とある団地にて

由井実緒

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一章

一週間後 その2

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 いや元気が過ぎるーーー

 
 津村仁美。36歳未亡人。一週間前家に押し入った男、須藤和男との性交を回避すべく、風呂場の前戯で搾り尽くす作戦を試みるも見事撃沈し今に至る。

 恥を忍んで……頑張ったのに……。
 自身の胸中にはただ、無念の思いだけが残っていた。
 
 三、四回は手と口でイかせ、これでもう勃つまいと見上げた青年の顔はまだやる気で漲っていて。幾ら若いとはいえ限度があると。そんな泣き言を言っても仕方なく、内心で泣く泣く互いの体を清め、粛々と敷いた客用布団の上へと彼を導いた。

 何とか、萎えていてくれないかと須藤の方を見る。瞬時にムリだと悟った。若い欲を激らせたその顔を見ていたくなくて、視線を落としながら未だ元気な男の陰茎にゴムを被せ、巻きつけていく。

「あの」
「……どうしたの?」
「俺も、津村さんのこと触っていいですか」

 絶対に嫌だ。それが率直な本音であった。この青年に身を任せ、主導権を握られてしまえば一体どんな目に遭わされるか想像も付かない。

 しかしそれを正直に伝える訳にもいかず、一瞬口ごもった後、無言で男の手をとり自らの胸元へと導く。

「ここなら良いよ。慣らしてる間、好きなだけ触って」

 そう笑いかけ、空いた手で傍らからローションのボトルを引き寄せる。青年が来る前、念入りに準備はしたものの。せっかくならもう一度慣らしておきたい。その合間、胸だけであれば良いと青年に持ちかける。

 須藤は、ぎこちなく頷きそれを了承した。ほっと小さく息を吐き、青年の手を放した後準備に取りかかる。指にローションを纏わせ、後腔へと伸ばす。

 一週間の内に、後ろは辛うじて三本の指を飲み込むまでには解れていた。しかし須藤のサイズからして、これでも不十分であろう。指を動かすたび、後ろから齎らされる微かな痛みに眉を顰める。

「ッ……!ん」

 青年の手が、ゆっくりと胸の肉を寄せるよう揉む。先端を指が擦り、外気と後ろの違和感でつんと尖ったそこが微かにだが甘い刺激を拾う。

「すっげ……ハァ、柔らかい」

 揉みしだく手の動きが徐々に大胆になっていき、それに耐えながらも指で後ろを慣らしていく。興奮で荒くなる男の息が首筋にかかり、ぞわぞわと腰が震えた。

 嗚呼、怖い。逃げたい。早く終わらせてしまいたい。

 一週間が経った後も、この青年は自身にとって未だ未知の脅威で。こちらに向けられる獣のような情欲も、分厚く大きな体も、全てが恐ろしいもののように感ぜられた。

 性交の経験はあれどそれは数年も昔のことで、しかしやらなければ終わらないと、本能で理解出来た。はやる気持ちだけが体を突き動かす。そろそろ頃合いだろうと埋めた指を引き抜いて、自身の目の前にある青年の体を布団の上へと押し倒した。

「っ、おまたせ。じゃあ始めよっか」

 震えそうになる声を辛うじて搾り出し、微かに口端を吊り上げ青年に微笑みかける。こちらの焦りと緊張を悟られぬよう、敢えてゆっくりとした動きで熱りたった陰茎を手で支え、自身の後腔へと押し当てた。

「く、ぅ……」

 意を決して、腰を下ろしていく。つぷりと亀頭の先が中へと埋まり、その形が指の太さを超えた辺りで、引き攣れるような痛みが走った。

 やはり、まだ不十分だったか。しかしゆっくりと時間をかけ、一番太い部分さえ飲み込んでしまえば後は何とでもなるだろう。そう思い、中腰のまま息が整うのを待つ最中であった。

「ッア゛!っ、ツ、ぁ、え……?」

 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 見下ろしていたはずの、須藤の逞しい肉体が自らの上に覆い被さっている。下腹部からじくじくと伝わる鈍い痛み。視線を下に向けると、雁の張った亀頭の返しまでが、自身の中に埋まっているのが分かった。

 え、い、痛い。何、こわい。

 一週間前、玄関先で彼と対峙した時の感覚が鮮明に蘇る。自身より強く体の大きい男に、身体の自由を脅かされる恐怖。見ず知らずの赤の他人に生々しい性欲をぶつけられる嫌悪感。そして。

 おそるおそると、上を見上げる。昂る興奮で鬼気迫る青年の顔。自身の良く知る男と似ていて、しかし決して見たことのない表情だった。激情に染まる男の顔は美しく、それがなお一層凄みを増し見るものを萎縮させる。

 かつて誰よりも自身を安堵させ、慈しんでくれた愛しい男の面立ち。無意識に助けを求めたくなる気持ちと、今目の前の「それ」が自身を恐怖へと追いやっている元凶なのだという現実。頭が混乱して、如何にかなりそうで。

「……ヒっ、ぅ、う」

 ぷつんと、何かの糸が切れると同時。保身により取り繕っていた外面がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。溢れた感情が涙となり頬を伝い濡らす。

 もう限界だった。怖い。助けて明人さん。

 そうかつての伴侶へと助けを求める声は、自身の喉から発せられる嗚咽でかき消え。今は亡き男に良く似た青年の美しい顔が、滲む視界と共に薄ぼやけていった。

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