日は、お冠である。
これに対して、エスケリネンは朝日の前へ進み出て片膝を地面に着き、まるで君主に相対するが如き膝折礼を行い頭を下げ
「まこと、仰せのとおりでございます。無敵の噂を聞き及んだが故、まるで皆様を試すが如き非礼の数々、どうかご寛恕いただきますよう、伏してお願い申し上げる次第でございます。」
と慇懃に述べた。
朝日は、相当、頭に来ていたのだが、エスケリネンが下げた頭の天辺の禿げ具合を見て、何だか拍子抜けしてしまった。
「お気持ちは分かりましたので、これ以上、詫びは結構です。ただ、事は我が日本軍根拠地隊とブリーデヴァンガル島属領首府との関係にも及びますから、自分、朝日が納得しても、根拠地隊司令部は別の考えを持つやも知れませんので、そのように承知置き願いたい。」
もっと強いことを言うつもりでいたが、拍子抜けして気持ちが萎えたので、小役人的セリフで締め括った朝日であった。
「ははーっ。何卒、寛大なるご処置を賜りますよう、お口添え願いたく、この老人、重ねてお願い申し上げまする。」
エスケリネンは、頭を地面に擦り付けんばかりに下げて述べた。
「爺さん、もういい加減にしてくんないかな。」
朝日は、これ以上エスケリネンの相手をすること自体がアホらしくなって、
手でエスケリネンを制すると、その場を立ち去り、中央広場に設けた臨時の無線通信所に向かった。
中央広場に支柱を立ててアンテナを張り、天幕の中に野戦用無線通信機を持ち込んで、通信所を設置していた。
天幕の中に入った朝日は、通信用紙を取り、今までの顛末をサラサラと鉛筆で原稿として書き上げ
「平文で構わんぞ。どのみち陸軍暗号は海軍には通じんし、かと言って海軍の暗号は当てにならんしな。」
と言って、卓に向かっていた通信兵に手渡した。
「石炭の積み込みは順調のようです。石油の方は、少し事情が込み入っておるようですな。」
空母蛟龍には、旗艦施設が設けられていて、旗艦となる場合は、司令官や司令部要員が滞在、利用されていた。
蛟龍は、異世界転移の前から第25航空戦隊旗艦となっていたから、司令官桑園少将以下の幕僚たち10名ほども乗り込んでいた。
今は、トゥンサリル城の根拠地隊支隊に連絡要員を割いているので、艦に残っているのは半分ほどである。
「ヴェスターンラントでの石炭調達は順調で、エルフの里の石油は、『輸送に難アリ』とのことだったね。」
電報用紙を持って来たのは通信長亀戸少佐だったが、目を通してから桑園に手渡したのは、艦長稲積大佐であった。
「しかし、『南西海岸油田』は、文字通り海岸にありますから、輸送については脈があります。」
稲積が桑園に言った。
「しかし、地形は積み出しに適しているが『セイレーン』とかいう船乗りを食らう化け物がいて、海からは近付くことができない、とあるね。」
桑園が指摘すると
「セイレーン…サイレンの語源になった魑魅魍魎ですな。同じ物の怪がこちらの世界にも存在するとは、全く摩訶不思議というものですな。」
と稲積が答えた。
「いずれにせよ、物の怪の類は排除してしまうに越したことはない。『サイレン』の音が届かない遠距離から、潰してしまう外はないでしょうな。」
続けて稲積が提案する。
「空襲では駄目だろうか。」
「先だっての艦隊潰しで随分と爆弾を消費しているので、今後の事を考えると、慎重にならざるを得ませんね。」
桑園の反問に、稲積が答えた。
「では、艦砲射撃ということになるが、出雲の主砲で、島ごと吹き飛ばすということになるか。」
「いえ、島を吹き飛ばしてしまうと、地形が変わり、天然の良港でなくなってしまいます。」
「それじゃあ、少し手心を加えるか。」
「島は艦ではありませんから、出雲の艦砲でなくなりはせんでしょう。が、島に巣食っている物の怪は、十分殲滅できるでしょうな。」
「そうだな。利尻の備砲も水平砲だから、これも加えるか。」
「そうですね。艦砲で12㎝砲というと、小口径に思えますが、陸上の砲で考えれば120粍砲ということになりますから、大口径砲ということになります。」
こうして、ブリーデヴァンガル島南西海岸油田沖合に浮かぶ、セイレーンの巣と化した島々への艦砲射撃の素案が、出来上がって行った。
付ききりで看護していたエルザによれば、パウラは、元々は天地教会の修道女であったが、その後、故あって冒険者パーティーの回復師になった。
しかし、パーティーがエルフの里近傍の森林でゴブリンの大群と戦闘になり、その最中、パーティーは散り散りとなって、パウラはゴブリンに捕えられてしまったという。
ゴブリンに囚われた女性は、性的虐待を受けるのが常であるが、パウラは回復魔術が使えるが故に、そうした目には遭わず、いわば衛生兵のような役割を負わせられていたとのことであった。
それでも虜囚の生活は、女性の身の上には相当に堪えたようで、エルザとの会話の最中でも、しばしば身を震わせていたとのことであった。
