日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第104話 軍艦行進曲

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 「夜兎亭」で働くことを決意したブリギッテは、その日の昼過ぎ、夜兎亭の扉を叩いた。

「ここで働かせてください。」

 戸口で応対したハーフエルフの女性に、ブリギッテは、開口一番、そう言った。

「アタシはここの女給頭のソーニャ。あなた知っているかと思うけど、ウチは異世界の軍隊相手の店なのよ。」

 ソーニャが反問すると

「知っていますとも。でも、働きたいんです。」

と、ブリギッテは答えた。

「ふーん。ひょっとして、あなた、どこかの密偵か何か?」

 ブリギッテは、どこの国にも属さない放浪の身の上だったし、密偵などでもなかったが、ソーニャのいきなりの質問にギクリとした。

「違うわ。アタシは町や村を回るジョングルールだから、どこの国にも属さないの。分かるでしょ?」
「はいはい、分かりました。」

 些かムキになって答えたブリギッテに、ソーニャは笑って応じた。
 
 無論、ソーニャも、無条件にブリギッテを信用したものではなく、ブリギッテは、ジョングルールの親方からの紹介状を持っていたので、一応の信用を置いたのである。

「じゃあ、中に入って頂戴。すぐにでも働けるのでしょう?」
「はい、今日から働きます。」
「今、どこに住んでいるの?ああ、旅回りの芸人さんに定まった住まいはないわね。空き部屋を一つあげるから、そこに居ればいいわ。」
「はい、ありがとうございます。」

 こうして、ブリギッテは、思惑どおりに夜兎亭で住み込みの職を得て、根拠地隊将兵との縁も得たのである。

 夕暮れを過ぎ、街に明かりが灯るころになると、デ・ノーアトゥーン港に停泊中の艦艇から将兵が上陸し、街へ繰り出し始めた。

 この頃になると、セイレーン討伐の艦砲射撃から出雲も帰港し、乗組み将兵が半舷上陸で揚がって来た。

「さあ、今日も始まるわよ。先にこれを付けて。」

 ブリギッテは、ソーニャから指輪を渡された。

「何ですか、これ。」

 ブリギッテは、不思議そうに指輪を眺め回した。

「言ったでしょう。ここのお客は、みんな異世界の兵隊さんだから、そのままじゃ言葉が通じないの。その指輪には『言葉の理』の魔術が込められているから、嵌めるだけで言葉が通じるの。分かった?」

 ソーニャが苦笑しながら説明すると、ブリギッテは納得して、その指輪を、ちょうどサイズの合った右手の中指に嵌めた。

 やがて、根拠地隊陸海軍将兵が、まるで雪崩れ込むように夜兎亭に入って来ると、あっという間に満席近くなった。

 こうなると、店内はまるで戦場である。

 矢継ぎ早に入る注文への応対、調理場への取次ぎと、酒、料理の配膳と、息つく暇もない。

 ブリギッテは、いきなり戦場に放り込まれた新兵のようにあたふたしながらも、何とか仕事をこなして行った。

 客席の将兵たちに酒が回って来ると、いつものように歌合戦が始まる。

 根拠地隊が設置されて少し日数が経ち、陸海軍将兵の間の障壁も、随分と取り除かれて来たようであり、以前は別席であったが、今では相席も当たり前になり、軍歌の斉唱も、陸海軍隔たりなくなって来ていた。

 今日は、普段は士官クラブとなっているギルド会館へ通っている、根拠地隊司令桑園少将、出雲艦長白石大佐と副長星美中佐が顔を出していた。

 身分制度に喧しい海軍では珍しいが、各艦の艦長クラスは、将兵の士気を下げないように気を遣い、下士官兵の多い属領首府指定の夜兎亭や銀月亭に時折顔を出して、その動静把握に努めており、今日は、出雲の帰港ということもあり、桑園少将が来ていたのである。

 無論、部下将兵の酒が不味くなるような無粋な真似はせず、完全な無礼講と皆には言い含めてある。

 ソーニャは、日本の軍歌や歌謡曲をだいぶん聞き慣れていたが、ブリギッテにとって、異世界の歌は興味深かった。

 艦砲射撃から帰還した出雲乗組みの誰かしらが、軍艦行進曲を歌い出し、それが店内の大合唱となった。

 守も攻むるも黒鐵くろがね
 浮かべる城ぞ頼みなる
 浮かべるその城日の本の
 皇國の四方を守るべし
 眞鐵まがねのその艦日の本に
 仇なす國を攻めよかし

 石炭いわきの煙は大洋わだつみ
 たつかとばかりなびくなり 
 弾撃つ響きはいかづち
 聲かとばかりどよむなり
 萬里の波濤を乗り越えて
 皇國の光輝かせ

 海行かば水漬く屍
 山行かば草生す屍
 大君の辺にこそ死なめ
 長閑のどには死なじ

 2番の後の「海行かば」のフレーズは、将官、司令官に対する儀礼曲として演奏される場合に用いられるもので、今は、桑園少将が在席してることから、皆が歌ったものである。

 桑園少将も、少し酔いが回っていたこともあり、愉快に合唱に加わった。

「勇ましい歌ね。どんな内容なのかしら。」

 ブリギッテは、歌の歌詞は分かっても、その意味するところが想像できないで、ソーニャに訊いた。

「何でも、異世界の軍艦が勇ましく海を進んで、大砲を撃って、対立するほかの国を攻めて行くってことらしいわ。」

 ポカンとした表情のブリギッテに、ソーニャが、以前、酔った下士官から聞いた歌の意味を説明してやった。

「へえ~。そう言えば、あの人たちの軍艦って、煙突から煙が出ていたわね。」

 ブリギッテは、妙に納得した表情になった。

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