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メアリー侯爵夫人
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ヘンリー・グレイは頭を抱えて自室の床に蹲っていた。
そこにノックもなくズカズカと入って来ると、腰に手を当て仁王立ちで顎をしゃくり上げて女が怒鳴った。
「泣き虫ヘンリー、あんたやる気あんの?何メソメソしてるのよ、自業自得でしょ?
家に招待しといて、『初めまして』って。しかもその一言が出るまで30分、挨拶の後彼女が暇を告げるまで30分。良く我慢してくれたわ。
あんたねえ、乙女の時間は貴重なのよ。嘗て3年間も同じクラスで過ごした相手に『初めまして』なんて、何やってんの、嘆かわしい。しかも何回も何回も婚約の申し込みをお父様からお願いして貰っているくせに、なんの進展もなく7年も費やして。もっと前にすることあったでしょうに」
この女、ヘンリー・グレイの実姉メアリー侯爵夫人である。
侯爵夫人とは思えぬ物言いであるが、彼女はこの国の社交界を牽引している若きカリスマであり、完璧に内と外で被る仮面を変えることが出来る為、外では天女、内では暴君と呼ばれ内側の人にはひどく恐れられているのは有名な話。
「姉上、傷ついている弟を慰めてくれなど、姉上に求めてはいない。せめて今少し、そっとしておいてくれないか」
ヘンリーが、力の無い目を向けてメアリーに希望を告げるが、
「甘い甘いわ大甘よ、あんたわかってんの?後ろがつかえてんのよ。
仕切り直しの泣きのもう一回をもぎ取れたのは、泣き虫ヘンリーなりに頑張ったようだけど、そんなことよりなぜ長々と黙り込んでいたの。
もっと熱く、強く、自分の中に迸る愛のパッションをキチンと言葉でアピールしなかったの。
あんたの次、侯爵家嫡男のオーガスタになったわよ、あんな奴に奪われていいの?」
メアリーは意に介さず、人差し指をヘンリーの目の前にビシッと向けてそう言った。
「え、あいつ、結婚していたはずじゃ、」
「甘いわ、本当にどうしてこんな大甘なのが後継なのかしら。あんたが継いで侯爵家になった途端に領地取り上げになるんじゃないの?情報戦は貴族の生命線よ。
先日の夜会でオーガスタは夫人を連れてなかったでしょ?その前の週末に、本人有責で離婚されたのよ。多額の慰謝料を払ってね」
「な!なんで」
ヘンリーは目を見開いて驚き声をあげる。
「浮気がバレたからに決まってるじゃない、しかも夫人の実家の、年若い後妻の連れ子の義妹よ。妻の義妹とヨロしくしているのを夫人が見つけて大騒動よ。その日の内に離婚請求されて、ついでに父は引責で後妻と離婚して、後妻と義妹は追い出され、後継の嫡男に当主交代、前侯爵は独り、領地の離れに蟄居されたそうよ」
メアリーが事も無げに、他家の内情を、然も当然とばかりに説明するのだった。
「姉上、どうしてそんな詳しく。まるで本人に聞いたみたいに知ってるんだよ」
「本人に聞いたのよ。あの夜会で彼女が見えなかったから、気になってお手紙出したのよ『お変わりありませんか』って。
そしたらお茶会に誘われて、そこで顛末を聞いたのよ。
そんなことより、そんな節操のないオーガスタの後妻にジェマイマがなってあんた平気なの、良いの?いえ良くないわ。彼女は貴重な存在よ。
あんたが無理なら、来週の順番を譲りなさい。私が適切な相手を見繕うから」
またまた、メアリーがビシッと人差し指をヘンリーの顔の前に突き立てて、厳しい口調でそう命じた。
「ダメだ、ダメダメ。次はキチンと話すから、順番を譲ることなんて出来ない。だいたい姉上が用意するって誰を宛がうつもりだ」
ヘンリーが、メアリーの指先をそっと避けて、答えると、
「第3王子のナイジェルよ」
「10も年下じゃないか、この春学院に入学だろ、あり得ないよ。あいつはまだ子供だ」
「別にいいのよ。我が王国に婚約者が居るって言うのが大切なの。
このままじゃ彼女、昨今、貴族籍離脱して平民として他所の国に移住しちゃうわよ。
そんなの我が王国の大損失。とにかく彼女はこの国に居てさえくれたらいいのだし、王家に取り込めたら尚良しよ」
メアリーはフフンと更に顎をしゃくり上げてそう答えた。
「な!移住の話はありそうだが、王家に取り込むとか軽く言うなよ。彼女はそう言う野心が無いんだから」
ヘンリーは彼には珍しく姉に強い口調で言い返した。
「そうよ、でも王命が出てしまえば購えないかもね、今はまだ彼女は貴族なんだもの。
ただまあ、そうなった時、あの家が素直に従うかはわからないけど。
兎に角、あんた次は無いのよ、しっかり調べて、彼女を手中に納める算段をつけるのよ、ちゃんとおやんなさい」
メアリーにしては珍しく言うだけ言って、すぐに部屋から出ていったのだった。
そこにノックもなくズカズカと入って来ると、腰に手を当て仁王立ちで顎をしゃくり上げて女が怒鳴った。
「泣き虫ヘンリー、あんたやる気あんの?何メソメソしてるのよ、自業自得でしょ?
