日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第153話 夜襲ヲ撃退セリ

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 ヴァナヘイム軍の稚拙な夜襲を、他人事に思えなかった東野少尉だったが、そんな思いを断ち切るように、後方で砲声が連続して響いた。

 ドーン、ドドーン

「すわ。砲撃の開始か。」

と思ったが、次の瞬間、眩い光が上空で煌めいた。

 九〇式野砲と一式砲戦車が、照明弾を放ったのである。

 照明弾は、ゆっくりと落下しながら、地上を照らして行く。

 照明弾に照らされたヴァナヘイム兵たちに、明らかな動揺が見られた。

  次いで、塹壕に設置した重機関銃と軽機関銃が一斉に射撃を開始し、歩兵銃も各個に射撃を開始した。

 また、近接戦闘に優れた旧砲塔の九七式中戦車(チハ車)6輌が、壕の前面へと展開して行った。

 塹壕陣地の重機、軽機、歩兵銃に加え、チハ車の57㎜短砲身戦車砲と車載機関銃が攻撃に加わる。

 後方から、続けて照明弾が撃ち上げられた。

 照らし出されたヴァナヘイム兵の戦列は、凄惨な有様になって来ている。

 密集隊形のヴァナヘイム兵たちは、東野が思ったとおり、銃砲の格好の射撃の的になり、ある者は砲弾の着弾で吹き飛ばされ、またある者は機関銃弾に薙ぎ倒されるなど、その数を減らして行くが、それでも前進を諦めないでいる。

 突然、戦列の後方から火球が飛び出したかと思うと、戦列と戦車の中間ほどの地点に「ポスン」という感じで落下し、消えた。

 魔術師が火球を放ったものと思われたため、各戦車砲が、火球の起点を狙って砲弾を撃ち込んだ。

 東野は、その砲撃を双眼鏡で観察していたが、セシリア同様、魔術師は黒色の衣装を着込んでいるためか、照明弾の明かりの下でも、斃したかどうかを確認することはできなかった。

 戦列の半分ほどが失われた頃、その一部が、切通をとおって迂回、前進を試みたが、新砲塔チハ車と九五式軽戦車が迎撃し、全滅させた。

 その際、後方から火球が飛んで来てチハ車に命中する場面も見られたが、距離が遠かったらしく、砲塔前面を少し焦がすだけに終わった。

 戦闘開始から僅か10分ほどで、100人余りまで撃ち減らされたヴァナヘイム兵は、ここでようやく撤退を始めた。

 むしろ、よくここまで我慢したと言うべきであろう。

 朝日大尉は、射撃の中止を命じた。

 照明弾の撃ち上げも止んだ。

 ヴァナヘイム兵撤退の後は、元の静寂が辺りを支配した。

 追撃は行わない。

 行う兵力がない。

 ミスリル鉱山陣地には、まだ1,000人以上のヴァナヘイム兵が残っているから、砲撃で減らし、戦車で攻め立てたとしても、現有の兵力では、鉱山を占領し、維持することができないのである。

 ヴィルタネン准男爵指揮のミズガルズ軍本隊と、陸軍、海軍陸戦隊徒歩部隊は、不眠不休で馳せ参じようとしているはずであるが、到着まで、どんなに急いでも、あと一日は必要と思われた。

「敵が今回の損害に懲りて、撤退でもしてくれりゃあ楽なんだが。」

 東野少尉は、そんな楽観的な考えを持ったが、無論、戦略物資を産出する要衝を、易々と手放すヴァナヘイム軍ではなかった。

 やがて夜が明けると、丘の前面には、無数のヴァナヘイム兵の死体が転がっていた。

「後々の処理が大変だな。」

 東野がそんな思いでぼんやりと眺めていると、鉱山陣地から何人かの兵士が現れた。

「敵襲、射撃用意!」

 我に返った東野が叫ぶと

「待ってください!」

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 声の方を振り向くと、いつの間にか天幕へ身柄を移されたらしいセシリアが、入口から顔を出していた。

「どうして、何を待つ!」

 東野の声に怒気が含まれる。

「あれは戦闘をするのではなく、遺体の処理をしているのです。」
「遺体の処理?」

 思わず東野は聞き返したが、彼には、出て来た兵士たちは、戦死体をひっくり返しながら弄っているように見えるだけで、丁重に葬ろうというような態度は見受けられない。

「あれのどこが遺体の処理なんだね、嬢ちゃん。」

 東野が呆れたように尋ねると

「あれは、戦死体から重要文書や硬貨を回収しているのです。ヒガシノ様にはお分かりにならないかも知れませんが、こちらの世界では、ごく一般的な習慣になります。」

とセシリアが答えた。

「仏様からカネを回収するのが習慣だって?とんでもないことをするもんだ。」

 東野はそう言ったが、彼がいた元の世界でも、中世のヨーロッパでは、敵の戦死体から武器や防具、金銭を剥ぎ取ったし、今でも、重要文書を所持していないか、私信に愚痴を書いていないかなどを、調査はする。 
 
「そうかも知れませんが、金貨や銀貨は貴重ですし、銅貨の数にも限りがあります。特に、大きな戦いで大量の戦死者が発生すると、そのまま埋葬していては、出回る硬貨がその分減ってしまうので、やむを得ず回収するのです。」

 セシリアは、必死で説明する。

「なるほど。しかし、とんだ青砥藤綱だぜ。」
「アオトフジツナ……でございますか?」

 東野の独り言を聞いたセシリアが尋ねた。

「ああ、俺達の国、日本で700年前に実在した武将でね。夜、橋を渡った時に硬貨10枚を川へ落としてしまったんだ。その時、従者に命じて硬貨50枚で松明を買って、落とした硬貨を探させたんだ。」
「はあ、それが?」

 セシリアはキョトンとしている。

「世間の人は、硬貨10枚を探すのに50枚を費やすのは、割に合わないと言ったんだが、藤綱は『硬貨10枚を探さず失えば、世の中全体の損失だ。だが、50枚を払えば自分にとっては損になるが、誰かの利益になる。だから、世の中全体では、探し出した10枚と合わせて硬貨60枚の利益になる。』と言ったんだ。」

 セシリアは、今一つ理解ができていないように見えたので、東野は

「要するに、死蔵の銭を作らないってことさ。戦死体を弄るのは、えげつないとは思うがね。」

と説明すると、セシリアは何となく理解したというように頷いた。

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