ツンデレの弓月先輩は「おあずけ」が出来ない後輩ワンコにお困り中

かぼす

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第1章 甘い地獄のはじまり

2. ラブホ街で

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神矢のロッカーを開けると、下段の棚板の上でにぎやかにスマホが鳴動していた。

「……忘れていきよった」
「でもすぐ気づいて戻って来てもよさそうじゃない?もう出かけてから20分近くになるよ」

急に心配顔になったマネージャーの言葉に、弓月も表情を曇らせる。

「あいつ、普段もスマホいじってる姿見たことあれへんしなぁ……」
「前に行ったことあるって言ってたから、お店にたどり着くことは出来ると思うんだけど……」
「せやけど、買い出しリストも持ってってへんのやろ?たどり着けてもしょうもないよなぁ」

(……あいつ、アホやわ。せやけど、もしなんかあった時、連絡手段があれへんのはあかんよな……)

買い出しを命じた立場上、弓月は、連絡が取れない状態で外出した神矢に対して、責任を感じていた。

(デカい図体しとるくせに、世間知らずなとこもあるしなぁ)

それを思うと、小さな子どもでもあるまいし、心配のしすぎだとは思いつつ、弓月は難しい顔で思案をめぐらせた。

「……しゃあない。俺も行ってくるわ」

意を決したように弓月は顔を上げた。
マネージャーから買い出しリストを受け取り、ボディバッグに神矢のスマホを突っ込むと、Tシャツにハーフパンツという練習着姿のまま部室を飛び出した。


アスファルトが午後の日差しを照り返していた。
暁星国際の敷地を出ると、周囲は太い道路とまばらな並木が連なるだけの、人工的な郊外の風景になる。
最寄駅までの道のりは徒歩で5分。
そこまでの間に引き返してきた神矢とすれ違わないかと、弓月はあたりを見回しながら走ったが、神矢の姿は見つけられなかった。

(電車ですれ違いになる可能性もあるやろけど……)

そう思ったが、弓月はひとまずそのドラッグストアを目指し、最寄駅から電車に乗り込んだ。
目的の駅まではおよそ15分ほどで到着した。
弓月は電車を降りると、駅の雑踏の中を縫うように走り抜け、にぎやかな繁華街へと足を踏み出した。

ふと弓月は、横断歩道の向こうの駅前交番から、よく見知った大きな体の男が出て来ることに気がついた。

(……広太やん!?……なんで交番!?)

弓月は驚いて信号が青に変わったのも気付かず、その場に棒立ちになった。

(え?なんかやらかした?それともなんかの被害にでもあったんか?)

弓月の顔はさぁっと青ざめた。
あわてて駆け寄ろうと横断歩道を走り出すと、そんな弓月の視線の先で、交番から小さな女の子を連れた母親らしき女性が、神矢に続いて出てきた。
その女性に声をかけられたらしい神矢が親子を振り返ると、女性は何度も神矢に頭を下げて、礼を言っている様子だった。
神矢もあわててそれに応えるように、何度もお辞儀をしている。

(どないしたんやろ?)

よくわからないままそこへ駆け寄り、弓月がぽんと神矢の背を叩くと、振り返った神矢は、弓月に気づいて驚いた顔を見せた。

「……え?弓月先輩、なんでここに?」
「なんでやあらへん。お前の方こそここでなにしてんねん?」

そんなやり取りを交わしていると、女の子を連れた女性が弓月に気づいて、うれしそうに声をかけてきた。

「暁星国際の弓月くん!?すごい、本物!……実はさっき、うちの子が迷子になっちゃったのを、この彼が交番に連れてきてくれたの。じゃああなたも暁星国際だったのね?」
「あ、はいっす」
「暁星国際、イケメン多過ぎじゃない?……でも、本当にありがとうございました」

それから女性はなおも神矢に礼を言い、それも済んでお互い別れようとすると、女の子が母親の手から離れてさっと神矢の足元に近づくと、その足に小さな体でしっかりとしがみついた。

「もう!この子本当に面食いで困るわ。誰に似たのかしら?あ、私か。……さ、お兄ちゃんたち困ってるでしょ、もう行くよ」

母親が女の子を神矢から引っぺがそうとしているのを、神矢も弓月も苦笑しながら見ていた。そして、そんな女の子の様子が幼くて可愛いなあと思って見ていた弓月は、女の子が神矢の足にしがみつきながらも、なぜか弓月の顔をにらむように見上げて、ほっぺをふくらませていることに気がついた。

(……ま、まさか、対抗心燃やされてる?)

そんなわけないな、と弓月は引きつり笑いをしながらも、母親と一緒に女の子を神矢から引っぺがすと、多少強引目に神矢の腕を取り、その場を後にした。


「……え?俺、スマホ忘れとったんすか?」
「気づけへんかったんか?」
「……ほんま、すんません」
「次からは気ぃ付けや。……ほな今日は俺も一緒に行こか」
「あざっす!」

ドラッグストアに向かう道々、ふたりでそんなことを話していると、隣を歩く神矢のうれしそうな笑顔が輝いて見えて、弓月もほんのり気持ちがあたたかくなった。

「なんや、デートみたいっすね」

ご機嫌でそんなことを言う神矢の言葉に、弓月も本当はまんざらでもなかったが、肯定するには恥ずかしすぎて、赤い顔で口をむっとさせた。

そんな楽しい遠足気分で、他愛もない会話を交わしながら、ふたりは近道を選んで細い裏道を歩いていたが、いつのまにか、道の両脇にびっしりとピンク色の看板が立ち並ぶ、ラブホ街のまっただ中に突入していることに気がついた。
大人の欲望を体現したけばけばしい装飾が、日の当たらない裏道に通り狭しとひしめいている。

(……なんや、気まずいわ……)

いつのまにかふたりとも無言になった。
神矢の様子が気になって、弓月はおそるおそる隣の神矢の表情に視線を向けた。
すると、神矢も赤い顔で口をへの字にし、ちらっと弓月の方を見て、その視線同士がかちあった。
この状況を意識しすぎて急に心拍数が上がってきた弓月は、沈黙に耐えられず、何でもない様子を無理に装い、口を開いた。

「……まぁたヘンなこと考えてへんやろな」

すると、少し黙ってから、神矢が返した。

「……考えてるす」

否定すると思っていた弓月は、神矢の予想外の返事に動揺した。
とっさに軽く受け流せずに、赤面しながら口をもごもごさせていると、神矢は真面目な調子で続けた。

「……前も言うたすけど、俺、弓月先輩のこと、めちゃめちゃ好きっす」
「せやから、弓月先輩のえろいとこももっと見たいし、弓月先輩ともっと、エッチなことも、したいす」
「……いっぱいさわって、いっぱいキスして、もっと、もっと、……ほかのこともいろいろ」
「そう思うんは、……ヘンすか?」

気負いもてらいもなく、ぽつぽつとそう語る神矢の低い声は、直接弓月の脳を甘く犯すように響いた。

「……ここ、人もおらんし、部室でもないす。せやから、怒らんといて欲しいす」

最後に少しだけ照れたようにそう付け加えると、神矢は真っ赤な弓月の顔を、熱っぽく、せつなげに見つめた。




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