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第103話 人喰鬼ヲ殲滅セリ
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円山飛行兵曹長が操縦する水上偵察機瑞雲は、射出機から発進した後、左旋回して高度を上げ、少し距離を取った。
1万mそこそこは、飛行機にとっては近過ぎる距離である。
円山は、後続機の発進を待って、300mほどの高度で単縦陣の編隊を組んだ。
3機の編隊は、そのままセイレーンが乗った小舟の上空を通過し、その後、左旋回に入り、搭乗者はそれぞれ小舟の中を観察した。
円山も、操縦席から小舟を見下ろしたが、物の怪というより、普通の西洋人の女性が10人ほど乗っているようにしか見えなかった。
「円山飛曹長、ありゃどう見てもただの娘っ子にしか見えませんね。」
偵察席の秋山一等飛行兵曹が、伝声管越しに話し掛けて来た。
「そうだが、あのアールトとかいう爺さんは、人を喰らう鬼だから油断すんなって言っておったぞ。」
円山も伝声管越しに答えた。
「何だか、こっちに向かって叫んでいるような素振りですね。」
秋山は双眼鏡で観察しているので、肉眼で見ている円山より、細かな仕草が見えている。
「ほう、例の歌声で俺たちを誘っておるのかな。聞こえやせんのに。」
「そうですね。距離もさることながら、エンジンの爆音の中じゃあ何にも聞こえないですよね。」
円山には、秋山の言うとおり、セイレーンの行為は全くの無駄に思えた。
ドン
という空振を感じた彼が出雲の方をチラリと見遣ると、主砲の辺りを黒煙が覆っており、艦砲射撃が再開されたようであった。
「あっ、あー!」
突拍子もない声が伝声管から聞こえたため
「どうしたんだ秋山兵曹。素っ頓狂な声なぞ出しおって。」
円山が問うと
「飛曹長、奴ら本当に人を喰らってます!人の手足のようなものを噛っております!畜生、本当に人喰い鬼だったんだ。」
「何だと!」
円山は機体を降下に入れ、海面スレスレを飛行しながら小舟を観察した。
無論、セイレーンの歌声は爆音にかき消されることを承知の上でである。
「うわぁ…。」
円山は言葉が出てこなかった。
秋山が言ったとおり、小舟の中のセイレーンの何匹かが、明らかに人間の手足と思われる物に噛り付いていたのである。
「ああ、嫌なものを見ちまった。」
彼は、胃から熱い物が込み上げ、吐きそうになったが、ようやくのことで堪えた。
「おい、秋山兵曹。貴様、あれを見てどう思う?」
「どうって、今にも吐きそうですよ。さっさと機銃掃射で殺っちまって、帰艦してからお清めをしたいですね。」
吐きそうなのは、さっきから円山も同じである。
「同感だ。ところで秋山、あの化け物に20㎜機銃は弾が勿体ないと思うんだ。」
「と、言いますと?」
「偵察席の13㎜機銃で撃ってみないか?スカッとするぜ、きっと。」
瑞雲は、偵察席に13㎜旋回機銃を備えている。
「いいですね、やりましょう。喰われた船乗りの弔いにもなるでしょうし。」
円山は、無線を電話に切り替えさせ、後続の2機に、旋回機銃による銃撃の旨を伝えると、機体をいったん上昇させてから、50mほどの高度で小舟を中心に輪を描くような左旋回に入った。
小舟の中のセイレーンは、ただ上空を見上げている。
頃や良し。
ダダダダダダダダ…
左下方に向けて射撃が始まり、曳光弾が伸びて小舟の周囲に水柱を上げているが、有効な命中には至っていないようである。
「秋山、落ち着け。相手は静止目標みたいなもんだぞ。」
「分かっております。」
ダダダダダダダダダ…
再び曳光弾が小舟に向かって行くと、今度はセイレーンの4,5匹が真っ赤な血を吹き出し、もんどりうって倒れ込むのが見えた。
小舟の周囲の海面が赤く染まっていく。
「うーん?奴ら、般若の形相だぞ。」
円山が良く見ると、撃たれたセイレーンも、まだ生きているセイレーンも、元は整った女性の顔立ちだったものが、今は、物の例えではなく、耳まで口が裂け、目玉をギョロリとさせた、本物の鬼の形相に変わっていた。
「やっぱり物の怪か。おい、秋山兵曹。さっさと引導を渡してしまえ!」
「了解です。」
円山が発破を掛けると、秋山は機銃の弾倉を交換し、小舟目掛けて機銃弾を注ぎ込んだ。
後続の各機は、距離を取って円山機の機銃掃射を見守っている。
ダダダダダダ…
曳光弾が小舟に吸い込まれると、セイレーンどもが血飛沫を上げて倒れ、小舟に命中した弾があちこちを穴だらけにし、舟は沈みかけている。
円山と秋山は、小舟の中をよく観察したが、乗っているセイレーンは、みんな目を剥いて口を開けた般若の形相で血に染まり、横たわっている。
「顔つきが変わって動かないのは、死んだ奴ってこったな。分かり易くて手間が省けらぁ。」
円山が呟いた。
「小舟ノ人喰鬼ヲ殲滅セリ」
彼は、秋山に命じて出雲へ報告を打電させた。
「島の方でも、顔つきが変わって転がっている奴は、みんな死体だってことか。」
