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ヘンリー、泣きのもう一回
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「それでも!変な妄想でフラれるのなら、ちゃんと話だけでも聞いて欲しい。今日じゃなくてもいい、もう一度だけ、話を聞いてくれ、お願いだ」
恥も外聞もなんのその、必死に頼み込み、ジェマイマに追いすがった。
「グレイ公爵令息、貴方様、ご婚約は」
「今まで一度も婚約者が居たことはない」
ヘンリーは胸を張ってハッキリと答えた。
ジェマイマは目の前の美丈夫を、
(ふ~ん、一途に相手のある方を思っているのかしら)
探るような目付きで見上げた。
「貴女の言った真実の愛とはなんなんだ」
ヘンリーはその訝しげな目線を訝しんで、先ほどのジェマイマの発言で気になった言葉を問うた。
「まあ、公爵令息様は市井で語られることには疎いのですね。今、他国でも我が国でも真実の愛と言ったら、障害があっても他人に迷惑をかけても気にしないと言う、ナルシストで独りよがりな、図太い神経の持ち主が陥る恋の相手のことですわ」
ジェマイマは淑女然とした能面微笑で、表情に全く似つかわしくない酷い言い草を吐いた。
「まてまて、待ってくれ。他国や市井で流行っているという、その非道な恋の相手とやら、私には全く心当たりが無い。どうか、もう一度、時間を取って話し合いたい、頼む。頼むよ~頼むから~お願い」
ヘンリーはジェマイマと同じ年、もう良い年した大人の紳士である。
類い稀な美貌を持つ、血統正しき公爵家の跡取りである。
しかし、そんなことは言ってられない。
今、この時を逃せば、二度と彼女と接点を持つことすら出来ない、そう自信があった、嫌な確信である。
だから、麗しの顔を苦痛に歪ませ、目をうるうる潤ませ、引き離された手をもう一度取って追いすがっているのである。
なりふり構わぬ、とても公爵令息とは思えぬ情けない姿であるが、気にしていられない。
その甲斐あって、手を持って懇願されているジェマイマは、え~めんどくさいと声を出さずに呟いたが、チラッと目を左右に揺らして周囲を見回した。
そこには、何事か、ぼっちゃまご乱心か、と息を潜めて遠くから見守る多くの公爵家の忠実なる使用人の姿があった。
それを見回して、このままだと公爵家に喧嘩を売ったとか悪い噂を立てられ、商会の運営やキャンベル伯爵家に嫌がらせがあっては堪らないと諦めたジェマイマは、はあ~っと肺の空気全てを吐き出した後、じゃあ、また来週の同時刻で、そう言い捨てて、持たれていた手をフンっと抜き去り、振り向きもせず颯爽と外へと出ていったのであった。
自称、地味で空気のように存在感の無いジェマイマは、自身のアンテナショップの商会運営やキャンベル領の発展を支えたという評判が、その実キャンベル領限定ではなく、王都中、いや王族の耳にも入っているなど思っても無い。
だから、婚約もせずに卒業を迎えたジェマイマはきっと女官として出仕し職業夫人になるだろう、自分の下でその才能を花開かせようと思い描いて、ジェマイマがやって来るのを、今か今かと待ち構えていた王女が、本人は全くその気が無く試験も受けていなかったと聞いてガックリ肩を落としたとか、なんとか。
ジェマイマは品行方正、深慮遠謀な、ちょっぴり人見知りが過ぎる伯爵令嬢なのであった。
「あれは何だったのかしら?」
帰りの馬車の中、幼少期よりジェマイマの後ろに影のように寄りそってきた専属侍女に聞いた。
「お嬢様、あれは、まごう事無い求婚だと思いますよ」
「でもお父様もお断りしてくれたのでしょう?お父様も真実の愛の隠れ蓑を是とせずに断って下さったのよ」
「それは違うと思いますよ。なぜ頑なに隠れ蓑だとお思いで?」
「ねえ、あの顔見たでしょ?久方ぶりに見たけれど、間近で見てビックリしたわ、彫刻みたいな均整の取れた配置、大きさ、色合い。完璧な美貌よ。それをこんなパッとしない見目の鼻の大きな行き遅れの女を娶ろうなんて、裏が無ければ考えないでしょう、まあそれか大きな鼻フェチか、そのどっちかね」
「お嬢様、いくらなんでも自虐が過ぎますわ。あの方の美貌はさておき、お嬢様を娶とりたいお気持ちは本当のように思いましたけど」
「そりゃそうよ、そう思わせなきゃ、いくら貧乏伯爵令嬢でも了承しないわ、偽装結婚なんて。まあキャンベル家は貧乏伯爵家では無いけれども」
