カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第79匙 変わらない強さ:ベンガル(C12)

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 秋葉原での用事を済ませた書き手は、向かうべき店の営業曜日の再確認をした後で、神田明神方面に向かった。
 この日の夜に書き手が足を向けたのは、神田明神界隈、〈ジャンカレー〉や〈いっぺこっぺ〉が面しているのと同じ〈東京都道452号神田白山線〉、通称、〈昌平橋通り〉に面している「カレー専門店ベンガル」である。

 この店、ベンガルの営業日時は少し変則で、火・水・金・土・日・祝が、十一時半から二十一時、月・木が十一時半から十五時である。
 以前、書き手は、月曜日の夜にベンガルに行ってしまい、七分の二の確率で夜営業が無い曜日を選ぶ、という憂き目に遭った事があったので、以来、曜日と営業時間の確認は、店を訪れる前には必ずしなければならない確認事項となっているのだ。

 書き手の店到着は十九時半、火・水・金のラストオーダーは二十時なので、わりとギリギリではあったものの、ようやく念願のベンガルへの入店を果たしたのである。

 ベンガルは、もともとは、秋葉原の〈ジャンク街エリア〉にあったのだが、店が入っていたビルの立て壊しにともない、二〇一八年の春に、前の店から程近い今の場所に移転したのである。 
 ガイドブックの店紹介ページによると、ベンガルは、スパイス「を輸入するための産地廻り、輸入業務(……)、香辛料の製粉、純カレー粉の製造、スパイス原料営業」などスパイスに携わってきたオーナーが、昭和四十八(一九七三)年に開業した、二〇二三年で五十周年を迎える、神田・神保町界隈の老舗カレー専門店の一つなのである。

 店のホームページを参照してみると、ビーフカレー、チキンカレー、ポークカレー、具沢山な野菜カレー、エビカレー、キーマカレーなどなど、様々なカレー・メニューが提供されているため、どの品を注文するかは実に悩みどころなのだが、書き手は、初来店という事もあって、紹介ページで推されていた「ビーフ角切りカレー」を注文する事にしていた。
 というのも、スタンプ・ラリーを始めてから、書き手は、初めての店では、まず、その店の代表的メニューを試し、しかる後に、次に来店の機会があったら他のメニューを試してゆく方針を採っているからである。

 ガイドブックによると、ビーフ角切りカレーは、「手間を惜しまず仕込んだビーフは焼き上げた後、しっかりと煮込み肉の旨みがカレーソースとよく合」っており、その「酸味と苦味がクセになる」との事で、いやが上にも、書き手の食欲は掻き立てられてしまっていた。

 しかし、予め決めていた「ビーフ角切りカレー」をいざ注文しようという段になって、突然、ビーフだけではなく、野菜も摂る気になってしまい、結局、ベンガルの代表カレーに野菜を足した「ビーフ角切りと野菜カレー」を、書き手は注文する事にしたのである。

 店の写真では、ビーフ角切りカレーにおけるカレー・ソースは、銀色のグレイビーポットで提供されていたのだが、実際に出てきたカレー・ソースは、鍋焼きうどんを入れるのに使う土鍋のような器に入っていた。
 おそらく、たっぷりの野菜を入れるには、この土鍋のような容器の方が適切だったのであろう。
 そんな事を考えながら、匙を口に運び続けていると、書き手の視界に、小さいホワイト・ボードに書かれた「Special アチャールたまご 100円 スパイスたれに漬けたゆでたまごです」という文言が入ってきたのだ。
 
 なんだ、そりゃっ!

 書き手は、そのスパイス漬けの卵が気になって気になって仕方がなくなってしまった。
 時刻は早くもラスト・オーダー十分前、もしかしたら今日の提供分の卵は既に無くなっている可能性もある。
 そんな不安を抱きつつも、ワンちゃんにかけて、店のスタッフを呼んで確認してみたところ、アチャール卵はまだ注文可能とのことであった。

 ラッキー!

 だが、卵を注文した時には既にカレーを完食してしまった後だったので、結果的に、卵はメインの後のデザートのように食す事になってしまった次第なのだが、いずれ機会を設けて、カレーと一緒に卵を食べてみるのもアリであろう。

 アチャール卵の食べ方に加え、ベンガルには他にも試したいメニューも沢山あって、この店に関しては、書き手はずいぶんと宿題を残してしまった。
 まあ、それは次回、訪店の機会があった時の楽しみに取っておく事にしよう。

 後日、ガイドブックで「ベンガル」の紹介ページを再読していた時、オーナーが語るこんな言葉に目が止まった。

「他店にないメニュー作りを常に目指しています。そんな中でも主役であるメインのカレールウは創業時の味を変えず提供させていただいております。街の雰囲気や食文化はどんどん変わっていきますがベンガルの味は守っていきたいと思います」

 ベンガルが五十年近く店を構えてきた秋葉原とは不思議な街だ。

 戦後直後の闇市から始まって、電気街、ヲタク街、サブカルチャーの発信地などなど、次々とその様相を変えている。
 つまり、ベンガルは、そのような街の変貌を見続けてきたのだ。

 同一の空間で同じ店をやり続けるという事は、そのような様々な変化に応じて自らも絶えず変えてゆく柔軟さと同時に、軸となるような不変の確固たる部分も合わせ持つ必要があるのだろう。
 別の言い方をすれば、変わってゆく周囲の中にあって、変わらずにあり続けていてくれるという、来訪者が店に対して抱く安心感、それが、創業の味を変えずに提供している「カレールウ」であり、五十年近く、数多くの客から愛され続けている秘訣、カレー専門店ベンガルの〈変わらない強さ〉であるのかもしれない。

〈訪問データ〉
 カレー専門店ベンガル:秋葉原・末広町
 C12
 十一月九日・水曜日・十九時半
 ビーフ角切りと野菜カレー(一五〇〇)+アチャール卵(一〇〇):一六〇〇円(QR)

〈再訪〉
 一月二十六日・木曜日・十四時四十五分
 チリ&ラッシーセット:一六〇〇円(QR)

〈参考資料〉
 「カレー専門店ベンガル」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、ページ。
〈WEB〉
 「ベンガル」、二〇二三年二月十日閲覧。
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