そう独り言ちると、円山は機体をバンクさせた後、大島の方へ向けた。
残りの2機もこれを見て、その後に続いた。
1万mそこそこは、飛行機にとっては近過ぎる距離である。
円山は、後続機の発進を待って、300mほどの高度で単縦陣の編隊を組んだ。
3機の編隊は、そのままセイレーンが乗った小舟の上空を通過し、その後、左旋回に入り、搭乗者はそれぞれ小舟の中を観察した。
円山も、操縦席から小舟を見下ろしたが、物の怪というより、普通の西洋人の女性が10人ほど乗っているようにしか見えなかった。
「円山飛曹長、ありゃどう見てもただの娘っ子にしか見えませんね。」
偵察席の秋山一等飛行兵曹が、伝声管越しに話し掛けて来た。
「そうだが、あのアールトとかいう爺さんは、人を喰らう鬼だから油断すんなって言っておったぞ。」
円山も伝声管越しに答えた。
「何だか、こっちに向かって叫んでいるような素振りですね。」
秋山は双眼鏡で観察しているので、肉眼で見ている円山より、細かな仕草が見えている。
「ほう、例の歌声で俺たちを誘っておるのかな。聞こえやせんのに。」
「そうですね。距離もさることながら、エンジンの爆音の中じゃあ何にも聞こえないですよね。」
円山には、秋山の言うとおり、セイレーンの行為は全くの無駄に思えた。
ドン
という空振を感じた彼が出雲の方をチラリと見遣ると、主砲の辺りを黒煙が覆っており、艦砲射撃が再開されたようであった。
「あっ、あー!」
突拍子もない声が伝声管から聞こえたため
「どうしたんだ秋山兵曹。素っ頓狂な声なぞ出しおって。」
円山が問うと
「飛曹長、奴ら本当に人を喰らってます!人の手足のようなものを噛っております!畜生、本当に人喰い鬼だったんだ。」
「何だと!」
円山は機体を降下に入れ、海面スレスレを飛行しながら小舟を観察した。
無論、セイレーンの歌声は爆音にかき消されることを承知の上でである。
「うわぁ…。」
円山は言葉が出てこなかった。
秋山が言ったとおり、小舟の中のセイレーンの何匹かが、明らかに人間の手足と思われる物に噛り付いていたのである。
「ああ、嫌なものを見ちまった。」
彼は、胃から熱い物が込み上げ、吐きそうになったが、ようやくのことで堪えた。
「おい、秋山兵曹。貴様、あれを見てどう思う?」
「どうって、今にも吐きそうですよ。さっさと機銃掃射で殺っちまって、帰艦してからお清めをしたいですね。」
吐きそうなのは、さっきから円山も同じである。
「同感だ。ところで秋山、あの化け物に20㎜機銃は弾が勿体ないと思うんだ。」
「と、言いますと?」
「偵察席の13㎜機銃で撃ってみないか?スカッとするぜ、きっと。」
瑞雲は、偵察席に13㎜旋回機銃を備えている。
「いいですね、やりましょう。喰われた船乗りの弔いにもなるでしょうし。」
円山は、無線を電話に切り替えさせ、後続の2機に、旋回機銃による銃撃の旨を伝えると、機体をいったん上昇させてから、50mほどの高度で小舟を中心に輪を描くような左旋回に入った。
小舟の中のセイレーンは、ただ上空を見上げている。
頃や良し。
ダダダダダダダダ…
左下方に向けて射撃が始まり、曳光弾が伸びて小舟の周囲に水柱を上げているが、有効な命中には至っていないようである。
「秋山、落ち着け。相手は静止目標みたいなもんだぞ。」
「分かっております。」
ダダダダダダダダダ…
再び曳光弾が小舟に向かって行くと、今度はセイレーンの4,5匹が真っ赤な血を吹き出し、もんどりうって倒れ込むのが見えた。
小舟の周囲の海面が赤く染まっていく。
「うーん?奴ら、般若の形相だぞ。」
円山が良く見ると、撃たれたセイレーンも、まだ生きているセイレーンも、元は整った女性の顔立ちだったものが、今は、物の例えではなく、耳まで口が裂け、目玉をギョロリとさせた、本物の鬼の形相に変わっていた。
「やっぱり物の怪か。おい、秋山兵曹。さっさと引導を渡してしまえ!」
「了解です。」
円山が発破を掛けると、秋山は機銃の弾倉を交換し、小舟目掛けて機銃弾を注ぎ込んだ。
後続の各機は、距離を取って円山機の機銃掃射を見守っている。
ダダダダダダ…
曳光弾が小舟に吸い込まれると、セイレーンどもが血飛沫を上げて倒れ、小舟に命中した弾があちこちを穴だらけにし、舟は沈みかけている。
円山と秋山は、小舟の中をよく観察したが、乗っているセイレーンは、みんな目を剥いて口を開けた般若の形相で血に染まり、横たわっている。
「顔つきが変わって動かないのは、死んだ奴ってこったな。分かり易くて手間が省けらぁ。」
円山が呟いた。
「小舟ノ人喰鬼ヲ殲滅セリ」
彼は、秋山に命じて出雲へ報告を打電させた。
「島の方でも、顔つきが変わって転がっている奴は、みんな死体だってことか。」
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残りの2機もこれを見て、その後に続いた。
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