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一章
一週間後 その3
しおりを挟むぼんやりと霞がかっていた思考が現実へと帰る。気付けば目前には、大きな瞳からぼろぼろと涙を零し啜り泣く、愛おしい人の顔。
泣……え、泣いてる?? なぜ? どうして。
脳が、急速に回転を始めた。現在の状況と、今までの情報を整理し、目の前の彼が泣いている理由を推察する。
今日会ってすぐのこと、津村は「上手くできるか分からない」と、珍しく自信の無さげな様子で告げてきた。準備が間に合わなかったのだろう。今この状況が彼に苦痛をもたらしていて、それ故に泣いているというのが一番しっくりときた。
今すぐ、行為を止めるべきだと理性が訴えかけてくる。
実際、自身も最初に誓った筈だ。決して無理強いはしない。彼に嫌われないよう、紳士的に振る舞うのだと。しかし。
「つ、津村さん……なかないで、大丈夫です」
片手で汗ばむ前髪をなでつけ、そのままあやすよう丸い頭を撫でた。少しでも彼に安心して貰えるよう、辛うじて口元に笑みを作り。そうして言葉を紡ぐ。
「今日は、さ、先っぽだけに、しますから」
我ながらに最低なセリフだと思った。
だがこれでもまだ、譲歩した方である。なにせ顔を赤らめぐずぐずと泣く想い人の姿に、自身の浅ましい半身は痛いほどに反応を示していた。
あの清楚で、淫靡で、いつなん時も己を大人の余裕でもってリードしていた彼が。今自身の下に組み敷かれ、その逸物を受け入れ泣いている。
肚の底から仄暗い欲望が這い出て、その顔をもっとぐちゃぐちゃに乱し歪ませたくなる衝動を寸での所で抑え、飲み込む。
「ぅ、ひぐッ、……う、ぁ」
ゆっくりと、男の反応を伺いながら腰を動かす。こちらをキツく締め付ける入り口に、雁首が引っかかっては擦れる度、ぞくぞくとした快感が腰から背筋へと駆け抜ける。
「ヒッ、う、うぅ」
「すごく気持ち良いです、ッ、ハァ、津村さんの、なか」
「っぁ、ア゛ぁっ、う」
「お、奥には、挿れません。ね? 痛く、しませんから」
そう半ば自身にも言い聞かせ、奥へと進みそうになる半身を必死に制御する。先だけでも気持ちよくて、文字通り腰が蕩けそうだった。奥に挿れたらもっと気持ち良いと、そんな抗いがたい誘惑にじりじりと理性が炙られていく。
その一線を越えたら終わりだと、理解はしていた。手遅れになる前に一度、欲を吐き出そうと露出した幹を自らの手で擦る。
被せたゴムが邪魔だった。一度引き抜いて、剥がしたそれを乱雑に投げ捨てた後、再度彼の中へいきり立った熱を挿入する。
「っ、ア、あ、ちょっ……」
一瞬、津村の目が大きく見開かれ、こちらを止めるそぶりを見せた。
しかしぐぷ、と再び音を立てて挿入される男根に、一つ大きく肩を震わせると、そのままくたりと体の力が抜ける。
一拍置いて、おずおずと下に伸びる手がこちらの陰茎の幹を捉え、長い手指で包んだ。ぎこちないながらも、ゆっくりと上下にさするよう動く指。
「も、だ、っ、だして……ウゥ、はやく、ぅ、ナカに」
頬を赤らめ、涙に濡れた目でそうこちらへと強請る想い人の姿。弾け飛びそうになる理性を寸でのところで押し留め、徐々に律動を再開する。
「ハァ、っあ」
先程よりも熱くぬめって、生々しく先端を包む中の締まり。津村の手はこちらの陰茎を扱くよう律動に合わせ動いていた。急激に高まっていく興奮と快感に、抗うことなく身を任せ。
「ッ~~っ、ぅ!」
「っハ……アァ、きもち良い」
震える年上の男の体を抱きすくめ、どくどくと中で吐精する快楽を噛み締めた。洪水のように溢れ返る多幸感に脳が溺れ、ぎゅうと愛しい人を閉じ込める腕に力が籠もる。
津村の体は、しばらくぐったりと脱力したように動かなかった。しかしこちらが身動ぐ前、その腕がゆっくりと自身の背に回ったのをみて、彼の顔を覗き込む。
目元は赤く腫れ、へなりと垂れた眉と眦は、彼の童顔をより幼く見せていた。焦点の合わない瞳は虚ろに宙を見上げ、こちらに向くことはない。
「津村さん」
呼びかけに、津村の瞳がゆっくりとこちらの姿を捉える。口元が弛み浮かんだ、ふにゃりと柔らかく幼なげなその笑みは、自身が初めて見る彼の表情であった。
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