エルザ自身、エルフ戦士の中で治癒・回復魔術を使う女性であるが、これらの魔術は天地教会で習得したもので、パウラとは似通った経歴を持っており、他人事とは思えなかったのである。
「ゴブリンどもは、組織立った戦闘を行い、銃を製造し装備しておりました。また、自分、朝日は予想しており、長老殿は否定しておられましたが、囚われたエルフがおりました。かかる状況は、長老殿も、当然ご承知であったのではありますまいか。」
朝日は、お冠である。
これに対して、エスケリネンは朝日の前へ進み出て片膝を地面に着き、まるで君主に相対するが如き膝折礼を行い頭を下げ
「まこと、仰せのとおりでございます。無敵の噂を聞き及んだが故、まるで皆様を試すが如き非礼の数々、どうかご寛恕いただきますよう、伏してお願い申し上げる次第でございます。」
と慇懃に述べた。
朝日は、相当、頭に来ていたのだが、エスケリネンが下げた頭の天辺の禿げ具合を見て、何だか拍子抜けしてしまった。
「お気持ちは分かりましたので、これ以上、詫びは結構です。ただ、事は我が日本軍根拠地隊とブリーデヴァンガル島属領首府との関係にも及びますから、自分、朝日が納得しても、根拠地隊司令部は別の考えを持つやも知れませんので、そのように承知置き願いたい。」
もっと強いことを言うつもりでいたが、拍子抜けして気持ちが萎えたので、小役人的セリフで締め括った朝日であった。
「ははーっ。何卒、寛大なるご処置を賜りますよう、お口添え願いたく、この老人、重ねてお願い申し上げまする。」
エスケリネンは、頭を地面に擦り付けんばかりに下げて述べた。
「爺さん、もういい加減にしてくんないかな。」
朝日は、これ以上エスケリネンの相手をすること自体がアホらしくなって、
手でエスケリネンを制すると、その場を立ち去り、中央広場に設けた臨時の無線通信所に向かった。
中央広場に支柱を立ててアンテナを張り、天幕の中に野戦用無線通信機を持ち込んで、通信所を設置していた。
天幕の中に入った朝日は、通信用紙を取り、今までの顛末をサラサラと鉛筆で原稿として書き上げ
「平文で構わんぞ。どのみち陸軍暗号は海軍には通じんし、かと言って海軍の暗号は当てにならんしな。」
と言って、卓に向かっていた通信兵に手渡した。
「石炭の積み込みは順調のようです。石油の方は、少し事情が込み入っておるようですな。」
空母蛟龍には、旗艦施設が設けられていて、旗艦となる場合は、司令官や司令部要員が滞在、利用されていた。
蛟龍は、異世界転移の前から第25航空戦隊旗艦となっていたから、司令官桑園少将以下の幕僚たち10名ほども乗り込んでいた。
今は、トゥンサリル城の根拠地隊支隊に連絡要員を割いているので、艦に残っているのは半分ほどである。
「ヴェスターンラントでの石炭調達は順調で、エルフの里の石油は、『輸送に難アリ』とのことだったね。」
電報用紙を持って来たのは通信長亀戸少佐だったが、目を通してから桑園に手渡したのは、艦長稲積大佐であった。
「しかし、『南西海岸油田』は、文字通り海岸にありますから、輸送については脈があります。」
稲積が桑園に言った。
「しかし、地形は積み出しに適しているが『セイレーン』とかいう船乗りを食らう化け物がいて、海からは近付くことができない、とあるね。」
桑園が指摘すると
「セイレーン…サイレンの語源になった魑魅魍魎ですな。同じ物の怪がこちらの世界にも存在するとは、全く摩訶不思議というものですな。」
と稲積が答えた。
「いずれにせよ、物の怪の類は排除してしまうに越したことはない。『サイレン』の音が届かない遠距離から、潰してしまう外はないでしょうな。」
続けて稲積が提案する。
「空襲では駄目だろうか。」
「先だっての艦隊潰しで随分と爆弾を消費しているので、今後の事を考えると、慎重にならざるを得ませんね。」
桑園の反問に、稲積が答えた。
「では、艦砲射撃ということになるが、出雲の主砲で、島ごと吹き飛ばすということになるか。」
「いえ、島を吹き飛ばしてしまうと、地形が変わり、天然の良港でなくなってしまいます。」
「それじゃあ、少し手心を加えるか。」
「島は艦ではありませんから、出雲の艦砲でなくなりはせんでしょう。が、島に巣食っている物の怪は、十分殲滅できるでしょうな。」
「そうだな。利尻の備砲も水平砲だから、これも加えるか。」
「そうですね。艦砲で12㎝砲というと、小口径に思えますが、陸上の砲で考えれば120粍砲ということになりますから、大口径砲ということになります。」
こうして、ブリーデヴァンガル島南西海岸油田沖合に浮かぶ、セイレーンの巣と化した島々への艦砲射撃の素案が、出来上がって行った。
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