家に招待しといて、『初めまして』って。しかもその一言が出るまで30分、挨拶の後彼女が暇を告げるまで30分。良く我慢してくれたわ。
あんたねえ、乙女の時間は貴重なのよ。嘗て3年間も同じクラスで過ごした相手に『初めまして』なんて、何やってんの、嘆かわしい。しかも何回も何回も婚約の申し込みをお父様からお願いして貰っているくせに、なんの進展もなく7年も費やして。もっと前にすることあったでしょうに」
この女、ヘンリー・グレイの実姉メアリー侯爵夫人である。
侯爵夫人とは思えぬ物言いであるが、彼女はこの国の社交界を牽引している若きカリスマであり、完璧に内と外で被る仮面を変えることが出来る為、外では天女、内では暴君と呼ばれ内側の人にはひどく恐れられているのは有名な話。
「姉上、傷ついている弟を慰めてくれなど、姉上に求めてはいない。せめて今少し、そっとしておいてくれないか」
ヘンリーが、力の無い目を向けてメアリーに希望を告げるが、
「甘い甘いわ大甘よ、あんたわかってんの?後ろがつかえてんのよ。
仕切り直しの泣きのもう一回をもぎ取れたのは、泣き虫ヘンリーなりに頑張ったようだけど、そんなことよりなぜ長々と黙り込んでいたの。
もっと熱く、強く、自分の中に迸る愛のパッションをキチンと言葉でアピールしなかったの。
あんたの次、侯爵家嫡男のオーガスタになったわよ、あんな奴に奪われていいの?」
メアリーは意に介さず、人差し指をヘンリーの目の前にビシッと向けてそう言った。
「え、あいつ、結婚していたはずじゃ、」
「甘いわ、本当にどうしてこんな大甘なのが後継なのかしら。あんたが継いで侯爵家になった途端に領地取り上げになるんじゃないの?情報戦は貴族の生命線よ。
先日の夜会でオーガスタは夫人を連れてなかったでしょ?その前の週末に、本人有責で離婚されたのよ。多額の慰謝料を払ってね」
「な!なんで」
ヘンリーは目を見開いて驚き声をあげる。
「浮気がバレたからに決まってるじゃない、しかも夫人の実家の、年若い後妻の連れ子の義妹よ。妻の義妹とヨロしくしているのを夫人が見つけて大騒動よ。その日の内に離婚請求されて、ついでに父は引責で後妻と離婚して、後妻と義妹は追い出され、後継の嫡男に当主交代、前侯爵は独り、領地の離れに蟄居されたそうよ」
メアリーが事も無げに、他家の内情を、然も当然とばかりに説明するのだった。
「姉上、どうしてそんな詳しく。まるで本人に聞いたみたいに知ってるんだよ」
「本人に聞いたのよ。あの夜会で彼女が見えなかったから、気になってお手紙出したのよ『お変わりありませんか』って。
そしたらお茶会に誘われて、そこで顛末を聞いたのよ。
そんなことより、そんな節操のないオーガスタの後妻にジェマイマがなってあんた平気なの、良いの?いえ良くないわ。彼女は貴重な存在よ。
あんたが無理なら、来週の順番を譲りなさい。私が適切な相手を見繕うから」
またまた、メアリーがビシッと人差し指をヘンリーの顔の前に突き立てて、厳しい口調でそう命じた。
「ダメだ、ダメダメ。次はキチンと話すから、順番を譲ることなんて出来ない。だいたい姉上が用意するって誰を宛がうつもりだ」
ヘンリーが、メアリーの指先をそっと避けて、答えると、
「第3王子のナイジェルよ」
「10も年下じゃないか、この春学院に入学だろ、あり得ないよ。あいつはまだ子供だ」
「別にいいのよ。我が王国に婚約者が居るって言うのが大切なの。
このままじゃ彼女、昨今、貴族籍離脱して平民として他所の国に移住しちゃうわよ。
そんなの我が王国の大損失。とにかく彼女はこの国に居てさえくれたらいいのだし、王家に取り込めたら尚良しよ」
メアリーはフフンと更に顎をしゃくり上げてそう答えた。
「な!移住の話はありそうだが、王家に取り込むとか軽く言うなよ。彼女はそう言う野心が無いんだから」
ヘンリーは彼には珍しく姉に強い口調で言い返した。
「そうよ、でも王命が出てしまえば購えないかもね、今はまだ彼女は貴族なんだもの。
ただまあ、そうなった時、あの家が素直に従うかはわからないけど。
兎に角、あんた次は無いのよ、しっかり調べて、彼女を手中に納める算段をつけるのよ、ちゃんとおやんなさい」
メアリーにしては珍しく言うだけ言って、すぐに部屋から出ていったのだった。
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