そんな会話が行われているなど、途方に暮れて過ぎ去っていくジェマイマの馬車をいつまでも見送っているヘンリーは知る由も無いのであった。
■□■□■□
投稿ミスでエピローグをアップしてしまい申し訳ありませんでした。
投稿しなおしました。
恥も外聞もなんのその、必死に頼み込み、ジェマイマに追いすがった。
「グレイ公爵令息、貴方様、ご婚約は」
「今まで一度も婚約者が居たことはない」
ヘンリーは胸を張ってハッキリと答えた。
ジェマイマは目の前の美丈夫を、
(ふ~ん、一途に相手のある方を思っているのかしら)
探るような目付きで見上げた。
「貴女の言った真実の愛とはなんなんだ」
ヘンリーはその訝しげな目線を訝しんで、先ほどのジェマイマの発言で気になった言葉を問うた。
「まあ、公爵令息様は市井で語られることには疎いのですね。今、他国でも我が国でも真実の愛と言ったら、障害があっても他人に迷惑をかけても気にしないと言う、ナルシストで独りよがりな、図太い神経の持ち主が陥る恋の相手のことですわ」
ジェマイマは淑女然とした能面微笑で、表情に全く似つかわしくない酷い言い草を吐いた。
「まてまて、待ってくれ。他国や市井で流行っているという、その非道な恋の相手とやら、私には全く心当たりが無い。どうか、もう一度、時間を取って話し合いたい、頼む。頼むよ~頼むから~お願い」
ヘンリーはジェマイマと同じ年、もう良い年した大人の紳士である。
類い稀な美貌を持つ、血統正しき公爵家の跡取りである。
しかし、そんなことは言ってられない。
今、この時を逃せば、二度と彼女と接点を持つことすら出来ない、そう自信があった、嫌な確信である。
だから、麗しの顔を苦痛に歪ませ、目をうるうる潤ませ、引き離された手をもう一度取って追いすがっているのである。
なりふり構わぬ、とても公爵令息とは思えぬ情けない姿であるが、気にしていられない。
その甲斐あって、手を持って懇願されているジェマイマは、え~めんどくさいと声を出さずに呟いたが、チラッと目を左右に揺らして周囲を見回した。
そこには、何事か、ぼっちゃまご乱心か、と息を潜めて遠くから見守る多くの公爵家の忠実なる使用人の姿があった。
それを見回して、このままだと公爵家に喧嘩を売ったとか悪い噂を立てられ、商会の運営やキャンベル伯爵家に嫌がらせがあっては堪らないと諦めたジェマイマは、はあ~っと肺の空気全てを吐き出した後、じゃあ、また来週の同時刻で、そう言い捨てて、持たれていた手をフンっと抜き去り、振り向きもせず颯爽と外へと出ていったのであった。
自称、地味で空気のように存在感の無いジェマイマは、自身のアンテナショップの商会運営やキャンベル領の発展を支えたという評判が、その実キャンベル領限定ではなく、王都中、いや王族の耳にも入っているなど思っても無い。
だから、婚約もせずに卒業を迎えたジェマイマはきっと女官として出仕し職業夫人になるだろう、自分の下でその才能を花開かせようと思い描いて、ジェマイマがやって来るのを、今か今かと待ち構えていた王女が、本人は全くその気が無く試験も受けていなかったと聞いてガックリ肩を落としたとか、なんとか。
ジェマイマは品行方正、深慮遠謀な、ちょっぴり人見知りが過ぎる伯爵令嬢なのであった。
「あれは何だったのかしら?」
帰りの馬車の中、幼少期よりジェマイマの後ろに影のように寄りそってきた専属侍女に聞いた。
「お嬢様、あれは、まごう事無い求婚だと思いますよ」
「でもお父様もお断りしてくれたのでしょう?お父様も真実の愛の隠れ蓑を是とせずに断って下さったのよ」
「それは違うと思いますよ。なぜ頑なに隠れ蓑だとお思いで?」
「ねえ、あの顔見たでしょ?久方ぶりに見たけれど、間近で見てビックリしたわ、彫刻みたいな均整の取れた配置、大きさ、色合い。完璧な美貌よ。それをこんなパッとしない見目の鼻の大きな行き遅れの女を娶ろうなんて、裏が無ければ考えないでしょう、まあそれか大きな鼻フェチか、そのどっちかね」
「お嬢様、いくらなんでも自虐が過ぎますわ。あの方の美貌はさておき、お嬢様を娶とりたいお気持ちは本当のように思いましたけど」
「そりゃそうよ、そう思わせなきゃ、いくら貧乏伯爵令嬢でも了承しないわ、偽装結婚なんて。まあキャンベル家は貧乏伯爵家では無いけれども」
そんな会話が行われているなど、途方に暮れて過ぎ去っていくジェマイマの馬車をいつまでも見送っているヘンリーは知る由も無いのであった。
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